第四章)煌めく輝星達 vs白き刃
スマホが割れてしまいました(´;ω;`)
■四校戦④
「いやぁ、思い切った手を使いやがったなぁ。」
リュオは感嘆のため息をつく。
快活で人懐っこい性格のリュオだが、実は相手を褒めるということは滅多にない。
それがエウルに来て、もう何度目の賞賛を贈っただろう。
最初にこの“綱引き”のルールを聞いた時に、この競技の肝は、一見無用に思える戦士の運用だと気づいた。
実際にゴーレムを動かすのは魔法使い。
だからこそ、そこに重きを置くのは、既に前提。
であれば、残る戦士をどう使うのかこそが、重要なのだ。
だからこそ、事前に決めてあった編成のうちの一つで相手を急襲し、勝利を収めたのだ。
それがあのノガルドはどうだ。
戦士、魔法使いという枠に囚われず、そして、魔法使いがゴーレムを動かすという根本的なルールすら無視して、まさかの全員攻撃。
ノスマルクを全員ねじ伏せた後での悠々の勝利。
自分たちが、戦士隊による攻撃という、この種目における隠れたお手本を見せた後だ。
もし、それに習い両軍ともに同様の作戦を取っていたなら、結果はまた違っただろう。
もし、こんな作戦を取れる人物が他にいるならば、それはそれで恐ろしい話だが、恐らくこの作戦を立てたのは彼だろう。
エウルのアロウ。
同じ戦士としては、一緒にいたラケインという少年の方が気になるが、彼は実直な性格をしている気がする。
こんな前提もお手本も無視するような作戦は立てられないだろう。
たったこれだけの時間で、こんな作戦を思いつくとは、どれほどの才能があるのか。
そして、どれほどの死線をくぐり抜けてきたというのか。
知らず、腕を組んだまま、拳を握りしめる。
「三龍祭から2ヶ月か。ようやく相見えることが出来るな。さぁ、次はどんな手で来るんだ。」
獰猛な気配を隠そうともせず、巨躯の騎士は口角を釣り上げる。
「アロウ、作戦がぴったしハマったな!」
リーダーのメイサンが背中をバンバン叩いてくる。
仮にも戦士系のエースだ。
もう少し手加減をして欲しいものだが、その喜びは伝わってくる。
「いやぁ、たまたまですよ。」
正直に言うと、運の要素も多少あった。
相手は魔法に長けたノスマルク校なのだ。
もしこちらの攻撃を耐えきることが出来たなら、がら空きとなったゴーレムの操縦を乗っ取られたかもしれない。
もっと言えば、魔法使いのみの編成と決めつけたゴーレム操作組の中に戦士としての特性を持った魔法剣士がいたとしたら、そもそも奇襲が成立しなかったかもしれない。
確かに意表を突いた作戦ではあったが、成功したのは皆の実力あってのものだ。
「しかし、次は、あの“白き刃”だぞ。」
ラケインも顔を強ばらせる。
そうだ。
12人しか存在しないSランクの冒険者。
リュオ=クーガ。
次は彼との対戦になる。
「もし僕がリュオなら、作戦は単純だよ。
魔法使い組を全員ゴーレム操作に。
戦士組をその護衛で固めて、リュオ単騎でノガルド陣営を蹴散らすね。」
「…一人で、か。」
僕の予想にメイサンが絶句する。
先ほどのエティウのように、戦士組だけで仕掛けたとして、ほぼ全員で守るエティウの壁は抜けない。
そして、無防備となった魔法使い組はリュオに殲滅される。
第一試合でやったように全員で攻撃を仕掛けても、逆に全員で守ったとしても、リュオ1人に対抗できるかどうか。
モタモタしているうちにエティウのゴーレムが勝負を決めるだろう。
Sランクの冒険者。
その実力の片鱗を実際に見ている僕たちには、その光景が鮮明に想像できる。
規格外の化け物。
それが僕達の敵だ。
しかし、これを何とかしなければ、明日以降の競技も、結果は見えている。
「…ひとつ、考えがある。」
「さぁ、休憩を挟みまして、間もなく初日の競技、決勝が始まります。」
アナウンスが流れる。
会場の中央には、物言わぬゴーレムが開始の時をじっと待っている。
両サイドの入口から現れる両軍。
右翼からは、リュオを筆頭にエティウ校メンバーが整然と入場する。
左翼からは、リーダーのメイサンと魔法使いのマーマレードを先頭に、戦士と魔法使いが1列ずつに並んで入場する。
これはただの演出だ。
しかし、この局面においては重要な意味を持つ。
味方を意識することで強大な敵に飲まれないようにする。
戦場において、軍の士気は、勝敗に直結する。
1人ではない、強力な味方がいる。
それを意識づけるための小細工だ。
敵は遥かに格上。
こうした小さな欠片を一つ一つ積み重ねなければ、勝利には届かない。
戦いは、既に始まっているのだ。
互いに配置につく。
試合開始の合図が上がり、客席がざわめく。
それもそのはず。
開始とともに動いたのは、僅かに5人だけだったのだ。
エティウ校の陣営からは、最強の武人、リュオ。
ノガルド校の陣営からは、メイサン、ラケイン、アロウ、そしてメイサンのパートナーであるマーマレードだ。
リュオが一人で出てきているのは、決してこちらを侮っているからではない。
むしろ逆。
2回戦の全員攻撃を見たからこそ、最強の矛を繰り出した上での、鉄壁の布陣だ。
