第五章)立ちはだかる壁 河岸の集落★
姉妹をメインメンバーにしようか考え中。
ご意見お待ちしています( *˙ω˙*)و グッ!
そう言えば、なんとなく雰囲気でわかると思いますが、生活や移動に関わる魔物は古代語です。
・チフミ→ヒツジ
・ホラレ→トカゲ
・ユサ→ウマ
それに似た魔物、くらいのつもりで読んでもらえたら嬉しいです。
今回、行程の前半部分をマップにしてみました。
私の文章で想像つかなかった分を補えれば幸いです。
別作品扱いで、「魔王再臨!!登場人物。」の方に、全体マップも乗せてありますので、ご興味のある方は、確認してください。
■ノスマルクへ④
ホラレ馬車がビヨク平野の西端に到着する。
「おぉ、これがスジャ大河か!」
ビヨク平野の北部を覆うように広がっているホード大森林の一端が北から迫っている。
その端から海かと見間違うほどの大河が見えてきた。
スジャ大河。
この大陸で最も大きな川である。
目指す帝都デルは、この川を渡った先にある。
ようやく行程の2/3が終わったというところだ。
「大型の船は明日にしか戻らないよ。」
渡し場の船頭が首を横に振る。
ホラレは、硬い甲羅のような鱗があるせいで泳ぎが得意ではない。
浅瀬なら何とかなるが、このスジャ大河、川幅は約5km、中央部の水深は深いところで4m以上にもなる。
河口近くに行けば、巨大な海系の魔物が現れ、上流はホード大森林とウーレイ大山脈の末端が混じり、立ち入ることさえ困難な森になっている。
このため、この河を渡る際には、ホラレやモユといった大型の移動用魔物は、専用の大型船で川を渡るが、運悪く船は出払っていた。
二日で一往復。
明日の夕方に戻り、出航は明後日の朝になる。
「ダメだねぇ。うちも決まりでやってる事だし。他の客もいるから特別はできないよ。」
ラケインが粘るが、船頭の答えは変わらない。
川の両端では小規模な水運ギルドがあり、そこでの取り決めで、万が一にもホラレが暴れた時の対策に、大型船以外での運搬を禁止しているらしい。
「ラケイン。ギルドの取り決めなら仕方ないよ。明後日まで待とう。」
ここで2日間も足止めされるのは痛いが、ギルドを相手に無理を通していいことなど一つもない。
近くに宿をとり、短めの休暇を取ることにした。
渡し場の付近には、小さな集落が出来ていた。
ざっと見渡すが、ここに根を張る商人たちは、ヤドリギの紋章を入れていない。
値段もご当地価格というか、少し高めの設定のようだ。
胡散臭く、それでいて活気のある、こういった交通の要所に多く見られる町並みだ。
「メイン、大人しくしてろよ?」
「は、はいであります!」
一応メインに釘を指しておく。
指をワキワキとさせたメイシャが近づくと、ひええ、とリリィロッシュの後ろに隠れた。
普段は仲がいいが、どうやらメイシャが少し苦手なようだな。
夕方にもなると、僕達と同じように、大型船の帰りを待つ商隊や、冒険者たちが増えてきた。
地域の商人立ちだけではなく、旅のキャラバンも店を出し、活気づいてくる。
「それじゃあ、アロウ。行ってこいよ。」
「先輩、行ってらっしゃーい。」
リリィロッシュと姉妹、僕の四人で、買い出しも兼ねて町を見て回ることになった。
「ほんとにペルシは、外に出て大丈夫なの?」
一応の説明を受けたが、心配で聞いてみる。
「うん、大丈夫っす。妹は昔から勘が凄くて、何となくくらいなら、周りの状況が分かるっす。」
ペルシを見ると、メインの服の裾を握っているが、足取りはしっかりしている。
目は伏せられたままだが、物珍しそうに辺りをキョロキョロしている。
