追憶の項・最終決戦前夜
第1話の前日、勇者パーティと魔王の一夜です。
お気に召したら嬉しいです。
■追憶の項・最終決戦前夜
パチッパチッ……
焚き火の火が爆ぜる。
戦士が新たに薪を焚べる。
魔王城の手前、魔の森と呼ばれる土地の奥深くにある野営地だ。
明日は、魔王城へと侵攻し、この戦いに終止符を打つ。
幼かったある日、王宮からの使いがやって来て、勇者だと言われた。
両親とも、幼なじみの少女とも引き離されたが、勇者の伝説はおとぎ話として聞いていたから、誇らしかった。
悪者を倒すんだ、と、大人の兵士以上の厳しい訓練を重ねた。
16歳となったその日に、国王から支度金を渡され、出立した。
師を魔物に殺された敵を討ち、戦士が仲間になった。
その才能故に仲間と馴染めずに孤立していた魔法使いが仲間になった。
教会で皆に愛されていた僧侶が、よりたくさんの人を守るために、武器をとり仲間になった。
灼熱の大地を抜け、
極寒の雪山を踏み分け、
絶えず地震に晒される岩山をよじ登り、
突風の襲う荒地を駆け抜けた。
ときに魔物の巣を解体し、
ときに毒沼に苦しみ、
ときに巨大魔物の巣食う海を渡り、
ときに国同士の諍いに巻き込まれ、
ときに人間に裏切られ、
ときに村人に感謝された。
いくつもの国を渡り、
幾十もの山を越え、
幾百もの村を救い、
ようやく、ここへたどり着いたのだ。
あれから3年。
三年もの間、ただ旅をしたのか、
たった三年で、偉業を成し遂げるのか。
全ては明日、決着が付く。
四人は、誰が決めたわけでなく、
一言も交わすことなく、お互いの瞳を見つめ返し、眠りについた。
「待っていろ。宿敵よ」
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パチッパチッ……
篝火の火が爆ぜる。
召使いが油台に油を継ぎ足す。
魔王城の奥深く、軍団長共と謁見する時に使う大広間だ。
明日には、神の代弁者共が魔王城へと侵攻し、王である自分を討たんと攻めてくるだろう。
150年ほど前に発生し、魔王として誕生した。
原種である魔王に親などないが、先代より知識のみ受け継ぎ、世界と同胞を守る、力ある魔王である自分が誇らしかった。
これまでの魔王の中でも上位にあたるほどの力を持っていたが、驕ることなく剣や魔法の厳しい訓練を続けた。
50年たったある日に、1000人の精鋭を相手に御前試合を行い、力を示して正式に魔王として君臨した。
剣を極める事にのみ執着した魔剣士が配下になった。
先代の魔王にも使えていた古豪が認められ配下となった。
魔王に次ぐ力をもった種族の王とは、雌雄を決して配下となった。
魔族としては珍しく争いを好まない性質を持つが、種の安寧のために武器をとった女王が配下となった。
灼熱の大地を治め、
極寒の雪山を踏み荒らし、
絶えず地震に晒される岩山を踏破し、
突風の襲う荒地に拠点を置いた。
ときに魔物を配し、
ときに毒沼を生み出し、
ときに巨大魔物の巣食う海を下し、
ときに国同士の諍いを先導し、
ときに人間を懐柔し、
ときに村人に呪われた。
いくつもの国を攻め落とし、
幾十もの山を守り、
幾百もの村を滅ぼしたが、
今、宿敵たる神の代弁者がやって来た。
勇者誕生の報が聞こえて3年。
三年もの間、ただ生きながらえたのか、
たった三年で、ここにたどり着くまでに力をつけたのか。
全ては明日、決着が付く。
魔王は、誰に呟くわけでもなく、
一言だけ発し、虚空を見つめると、眠りについた。
「やって来るがいい。宿敵よ」




