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追憶の項 笑紅と餓狼

アロウの両親の過去回です。

お母堂、昔は悪かったんですよ(笑)


■追憶の項・笑紅


 法に守られないスラム内部での自警団。

そんな大仰なもんじゃないが、行く場に溢れたガキどもの寄せ集め。

私らは、泣く子も黙る「双頭の紅緑オッドアイ」。

そしてこの私が、頭を張ってるリスキィこと通称:アネゴ。

横で偉そうに腕組んでるのは、参謀のクールだ。

もちろん2人とも本名じゃない。

というか、そんなもん知らねぇ。

気づいた時にゃ貧民街で一人でいたんだ。

そして、貧民街の片隅でぶつかり、

貧民街の片隅で肩を寄せ合い

貧民街の片隅を住処とした、姉妹だ。


「よーしお前らー、今日の戦果ぁ」

「ありませーん」

「ありませーん」

「無理っすー」

「3番外でガキが死んでましたー」

「そりゃいつもの事だろ?」

「ギャハハハハハっ!!」

 クールが首を横に振りつつあきれる。

「……今度はアネゴに言わせるぞ? おまえら、今日のアガリは?」

「ヒエッ!? 一番隊稼ぎなし! 申し訳ありません!」

「げっ!? 二番隊稼ぎなし! 一応未開封の酒瓶見つけました」

「さ、三番隊、商人に因縁つけましたが、銀貨1枚手渡されて動揺してるうちに逃げられました!」

「銀貨……?」

「しかし、スンマセン! 15ガウ鋼貨でした!」

「……はぁ!?」

「四番隊、ガキの死体見つけました。裕福じゃなさそうだったし、かわいそうだったから、埋葬しました。」

「お、おぅ……良かった……な?」

さすがのクールも、思わぬ善行に苦笑しつつ、締めを振ってくる。

「じゃあ、最後にアネゴから一言」


 ジャリっ、それまで、寝ながら酒を飲んでいた、赤い長身が、蠢き出す。

「おーし、きけよー。四番のクドロ。遺品はどうした?」

「い、一緒に埋めたんだ」

「堀り返せ。死人にものは必要ねえよ。その場所の正確な地図と一緒に明日持ってこい。三番のドライ、とりあえず、15ガウの上がりだ。まあ、いらん。とっとけ。二番デュー、その酒、ここに持ってこい。一番ユノ、上がりのないのはお前だけだ」

「……すんません」

「私もな、細かい性分じゃねぇし、お前らは家族だと思ってる。だか、それじゃ他のやつに示しがつかねぇ、分かるな? お前らが今日飯を食いたいなら、あと一時間のうちに、必ず上がりを持ってこい。額は問わねぇ。分かったらいけ!」

ユノと呼ばれた小汚いのが走り去るのを見送って、

「クール、ちょっと見てきてくれるか」

その言わんとするところを完璧に汲み取った妹は、ユノを尾行した。


「くっそ、姉御のやつ威張りくさりやがって! 野郎ども集まりやがれ!」

「隊長、どう出やした? 今日はついていませんでしたが」

「どうもこうもねー! あと一時間で上がり作ってこいと抜かしやがった! 糞が! てめぇら! 有り金全部出しな!」

「やっ、隊長、俺らの金まで、うゲェ」

ユノに劣らず小汚い親父は吹き飛んでいく。

「オメェらも、痛い目見たくなけりゃ、有り金だしな! それから、そこのアホから金もってこい!!」


 それから1時間後、

「へっへっ、アネゴ。お待たせしましたぜ!」

殆どが小銭だが、6000ガウはありそうだ。

「ほう、一時間で6000、よく集めたものだな?これは?」

「へい、投げ込みの泉に繋がる排水管に穴を開ける方法を思いつきやして……」

「ほうほう、それにしては濡れてないな。泉と言えば清らかそうなものだがどうも酒と小便の匂いの方がキツイくらいだが」

こうなることは、予想はついていた。

だが、それでも一応は部下だ。

最後のチャンスは与えてやった。

「……はぁ。なぁ、ユノ。私は、もしお前が上がりが見つからなかったとしても、己の小銭から10ガウでも放り込んでくれればそれを受け取り責めなかったろう」

「はぁ!?」

「ちなみにな、あの後クールに尾行させていたんだよ。おまえは、家族にやっちゃいけないことをした。家族を傷つけ、家族を騙した。お前が預かったのはホントは20000ガウを超えていたはずだ」

私は一度目を伏せ、意識を変える。

「さて、落とし前はつけねえもとな」

今から私は、アネゴじゃない。

スラムの悪魔、“笑紅ラフスカー”だ。

そして、紅の髪の悪魔が頬が天までさけるほどの高笑いを見せる。



 あぁ、なんだこの生き物は?

こんなモノが、俺らの大将だったってのか!?

ユノは、己のしでかしたことを今さらながら後悔する。

目の前にいるのは化物だ。

姿は間違いなく人間、しかし、口元は吊りあがり、二つにまとめていた髪は吹き荒れる魔力でユルユルと逆立つ。

 ふと、ここで至極どうでもいいことに気づく。

そう言えば、紅、ならスカーレット、だよな?