そして、それはこちらも同じこと。
あのリュオを侮れる理由などない。
いずれにしろ、あの最強の武人をなんとかしなければ、残り二戦も勝ちの目は出ないのだ。
ノガルド戦士組、最強の2人でリュオを抑える。
それが僕達の作戦だ。
こちらの意図を読み取ったのだろう。
リュオがニヤリと笑う。
「わっはっはっは。待ちかねたよ、ラケイン、アロウ。三龍祭の骨巨人以来、お前達と剣を交えるのを楽しみにしていた!」
近づきながらリュオが話しかける。
その眼はランランと闘志に燃え、口元は獰猛に釣り上がっている。
「それは俺達もだ。最強の武人の刃、是非とも折ってみたい!」
ラケインが吠える。
虚勢ではない。
本心からリュオを倒す気でいる。
「胸をお借りするなんて言いません。勝たせてもらいますよ!」
僕も精一杯の気合を込めてリュオを見つめ返す。
メイサン、マーマレードも同様だ。
相手は強大。
だからこそ、最初から負ける気で立ち合えるような相手ではない。
そして戦いの火蓋が落ちる。
先手は、ラケイン。
「うぉぉぉぉっ!」
フルイーターを頭上から唐竹割に振り下ろす。
リュオは、構えを崩すこともなく僅かに体を逸らし剣撃を避ける。
間髪入れずにメイサンの横薙ぎ。
炎を守護した長剣による斬撃を、大剣を盾にして止める。
そこへ僕とマーマレードが炎弾の集中砲火を浴びせる。
これで決めれるとは思っていない。
だが、少しのダメージでも与え続ければ倒せるはずだ。
リュオは後悔していた。
(くっそぉ、こんなことなら相棒持ってこればよかったぜ。)
手加減などをするつもりは無かったが、仮にもSランクだ。
戦争や賊の討伐ならともかく、リュオの全力は、もはや人に向ける類のものではなかった。
だから、今手にしているのは、ただの大剣だ。
(世界は広いな。こんなバケモノたちがまだまだ埋もれてるなんて。)
迫る炎弾を殴り返し、炎の斬撃を大剣で撃ち落とす。
(こいつら相手なら、遠慮なんか要らなかったな。)
リュオ本来の得物、“白嵐”は巨躯である自分の身長ほどもある両刃の大剣だ。
重量、硬度、破壊力に特化した無双の剣。
(とはいえ、あれ使ったらジーンが怒るだろうし、かすりでもしたら大怪我じゃ済まなくなるからなぁ。)
薙ぎ払われた大剣を既のところで回避し、こちらも大剣を振るう。
(あっぶね。ラケインの奴は遠慮なく切りかかってくるし、アロウの魔法は命中精度が半端じゃない。炎の剣の奴もかなり出来るし、もう1人の魔法使いの姉ちゃんは嫌なタイミングでぶち込んでくる。)
「たが!伊達に最強やってるわけじゃねーんだよぉぉぉ!」
闘気を爆発させて、炎弾と大剣を弾き飛ばす。
荒れ狂う闘気の奔流に、ノガルド組は弾き飛ばされる。
「ふっはぁー!マジで凄いなお前達!だが、こっちも国の威信背負ってるんでね、こっからはガチだ!!」
かなりいい線まで攻めていたと思う。
それがほぼ気合いだけで振り出しに戻された。
これがSランク。
まさに人外の実力を持つバケモノというわけだ。
しかし、これで終わりではない。
見ると後ろで待機している戦士組たちに動きが見える。
そう、エティウの恐ろしさは、リュオだけではない。
そのリュオの指揮による練度の高い部隊攻撃。
まるで30人全員が一つの怪物のように動く、驚異の集団行動が発揮される。
「こっからはガチ、か。それはこっちも同じだって!」
メイサンとラケインが前に出る。
マーマレードと僕は、一歩後ろへ下がる。
「行きますよ、マーマレードさん。」
「ええ、任せて。あの熱血バカの扱いは慣れてるのよ。」
「守護魔法・魔装強化!」
ネーミングの悪さは熱血バカことメイサンのせいだ。
どうにもドラゴリアスが気に入ったようだ。
それはさておき、魔装強化とは、簡単に言えばドラゴリアスの魔法を応用した強化魔法だ。
通常の強化魔法では、対象となる相手に魔力をねじ込み、身体能力を強化させる。
しかし、他人に魔力を無理やりねじ込むために、魔力操作が難しく効果も今ひとつだ。
しかし、この魔装強化は、魔力を相手にねじ込むのではなく、体の要所要所を覆うようにして外側に魔力を送るのだ。
例えるなら、体を濡らしたところで手元に水はいくらも残らないが、袋に水を入れれば、水は大量に使用できるという事だ。
もちろん、この魔法はかなりの難易度を持つ。
攻撃力の火、体力の土、素早さの風、治癒の水。
単純な強化魔法なら、送った魔力が永続的に効果を発揮する。
しかし、体の外側に魔力を送る魔装強化では、その瞬間にしか効果が出ない。
その分、精密な魔力操作と、強化対象の動きを予想した強化魔力の選択が必要になる。
つまり、長年メイサンと組んできたマーマレードさんと、ラケインと組んできた僕でないと使えない魔法なのだ。
「新型の強化魔法?ふっ、ここに来て付け焼き刃の新魔法を使ってくるかよ!いいぜ、その選択が正しいか、試してみろ!」
リュオが、大剣を構え直し、待ち構える。
魔法の説明って楽しいんですけどね、ダラダラ続けててもテンポが悪くなるし、加減が難しいところです。