疑う訳じゃないが、ほんとに見えていないのだろうか。
「ペルシ。チホロシ、ハワミョユツ?」
ペルシにも聞いてみる。
「タワ。ナンホナル、チホノユロリライラクンヘム。」
問題ないようだ。
しかし、本当なら勘がいいだけじゃ説明つかないレベルなんだけどな。
「そう言えば、アロウ。獣人が古代語を話すなんて、私も初耳だったんですが。」
やり取りを聞いていたリリィロッシュが、思い出したように尋ねる。
「うん、西側の獣人の一部は古代語を使うってね。2人は、ひょっとしてエティウの出なの?」
姉妹は頷くが、正直なところ、僕も出自も怪しい噂話程度のつもりでいた。
魔族の住む大陸は、この大陸から見て西側に位置する。
はるか昔、古代文明人が神と争った際に、今の魔王軍と同じように西側の土地に拠点を持った。
その時の名残だと聞いている。
「私も他に古代語話す仲間を知らないのに、お兄さんは博識っす。」
うんうんとメインが頷きながら、屋台で物色したチフミの串焼きを次々と元気に頬張っている。
もちろん支払いは僕なのだが。
女性陣の買い物が激しいのは毎度のことだが、メインの健啖家にはまいった。
よくももまぁと思えるほど、小さな体に次々と食べ物が入っていく。
そしてそれに伴い、せっかく取り返した僕の財布は軽くなっていく、という訳だ。
いまいち納得が行かないが、ペルシも外に出るのが久々で嬉しそうだし、リリィロッシュも屋台巡りが楽しそうだ。
まぁ今回は大目に見てやろう。
「美味しそうだね、その串、僕ももらおうかな。」
「お、済まないねぇ、にいちゃん。チフミの串はそれで売り切れなんだ!」
…こ、今回は大目に見てやろう。
同じ頃、月明かりに照らされる丘に、複数の人影があった。
“河飲み”。
スジャ大河に点在する渡し場の町を襲う、盗賊団だ。
「ひぃ、ふぅ、みぃ…。今日はついてるな!大きなキャラバンも来てるぞ。」
「ふへへ。まぁ、物々しくしても客入りが悪いからな。俺達の噂も広めるわけには行かねぇし傭兵も雇えねぇ。」
「オマケに金に宝にと持ったキャラバンが次々に集まって来る。ほんとに渡し場は宝の山だぜ。」
ならず者たちが口々に好き勝手なことを言う。
狩りの用意をする。
無論、狩りの獲物は、目の前の集落だ。
彼らは、半月に一度のペースで川沿いの渡し場を巡り、略奪を繰り返している。
町の住人には手を出さず、商人たちだけ皆殺しにする。
町の住人達は、今後の商売のことを考えて、盗賊が出た報せを他に伝えない。
そうして彼らは、何年も過ごしてきたのだ。
彼らはまだ知らない。
今夜は、運が悪かったのだと。
今夜、この町に、とんでもないレベルの冒険者が滞在していたことを。
「それじゃあ先輩、行ってきますねー。」
「アロウ、早めに戻る。」
僕達と交代でラケイン達が町に繰り出す。
結局、チフミの代わりに草兎の串焼きを買ってみた。
チフミより脂が多く、炭で焼いた焦げも香ばしい素晴らしい一品だった。
今度草原で見かけたら必ず狩っておこうと思う。
「ハセェーッ!」
明日の予定をリリィロッシュと話していると、突然ペルシが叫び声を上げた。
「ペルシ、ホユミハノ?」
メインも慌ててペルシに寄り添う。
「イクワチホラ、イクワチホラ、ハルマン…。アロウマン、二レへ!!」
ペルシが悲痛な叫びを上げる。
「リリィロッシュ、広範囲の探知を!」
彼女の声を聞き、リリィロッシュに頼む。
僕の探知には引っかからない。
範囲ならリリィロッシュの方が上だ。
だが、もし…、ペルシの勘の良さの正体が、魔力感知なのだとしたら…!
