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第三章)新たな輝星 リオネットの究極兵器

各寮、楽しそうなお店ばっかりです( *˙ω˙*)و グッ!

…学園祭とかした事ありませんけどね。

■学園祭③


 完全にカーレンにペースを狂わされながら、イーグレスのメイン店舗、ダンテの店へ通りかかる。

すると、白い服を基調とした集団が店の前を陣取っている。


 こいつらは…

「さすがは、エレナ先生!いつもの凛々しい冒険者服もさる事ながら、清楚なサマードレスのなんとお似合いなことか!」

「おおとも、まさに地上に降り立った天使!」

「ひょっひょっひょっ。我らの心のオアシスじゃな!」

などと鬱陶しいことこの上ない。

 そう、こいつらはエレナ先生の親衛隊。

通称・エレナ紳士同盟だ。

一部教師も混ざっているのが恐ろしい。

まったく、なにをやってるんだこいつらは。


 中を見ると、案の定、エレナ先生がダンテのサマードレスを試着しているところだ。

薄い青色のドレスは、シャープに作られており、いやらしくない程度に体のラインをスッキリと美しく見せている。

大きく開けた背中とフリルで作られた袖から見える細い腕が、金色に光る髪と淡く輝くドレスによくに映える。

「ダンテ君、これいいわね。素敵じゃない。色違いであと三着欲しいけど、オススメあるかしら?」

「いやー、エレナ先生はなにを着ててもお似合いですけど、また一段とお綺麗ですよ!こちらの色なんてどうでしょう?」

と、エレナ先生に売り込んでいる。

良くやるな、会員番号68番。


 ここにいると色々と厄介そうなので、ラケインと早々に場所を移す。

今度は、ホーエリアのエリアだ。

ホーエリアは、ほかの二つの寮に比べて店の数が少ない。

メインの喫茶店と料理店に絞り、ほかの寮生たちはそのサポートに回っている。

「あー、ラク様ぁ、来てくださったんですね♪」

 メイシャが駆け寄ってくる。

僕もいるわけだが、まぁ仕方ないか。


「…店は、いいのか?」

「はい♪うちは交代人員が多いから、ある程度は何とかなるんですよ。ラク様、お疲れではないですか?」

 メイド服のまま、ラケインに詰め寄る。

喫茶の方を見ると、貴族らしい中年の男性がお茶を飲みながら、メイド姿の学生に足を揉んでもらっている。

 状態回復リフレッシュ魔法を併用し、水棲椰子アクアナッツオイルで丁寧に足を揉みほぐす。

普段から体を酷使している冒険者だ。

その指圧ポイントは的確そのもの。

歩き慣れていない貴族は、口元はだらしなく開き、目も虚ろにノックアウト寸前のようだ。

普段は厳しく威厳のあるだろう顔は、その面影もなく緩みきっている。

…正直、見ていられない。


 ラケインの方を見ると、メイシャがラケインの手を取り、ぐいぐいと迫っている。

この場合、メイシャの回復魔法の技術はある意味殺人的だ。

ラケインも貴族を見て、己の末路をそこに察する。

 蒼白な顔をして目で救援を訴えてくるが、やはり明日からの出店のために英気を養ってもらおうかなぁ…

などと考えていると、顔に出ていたのかラケインからの視線に殺気が篭もり始める。

うん、ここは親友として助けが必要だな。


「メイシャ、気持ちは嬉しいけど、色々と回りたくてね。マッサージはまたにしようよ。」

「あ、アロウ先輩。そうですか、ラク様も折角の学園祭ですもの、楽しみたいですよね。」

 そう助け舟を出すと、今度はメイシャがみるみるうちにしょげていく。

めんどくさいな。

「メ、メイシャも今はお店抜けられるんでしょ?よかったらリオネットのお店でご飯にしない?メイシャも一緒に。」

聞くやいなや、途端に弾けるような笑顔に変わる。

