季節の項 トリック・オア・トリート!
〈ハロウィン特別編〉
折角なので、イベントものに乗っかってみました。
※本日は本編と二つの更新します。
■季節の項 トリック・オア・トリート!
「こんにちわー。メンテナンスに出てた武器を取りに来ました。」
今日は、武器ギルド《迷宮》へとやって来ている。
ここの所、激戦続きで酷使していた装備一式の整備を頼んでおいたのだ。
雑多に置かれている武器や鎧の迷路を奥に進んでいき、いつも通り不機嫌そうにカウンターに座っている迷宮の翁を見つける。
すると、見慣れないものがカウンターに乗っているのに気づいた。
「あれ?これは…お菓子?」
翁がどっかりと肘を付いて睨むその脇に、どーんと山盛りのお菓子が置いてある。
「わぁー、かわいい。」
最初に食いついたのはメイシャだ。
よく見れば、剣の形をしたチョコや、飴でできた魔法使いの杖。
それにこの女の子のクッキーは、地下二階のドワーフの店員さんだろう。
「とすると、このかなづちを持った可愛い小人は…。」
チラっと翁の方を見ると、すっと翁が視線を逸らした。
間違いない。
この可愛らしい小人のクッキーは翁だ。
よく見れば服装やヒゲの形がそっくりに出来ている。
しかも、これだけ本人に似せて作ってあるというなら、街で売ってるものではなく、手作りか。
…そんなにそわそわしないでよ、翁。
「え、えっと…、値段もついてないし、このお菓子はサービスって事なのかな?」
かなり意外な特技に困惑しつつ、お菓子に手を伸ばす。
すると、翁がジロリとこちらを睨む。
いつも不機嫌そうにして睨みつけてくる翁だが、その反応には微妙な違いがある。
今回のジロリは、ダメの意味合いのパターンだ。
「あ、先輩、先輩。わかりました。」
くいくいと袖を引っ張るメイシャがなにか思いついたようだ。
「おじいさん、お菓子くれないとイタズラしちゃうぞー!トリック・オア・トリート!」
メイシャは、満面の笑顔で謎の呪文を唱え、翁に両手を上げて威嚇するポーズをとる。
「め、メイシャ?」
急な奇行をとるメイシャに慌てつつ、恐る恐る翁を見ると、翁はクイと顎を動かしジロっと睨む。
あ、今度はOKの方のジロっだ。
「わーい、ありがとー。」
メイシャは笑顔でお菓子の山の中から、飴細工のメイスをとって口に入れる。
「メイシャ?今何が起こったの?」
「これは、収穫奇祭ですよ。」
メイシャによると、ホキの月の月末に行われる、西のエティウ王国ではわりとポピュラーなイベントで、元々はその年の収穫を祝う行事だったが、悪霊祓いの要素が混じり、転じて子供たちの仮装イベントになったらしい。
なんでも、悪霊に扮した子供たちが、「お菓子をくれないとイタズラするぞ」と言ってお菓子をねだり、大人達がお菓子を配ることで悪霊が去っていく様子を表しているだそうだ。
「へぇ、よく知ってたね。」
「へへーん。だてに行商の娘をやってません。」
僕達も少し恥ずかしいが、謎の呪文を唱えてお菓子を貰った。
味が気になるのか、翁がチラチラとこちらを見ている。
満面の笑顔でサムズアップすると、翁は照れたのか、不機嫌そうにぷいと顔を背けた。
帰る前に、メイシャが気を利かしてイベントの概要をカウンターにメモしておいたが、それを見た強面の冒険者達が、トリックオアトリートと叫んでいるのには笑ってしまった。
「えぇと、なになに?盗賊団討伐か…。」
《砂漠の鼠》で、依頼を探す。
どうも、最近勢力を拡大してきた盗賊団が、この地方にやってきているらしい。
この時期は、各地で農作物の収穫がピークとなり、領主の私兵団も駆り出されている。
つまり、農家に金があり、同時に警備が手薄なのだ。
ホラレ馬車で半日。
目的の村へ到着する。
「そこの馬車、止まれ!この村に何のようだ!」
「ギルドの依頼をみて来ました。中央の《砂漠の鼠》の者です。」
盗賊団に襲われる危険があるせいか、村の様子はピリピリとしている。
恐らくは領主の私兵だろう。
粗末な装備の兵士にギルドの証明書を見せる。
「やや、冒険者の方でしたか。失礼しました。村長は村の中心にある館にいるはずです。」
村長からの話を総合すると、盗賊団は約20人の規模。
近隣の村を襲いながら、この村へ近づいており、予想ではこの三日程の間にやってくる可能性が高いという。
まずはホラレを村の奥へと隠す。
今回の依頼は、村の防衛だ。
