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第五章)立ちはだかる壁 ノスマルク帝国へ

今日から新章です。

そほそろ本格的に物語を動かしていきます。

が、その前に日常パート。


しばらくはゆっくりしてください。

─それは普遍に流れるものであり、

 気付かず滞るものである。

 時は動き出す。

 それはいずれも前触れなく。─


■ノスマルクへ①


 四校戦も終わり、再び冒険者として精を出す日々に戻る。

 ちなみに、優勝はエティウ校だ。

水晶塔と優勝旗はエティウへ移送されたが、その護衛は“白き刃”が受けたということだ。

マッチポンプが酷いというか、完全に国の売名行為だ。


 あの後、メンバーと話し合い、リュオには僕達の出自を打ち明けた。

冒険者の依頼などはともかく、立場として敵対することは避けたかった。

 あれだけの実力を持っているのだ。

万が一にも、神から勇者の託宣を受ければ、僕達の障害となる。

「うーむ、戦闘の冴えが半端じゃないとは思っていたが、まさか魔王とはな。しかし、目的が世界平和と聞けば協力するしかないな。」

とは、リュオの談だ。

 そうして、“白き刃”は、僕達への協力を約束し、エティウへと戻っていった。


 数日後、この四校戦で関わりを持った、もうひとりの人物から、招待状が届いた。


「16年前の決着をつけましょう。ノスマルクの魔術学院に来なさい。─フラウ=クリムゾンローズ」

 しれっと言ってくれる。

一介の冒険者、それもまだ学生の身で国外遠征などおいそれと行けるわけもない。

しかし、

「ノスマルクから指名依頼が届いたのさ!」

 なんと、ギルド経由で直接呼び出された。

名目上は、さる貴族からの魔物討伐依頼だ。

しかし、このタイミングでノスマルクからとなれば、ロゼリア導師絡みに違いない。


「指名依頼となれば仕方ありませんね。」

 エレナ先生に許可を貰い、“反逆者”のメンバーは、ノスマルクへと出発した。




 南の四大国、“城塞国家”ノスマルク帝国。

この大陸の南部一帯を武力によって従え、広大で肥沃な平原をもつ、大陸で最も栄えた国だ。

 僕達のいるエウル王国も、東の四大国に数えられて入るが、所詮は小国の中の雄。

18の同盟国の盟主となっているだけなのだ。


 エウルからノスマルクまではおよそ5000km。

その間、ドラージョ荒野を進み、ホード大森林を抜け、ビヨク平野を超えたところで、スジャ大河を渡らなければならない。

 普通に旅をしたのでは半年ほどもかかるが、ホラレ馬車なら2週間と言ったところだ。

それでも快適にとは言えない。

お世辞にも整備されているとは言い難い街道を、ひたすらに進むことになる。


「うわぁ、すっごーい。」

 メイシャが感嘆の声を上げる。

ホラレは、ドラージョ荒野を走る。

荒野とはいっても、草木も生えない荒地という訳では無い。

土が少なく、小石や岩山が多いが、緑も豊かな高原地帯だ。

そして、僕達の目の前では、大きな山が動いている。

 古王亀エンシェントトータス

陸上最大級の魔物で、討伐ランクはSに位置されている。

全長約3km、体高約650m。

まさに、山の如し、だ。

僕も実物は初めて見る。


「これは、聞きしに勝るな。」

 ラケインも圧倒されているようだ。

実際のところ、エンシェントトータスは、非常におとなしい魔物で、危険を感じない限り、他者を襲うことは無い。

 もっとも、その巨大さゆえに、並大抵のことでは危険など感知しない。

なにせ、高位の魔法使いが完璧に詠唱した第三領域の広範囲魔法を打ち込んだとしても、蚊に刺されたほどにも感じていないのだ。


「アロウ、あの人たちは何をしているのです?」

 リリィロッシュが、手を額にかざし、トータスの方を見つめる。

よく見れば、トータスの足元に人が集まっているようだ。

「ああ、あれは採取系の冒険者だよ。エンシェントトータスの素材を採掘・・するための登山キャラバンだよ。」


 エンシェントトータスの素材の利用法は多岐にわたる。

いくら掘っても肉まで届かない分厚い皮膚は、寒暖の差が激しいこの地域で、断熱の建築資材となる。

また、甲羅を形成している岩山からは、珍しい鉱物が多く採れる。

その一つが、古鋼石アダマンタイトだ。

白く輝くその鉱石は、特殊な魔法でのみ加工が出来る、最高硬度の鉱石なのだ。

彼らは、そういった素材の採集を専門に行う冒険者なのだろう。


「正確には、採取系冒険者のパーティと、彼らに消耗品や道具を売る行商、それと採取した素材を運ぶ運送屋の一団ですね。」

 意外なところで、メイシャが知識を披露する。


「そう言えばメイシャの家族って、行商をしていたんだったね。」

 メイシャの両親は、決まった家を持たない流れの商人らしい。

「はい。と言っても、エンシェントトータスなんて扱えるほど立派な商人じゃないですけど。」

確か、商業系ギルドにも所属していないから、手紙すらも送れないのだという話を聞いたことがある。

それでも、メイシャは御両親のことが大好きなようだ。


 少し遠い目をして、メイシャは呟く。

「両親は放浪の生活が性に合ってると言っていましたが、それでも帰れる場所が羨ましいと言っていました。私の夢は、頑張って大っきな家をたてて、両親におかえりって言ってあげることなんです。」

