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第四章)煌めく輝星達 魔王ビルスティアの誕生

■赤の王のお茶会③


「お恥ずかしいところを。」

「いえいえ、さすがの結束力と素直に感心していたところです。」

 折角の空気だったが、ドタバタとしてしまった。

だが湿っぽい空気も吹き飛んで、落ち着いて話が出来るな。


「さて、聞きたいことが沢山あるけど、まずはここに僕らを呼んだ理由を聞きたい。まさか貴族として冒険者を雇いたいだなんて、今更言わないだろ?」

 ビルスに問う。

表向きの理由としては、力のない貴族が有力な冒険者を雇い、冒険者も貴族とコネを作る。

そういう話だった。

「ふむ、先程もお話しましたが、何も違いはありませんよ。私は弱い領主まおうで、アロウ様達の力を借りたい。そして、アロウ様も、私のコネと情報を利用されればいい。そう、小魔王達の情報などをね。」


 なるほど、そういう事か。

これ程の力を持っていても、魔王たちの中では序列が低いのだろう。

そこで、僕達と繋がりを持って起きたいというわけだ。

「僕達は手駒の一つ、か。そういうことなら、まずは知らなければならないことが山ほどあるな。」

 いくら新進気鋭の冒険者パーティと言えど、今の僕達はまだBランクだ。

自らを弱いというビルスにさえ、戦闘となれば手も足も出ないだろう。

言わば、期待を込めた先行投資、という訳だ。

しかし、それならばなおさらに情報は必要だ。

改めてビルスに問いただす。


「まずは小魔王について教えて欲しい。無礼を承知でいうけど、昔のビルスは、そこまで強くなかった。幹部はおろか、直属部隊に配属もさせれないくらいにはね。でも、今の君から感じる魔力は、確かに魔王の名に恥じないものだ。

それこそ、昔の僕と比べても遜色ないほどに、だ。いったい、何があったんだ。」

 ビルスは、大きくうなづく。

「そうですね。何があったか、そのご質問には、全ての答えが詰まっています。では、質問そのものの答えでなく、魔王様が亡くなられて以降のお話をしましょうか。」

そうして、ビルスは語りだした。

忌わしき、魔王という誘惑の話しを。




 15年前、魔王が討たれたことは、すぐに分かった。

魔王を源とする、魔族の強化が解かれたためだ。

 そして、人間の魔族狩りから逃れて数ヶ月、ある日、眼前に神が降り立った。

「力を、与えよう。自らの勢力を築き、人間を駆逐すればいい。代わりに、古い魔族を狩って欲しい。」

そう告げられると、光が体を包んだのだ。

 虎魔人ヴェアティーゲルだった姿は、よりヒト型へ近づき、上位魔族のものとなった。

強大な魔力が体の内より湧き出て、溢れた魔力から眷属を生み出す。

そして、小魔王、“血獣”の魔王は誕生した。


 眷属たちは凶暴だった。

魔王である自分の命令は聞くが、目を離せば人間を襲い、身を隠していた魔族を襲った。

“血獣”の名は、魔法を発現させず、強大な魔力を身体強化に費やすため、返り血に濡れる自分や眷属達の姿から名付けられた。

 ビルスはそれをよしとせず、魔力の解放を止め、無駄な争いを否とする自分に賛同し忠誠を誓った配下以外の眷属を、自らの爪で殺め、その血肉を食らった。

 ビルスは、自らと眷属に不要の争いを禁じ、他の魔王からの干渉を避けるためにヒトの姿となって人間世界に混じる。


 時に幻惑の魔法を使い、時に金を使い、末席ながら貴族の地位と領地を得た。

そこはひどい荒地で家屋も農地もまばらだったが、こちらには都合がよかった。

 神から与えられた魔導の知識で、家や畑を利用し、魔法陣を引いた。

眷属を生み出していた溢れんばかりの魔力で土地を活性化させる。

1度魔力を与えてやれば、後は循環し自然と実りは豊かになるはずだ。

 予想通り、この地は豊かとなり、人間も集まり始めた。

善政を敷き、良君と言われるようになると、更に村は栄えたのだ。


 そして、5年前、神から再度の神託が降りる。

「魔族狩りはひとまず終わるとしよう。今後は、108いる魔王たちの勝ち抜き戦だ。」

それから今に至るが、まだ魔王同士の衝突は起こっていない。




 そこでビルスの語りは終わった。

人魔会談以来の衝撃だな。

小魔王は、神によってもたらされていたのか。

あれだけ魔族を嫌っていた神が、なぜ?

 それに、2回の命令。

魔族を狩れ、そして、魔王同士で潰しあえ。

単純に考えれば、魔族に魔族を片付けさせ、最後には自滅させることが考えつく。

しかし、本当にそれだけか?