だが、それだけでは不十分。
盗賊団を撃退したとしても、ほかの町へ行かれてしまっては意味が無い。
仕事としては、盗賊団の壊滅になる。
その為には、僕達がこの村にいることを悟らせてはいけない。
次に手を打ったのは、罠の設置。
哨戒には、探知の魔法で対応するとして、敵の迎撃には罠が有効だ。
盗賊の20人程度、正直なところ僕達のうち1人でもいれば充分に倒すことが出来る。
ただ、それも正面からまとめて戦ってくれれば、の話だ。
どこから来るのかも分からず、バラバラに侵入でもされれば、仕留めきれない。
確実に壊滅させるには、罠での足止めが重要なのだ。
次の日の夜。
今宵は新月。
月明かりさえない漆黒の夜闇。
襲撃にはうってつけの環境だ。
僕達は、村のどこに現れてもいいように、村の中央付近にある家を間借りさせてもらっている。
百人規模の大盗賊団ならともかく、20人程度のグループなら、いきなり襲撃には来ず、一旦付近に集合してから行動に移るはず。
そう読んで、1時間に一度、広範囲の探知を行い、襲撃に備える。
「…来た。」
探知の魔法に引っかかった。
数は23。
ユサ乗りがそのうち8。
それなりに練度が高い。
だが、今回は相手が悪かったな。
静かに盗賊団がやってくる方向へと向かう。
もう一度念の為に探知を行うが、伏兵や予備戦力の類いは無さそうだ。
こちらへ向かってきている奴らで全軍だろう。
勢いに任せて、村を襲うつもりだ。
「ヒャッハー、奪えー!襲えー!」
「うぉー!」
森を抜けたあたりから急に叫び声をあげる盗賊たち。
ここまで来れば息を潜めて急襲する必要は無い。
雄叫びを上げて士気を向上させる。
むしろ、村人に気づかせることでパニックを起こし、その隙に金品を奪って逃げ去る算段なのだ。
奴らが見えてくる。
だが、まだ早い。
村の柵へと近づく。
だが、まだ早い。
「ヒャッハー!お金をくれなきゃ、イタズラしちゃうぞー!ヒャハハハ!」
どこかで聞いたようなセリフだ。
面白い。
それなら、反逆者式の収穫奇祭パーティーを楽しんでもらうとするか!
村の柵を破り、盗賊団が村に侵入してくる。
今だ!
魔法で閃光弾を放ち、メンバーに合図する。
今夜は新月。
真っ暗闇に慣れた目には、閃光弾の光はキツイだろう。
視界が光でやられ、盗賊団たちの動きが止まる。
「大地系魔法・縛蛇。」
メイシャの魔法で、足が止まっていた歩兵を縛り上げる。
残り14人。
「はぁあ!」
ラケインが蒼輝で襲いかかる。
今回は万物喰らいはお休みだ。
もっと危険度が高いなら別だが、あれを使うと、盗賊団の亡骸が大変なことになる。
村の中での戦闘では、村人の精神的に良くない。
目がくらんでいたこともあるが、呆気なく6人を打ちのめす。
残り8人。
ようやく逃げ始めようとする盗賊を刈り取るのはリリィロッシュだ。
「水氷系魔法・氷棺。」
自分たちが壊した柵の方へと逃げる盗賊は、まとめて氷漬けとなる。
残り2人。
ただの運なのか、考えがあったのか。
2人は来た道ではなく、村の入口へと逃げていく。
確かに、ここまで策にはまっているのだ。
一斉に逃げるのではなく、バラバラに分散するのは考えとしては正しい。
だが、それも予定通りだ。
逃げる盗賊が、村の入口へと差し掛かる。
すると、そばにある畑から、ゆらゆらと人影が動き出す。
「ひっ!な、なんだ?」
大きな頭を持つ人影は、盗賊の方へ振り向くと、途端に宙を滑るように飛んでくる。
「ぎゃー!」
「ぐはっ!」
罠魔法・畑を守る大頭。
それは、畑に生えていた巨大なカボチャを魔法で追尾衝突させる魔法罠。
カボチャに付いていたツタが影となり、ヒトカゲに見えていたのだ。
残り0。
これで盗賊団は、壊滅した。
後日。
「トリック・オア・トリート!」
「お菓子をくれなきゃ、イタズラするぞー!」
学校の購買で無料でお菓子が振る舞われた。
品物はパンプキンパイ。
あの後、
「村に被害なく賊を捕らえてくださり、ありがとうございます。報酬は既にギルドに収めておりますが、これは心ばかりのお礼ですじゃ。」
そう言って村長から特産品らしいカボチャを大量に貰い、メイシャがホーエリア寮総出でお菓子作りに励んだ成果だ。
「トリック・オア・トリート!」
翌年から、ノガルド校では、ハロウィンという名のお菓子交換会が定着したのは、また別の話だ。