両親をおもいだし、少し寂しそうにしているメイシャの頭を、ガシガシと乱暴に撫でて、ラケインが言う。

「大丈夫、メイシャなら出来るさ。一緒に頑張ろうな。」

メイシャはすこし照れて、乱れた髪を直す。

「そうですよ!私は頑張らなくちゃ行けないんです!だから神様なんて倒しても1ガウの得にもならないんですから、さっさと倒しちゃいますよ!アロウ先輩!!」

照れ隠しに怒ってみせるメイシャに、僕達は笑い合うのだった。


 ホード大森林へと入ると、辺りの様子は一変する。

それまでの草を払っただけの街道は姿を消し、石畳で覆われた道が現れる。

但し、それが通行しやすいかといえばそうでもない。

もともと、森林の木々が生い茂り、道などない状態だったのを、整備して街道にしたのだ。

しかし、木々の成長は凄まじく、石畳を割って成長し、土を盛り上げて根を貼る。

街道の整備が追いつかない状態なのだ。


「うーん、お尻が痛いです。」

 泣き言を言うメイシャを横目に、リリィロッシュが馬車に魔力を送り込んでいく。

この地域は、かなりの悪路となるので、激しい揺れに馬車が痛み、森の半ばで立ち往生することも珍しくない。

土の刻印を刻んで馬車を強化したのだ。

ラケインも悪路に脱線しそうになるホラレを制御するのに苦心している。


 その頃、僕はといえば。

「うっ…、目が回る。耳鳴りがする。酷い、酷すぎる…。」

馬車の揺れにダウンしていた。

「アロウは、乗り物に弱かったんですね。」

リリィロッシュが苦笑しながら酔い醒ましの治癒魔法を掛けてくれる。

「うぅ、リリィロッシュ。ありがとう。」

しかし、一つだけ言っておきたい。

僕が乗り物に弱いのではない。

この道が酷すぎるのだ。

 いずれこの地を征服した際には、まずこの森を焼き払い、平地にして見せる。

と、思わず前世返りしてしまうほどに意識は朦朧としていたのだ。




 ペースを落とすより一気に駆け抜けた方がいいと判断した僕達は、一気にホード大森林を抜ける。

「わぁ。」

「へぇ。」

 メイシャとラケインが感嘆の声をあげる。

森の出口は崖のようになっていた。

そして、見渡せば一段下がった場所に広がる広大な平原。

はるか彼方にうっすらと大河の影が見える。

 ここから先は、ビヨク平野。

まだ行程の半分ほどだが、ノスマルク帝国領となる。


 崖から降りたところで小さな関所があり、衛兵達が馬車を止める。

「ノガルドからの旅だな。目的は。」

「冒険者です。指名依頼を受けてデルまで向かっています。」

ギルドの登録証を見せて、入国の目的を告げる。


「冒険者か。その若さで指名までとるとはな。大したものだ。」

 壮年の衛兵が頷きながら感心する。

 そもそも、指名依頼とは、名の知れた冒険者を指名して出される特別依頼の事だ。

そして、指名した相手の所属するギルドと、依頼したギルドが異なる場合、それぞれに追加料金が発生する。

一般的には、貴族や有力な商人でないと、指名依頼などできない。