まだ、判断材料が足りない。


「ビルス、話してくれてありがとう。小魔王の出自が分かっただけでも大きな前身だよ。」

 ビルスは首を横に振る。

「いえ、私もアロウ様に期待する1人です。いくら力を持とうと、これは神に与えられた上辺だけの力です。神やその手先である魔王たちに抗しえるのは、自ら力を勝ち取ったものだけと思うのです。アロウ様、神によって乱されたこの世界を、お救い下さい。」

そう言ったビルスと、僕らは硬い握手を交わす。


 そこから先は和やかな雰囲気で、当初の目的通り、互いの情報交換を行う。

「ビルス、そういえば、どうして僕が魔王だと気づいたんだい?」

 壮年の執事にお茶のお代わりを貰いながら、気になっていたことを尋ねる。

この執事も魔族の変化だと言うが、魔力解析に長けた僕でさえ、そうと知らなければ気づかない程だ。

「それは私の能力ですよ。私は動物系魔族が素体ベースとなっていますからね。鼻がいいのです。それこそ魂の匂いを嗅ぎ取れるほどに。」

魂に匂いとかあるんだ。

ふと自分の匂いを聞いてみたくなるが、やめておいた方がいいという予感がする。

「そっか、じゃあ小魔王だからってみんなが僕のことを分かるわけじゃないんだ。」

「そうですね。しかし、私の他にも魂を感じ取れるものがいてもおかしくないですし、本人ではなく配下がそうだとも限りません。一応用心したにこうしたことはないでしょう。」

 なるほど、それもその通りだ。

しかし、用心のしようもないというのも本音だな。


「それでは私からも。ラケイン様を育てられたのは魔族だとか。それほどの剣技を教えられる魔族。魔法の使えない魔族としては、気になりますな。」

 ビルスがラケインを見て尋ねる。

明るい性格ではあったが、たしか以前も、魔法を不得意としていたことにコンプレックスを持っていたな。

「私の父は、レイドロス。そちらでは魔剣の四天王と呼ばれていたはずです。」

 ラケインが伝える。

表立って感情の起伏は見えないが、心なしかその目元は誇らしげだ。


 レイドロスは、剣技を極めることに全てを捧げた魔人。

自らを鍛え、剣を鍛え、技を鍛えることに命をかける鬼だ。

良くも悪くもそれ以外のことに関心がなく、魔族の中でさえ孤立していた。

「おぉ、かの魔剣どのが父上とは。1度だけお会いすることがありましたが、その気迫に話しかけることすら叶いませんでしたよ。」

しかし、ラケインをはじめ、ビルスのように魔法に頼らない戦士にとっては、まさにいただきなのだ。

そんなレイドロスを義父に持つ事の幸福、それを分からないではない。


「それにリリィロッシュ様の鎧。噂には聞いていましたが、デュラハンの剣士、ロッシュのものですな。彼とは幾度か戦場を共にしたのです。もし彼が存命なら、是非とも配下として迎え入れたかったのですが。」

 リリィロッシュは驚く。

「ロッシュをご存知だったのですか。彼を知っている人に、初めて会いました。彼がいたからこそ、今の自分があるのです。」

目を閉じ、恩人の姿を想う。

「えぇ、彼もまた名を知られる剣豪。魔族でなく、魔物であったために不遇の身でありましたが、彼こそは騎士と呼ぶに相応しい人物でした。」

ビルスもまた、過去に思いを馳せているようだ。




 そうして雑談や貴族世界の情勢、魔族の近況など、話に花を咲かせていたが、やや陽も傾いてきた。

すでに双子の太陽の片方は、その光に赤みを帯びてきている。


「さて、そろそろ時間もありますし、最後に当面の目標だけ打ち合わせましょうか。」

 ビルスが場を促す。

人魔会談の折、小魔王に会うために勇者並の力をつけると言った。

未だ勇者には及ばないが、小魔王に会うことは達成したのだ。

僕たちには新しい目標と指針が必要だ。


「私としては、アロウ様たちに協力いただき、他の魔王たちから領地を守りたい。それだけです。アロウ様の方からは?」

 今、小魔王達は、神からの指示で互いに潰し合いの準備を始めている。


 小魔王との対決。

しかし、それは僕達の目的とも合致する。

「ラケイン達は二度目になるけど聞いてくれ。僕の目標は、神によって歪まされ、悲鳴を上げているこの世界を救うことだ。魔族の大陸に押し寄せている異常な魔力をこの人間の大陸に逃がしてやる必要がある。」