「そうですね!是非ご一緒します!待っててください、調理場の方に話しをしてきますから!」

そう言って店の中に駈け込んでいった。


 さて、メイシャが戻ってくる前に、こちらもやることがある。

実際、ラケインの方も悪くは思っていないようなので、あの二人の間にいたのでは完全に邪魔者だ。

かといって二人きりにさせてしまうと、確実にラケインに殴られてしまう。

となれば、まぁこうなるよな。


「《繋魂コネクト》。あ、リリィロッシュ?うん。悪いんだけど、ホーエリア寮に来れる?うん、そう。まぁ想像通りだよ。うん、待ってるね。」

 魔法使いお得意の通信用魔法《繋魂コネクト》でリリィロッシュを呼び出す。

実は、三龍祭以前から、メイシャが暴走してこの展開になることは、想像がついていたのだ。


繋魂コネクト》とは、予め登録が必要だが、魂同士でパスを結び、距離に関係なく念話を送る無属性魔法だ。

 王族クラスになると、同盟国との連絡用に《繋魂コネクト》の代用品として、魔法の水晶玉を城に設置しているらしい。




「お待たせしました、アロウ。」

「すみません!ラク様、お待たせしましたァ。」

 しばらく待っていると、ほぼ同時に2人がやって来た。


 メイシャは、イーグレスのサマードレスだ。

いや、フリルやデザインが微妙に違っているところを見ると、特別に作ってもらった勝負服ひみつへいきなのだろう。

淡い水色のドレスがフワフワの金色の髪によく似合っている。


 リリィロッシュは、いつもの鎧姿ではなく肩口のないワンピースだ。

深い緑と赤を基調として金の刺繍があしらっており、首筋から胸元を広く露出させているが、しなやかで力強いリリィロッシュの魅力を際立たせている。


「…とっても綺麗だよ、リリィロッシュ。」

 あまりにも似合いすぎていて気後れしてしまう。

「ありがとうございます、アロウ。」

リリィロッシュも嬉しそうに微笑む。

メイシャの方を見ると、黙って頭を撫でているラケインにデレデレしている。

まぁ、何はともあれ移動するか。


 リオネットの炒飯フライライス店は、相変わらずの熱気だ。

「うぉぉーっ!炎よ、天まで焦がせ!ライスよ、宙を舞い踊れ!」

同じ寮生とはいえ、この人たちはどこに向かっているんだろう。

 2回目の僕らはともかく、初めてこの店をみるメイシャは、どん引いて…いや、目を輝かせて魅入っている。

「うわぁお♪炎が、お米が舞っていますよ!あれ!あれ!ラク様!あれ見てください!!」

手をバタバタさせてるあたり、テンション激上げのご様子だ。


 席についてしばらく待っていると、艶やかな衣装に身を包んだ女生徒が料理が運んできた。


「リオネット特製バーニンセット、4人前でーす。」

「わぁっ!美味しそうですぅ~♪」

 もはやメイシャの目は炒飯フライライスしか映っていない。

「私も一年ぶりですね。色々な土地を旅してきましたが、心が踊ることに関して、これ以上の料理には出会ったことがありません。」

リリィロッシュも落ち着いているように見えてやや前のめりに魅入っている。

目はトロンと虚ろに口元には微笑を含んでいる。

…仮にもサキュバスがこの表情は、かなり精神的に宜しくないな。


「それじゃ、食べようか。」

「いっただきま~す♪」

 まずは何より炒飯フライライスだ。

細長い陶器のスプーンで、ひと匙すくう。

熱々の湯気と焦げた脂の香りが鼻腔をくすぐる。

目を落とすと、ライスの1粒1粒が、卵の黄色と焦げた脂の褐色が美しく絡み合い、完璧に磨かれた琥珀のような耀きを垣間見せる。

─パクリ。

口の中でライスがほどける。

その瞬間、劇的に広がるのは強い肉の味。

