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第四章)煌めく輝星達 四聖杯開幕準備

■四校戦①


 四校戦。

正式名を「四聖杯」という。


 そもそもの起こりは、約200年前、前魔王を倒した当時の勇者が提唱し、エティウ王国で冒険者学校が作られたのが始まりだ。

 各地で多くの冒険者学校が作られ、魔王討伐五十年の記念にと合同演習を行い、優秀校に魔王討伐時の剣を奉じたのだ。

 その後、無用の混乱と大陸規模の移動という無駄を無くすため、参加するのは、四大国の学校のみとなり、今の形式が出来た。


 時代が進むうちに、鉱物資源の豊富なエティウが優勝杯となる水晶塔を。

細工技術に長じるエウルがその台座を。

商業の発達したノスマルクが優勝旗を。

そして、クルス教総本山であるコールがその双方に永年の魔力を刻んだ。

 国家の威信をかけて作られたオブジェは、今も色褪せることなく、むしろ歴史の輝きを秘めて、ノガルド冒険者育成学校のエントランスに飾られている。


 エウル国内は、空前絶後の好景気に湧いている。

大成功を収めた三龍祭の余韻に浸る他国の貴族達がエウルに留まり、大いに金を落としていっているのだ。

しかし喜んでばかりもいられない。

商人たちの買い占めに、それに対抗するために立てられる無茶なクエストの乱立。

ならず者たちも国に入ってきており、国中の状態が不安定になってきている。


「ふぅ、なかなかビルスさんの課題にたどり着けませんねぇ。」

 メイシャがボヤく。

「仕方ないな。三龍祭で学祭冒険者の仕事が溜まっていたところにこの好景気だ。ならず者の対応に警備隊や軍も動いてる。自分たちでホラレを持ってる俺達が走り回るしか無いのが現状だな。」