そう思って、もういちどアネゴの顔を見る。

恐怖からそう見えるだけなのだろうが、目の前の人物は、もはや人には見えなかった。

哄笑は、耳元まで達し、空間を弧に切り裂いていく。

ユノは気付く。

そうか、“笑紅ラフスカー”じゃない、“笑傷ラフスカー”なのだ。


「あ、気がついちゃった? なんか他のみんなもここに来ると気づき始めるんだよな。別に何がどうってこともないようだけど。そんじゃ、いこかぁぉぁ!」

 パチンと右手を鳴らした瞬間、ユノの後ろには炎で囲まれた丸い闘技場が姿を表した。

すでにクールが準備を整えている。

それは、ユノ自身、観覧するほうとしては何度も目にしてきた、アネゴの処刑領域だった。

「ひ、ひぃぁぁぇぇ!?」

「いまさら許されるとは思ってねーだろ。うちのやり方で惨たらしく決めてやるからさ」

とてもいい笑顔で、アネゴは、ユノを片手だけで処刑場へ投げ入れた。


──レディスあーんジェントルメン!

ようこそお越しいただきました。

今宵の出し物は、わが双頭の紅緑名物! 反逆者の医学口座~♪

ナレーションはおなじみ、クールが、若干無理をしてお送りしております──

 周囲から喝采が起こる。

この催し物は、反逆者が出た際に速やかに執り行われる通年行事。

金も学もない最下層の彼らには、たとえ骨折したって、それをどうすればいいのか何て、考えはしない。

それをこの場で実践して教育するのだ。

 もちろん、傷を付けるのも、治すのも、癒すのも、アネゴ。

題材は反逆者だ。

麻酔なんかないけど。

これは、反逆者をいたぶる残虐ショーなんかじゃない。

このスラム街の環境を少しでも良くしたいという、アネゴの優しさなのだ。

 私と姉御は……、まあ、どっかで適当に生まれて、適当に出会った。

この街で群れてる奴らなんて大概はそうさ。

でも、アネゴは普通じゃなかった。

怪力と異常な強さの治癒魔法を生まれ持った天才だったらしい。

不幸だったのは、治癒魔法を認めない、医者の家に生まれてしまったこと。

アネゴは4歳の頃には、ここにいた。

治癒魔法は危険、それを知っていたため、残る怪力の方で徒党をくむ。

しかし、もともと、お医者様の家に生まれたのだ。

かなりぶっ飛んだ人格はしていても、以下の三つの不文律を決めた。

一つ、仲間を騙さない

一つ、仲間を傷つけない

一つ、困ってるやつからは借りない

 姉御自身、今日は飲み屋で酩酊しているボンボンから10万ガウを借りて・・・きている。

もちろん返す気などない。

総勢28名の家族は、今日もアネゴから炊き出しという名の飯をもらって生きている。


ぎゃーっ!

 あ、本日何度目の悲鳴だっけ?もう数えんのめんどくさいや。

さて?今度のメニューは何でしょう?

はい、メンバー達に、人体の不思議を終えちゃいマース♪

お骨とお骨を繋ぐのは関節、という場所です。

ここね「ぎゃーっ!」。

腕みたいにほぼ全域に稼働するやつもあるけど、殆どの関節は、一方向にしか曲げられないの。

これを応用するとね、いっついりゅーじょーん♪

こ、これは、なんということでしょう?

アネゴの怪力と関節破壊の奇跡のコラボレーション!

中指から、指先は上へ、掌はむしり割られ、手首は回転して外され、前腕は細い方の骨だけをおり、肘は逆へ、上腕はさすがに無理で、肩はこれもねじり切る。

アネゴが前に歩いただけのようにしか見えなかったのに、左腕がなくなってしまったー!?

 とまぁ、アネゴとはこんな形でずっとやって来ている。

とはいえ、最近のアネゴには、気になる人ができたみたいだ。

こんな私らだけど、冒険者登録はしていて、一応普通の仕事もやっている。

というか、そのお金でこいつら食わせてる。


「まてー! お前ら! またこんなことやってんのか!」

あ、だめ、今止めるとあの実験台が死んじゃう!

「そこまで行くから待ってろ! ラフ・スカーっ!!」

どっからあんな所に出る道があったんだろう。

瓦礫の上の方から波に乗るようにヒゲ……だったか?のような方が駆け下りてくる。

「なんだとー! ヒゲートの癖にー♪ 『ラブっスか?』とは何事だァー!!」

ヒゲ……、あ、ハインゲートとか言ったか。

「ならば言おう! ハインゲートォ♪ 私も君が大好きだァ~♪」

 瞬間、魔力が吹き荒れる。

おそらく魔法じゃない。

奇跡。に類する代物。

回復の方向性を持った魔力が感情の爆発に誘爆されたのだろう。

哀れな実験台はもとより、会場を見に来ていた、けが人や病人。

そして恐らくはクエスト帰りだったのだろうハインゲート。

皆が傷一つなく回復する。

 そのあまりの奇跡と、その後に起こった愛の接吻に祝福の拍手が巻き起こる。


クールは、やれやれと頭を振る。

「ハインゲート殿。アネゴ、いや、姉をよろしく頼みます。あとは私がこの双頭の紅緑を守るよ」

そう言って、近くに来るだろう姉との別れを思い、姉の幸せを祝福したのだ。

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