第三章)新たな輝星 新しい仲間★
仲間と書いて、「相棒」と読む( *˙ω˙*)و グッ!
■新たな輝星③
ホラレ馬車から降りて、岩や小石だらけの悪路を進む。
ここは周りの地形のせいで自然の魔力が集まりやすく、強い魔物が発生しやすくなっている。
スパルタの鬼教官が2人もいるので、ここは僕達の修行場として、よく連れてこら…いや、よく来ている。
最近は、意識もせずに探知の魔法を使うようになった。
僕は、ラケインたちに比べて、防御面で劣る。
だからこそ敵の察知は、攻撃の要であると同時に命綱でもあるのだ。
2km先。
岩山の上に3匹。
この感じは、地大狼だな。
地大狼
Dランクの魔物。
体高1.3mもの体格を持つ岩偽狼(Eランク)の上位個体。
土属性で、額と背に岩の肌をもつ。
数匹で行動することが多く、特にリーダー役の遠吠えは、下位個体などを呼び寄せるので注意。
今日はこちらが風上。
三匹はすでに僕の存在を感知しているだろう。
運がいい。
これなら新装備の試運転にもってこいだ。
背負っていた魔弓・「時喰み」を手に取る。
まだ、ランドヴォルフたちは、視認できない。
だが、関係ない。
探知の範囲全てが射程なのだ。
矢をつがえる。
時喰いの名の由来は、その射出スピードにある。
およそ視認できる範囲なら、発射と同時に着弾している。
まさに時間を喰いちぎったようにだ。
矢を放つ。
探知した通り、岩山にランドヴォルフ。
そして、魔力で強化した知覚に従い、矢は狙い通りに外れる。
ランドヴォルフたちは、こちらの力量を知る。
リーダーが遠吠えを放ち、群れを呼び寄せる。
うん、下位個体のロックヴォルフだけじゃなく、ランドヴォルフも何体かいるようだ。
時喰みを地面に刺して、長剣を取り出す。
これが僕の新しい相棒だ。
そうしているうちに、ヴォルフの群れが辺りを取り囲む。
圧倒的な数の暴力。
もちろん、こうなるように望んだのだが。
50匹を超えるロックヴォルフが一斉に襲いかかる。
とは言っても、標的は僕だけしかいないのだ。
必然的に、1度に襲いかかれるのは4匹程度となる。
Dランクの魔物程度、4匹なら余裕でさばける。
まずは剣を抜き放ちながら横に身を躱す。
すれ違いざまに1匹。
身を返しながら跳躍し、さらに1匹。
その場で円を描くようにステップし、横から襲いかかるヴォルフを1匹斬り捨てる。
しかし、すぐ様、新手のロックヴォルフが襲いかかる。
1度に4匹なら、さばき切れるが、延々とそれが続くとなると体力面で分が悪い。
しかし、それは僕がただの剣士であった場合だ。
「爆ぜろ!爆炎系魔法・赤扇っ!」
新手を含め4匹、それどころか、その周囲も含め10数匹のロックヴォルフを焼き払う。
同時詠唱を行使して、今の戦闘の間にも魔力を練り上げ、火と風の複合魔法を放つ。
複合魔法は、探知のような例外を除いて、最低値が第二領域という高難易度魔法だ。
それを無詠唱で放つことが出来るのは、この新たな相棒のおかげだ。
魔術剣・「水晶姫」と名付けられた剣には、柄に魔石と魔力伝道体であるグリュフォーンの毛が組み込まれている。
これは、母さんから貰った携帯用の杖を分解して利用している。
つまり、魔法使いの杖として働く剣なのだ。
もちろん、剣としての性能は、《迷宮》製なので疑う余地はない。
魔法剣士としてこれ程相性のいい武器はまたとないだろう。
さぁ、いくらでもかかってこい!