「…!アロウ!北約2.5kmから80、いやこれは別動。全部で200!武装してます!」
「なっ!?」
200人もの武装集団。
それはもう盗賊団などという規模ではない。
もはや軍だ。
「消し飛ばしますか?アロウ。」
過激ですね、リリィロッシュさん。
確かに僕達、高位魔法使いにとって、200人程度という数自体は脅威ではない。
しかし、
「だめだ。その人数をどうにかするなら、本気で殺すしかない。確実に被害が出てからでないと、僕達が捕まるよ。」
ここが魔法使いのネックだ。
対軍用の大規模魔法というのは、基本的に調整が効かない。
それこそ、殲滅を前提に構成されているためだ。
いかにならず者の集団とはいえ、街に近づいただけで消し飛ばしては、こちらがお尋ね者になってしまう。
かといって、小規模の魔法を使っても、バラバラに逃げられては収拾がつかない。
本来、大軍には大軍で当たるのが定石となる。
対魔物と対人間とでは、根本から戦闘方法が違うのだ。
「お兄さん…。」
メインもペルシの手を握りしめ、心配そうにこちらを見る。
「大丈夫。“反逆者”、防衛戦だ。」
「─規模の大きい盗賊団が来ている。キャラバンの団長に伝えるのと、僕達で迎撃する。」
アロウから《繋魂》で念話が入り、ラケインはすぐに行動に移った。
北側のバザーに来ていたラケインとメイシャは、当然装備など身につけてはいない。
まずはキャラバンの団長を見つけ出し、口下手なラケインなりに、必死に事情を説明した。
仲間の魔法使いが敵を発見したこと、相手の規模、これからそれを迎撃に向かうことを。
そして、そのために武器が必要なことを。
「その話が本当だとして、もし、お前たちが賊の一味だとしたら、俺達は1箇所にまとめられて袋のネズミになる訳だな。」
顔や腕、体と、全身に刀傷のあるこの男は、移動商人《黄金の星》の団長、ステン。
代々キャラバンの一団を率いてきた一族で、物心ついた頃から、ホラレの幌馬車が家だった。
団長の心配はもっともだ。
20余名もの仲間を率いているのだ。
いや、仲間という言葉は適切ではない。
23人と6匹の家族だ。
その家族の命運を左右する判断、間違えたでは済まない。
ステンは、敵でも射殺すかのような視線で、ラケインを睨みつける。
体躯は固く大きく、その実力を伺わせる。
太い腕と剣タコだらけの手は、歴戦の騎士にも劣るまい。
口元は固く結ばれ強固な意思を、静かな瞳はこの緊急時に焦りも気負いも見られない。
ステンはニヤリと笑う。
「だが、俺たち商人は、勘と義理を大事にする。お前の面構えなら信用できる。俺達は他の商人たちをまとめておく。どうせ今からじゃ、品物は隠せやしないからな。」
そう言って、店の奥から白い包みを持ってくる。
「こいつを貸してやる。商売には出さない最上品の剣だ。気に入ったら帰ってきてから金を払いな。」
それは、生きて戻れという言外の優しさだった。
「…助かる。」
ラケインは、包みを解き腰にさす。
「あのぉ~。」
ひょこっとメイシャが顔を出す。
「私にも武器ください。できるだけ重くてデッカイの。」
ここは正規の町ではない。
渡し場に承認たちが集まり自然にできた、言わばたまり場のような場所だ。
当然、町を守る衛兵などいやしないが、だからこそ、町を取り仕切る顔役とその一味が存在する。
ボルドファミリー。
その主であるボルドの前に、1人の冒険者が来ていた。
「で、ねーちゃん。俺らにどうしろって?」
ボルドは眼帯に覆われていない左目で女を睨む。
実際、かの盗賊団の話は聞いたことがある。
そして、奴らは根付きの商人たちには、手を出さないことも。
船待ちの商人たちからは、既に場所代を貰っている。
あとは、口封じだけしっかりやってもらえれば、自分の腹は痛まないのだ。
事ここに至っては、下手に抵抗せずにやり過ごすのが上策だ。
そこへのこのこと、この冒険者という女は、保護を求めに来たのか。