ラケインが冷静に分析する。

 タダでさえも忙しいこの時期に、ホラレやユサ、ムワリュユなどの移動用魔物が貴族達に抑えられてしまっているのだ。

こうなれば僕達の都合など、ギルド的にも構っていられない。

「ごめんねー。マスターも組合の方から強く言われちゃってるみたいなのさぁ。」

とルコラさんにもショボンとされてしまっては、ぐぅの音もでないのだ。


「次は、翠王亀エメラルドトータスね。また何でこんな時期に現れてくれるのか。」

 リリィロッシュまでも羊皮紙の束をめくって、依頼を確認しながらやれやれと愚痴を零す。


翠王亀エメラルドトータス

 Cランク上位の魔物。

体高が約3mもある中型の王亀トータス類。

甲羅だけでなく首や足も硬い皮膚で覆われており、エメラルドの甲羅は魔法を無効化する。


 純粋な強さより、とにかく倒すのが面倒な魔物だ。

「はぁ、せめてお肉いただきましょう。」

そう、トータス類の魔物は、総じて肉厚で美味だ。

「だね。トータスステーキを楽しみにして頑張るか!」


 しかし、狩場に着くと、様子がおかしい。

「なんだ?これ。」

見ると周囲の林が荒らされている。

大木が一直線になぎ倒されているのだ。

「おいおい、中型のトータスにできる芸当じゃないぞ、これ。」

1本、2本ならありえるが、大量にしかも一直線にとなると大事おおごとだ。

上位種かと緊張していると、林の奥から爆発音が聞こえる。


 ホラレから降り、林へと踏み入る。

よく見れば、木々はなぎ倒されているのではなく、斬り倒されている。

僕達は爆音のする方へと駆けつける。

そこで見たものは、まさに想像の外だった。


「うりゃうりゃうりゃ、うぅおりゃぁぁっ!」

刃先だけで2m近くありそうな大剣。

ラケインのフルイーターよりその大きさは、なお一回りも大きい。

 突きを主体とする槍はともかく、長剣や斧槍の様な巨大武器は、こういう林や洞窟では小回りが利かず、使えない。

それを、大木ごとトータスを叩き斬っているのだ。

 まるで暴風。

剣技も何も無い。

あるのは、ただの暴力と血飛沫だ。

そして、その中心にいるのは、見覚えのある巨躯の騎士だった。


「うぅおりゃぁぁぁ!」

 気合い一閃。

止めとばかりに振り降ろされた大剣によって、トータスの首が落ちる。

「…ばけものかよ…。」

思わずひどい感想が口をつくが、僕達四人は、ほぼ同じことを思っていた。


「ん?おぉ!アロウにラケイン。どうしたんだよ、こんな所に。」

 リュオは振り返り、大きく手を振る。

いや、そんな事しなくても見間違えもしなければ、見失うこともないが。

「どうしたんだは、こっちのセリフですよ。

僕達はこの、トータスの討伐依頼です。」

周囲の破壊の跡にたじろぎながら、リュオの元へ近づく。


「おぉ、そうだったか。いやぁ、依頼を取ったみたいで悪かったな。こっちは単なる腕試しだったんだが。」

 そう言ってリュオは、返り血を拭い、大剣の血を払う。

「いえ、こちらもオーバーワークで碧癖していたので、助かりました。四校戦の準備もしていられないくらいですので。」

「んっ?どういう事だ?」

リュオにギルドや依頼の状況を説明すると、意外な答えが帰ってきた。


「なんだ、そんなことか。水臭いな、もっと早く相談してくれればいいのに。」

 そう言うと、片隅にあった荷物から小型の水晶玉を取り出す。

「《偽・繋魂コネクト》。おぉジーン、俺だ。今、エウルのアロウ達といてな。おぅ、たまたまな。で、今この国のギルドはパンク寸前らしい。学園のじいさん達に言って、うちの学園の代表連中を働かせるように言ってくれ。おぅ、頼んだぞ。」