ホラレ馬車から降りてアロウたちと分かれ、新しい装備の性能を確かめるべく、獲物を探す。
「探知。」
私の探知は、アロウのものに比べると精度が落ちる。
そのかわりに数倍の範囲を探知することが可能だ。
ここから南下すると小型の龍種の巣があるようだ。
身体に魔力を巡らせ、一息に狩場へと向かう。
荒れ果てた岩山のなかに、すり鉢のような窪地に隠れた湿地帯。
窪地に降りると、餌の匂いを嗅ぎつけた魔物達が顔を出す。
泥小龍
Cランク下位の魔物。
土属性で泥や土の中を自在に泳ぎ回る。
集団で襲いかかってくることもあり、低ランクだからと油断すると危険。
よく見れば、すり鉢状になっている崖の上から落ちたのだろう、大型の魔物が沼に引きずりこまれている。
あれはBランクの大猛牛だったはずだ。
なるほど。
この窪地はまるで蟻地獄のように、崖から落ちた獲物の墓場となるようだ。
くすり、と笑い、大剣を納める。
いかに複数の龍種と言えど、本気を出せば高位魔族である私にとって、Cランクの魔物など敵ですらない。
しかし、今の私は後衛を任される魔法使いなのだ。
ならばここは、魔法だけで切り抜ける。
そうでなければ、教え子たちに示しがつかないのだ。
そうですよねぇ?アロウ?
魔族である私には、魔力を練り上げる必要が無い。
膨大な魔力を内に秘め、ただそれを形にして吐き出すだけでいい。
…そう、思っていた。
しかし、アロウとの修行の中で私のその考えは、いや、思い上がりは打ち砕かれる。
アロウの魔力操作は驚嘆の域にある。
魔力量が少ない人間の身となり、それでも、魔の頂点である魔王の力を目指す。
それは、少ない魔力量を補う術だったのか。
いや、恐らくは魔王であった時からそうだったのだろう。
修練を重ね、驚異的なレベルにまで、魔力操作の精度を上げる。
今までの私は、いや、魔族たちは、魔力を練り上げる必要がなかったのではない。
その努力を怠っていたのだ。
少ない魔力で最大の効果を。
そんな消極的な考えでたどり着ける境地ではない。
最大の魔力を最大の効果で。
それが、歴代でも最強と言われた魔王の秘密だったのだ。
自身のこだわりの為に、魔法を捨て、剣に頼った。
親友とも出会い、剣を得たことに今は誇りを持っている。
だが、やはりきっかけは逃避だったのだ。
魔力量が少ないなら、何故その効果を上げるための修練しなかったのか。
過去の自分を叱りつけたい気持ちでいっぱいだ。
アロウを学校へ送り出したあとは、魔力操作の鍛錬に励んだ。
独り山へ分け入り、海へ、川へ、森へ。
精霊の多い場所を探し、魔力操作を鍛えた。
今や、瞬間的な出力なら並の魔族には劣らないし、魔力を落として小技を紛れ込ませれば長期戦にも耐えられる。
そして、今日は新しい装備もここにある。
左腕の袖をめくる。
篭手に付けてあるのは、5枚の羽根矢。
魔導矢・「精霊の羽根」だ。
矢そのものの攻撃力は皆無だが、火・水・風・土の四属性に加え、闇属性の五つを象徴する羽根矢。
魔力を誘導し、その組み合わせと使用者の想像力次第で無限の使い方をもつ補助武器だ。
ドレイクが跳びかかる。
小型とはいえ、強靭な肉体をもつ龍種だ。
そのひと跳びが、5m近くにもなる。
バックステップでその攻撃を躱すと、今度は足元から3匹。
クレイドレイクは、地中を自在に泳ぎ回れるのだ。
しかし、それも探知を常用する魔法使いに、奇襲は意味をなさない。
もっとも、普通の魔法使いならば、分かったとしても避けることが出来ないのだが。
上方から、地中からと襲いかかるドレイクをあしらい、魔力を練り上げる。
膨大な魔力をただ吐き出すのではない。
精密に、緻密に操作し、最大効率で練り上げ解き放つ。
沼の三方には羽根矢。
ドレイクをあしらいながら、沼の外周に羽根矢を仕込み、大規模な魔法陣を作り上げたのだ。
「烈風系魔法・嵐風刃。」
第三領域に位階する魔法。
