第十章)そして北へ 氷河の乙女②
今回1番苦労したのは、過去に作った技の名前とか種類でした。
何度設定とか技の名前をリストにしたんですけどね。なんか作り直したりなんやらで放置してる間にどっか行きました。
ラケインの技なんてどこに書いたのやら……と思ったら、8章(ある村の戦い)で書いてたか。
探すのに苦労しましたヽ(;▽;)ノ
▪️教会の闇⑤
まずは、一つ。
耐寒の術がなければ一息で体の芯から凍らされるような極冷風を爆炎魔法で制し、ジュデッカへ距離を詰める。
氷河の舞台は、暴風と冷気にさらされ、氷の柱は荒々しく尖り、鏡面のようだった広間はガリガリとささくれ、ジュデッカを取り囲む玉座もまた、先程までの神秘的な雰囲気から一転し、凶悪な様相へと変化している。
「ふふ、ではこれならどうですか? 風翼翔」
彼女のこの技は、単なる突風ではない。
ただの風にしろ、障害物に当たれば後方に余白地が生まれ、風が巻き込むことで多少は後方からの風というのも生まれる。
だが、この風翼翔の風は、魔力操作もされているのか、その巻き込む力が異常すぎる。
前面からだけではなく、横も後ろも、上下からでさえも吹き荒れ、吹き飛ばして楽になるなどということをさせてくれない、言わば風による圧縮機のようなものだ。
さらに言えば、この暴風の前には、魔法的にはともかく、あらゆる物が物理的に無効化される。
火も、水も、岩も、風も、あらゆるものが取り込まれ跳ね返されてしまう。
ただし、単純に突っ込めば、の話だ。
「青き蒼き碧き悠久なる水の精霊よ、具現せよ、水氷系魔法・氷壁!!」
リリィロッシュの詠唱により、眼前に氷の塊が顕現する。
見てから反応したのでは間に合わない。
事前に練り上げていた魔法を開封する。
使うのは、水氷系魔法の中でも最も単純なものの一つ、魔壁の術。
ただし、それぞれがSランクに匹敵する僕達の中でも最も魔力量に長けたリリィロッシュが、十全に魔力を練り込み、さらに詠唱まで重ねた、完璧な魔壁だ。
「そんなものでは、私の風は……。あら?」
ジュデッカが不思議に思うのも無理はない。
それほどまでに完璧に作られた魔壁とはいえ、聖獣とまで呼ばれた彼女の魔力をまとい、万力のように締め上げる致死の暴風の前には、薄氷と何ら変わりないはずなのだ。
だが、それも使いようだ。
風に対し真正面から阻むように、地に対し垂直にそびえるようにあったのならば、すぐさまにもこの暴風の前にへし折られていただろう。
だが、今回用意したのは、風を受け流すよう、地から斜め後方へ倒れ込むようにした、錐の形状にある。
いかに聖獣の暴風といえど、遮らず受け流す壁には、霧の中の幻影となってしまう。
「リリィロッシュ! 押せぇ!」
「はい!」
さらに、この傾斜した氷塊に魔力を注ぎ込み前進させる。
魔壁が前に膨らめば、後方を解放し自分たちが進む。
言葉にすれば単純だが、これを、Sランクである僕達が駆ける速度で行えるのは、リリィロッシュをおいて他にはいまい。
「ふふ。人が、いえこれほどの魔力、高位魔族のようですね。人と魔族のパーティとは面白い。」
ジュデッカがくすくすと手を口元に当て可憐に笑う。
その様子にはまだまだ余裕が見て取れる。
そうして、今度は左右両方の翼が大きく開かれた。
「まだこれくらいのことで死んだりしないでくださいね? 死告翼翔」
単純な合わせ技、所ではない。
圧殺の突風と凍殺の吹雪、さらに氷柱の如き氷弾が混じり、風というよりもまるで大口を開けた怪物のように、触れた瞬間から対象を破砕するのだ。
それは、リリィロッシュの氷壁とて例外ではない。
受け流す間もなく、ガリガリと削り飛ばされていく。
「ラク様! 行きます!」
「がはぁぁっ。……ぬん!破邪合技・大斬撃、一閃」
大きく特殊な呼吸をしたかと思うと、ラケインの闘気が激しく燃え盛る。
斬撃そのものを闘気によって巨大化させる操気闘術の奥義、大斬撃。
中でも“一閃”は、巨大となる斬撃のエネルギーを一点に集約させ、まさに閃光の如くして敵を穿つ、最高の貫通力を持つ攻撃だ。
さらに、メイシャによる抗魔力の加護を受け、その斬撃は聖なる光によって輝きを放つ。
ラケインの斬撃は、リリィロッシュの氷壁を貫き、致死の吹雪すら穿ち、ジュデッカへと届く。
「っ!……本当に驚かされますね。まさか人の身で、僅かにでも私に手傷をおわせるなんて」
そういうジュデッカの掌からは、うっすらと血がにじむ。
必殺のはずの斬撃。
無論、ジュデッカがそれを甘んじて受けるはずもなく、能力ではない、防御の魔法でもってそれを防いだ。
だが、ラケインの大斬撃は、彼女の予想を上回り僅かばかりでもダメージを与えることができたのだ。
「こっちはまあまあ疲労困憊。それに対してあっちは、ほんとにかすり傷とか割に合わないよね。……それでも、傷は負わせた。決して届かない敵じゃないってことだ」
例え千分の一でもダメージが通ったなら、千回繰り返せば相手を倒せるのは道理だ。
そして、戦いの中でも成長することが出来れば、その回数はさらに減る。
そしてそれは、真実でもある。
かつて魔王が、勇者に味合わされたことであるのだ。
「本当に、あなた達は……。いいでしょう。ならば、私が悲恋姫たる所以、確かめてみなさい!」
そう言ってジュデッカは、ようやく、そして初めて僕達の目を敵意を持って見つめ返し、戦闘の意志を見せたのだ。
「風翼翔!」
ジュデッカが右翼を振るう。
確かにこの技は厄介だ。
だが、一度破った以上、この技はもはや通過点に過ぎない。
リリィロッシュの氷壁で風を逸らす。
さらにその間隙を突き、氷弾を放つ。
しかし、今回はジュデッカも更なる反撃をする。
その手に魔力を込め、無詠唱ながら氷棘の魔法を放ち、氷弾を撃ち落とす。
だが、こちらのメンバーは、僕とリリィロッシュだけでは無い。
さらに左右からラケインとメイシャが追撃する。
ラケインの星練剣が胴をなぎ、メイシャが銀賢星を頭上から大きく振りかぶる。
「氷雪系魔法・氷爆」
ジュデッカを中心に爆発が起きる。
正確には、氷結の魔力を含む氷の粒を周囲に爆散させたのだが、その魔法でこちらの攻撃は全て止められてしまう。
だが、こちらとてそれくらいは想定内。
四人とも、さらに追撃を仕掛ける。
「守護系魔法・炎霊剣!」
「火炎系魔法・火炎六槍!」
「闘気裂破!」
「炎熱系魔法・赤煌牙ァ!」
氷爆の技後硬直。
その僅かな隙に、完璧なタイミングでの同時攻撃。
とった。
そう思った瞬間だった。
「葬送曲」