 ニヤッと笑って念話を一方的に切る。

確かジーンとは、リュオのパーティにいた魔法使いの女性のはずだ。

リュオの無茶ぶりに振り回されて憤慨する彼女の姿が目に見えるようだ。


「あ、ありがとうございます。でも良かったんですか?うちの方にも話を通してないのにそんな勝手に。」

「おう。そっちも依頼を抱えすぎて困ってる。

うちも何週間もじっとしていられない、血の気の多い学生が多い。お互いに利があるんだ。やらない方が有り得ないだろ。まぁ、俺の勝手は今に始まったことじゃないしな。」

 豪快に笑うリュオとは対照的に、僕達は引きつった笑顔で笑い返す。

なんとも、ジーンさんが気の毒になってきた。




「まあ、硬いこと言うなよ。」

 と勧めるリュオに押し切られる形で、討伐依頼は、僕達が達成したことになった。

その代わりと言ってはなんだが、リオネット仕込みの特製トータスステーキを振る舞うことになった。


 まずは血抜きだ。

本来は完全に息の根を止める前に縄でつるし上げるが、そこは魔物。

首がなくても体はまだ生きている。

トータスの巨体を吊るすことは出来ないので、裏返しにして尻尾側を持ち上げる。

甲羅の凹凸を利用して落とした頭の方に血を集めるのだ。


 解体はラケインの担当。

血を抜ききったことを確認してフルイーターを甲羅の隙間に入れていく。

巨大なトータスに比べれば、フルイーターでさえナイフ扱いだ。

腹と甲羅の間にフルイーターを差し込み、うっかり魔石を傷つかない様に気をつけながら甲羅を外す。

内蔵も処理すれば美味しいが今回はやめだ。

処分も面倒なので、魔石と切り離さないようにしておく。

こうしておけば、最後に魔石を切り離した時に魔力へと帰るので、大型魔物を解体した時に出る余分な素材を腐らせることなく処分できる。

 ラケインが解体した手足や首周りをリリィロッシュと僕で皮を剥がしていく。

最後にメイシャが解毒魔法で寄生虫や潜在的な毒を分解すれば巨大なトータス肉が完成する。


 肉を捌いたら次は調理だ。

リュオが斬り倒した木をカットして櫓を組む。

大火炎を炎と風の魔法で起こし、串刺しにしたトータスの肉を炙っていく。

 もちろんホラレ馬車に積んだスパイスや香草で下処理にも抜かりはない。

実際問題として、三龍祭以降、リリィロッシュとメイシャから味付けに対しての注文が多いのだ。

その為に、最低限どころか、ここで商売でもするかという程に調味料や香草類を用意している。


 表面を炙ったら火から離し、剥がした皮を再び巻きつけて革紐で縛り付ける。

その間に火を消し、残った灰や炭の中に、肉を埋める。

これはおき火を利用した蒸し焼きだ。

 一方で、肉を埋めた上では、炭火の熱を利用して残りの肉を焼いていく。

こちらはステーキ。

そして傍らでは、メイシャが骨の部分からとったスープを炊き上げている。


 マメな性格には見えないリュオが、いちいち驚きながら細かにメモをとっている姿には、苦笑させられる。

 そうしてたっぷり三時間ほどかけて、本日の夕食が完成した。


「よーし、完成だ。」

 本日のメニューは、“翠王亀のステーキ2種とトータススープ野戦風”、命名は適当である。

「大いなる天よ、地よ、母よ、父よ。今日もまた糧を与えたもうたことをここに感謝します。願わくば、すべての民と明日の我らにも祝福のあらんことを。」

 僕達は食前の感謝を捧げる。

リュオも手を眼前に組み、感謝を捧げる。

「この地に生きる同胞よ。我が血、我が肉となりて共に生きよ。」

エティウの祈りは、エウルのものに比べて現実的なようだ。

「さて、食べようか。」

 厳かに目を伏していたリュオが一転して、待ちきれないばかりに目を輝かせている。

お腹が減ったのは僕達も同様だ。


 まずはメイシャの作ったスープ。

トータスからとった出汁は、幾分かの甘味を持ち、香草の香りがその土台をしっかりと固める。

ほぼ塩と香辛料のみでの味付けだったが、トータスの肉や骨から出る旨みの前に、余計な味は不要だ。

丁寧にアクを取り、下処理をした肉は、臭みを出さず旨みだけを十分に引き出す。

「こっ、これは…ゴクッ…うまっ…ゴクッ。」

リュオは碌に感想を言えないまま、スープを次々に口に運ぶ。

 次に手に取ったのはステーキだ。

最初に大火炎で表面を焼き、旨みを閉じ込めてから炭火によってじっくりと焼いてある。

表面はカリッと、中は脂の旨味を完全に引き出すために、あえて火をよく通してある。

「うぉっ!?ナイフを入れただけで脂が溢れ出る!肉が!口の中で溶ける!?まるでさっきのスープを煮詰めたような、強い旨味の脂が喉を通っていくだと!」

更にここでスープを飲み、口の中をさっぱりさせると、脂分が欲しくなる。

肉とスープの終わりなき循環だ。


 ここでとどめを刺す。

「さぁ、リュオさん。こいつが今日のメインです。」

「ゴクリっ…、さっきのステーキとは違う。別の焼き方の肉なのか?」

歴戦の猛将といえど、食の暴力には敵うまい。

炭火の中に埋めた肉塊を取り出す。

一旦表面を焼いて旨みを閉じ込め、数々の香草と共に固い皮で覆い、火を引いた炭の熾火の中で蒸された肉。

 長時間熱に晒された肉は、本来はパサパサになるはずが、皮に包まれたことで溢れんばかりの肉汁をその身に保つ。

表面はしっとりと、中はしっかりと熱が通りながらも見た目には生の状態だ。

そして、肉は香草の香りと香辛料の刺激すら取り込んだ肉塊は、もはやただの肉とは言えない、“蒸し焼きローストトータス”と呼ぶべき、必殺料理だ。


 固い皮を外し肉を薄切りにして、焼けた肉汁に味付けをしたソースを添える。

「…これは、本当にトータスの肉なのか…。こんなもの、王宮ですら食ったことがない…。」

すでに目も虚ろに、リュオが呟く。

一口食べたあとは、まるで魂が抜けたように固まっている。

一瞬の後に目に生気が戻ると、まるで親のかたきかのように、ローストトータスにかぶりつく。

「くそっ!くそぉぉ!負けぬ、俺は負けんぞぉぉ!」

何と勝負しているのかは分からないが、そのセリフは敗北宣言と同義である。


 最後の一口を名残惜しそうに口にし、あっという間に料理を平らげたリュオは、目に涙を浮かべる。

「頼む!このレシピをうちのメンバーに伝授してくれ!この通り!!」

我らリオネットの必殺料理は、最強の武人すら敵ではなかったようだ。

料理回はほぼ悪ふざけで書いてます。

筆者は自炊すらしたことないので、調理法や効果についてはノリだけです。


熾火の肉は、美味しんぼオーストラリア編のアボリジニ(今はこれも差別用語なんでしたか)の伝統料理として紹介されていたものを、ローストビーフとして魔改造しています。

実際にこんな風にしても(そもそも出来ないけど)美味しくはならないと思いますので悪しからず。

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