第四章)煌めく輝星達 トーナメント・前編
■四校戦⑧
最終日。
今日のトーナメントで優勝校が決まる。
「まもなく、3日目の競技、トーナメント戦が開始されます。この競技では、1位に10点、2位に5点、同率三位に3点ずつ入り、第一種目との合計で優勝校が決定いたします。」
係に誘導され、競技場へ入る。
四聖杯もこれで最後だ。
入場も大げさなものになる。
「皆様、お待たせいたしました。選手の入場です。昨日の集団戦を勝ち抜いた8人の勇猛な戦士達をご紹介いたします。」
ここで言う戦士とは、職業としての戦士職のことではないのは分かっているが、何となく気になってしまうのは、魔法使いの鉄板ネタである。
「まずは、本大会の開催地、ノガルド校の選手達です。8人中なんと驚きの4名。半数を占めています。炎剣の使い手、メイサン=モブール。」
流石は熱い男のメイサンだ。
この観衆の中、四方に手を振り返し、その様子は実に堂々としている。
時折雄叫びを上げながら、壇上へと上がる。
「続いて、驚異的な風の魔法を見せた、アロウ=デアクリフ。」
まったく、こういうのは趣味じゃない。
魔王時代ですら、奥の間に座っていただけだというのに。
営業スマイルで何とか入場を果たす。
「まだまだノガルド校が続きます。豪剣の使い手、ラケイン=ボルガット。」
ラケインは、声援には答えず真っ直ぐに壇上へと向かう。
こういう所は僕以上に苦手なラケインの事だ。
多分、内心かなり狼狽えてるんだろう。
「そして昨日の競技で驚くべき破壊力を見せた破壊僧侶、アルメシア=ブランドール。」
メイシャは、なぜかおかしな二つ名が付けられ、憤慨しながらも入場する。
「魔道大国、ノスマルク校からは、二名出場です。氷剣の剣士、ウォリス=レイド。」
白髪の美少年が気取った仕草で観客席へ礼をする。
なんとなくだが貴族の出身の気がする。
「もう1人、昨日の試合では、圧巻の炎魔法を見せてくれました。炎を纏う魔法使い、フレイヤ=シャンク。」
小柄な少女は赤い魔法衣を身につけ、優雅に礼をする。
その姿は、三龍祭の閉会式で見たロゼリア導師と重なる。
彼女は、やはり...。
「北の宗教国家、コールの期待を背負い、唯一の予選通過となりました。黒衣の聖女、リサ=ヴァルゴ。」
リサと呼ばれたのは、物静かな長身の女性だ。
正面に一礼し、壇上へと向かうが、その反応は恐ろしく少ない。
遠目に見た限りでは、生気というものが感じられないのだ。
彼女も一癖ありそうだ。
「そして最後に、ご存知の方も多いと思います。エティウ王国軍の将軍、ルド=オーガ。」
あぁ、つい忘れていたけど、リュオの本名はルドだっけ。
一際大きな歓声の中、悠々と拳を上げ観客に答える。
流石は堂に入った態度だ。
その顔は、普段の豪快な笑みは消え、凛とした騎士のものに変わっている。
背筋が強ばる。
これが武者震いか。
こうして壇上に8人の出場者が並ぶ。
リュオとロゼリア導師は規格外として、他の5人も油断ならない。
「それでは、トーナメントの組み合わせをご覧ください。」
Cの字になった競技場には、貴賓席が設けられている。
一端を解放した入場口から見て左側だ。
その反対側、右側の壁に大きな垂れ幕が置かれる。
第一試合:ウォリス 対 リサ
第二試合:メイサン 対 ルド
第三試合:アロウ 対 ラケイン
第四試合:メイシャ 対 フレイヤ
「うわぁ、これは…。」
なかなかの好カードだ。
第二試合は、高レベルの戦士同士。
第三試合は、まさかのラケイン。
第四試合は、フレイヤの正体を考えれば難しいかもしれないが、メイシャなら善戦するだろう。
僕達は、垂れ幕の下にある待機所に移り、出番を待つ。
「アロウ、いきなりの対戦だが宜しくな。」
ラケインが隣に座る。
既にその身からは闘気が微かに揺らめいている。
「ああ、よろしく。でもそんなに気負ってると、試合までにばてるぞ。」
「心配するな。これほどの舞台でお前とやり合えるなんて、またとない事だからな。」
互いにニヤリと笑い合い、闘技場に目をやると、ノスマルクとコールの生徒が構え、試合開始の合図を今かと待ち構えているところだった。
「第一試合、開始!」
アナウンスの声で、ウォリスが走り出す。
どうやらメイサンと同様、戦士よりの魔法剣士らしい。
「奏でろ。守護魔法・氷霊剣。」