 僕は人間として生きていくことを決めた。

しかし、それは魔王であった過去や使命を捨てることではない。

僕達が、両親が、友人達が、かつての眷属たちが生きるこの地を救わなければならない。


「しかし、そのためには人間の協力と、神の尖兵である小魔王の合意か排除が必要なんだ。」

 魔王として行ってきた強硬策では、例えば成功しても、人間の世界に壊滅的なダメージを与えてしまう。

ただ魔族を救いたかった昔と違い、今は、人間も救いたい。


「少なくとも、神の言いなりとなっている今暴れている小魔王たちと争わなくてはいけない。そのための力を貸して欲しい。」

 そう、ビルスに言う。

しかしその言葉は、自分の内に向けられていた。

自分自身の決意を確かめるように。


「かしこまりました。それは私の願うところでもあります。」

 ビルスは立ち上がり、手を胸に礼で返す。

「しかし、私もこの領地を守らねばなりませんから、表立って戦の場に立つことはできません。私が目立てば、間違いなく魔王たちが襲ってきますから。」

そうだ。

神の命令により、小魔王同士が潰しあっている現状、ビルスが前に出るのは悪手だ。


「しかし、お手伝いはできます。金銭面での支援や情報をお渡しします。それと、ここにいるベルゴートとガゼリアは、空間系魔法を得意としております。」

 執事とメイドの1人が一歩前に出る。

今は魔力を感じないが、確かに身のこなしには隙が見られない。

「失礼ながらアロウ様達はまだまだ弱い。小魔王どころか、この者達にすら勝てないでしょう。異空間での修行をお手伝いいたしますので、まずはこの者達を倒せるようになって下さい。それと、私の方から貴族として指名依頼を出しましょう。それをクリアしていけば近隣の魔王に繋がるように仕組んでおきます。」


 これは、いい手だ。

異空間なら派手に暴れたところで他の小魔王にはバレない。

それに貴族からの指名依頼なら、それが小魔王に続いていてもおかしくはない。

「わかった、その話に乗ろう。これから宜しく、ビルス。」

僕達は再度、握手を交わして別れた。


「しかし、わからないものですね、人生って。」

 ホラレ馬車に揺られながらエレナ先生が語る。

「私は、コール聖教国の小さな教会に勤めていました。ある日、勇者パーティが訪れ世界を救うために仲間に加わりました。魔王を倒したはずが小魔王によってパーティは散り散りとなり、その魔王が生徒としてやって来て、今度は小魔王と手を組む。ほんとに、何が起こるかわからないものです。」

確かに。

前世の記憶を持ったまま転生した僕が言うのもおかしいが、エレナ先生の人生もかなり波乱万丈だ。


「そうですね。僕も、まさか勇者パーティの1人が先生になるとは思いもよりませんでしたけど。」

 魔族の生き残りであるリリィロッシュ、四天王の息子であるラケイン。

メイシャだけは一般人だが、みな、普通の人が聞いたら卒倒しそうな過去を持っている。

危険なパーティもあったものだ。


「それにしても、大変な土産ももらってしまったな。」

 ホラレの手綱を握りながら、ラケインが言う。

「そうだよねぇ。」

僕は視線を荷台の後方へと移す。

そこには、高品質の魔石やミスリル鉱、古代のものと思われる魔法書や魔法具など、大量の素材がある。

 時喰みゼロ水晶姫クリスタニア精霊の羽根エレメンタルフェザー銀賢星クレリックスターは、ミスリルや魔石を換装するだけでその能力は倍増するし、ラケインの万物喰らいフルイーター蒼輝ラピスも、ミスリルで打ち直せば強度も闘気の浸透も飛躍的に増大する。

 これだけの素材、ただの冒険者が集めようと思ったら、人生を三回やり直してもきかないだろう。


 そして、その片隅に、しかし厳重な魔法封印で閉じられた本に目をやる。

「まさか自分の配下の魔物の全情報・・・とはね。」

 正確には、配下として“使用されている魔物”だが、その一部を僕達の修行用として、高位の魔物を潰してくれるというのだ。


 魔族や魔物は、高濃度の魔力が凝縮し物質化したした半エネルギー生命だ。

つまり、魔王ほど高位の魔族は、自らの魔力を圧縮することで、配下の魔物を作り出すことが出来る。

かと言っても、そうポンポンと生み出されるわけでもない。

魔力の消費も激しいし、魔物が生成されるまで無防備となる上に途中でやめることも出来ない。

 それはそうだ。

高等魔法の比じゃない魔力を練り込んでるのだ。

途中でやめようものなら、周囲一体が吹き飛ぶ。


 それほどの危険を冒してまで作った魔物を、僕達のために差し出してくれたのだ。

今更ながら、ビルスの本気が伺える。

ちなみに、僕とビルスはパスを結び、僕達の準備が出来しだい、《繋魂コネクト》でビルスに連絡、指名依頼を出してもらうという手はずになっている。


「これは、頑張らないとだな。」

 意気込んで言う僕の言葉に、メイシャが被せる。

「でもその前に四校戦ですよ!」

確かに、もう半月後に迫っている。

あの巨躯の騎士との戦いも避けられないだろう。

「楽しみのような、憂鬱のような、だな。」

僕達は笑いながら馬車に揺られて学園へと戻った。


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