使用したのは、普段の2/3ほどの魔力。
そしてその効果は、普段の倍は大きい。
気づけば、クレイドレイクは、風の刃でずたずたに切り裂かれていた。
ふう、この程度では練習にもなりませんね。
ガチャガチャと、鎧を身につける。
普段の移動時には、流石に最低限の防具だけにして、鎧は外しているせいだ。
重さはもう慣れて苦にならないが、全身鎧だ。
こんなもの普段から着込んでいては、暑さで倒れてしまう。
実は、俺は悩んでいる。
俺は、このパーティーに相応しいのだろうか、と。
アロウは、高レベルの魔法剣士だ。
魔法は速射性に優れ、剣技も自分に並ぶほどだ。
リリィロッシュに至っては、大剣という武器すら被り、さらに高威力の殲滅魔法を扱う。
2人とも、魔法使いとしてでなく、戦士としても一流だ。
もちろん、自分も戦士として負ける気は無い。
だが、彼らに自分は必要なのだろうか。
それに、言葉にこそ出さないが、あの二人、心から信頼し合い、惹かれあっているのは目に見えている。
リリィロッシュは、魔族ということだから、長く生きているのだろうけど、見た目には、俺たちより少し上なだけだ。
ましてアロウは、前魔王だというから、精神的にも釣り合っているんだろう。
はぁ、俺は本当に邪魔なのではないだろうか。
俺が周りから無口だ、という評価を得ているのは知っている。
だが、それは誤りだ。
俺は、口下手で言葉が見つからないでいるだけなんだ。
頭の中ではこうして悩みもするし、うだうだうるさい程に喋っているのだ。
まぁ、こんな俺に付き合ってくれるのはアロウだけなんだがな。
そんなことを考えながら、鎧の装着が完了した。
昔に比べたら楽になったもんだ。
最近は、全身甲冑ではなく、右半身に装備が偏った、「半月の魔鎧」を愛用している。
単純に装備品が半分になったと言うのではない。
以前の甲冑は、下側から順に鎧を被りながら着付け、バンドで固定しなければならなかったが、この鎧は半身に集中しているので、腕から着通すだけで済むのだ。
右手の大剣を前にして半身に構える。
これで正面からは、重装備の鎧となるのだ。
では左半身は?
こちらは要所要所に防具あるものの、殆どむき身だ。
こちらの防御は、幅広の大剣、「万物喰らい」の出番だ。
フルイーターは、右手で縦横無尽に振り回し、万物を食い散らかすと同時に、身を守る盾にもなる。
攻守一体のこの戦い方を気に入っていたが、弱点があった。
この剣のような巨大武器の常として、間合いの内側に入られると、迎撃の手段がないのだ。
現に今、岩偽狼の群れを捌ききれなくなっている。
フルイーターでは、1度に数匹を吹き飛ばせるが、その重量故に、切り返しがどうしても遅くなる。
その瞬間に何匹か距離を詰められるのだ。
かつては、防御を鎧に任せて、左手の徒手空拳でカウンターを取っていた。
しかし、自身が強くなれば、相手をする敵も強くなる。
次第に、鎧では防ぎきれず、徒手では迎撃に限界がきていた。
「…さぁ、頼むぞ。相棒。」
迷宮で受け取った包みを開く。
双刃短槍・「蒼輝」。
巨大な矢を二本、拳で握り込んだと言えばわかりやすいだろうか。
小型の盾の付いた護拳の両側から刃の長い槍が付いているそれぞれの長さは40cm程。
全長1m程の双頭の短槍だ。
フルイーターを振るい、ラピスを構える。
次の瞬間、壮絶な破壊音。
目の前に大岩が降ってきたのだ。
「ラク様ぁ~、ご無事ですかぁ?」
無論、ご無事だ。
但し、今から戦おうとしていた魔物達は潰れ、こちらも岩に弾かれた小石がいくつか当たっているんだがな。
ラケインがため息混じりに振り返ると、質素な法衣を着た少女が駆けてくる。
反逆者の最後のメンバー。
4人目の仲間だ。
皆様お待ちかねの戦闘シーン連作です。
1度に四人倒せれば永遠に戦い続けられるぜ、とは、かの鬼の言葉でした(笑)
パーティ個別に三連戦の描写です。
ご意見あればお聞かせください。