訓練用の剣が、見る間に凍っていく。
刃は淡く光、握りは固く滑らかに形作られている。
相手に詰め寄りながら、この完成度。
『同時詠唱』は使えるようだ。
対して、コールの僧侶リサは、微動だにしない。
戦いの場というのに、覇気も闘気も感じないのだ。
「ふっ、戦意を失ったのなら、優しく凍らせてあげますよ?」
ウォリスは氷の剣に魔力を送る。
かすりでもしたら、たちまちに氷漬けにされるだろう。
そして、その剣を振りかぶり、まさにリサに届こうとするその瞬間、
「防御魔法・攻性反射。」
「な、なにっ!?」
光り輝く障壁を発動し、ウォリスを氷漬けにしたのだ。
ここでようやく、リサが言葉を発する。
「おや、この程度の氷でしたか。言葉通りに手加減とは、お優しいのですね。それとも、元よりこれが限界でしたか?」
「勝者、リサ=ジェミニ!」
アナウンスの声と観客の歓声のなか、表情を崩すことなく闘技場を後にする。
攻性反射は、魔力のみで発動する無属性魔法の一つだ。
魔障壁との違いは、魔法効果の反射。
つまり、ウォリスは自らの魔法で氷漬けにされたのだ。
問題は、これが第三領域の魔法だということ。
僕でさえ、短文程度でも詠唱を必要とする。
それを無詠唱どころか、魔力の練り上げすら行わないとは。
周囲の熱狂ぶりとは反対に、背筋を寒くする。
「第二試合、開始!」
視線を闘技場へ戻すと、既に次の試合が始まろうとしている。
我がノガルド校の暑い男メイサンと、リュオの対戦だ。
「どうやらラケイン達にご執心のようだが、そんなんじゃ足元を掬われるぜ!」
メイサンは、炎剣をかざし、リュオを挑発する。
「おうっ、わかっているさ!俺は立ちはだかる目の前の敵を軽んじたことはない。それに、あんたにも、一昨日の競技では世話になったしな。」
リュオも剣を抜き放ち、剣に闘気を込める。
「メイサン=モブールだ!参る!」
メイサンが駆ける。
先ほどのウォリスと違い、メイサンの守護魔法は、追加効果ではなく、付加効果に重点を置いている。
火属性の付加効果は、攻撃力の強化だ。
小細工を好まないメイサンだ。
リュオとの実力差は、一昨日の立会で充分に分かっている。
だからこそ、あとを考えない必殺の一撃に全力を叩き込む。
その一撃を、リュオは剣で受ける。
メイサンが魔法で剣を強化したように、リュオは、闘気で剣を強化したのだ。
メイサンの一撃は、確かに、リュオの闘気を破った。
しかし、それは剣の中ほどまでにヒビを入れるに終わった。
「メイサンだったな。見事だ。俺の闘気を破れる奴はなかなかいない。」
そう言って、リュオは空いた左手でメイサンの腹を打ち抜いた。
「勝者、ルド=オーガ!」
魔法や武術に詳しくない観客たちからは、つまらない試合だったろう。
結果だけ見れば、実力の伴わない剣士がヤケになって、一撃で返り討ちにされただけなのだ。
担架で運ばれるメイサンに、ブーイングが飛ぶ。
その一角に向かい、リュオが、
「やかましいっっ!!」
そう叫ぶ。
「彼の剣は見事だった!俺は体を守るはずの闘気まで使って剣を強化した!その俺の剣にヒビを入れたんだ!“白き刃”の名に誓ってもいい、彼はこの会場にいる中でも一、二を争う優秀な戦士だ!」
会場が静まり返る。
数旬の後、パチッパチッと、小さな拍手が起こる。
ラケインだ。
僕も、それに合わせて拍手を送る。
一つ、また一つと会場から拍手が増える。
リュオが認めたことで、メイサンは会場から割れんばかりの拍手で送られることになった。
「両者、前へ!」
進行の係に誘導され、闘技場へ立つ。
目の前には、半月の魔鎧を身につけた戦士が待っている。
ラケイン=ボルガット。
僕のパーティメンバーであり、親友である。
剣筋、思考、そして力量。
すべてよく知っている。
そしてそれは向こうも同じだろう。
「ふっ、こうしてアロウと剣を交えるのは、1期生の時の授業依頼か。」
ラケインが言う。
「そう言えばそうだったな。あの時は驚かされたよ。」
僕が答える。
「それはこっちのセリフだ。しかし、アロウと組んで長いが、いつも思っていたよ。もう1度、やり合いたいと。」
そこまで言うと、ラケインの闘気が膨れ上がる。
「それは、」
そして答えるように、
「僕も一緒だ!」
僕も魔力を解き放つ。
「第三試合、開始!」




