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第六章)立ちはだかる壁 フラウ=クリムゾンローズ

■vsロゼリア=フランベルジュ②


 “紅帝”フラウ=クリムゾンローズ。

かつての勇者パーティの魔法使い。

古今東西、人類の歴史を紐解こうと、彼女ほどの魔導師は数人といないだろう。


“天才にして天災”。


 彼女のことをそう評したのは、世界でも有数の規模を誇っていた魔法研究機関の教授だった。

それが過去形となっているのは、彼女が一時期にでもそこに席を置いたため、己の才能の限界を突きつけられた門徒たちが挫折し、機関として存続出来なくなったせいだ。

現在のノスマルク帝立魔術学院の前身である。


 目の前に現れた少女は、確かに冒険者のフレイヤ=シャンクだ。

小柄の体躯に幼い顔つき。

自分以外のすべてを見下ろす、傲岸不遜の目付き。

無言のうちにも放たれる、絢爛豪華の圧倒的魔力は、四校戦の決勝を思い出させる。


「小手調べに、私の作った玩具を仕掛けてみましたが、中々やりますね。」

 赤扇(レッドクリフ)で焦土と化した草原を、ゆっくりと歩く。

その身に纏うのは、16年前に見た、あの衣装だ。

 当時は、大きなつばの三角帽子を深く被っていたので、その素顔に見覚えはなかったが、裾を引きずるほどの大きくゆったりとしたローブは、質素に紺一色。

胸元から背中へ垂らされた大きな四角襟。

身の丈以上もある、長大な魔杖。

その姿は、あの時と全く変わりない。


「一応分かりきってはいたけど、その衣装、やっぱりあなたは、あの(・・)魔法使いなんだね。」

 目の前の少女に向かい言い放つ。


「ええ。あなたが、かつて世界を恐怖に陥れた、魔王・リオハザードであるように、私は、かつてあなたの前に立ちはだかった、魔法使い・フラウ=クリムゾンローズよ。」

 この地に生きるものなら誰もが知るその名前に、そして、目の前にいる少年の正体に獣人の姉妹は仰天する。


「え?えぇ!?フ、フラウ=クリムゾンローズっていえば、勇者パーティの魔法使いの名前じゃないっスか!そんな人がどうしてここに?それにお兄さんが魔王って、どういうことっスか?」

 メインは、キョロキョロとフラウと僕の顔を交互に見る。


「うん。実のところ、僕は魔王の生まれ変わりでね。で、目の前の彼女は、魔法使いフラウであり、この国の宮廷魔導師ロゼリアだよ。僕達は彼女に呼び出されたって、こないだ話したよね。」

「はぁぁ!?」

 エティウの奥地から流浪の旅をしてきたメインでも知っている名前がどんどんと飛び出す。

今も大人達が怯える、かつての魔王。

目の前の少年の正体が、歴代でも最強と言われるその魔王だったこと。

小魔王の台頭(たいとう)によってその栄光が薄れたとはいえ、救世の英雄のひとりがこの国で最も有名な力の象徴であったこと。

そして、そんな伝説というべき人物達が目の前にいるという事実に、もはや頭の許容量は限界に達している。


「ペルシ、これは夢っスよ。いい夢か悪夢かは分かんないっスけど、絶対夢っス。」

 普段なら姉の暴走に控えめながらもツッコむペルシも、流石に事実を受けいれがたいのか、呆然としている。


 考えてみればこの流れは予想できた。

メイシャの時に学習したはずだが、タイミングがなかったのだ。

だが、僕やリリィロッシュの正体は、無闇に教えていいものではないのも確かだ。

あまり無いことではあるが、今後の課題だと覚えておこう。


「まぁその辺の事情は今度詳しくね。で、なんだってこんな回りくどいことをしたんです?勇者パーティの一員として、なんて理由じゃないんだよね?」

 動揺する姉妹をよそに、フラウの眼を見つめて訪ねる。

とりあえず今はそれどころではない。

目の前の人物は、勇者パーティの魔法使い。

その実力は身をもって知っているし、間違いなく、現代の魔法使いにおいて、最強の力を持っている。

 その人物が、姿を現し敵意をむき出しにしている。

三龍祭ではこちらを挑発するようにして接触し、四校戦では生徒の姿で参戦し、そして、今は貴族を動かしてまで呼びつける。

その執念は尋常のものではない。

一歩間違えば、宮廷魔導師としての地位を失いかねないのだ。


「ふふ、そんなに慌てなくてもいいじゃない。それに、こんな所ではギャラリーも多すぎることだし。」

 フラウの言葉の端に不吉なものを感じたその瞬間、静かに、そして、密かにその魔法は発動した。


─カッ!

 足元に突然現れた魔法陣。

ラケインを、メイシャを、メイン達を、リリィロッシュを飲み込んでいく。


「しまった!転移魔法陣!」

 迂闊。

フラウの会話に気を取られすぎた。

この場所自体に、いや、この周囲一体には、既に魔法陣がいくつも仕掛けられていたのだろう。

だが、その発動の魔力を見逃してしまうとは。

 気づいた時には、既に皆の姿はない。

魔力感知をには、反応が見当たらない。

一瞬の事とはいえ、凄まじい魔力の波動。

恐らくは異空間への転移魔法か。


「フラウ。みんなをどこへやった。」

 魔力を込めた呪言で問う。

しかし、フラウはそんなものを気にもとめないように、

「いやね。邪魔者にご退場頂いただけよ?みんな無事。今はね。」

そう言って薄く笑う。


「なぜ、ここまであなたに執着するか、だったわね。」

 そう言いながら、フラウの周囲に魔力の嵐が起こる。

「その質問の答え合わせは、」

吹き荒れる魔力は、視認できるほどの濃度に高められる。

「もう少し楽しんでからね!」


16年前から続く戦いは、こうして幕を開けた。

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