 衛兵の感心はもっともで、国外の要人から依頼を貰える冒険者など、Aランクパーティにもなかなかいないのだ。


 馬車の簡単な検査を受け、通行の許可を貰う。

「すみませんが、森の旅で疲れてしまって。この辺りに休める所はありますか?」

途中からは永続作用の魔法陣を使って体を浮かしていたから酔いは納まったが、かなり消耗してしまった。

出来れば屋根と布団のある場所で休みたい。


「ああ、それならこの先の分岐を右に行けばいい。デルは左側だが、ホラレなら小一時間もあれば宿場町につく。」


 衛兵の言った通りに進むと、小さな町へ到着する。

ビヨク平野に入っているはずだが、この辺りはまだ大森林の裾野なのだろう。

小さな林が散在し、町並みも木で作られた家が多いようだ。


「おーい、そこのホラレ。止まってくれ。」

 町の衛兵に呼び止められる。


「悪いが小さな街なんでね。ホラレは外で待っててもらう。貴重品を積み替える馬車は無料で貸し出しているが、ホラレの預かりは1日1000ガウだ。」

 見ると、街の入口に簡単な馬屋と御者用と思われる小屋がいくつかある。

その横には、既に何頭かホラレが繋がれていた。


「了解した。だけどずっと一緒にやってきた相棒なんだ。任せて大丈夫かい?」

「あぁ、任せてくれ。俺達も保証は出来ないが、世話は専門のホラレ屋が請け負うから安心してくれよ。」

 馬屋には商業系ギルドの紋章が掲げられている。

任せても大丈夫そうだ。


 商業系のギルドは、細かく分ければ、行商、運送、街での商店や鍛冶、農業に至るまで様々にあるが、統一して二つの決まりがある。

それは、「客をカモにしない」。

そして、「ギルドの紋章にヤドリギの枝を入れる」ことになっている。

このヤドリギの枝をみて、客はその店を信用するのだ。

 特にこうした宿場町では、付近にほかの里もないので、足元を見る店も少なくない。

更に盗賊と組みして、客の情報を売る店もあるだろう。

そういった店は、ヤドリギの紋章は掲げられないし、勝手に紋章を使おうものなら、全ての登録ギルドから傭兵が送り込まれる。

 商売は信用が大事と言わんばかりに、商業系ギルドでは、約束を重んじるのだ。


 僕達はホラレを預け、町で休むことにした。

町の名は、《フェズ》。

大森林から出てきた商人。

これから大森林へ入ろうとする旅人たちの、休息所として発展した、典型的な宿場町のようだ。

《地に伏す蛙》亭という宿に部屋をとり、久々に味わう布団の柔らかさを堪能しようとする。


「先輩!布団は汚れを落としてからです!」

…メイシャに怒られてしまった。


アロウ達の大陸はオーストラリアを基準に片道5000kmにしました。

徒歩スピードは4km/h。

ホラレは40km/h。

移動時間は1日10時間計算です。

そんなに細かく考えてません。

ざっくり遠いなぁくらいの感覚でお願いします。


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