「ふん、お前が奴らの手先とも限らんし、下手に騒いでバザーを潰されては俺のメンツも立たん。なに、そこそこの盗賊なんぞが来ようが、うちのファミリーが追い返すさ。なんなら、俺のベッドで匿ってやってもいいんだぜ?」
建前だけの言葉で断ってやる。
だが、自分で言いながら、女の顔立ちに興味を持った。
旅の冒険者と言っていたが、その顔立ちはそこそこいける。
外套に覆われているが、布の上からでもその肉付きの良さは隠せない。
酒か、金か、それとも腕力か。
こんな女1人、言うことを聞かせるのに訳はない。
そう思って舌なめずりしていると、女は薄く笑って、
「やれやれ、アロウなら相手にするだけ損だ、と言うんでしょうが、」
何の動作もなく、部屋一面を氷漬けにする。
「生憎とお前のような奴が一番嫌いでな。死にたくないのなら、黙っていうことを聞け。」
リリィロッシュは、霜だらけになったボルドの胸ぐらを掴んで睨みつけた。
町の東側に陣取る。
メンバーは、僕とメイン、ペルシの三人だ。
町は、大河に沿って南北に伸び、自然、キャラバンや商人たちのバザーも南北に展開している。
ここ東側のエリアは、船待ちの冒険者や商人たちの宿屋が集中している。
リリィロッシュの探知によれば、盗賊団は、北から80と本体の120が東側に陣取っている。
バザーには出さない大物狙いなのか、人数も多い。
「ほんとに町にいなくて大丈夫?」
後ろにいるメインに尋ねる。
「はいっす。リリィロッシュさんが自警団を動かしてるなら中の方が揉め事が多そうっす。敵がはっきりしてるこっちの方が、安心っす。」
リリィロッシュの欠点は、自分が認めた相手にはとことん甘くなるくせに、与する価値がないと思った相手には、ひどく冷酷になる点だ。
その判断基準が、強さや権力ではなく、その人の内面だという点で僕は好ましいと思っているが、やり過ぎてないか心配ではある。
まだ数日の付き合いだが、この2人も同様の心配をしているのだろう。
「わかったよ。でも乱戦になったらそっちまで気を配れないから、できる限り自分の身は守ってね。」
とは言っても、ここは最前線となる。
危険と言うなら一番危険であるはずだ。
「了解っす!これでもうち、ペルシ程じゃなくても勘がいいんすよ。その勘が、お兄さんの後ろが一番安心って言ってるっす!」
…そんなことを言われたら、諦めるしかない。
二人を背にし、静かに水晶姫を抜き放つ。
夜闇の中、目を凝らすと次第に人影が見えてくる。
100人を越す盗賊団の本隊だ。
ここまで来れば、僕の探知にも引っかかる。
逆に言えば、目に見えるほどまで接近されないと感知できなかった。
障害物の多い山地や、少数相手なら精度の高い僕の探知は役立つが、見通しのいい平原で大軍相手のとなると、それに頼っていた分、不利になってしまう。
まったく、いい勉強をさせてもらった。
お返しに、手厚く歓迎してあげないとな。
「─始まったぞ。」
ラケインから、水晶を使った《偽・繋魂》が入る。
しかし、まだだ。
今攻撃したり、範囲魔法の魔力を見せれば、アリを散らすようにして逃げてしまう。
闇に紛れてゆっくり進軍する奴らをもどかしく見つめる。
そのとき、
─ドーンという地響きのような音。
ラケインが戦っている北のバザーで、戦闘が激しくなってきたようだ。
見れば火の手も上がっている。
それを見た盗賊団たちが、雄叫びを上げて一気に詰め寄ってくる。
予想通り。
奴らは、北のバザーから逃げてきた商人たちを一網打尽にするつもりだったらしい。
しかし、これで堂々と攻撃できる。
「染め上げろ、爆炎系魔法・赤扇。」
盗賊団が炎に飲まれる。
炎と熱風によって肌が焼かれるが、効果は今一つだったようだ。
多少の火傷を負ったくらいで、大したダメージにもなっていない。
そして、予想通りに、盗賊団は怒りを隠さず突貫してくる。
怒り心頭の彼らなら、多少無茶をしても怯えて逃げるようなことはないだろう。
「さて、あっちの様子はどうかな?」
僕は、ラケインたちのいる北のバザーに目をやった。
さて、次回は戦闘回。頑張らねばです。




