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第五章)立ちはだかる壁 何とかなる

■ノスマルクへ⑩


「今決めたよ。デルに着いたら、二人には冒険者になってもらう。」


 僕がそう言うと、リリィロッシュは頷き、ラケインはほぉと頷きしメイシャはぱちぱちと手を叩いて喜んだ。

一方、当の姉妹は、目を丸くして驚いている。


()ナニ(なに)?」

ヨニワマンラ(おにいさんが)イハミハヒニ(わたしたちに)冒険者ニナケッヘ(になれって)。」

 意味の通じなかったペルシにメインが説明すると、パチパチと目をしばたたかせて、僕とメインを交互に見る。


 実際、今回の防衛戦で、一番のお手柄はペルシだ。

ペルシの魔力探知がなければ、僕達は盗賊団の接近にも気づけなかった。

恐らく、あれは目が見えないペルシが、無意識に《探知(サーチ)》の様な事をしていたのだ。

それも、今の僕より遥かに広範囲で。

きちんと魔法の理論を学べば、かなりの魔法使いとなれるはずだ。

 同様に、メインも侮れない。

もともと、油断していたとはいえ、僕からサイフを盗める技術。

そして、人質に取られた時に見せた、体のこなしと、それを実行できる胆力は、目を見張るものがある。

暗殺系アサシンの戦士、または、ペルシの姉であることを考えれば、ひょっとしたら腕のいい魔法剣士になれるかもしれない。


 このまま、別れたとしても、手に職のない二人だ。

いくら亜人族に寛容なノスマルク領とはいえ、盲目のペルシがいる以上、再び盗みを働くことは間違いない。

こうして知り合ってしまった以上、情も湧いている。

そんなふたりが困窮することなど、認められるわけもなかった。


「で、でも、新人の冒険者なんてハードルが高いし、それこそペルシが危ないっす。」

 メインは首を横に振る。

そう、新人冒険者の死亡率は、決して低くない。

いくら素質があろうと、今のペルシには無理だろう。

だが、


「心配ないよ。二人には冒険者学校に入ってもらうから。」

 そう、冒険者学校を卒業すれば、自然とCランクからのスタートとなる。

そうすれば、実力も付けれるし、高配当の討伐系依頼も受けることが出来る。


「でもでも、冒険者学校なんて、入学金も払えない…」

 メインは、期待と絶望と混乱が入り交じり、涙目で否定する。

しかし、当然そこも問題ない。

「大丈夫。それについては、当てが2つもあるし。」

そう言って、僕はリリィロッシュとメイシャの方を見る。




 町へ戻り、キンバルトを町の顔役達に引き渡す。

しかし、この男達も、キンバルトに劣らず、かなりの曲者のように思える。

思った通り、町を守ったこちらに礼を言うどころか、預かりの金をたかろうとしてくる。

下手をすれば、引き渡したところでコイン1枚で放逐など簡単にやりそうだ。

 だが、リーダーらしいボルドという男が飛んでくると、急に震え上がって粛々とキンバルトを牢に放り込んだ。

後ろを振り向くと、リリィロッシュが満足そうに頷いている。

全く、どんなことをすれば、荒くれたちをこんなふうに手懐けれるのか、想像に難くはないが、辞めておこう。

 あとは、定期的に巡回に訪れる帝国の騎士団たちに引き渡せば、大盗賊団“河飲み(シルルース)”は、壊滅だ。


 明るくなってくると、町の外は、惨憺たる光景が広がっている。

町の四方では、戦闘で死んだ盗賊たちの死体が放置されている。

東の地では、完全に石化した盗賊が数十も点在し、南の地では、広範囲に渡り草原が焦げ付き、大地も一部溶けている。

しかし、この後始末も、ボルドファミリーに押し付ける。

戦後の処理などは、僕達の仕事ではない。


 しかし、ここから先が、二人の出番。

我が“反逆者(リベリオン)”パーティの財布番、会計担当のメイシャと、用心棒担当のリリィロッシュだ。


「えーっとぉ、それじゃぁ今回の報酬はこれくらいでぇ。」

 メイシャがしれっと数字を書いた紙を、ボルドに渡す。

「報酬だとぉ?ふざけんな!こっちは手前ぇらの後始末だってしなきゃならんのだ。勝手に暴れといて報酬だとぉ?」

当然、ボルドが暴れ出す。

だが、メイシャはそんなことには動じない。

これしきで引き下がるようなら、行商などできやしない。


「えぇ?だって私たちが戦わなかったら、この町焼けてたんですよ?いくらキャラバンからみかじめ貰ってても、土台となる町の復興だけでお金が飛んできますって。何より、みかじめするだけの守り、出来てなかったじゃないですか。」