テラテラとした脂は強い火力で焦がされたことにより味が強まり、それを支える卵の甘みと口腔内で複雑に絡み合い爆発する。

強烈な旨みが立て続けに襲いかかるが、決して主張しすぎることなく、しかし鮮烈に広がる薬味が口当たりをまろやかにする。

そして、やもすればくどく感じられる脂だが、パラパラになるまで水分を飛ばしたライスのおかげで、決して口中にとどまり続けること無くするりと喉の奥へと消えていく。

 余韻を楽しみつつ、スープへと手を伸ばす。

魔物の骨で出汁をとった、特濃のスープ。

こちらは逆に脂を徹底的に取り除き、純粋な出汁の味のみを全面に押し出している。

香辛料が効いて、口の中のこってりとした脂分を洗い流してくれる。

 プレートの奥にこんもり持ってある肉は圧巻の一言だ。

回転焼きで焼かれた肉は、余分な脂を落としつつ、しかし肉自体には充分な脂を残す脅威の代物だ。

焼かれた表面は焼かれた脂が弾け、肉の断面からは旨みの塊である透き通った肉汁が溢れだす。

刷り込まれた香草の香りが湯気とともに立ち上り、ジューシーに、香り高く、完璧に焼きあがってい


 試食も含めて何度か食べた味だが、やはり本番の料理は気合いの入り方が違う。

リリィロッシュは、うんうん、と何度も頷きながら匙を進めている。

メイシャなど、最初の一口を食べたあとにしばらく凍結フリーズしていたが、動き出すなり脇目もふらずに頬張っている。

 イーグレスもホーエリアも素晴らしい店だったが、リオネットも負けていない。

加えて明日からの出し物もある。

僕とラケインは、顔を見合わせてニヤリと笑うのだった。




 四人で食後のお茶を楽しんでいると、店内で大きなどよめきが聞こえてきた。

何事かと人だかりの奥を覗いてみると、どうやら貴族が難癖をつけているようだ。


「貴様!このボンヌール伯爵が直々に来てやったというのに、待てとはどういう事だ!さっさと虫けら共をどかさんか!」

「申し訳ありませんが、当店では、いかなるお客様も平等にお待ちいただいておりますので。」

 どこかで聞いたような名の貴族だが、今回は相手が悪い。

見た目は華奢な女性店員だが、当然のことながら、冒険者志望の学生なのだ。

貴族の横暴など露ほどにも感じていない。

学園祭のみの出店とはいえ、一応は店の体をしているので、大人しくしているだけだ。


 しかし…

「貴様ぁ、この私が大人しく聞いていれば図に乗りおって。この私の力を見せつけなければ、立場というものを理解出来んようだな!」

 いつ大人しく聞いていたのかは理解不能だが、少なくともこいつは、自分の立場というものを理解出来ていないようだ。

そして、同じく理解出来ていなさそうな部下達が数人、店を荒らそうとノコノコと出てくる。


 もちろん見物客たちは分かっている。

どちらが自分の立場を理解出来ていないか、ということなど。

そして数秒後にどんな結果になっているのかを。


 しかし、そこへ割って入ってきた人物がいた。

「人が気持ちよく飯食ってるっていうのに、なんだお前らは!厨房の火でケツを焼かれんうちにとっと失せろ!」

 ボンヌールという貴族の首を掴んだかと思うと、その肥太った巨体を通りの方へ無造作に投げ捨てたのだ。

 取り巻きたちがいきり立つが、そのひと睨みで既に戦意を失い、主を置いて悲鳴を上げながら逃げ去っていった。


 男は、何も言わず席に戻ると、

ガチャンッ!「もうひと皿追加だ。」

炒飯フライライスの追加を頼んだのだ。

皿を重ねるや否や、スグに次の皿が用意される。

周りの見物人から喝采が飛ぶ。


 大柄な人物だ。

椅子に座っていてでさえ、頭の位置が僕と変わらない。

よく見れば皮鎧を着込んでいて、身なりから冒険者のようだ。

 服装を見ると、素材は高価なものが使われているようだが、装飾は簡素というよりも実用本位のささやかなもの。

それだけにこの人物の力量が伺える。


「すごい人がいたもんだね。」

 人混みから離れ、ラケインに話しかける。

「…あぁ。」

言葉は少なく、だが口元は獰猛に笑っている。

 いつも冷静なラケインだが、唯一、こういう時がある。

前に僕と戦った時もそうだったな。

特に戦いらしい戦いがあった訳では無い。

それでも、ラケインに火がつくには十分だったようだ。

「…アロウ。明日は頼むぞ!」

ラケインが力強く肩を掴む。

はぁ、明日の出し物、上手くいくといいが。


 興奮冷めやらぬまま、僕達はリオネットの店を出た。

「ラク様、ご飯美味しかったですぅ♪最終日までにもう一回行きたいですね!」

メイシャが興奮して話しかけると、先程までの獰猛な気配はなりを潜め、ラケインは、穏やかに頷いた。

「リリィロッシュはどうだった?一年ぶりの炒飯フライライスのお味は。」

「見事の一言でしたね。肉やスープもさる事ながら、去年よりも美味しくなっていました。なんとか、あの味を再現したいと思っているのですが。」

リリィロッシュは、悔しそうな顔でリオネットの方角を見つめる。


 そう、リリィロッシュの趣味は料理だ。

元魔王として言わせてもらうなら、料理にしろ芸術にしろ、こと楽しむという点においては、人間は他種族の追随を許さない。

 工芸品ならば岩小人ドワーフ族が、魔法ならば耳長人エルフ族が有名だが、それは学問として極めたと言っていい。

対して人間は、そこに遊び心や独創性といった、付加価値を付ける。

そして、全く新しい極地を見つけるのだ。

 冒険者として人間の中で暮らすようになったリリィロッシュは、そういった人間らしさに強く興味を持ったのだ。


「リリィロッシュならできるよ。今度メイサンにコツを聞いてくるし。上手くいったらご馳走してよね。」

「はい、アロウ。是非、期待していてください。」

 そう言ってリリィロッシュは、とても可愛らしく笑ったのだ。




 それから僕達はしばらくの間、出店巡りを楽しんでいたが、

「すみません、先輩。私そろそろお店に戻らないと。おねーさまから念話が来ました。」

メイシャが申し訳なさそうに言う。

「そういえばお店を抜けてくれていたんでしたね。長く付き合わせてしまいましたが、私達もここで解散しましょうか。」

「そうだね、メイシャ、お店頑張って。」

「はい!ありがとうございます、先輩!」

と、その前にやることがあった。


「あ、リリィロッシュ。これ、さっきお店回った時に見つけたんだけどどうかな?」

 手渡したのは、青の魔石を銀細工で装飾したブローチだ。

クリップ式の金具が布止めになっている。

実は、同じものが僕の襟元にもあったりする。

ちらとそれを見つけると、

「ありがとうございます、アロウ。大事に、大事にします。」

リリィロッシュは、目を伏せ、小さなブローチを胸に抱きしめた。


「わぁ、かわいい。いいなぁ。」

 メイシャが羨ましそうにその様子を見つめる。

さあ、ラケイン、出番だぞ。

「…メイシャ、流石にお揃いにとは行かないが。」

ぎこちなく差し出したのは、可愛らしい水色のリボンがついた髪飾りだ。

ぱぁっ、と顔をクシャクシャにして喜ぶ。

「わぁぁ、ラク様が私に!?大事にします!すごく!とっても嬉しいですぅ!!」

涙を浮かべて全身で喜びを表す後輩に、僕達三人は笑いあうのだった。


この料理回の作成は、ほんとにお腹が減ります。

頭の中で理想とする料理の描写を必死に考えているので、食べたことのないレベルの妄想が広がります。


…炒飯たべてぇ!

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