 ボルドのような顔役は、用心棒として町の防衛や揉め事の仲裁をする代わりに、滞在者や住人からみかじめ料として税金のようなものを徴収している。

それが、今回は手も出さずに逃げようとまでしていたのだ。


「商人さんたちに知れたら、ちょっと不味いですよねぇ?」

 メイシャが悪い顔でボルドに詰め寄る。

「し、しかしだな、暴れたのはお前達であって…」

まだごねようとするボルド達だったが、相手が悪い。

悪すぎる。

彼らには、本当の用心棒のやり方というものを体験してもらおう。


 リリィロッシュが静かにメイシャの後ろに立つ。

しなだれるようにして、メイシャに腕を絡ませる。

その動きは妖艶に。

指の先までしなやかに動かし、そっと目を流してボルド達へ微笑む。

しかし、その目は微塵も笑っていない。


 リリィロッシュがやったのはそれだけだ。

だが、彼らにはこう聞こえていたはずだ。


─私の仲間にそういう態度を取るのか。

だとしたら、どうなるかも承知の上だな?─


 途端、ボルドは、立ち上がり、部下に慌てて指示を出す。

部下は部屋を飛び出していった。

金の用意に行ったのだろう。


 結局、メイシャが提示した金額から、少しだけ値が下がった。

態度だけの顔役とはいえ、リリィロッシュの圧迫から多少でも交渉してきたのだ。

それだけの根性があるのなら、今後はもう少しましな働きができるだろう。


「はい、130万ガウ。盗賊発見のお礼。」

 ボルドから受け取ったお金は、丸々メインに渡す。


「え、えぇ!?わたし、なんにもしてないし、こんな金額なんて貰えないっす!」

 メインが顔の前で手をバタバタさせて断る。

ペルシも、話しの内容は分かったのだろう、顔をブンブンと振って断る。

だけど、そんな事で引き下がるわけはない。


「まぁまぁ。あいつらも言ってたけど、僕達は勝手に暴れただけだし、この報酬もホントは要らないくらいだからさ。それに、どっちにしても生活資金は必要でしょ。」

 そう言って、無理やりメインに押し付ける。

そうは言っても、百万ガウ分の赤紙幣の束なんか普段生活していれば目にすることなどまず無い。

残りの30万ガウは、持ち運びの都合で金貨3枚にしたが、それにしても、街で見かけることなど、ほとんどないだろう。


「た、大金っすぅ…。」

 普段目にしない金額に、メインは戦々恐々だ。

しかし、そんなことばかりもしていられないのだ。

「メイン、ペルシが不安がっている。お前がオロオロしていたら、ダメだろ。」

メインを叱りつけて落ち着かせる。

これまでもペルシを庇って苦労していたのだろう。

だが、二人で表の世界に立つのなら、まだ頑張ってもらわなければならない。

「は、はいっす。」

メインは、決意を新たにいい返事で返してくれた。


「でもこれだけじゃ、入学金には届かないっすね?」

 メインが訊ねる。

たしかに130万ガウもの大金だが、二人が入学するには届かない。

ノガルド校の場合だが、入学金は1人百万ガウ。

メインだけならともかく、ペルシも入学しようとするなら、まだ足りない。

だが、今はまだ二人がバラバラになることは難しいだろう。


「そっちも大丈夫。とはいっても、正直自信は半々くらい何だかけどさ。」

 荷物の奥から、二週間前に届いた手紙を取り出す。

差出人の名は、フラウ=クリムゾンローズ。

ノスマルク帝国が誇る、宮廷筆頭魔導師にして魔術学院の特別顧問、ロゼリア導師なら二人を入学させるくらいは訳はないはずだ。


 問題は、明らかに僕に対して敵意を持っていること。

勇者パーティの魔法使いが、魔王に対して敵意を持つのは、当たり前のことかもしれない。

だが、彼女から感じる、異常なまでの執着は、それ以外の何かを感じさせる。

 だとしたら、話し次第では、協力を仰げるかもしれない。

いや、協力してもらわなければならない。


 僕の正体が魔王だと諸国にでも知られれば、一環の終わりだ。

人間対魔族どころではない、僕対全人類での戦いが始まってしまう。

そうでなくても、ノスマルクの要職にあるロゼリア導師と因縁があるままでは、最悪、エウル王国とノスマルク帝国の戦争にも発展しかねない。

何としても、ロゼリア導師との確執を取り除かねばならないのだ。


 じっと手紙を見つめる僕を不思議そうにペルシが見つめる。

ヨニワマン(おにいさん)?」

よほど深刻そうな意識を出していたのか、ペルシが不安がる。

いけない、これではメインのことを怒ってられないな。


ハワミョユツハオ(だいじょうぶだよ)。」

 僕はペルシの頭をなでてやる。

気持ちよさそうに目をつむり喉をならすペルシを見ていたら、何とかなる気がしてきた。


 何とかなる。

そう信じて、再び帝都デルへと向かうのだった。



通貨が出てきました。

ここでは、1ガウ=約1円の価値だと思ってください。


紙幣、硬貨の価値は、

10万ガウ=金貨1枚

 1万ガウ=赤紙幣、銀貨1枚

 1千ガウ=緑紙幣、半銀貨1枚

100ガウ=銅貨1枚

 10ガウ=半銅貨1枚

  1ガウ=賎貨1枚 です。

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