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第九章)最後の魔王 決着

▪️魔王軍の襲来⑳


 リリィロッシュと(オーガ)の軍団との戦いに決着が訪れた頃、もう一つ、戦いが終わろうとしていた。


「死ねい! 暗黒系魔法(ダークネス)怨嗟の嘆き(ラメントカース)っ!」

 上空に浮かぶ巨大な暗黒球で目を引き、足元に病魔の呪いを宿した闇を這わせる。

そして、身動きの取れない相手に黒球を破裂させる。

ほんの一雫でさえ意識を奪い、二雫で命を奪う致死の滝を浴びせかけるのだ。


 メイダルゼーン最大の魔法。

だが、それを目にし、勝利を確信する。


「……はぁ。これを待っていたよ」

 そして、それ(・・)が再び姿を現す。


「責めよ四天、嘆け呪殺の乙女! 再臨せよ、嬌声に抱かれし虚無(ラァストゼロ)!」

 突如、闇に覆われた地が裂ける。

そして、裂け目から吹き出す黒き極光。

引き裂かれた闇から姿を表したのは、漆黒の女の顔。


「ば、馬鹿な! 虚無(ゼロ)だと!? 病魔の呪詛を受け、そんなモノ(・・)、喚べるわけが無い!」

 狼狽えるメイダルゼーンをよそに、色欲の乙女(ラァスト)が放つ光線が、致死の滝を飲み込む。


「当たり前だろ? 派手な黒球に意識を奪わせ、足元を病魔の闇で固めて、行動権を封じた上で致死の滝をふらす。そんなの分かっていれば、足を防御魔法(プロテクト)でかばうに決まってるさ」

 そう。

メイダルゼーンが勝利の一手に繰り出すのは、この技だと確信していた。

だから、足元を常に防御魔法(プロテクトスペル)で守っていたのだ。


「知るはずがない! この技は、今まで誰にも見せたことがない。そして、魔族でもこの技を使えるのは、俺しかいないはずだ。それが何故! 初見でこの技を見破れるわけが無い!」

 メイダルゼーンが叫ぶ。

使い手がいない初見殺しの魔法。

確かに、この怨嗟の嘆き(ラメントカース)は、強力な魔法だが、なにも最強の魔法という訳では無い。

だが、相手の死角を付き罠にはめるその効果は、知らない者には、絶対の必殺技となる。


「何もおかしくなんてないさ。それに、この魔法を使うのがお前しかいないって? それは正確じゃないだろ? こいつは、効果が回りくどいって幹部に不評だったから広めなかったが、お前だけがこの術を覚えた。確かに、騙し討ちなんてお前が好きそうな魔法だよ」

「ど、どうして、どうして貴様が、人間ごときがそれを……。ま、まさか、まさか、まさかまさかまさか、そんなはずがぁぁぁ!?」

 狼狽えるメイダルゼーンを見下し、それを告げる。


「なぜこの魔法を知ってるかって? だって……、なぜならば、()が発明した魔法だ。知らぬはずがあるまい?」

「ま、『魔王』様ぁぁぁ!!!」

「ギィィアァァァァァァっ!」

 数瞬遅れ空間を引き裂くほどの叫びが響き渡る。

色欲の乙女(ラァスト)の叫びとともに、飲み込まれた致死の滝が、津波のようにメイダルゼーンへと押し寄せた。




「ぐげ、げはぁぁっ!」

 嬌声に抱かれし虚無(ラァストゼロ)によって反射された怨嗟の嘆き(ラメントカース)がメイダルゼーンを飲み込む。

しかし、致死の呪詛を文字通り滝のように浴び、それでもなおメイダルゼーンは死ぬことを許されない。

腐っても“(ロード)”級の最上位魔族。

暗黒系魔法(ダークネススペル)の呪詛といえど、即死させてもらえるほど、魔力抵抗が弱くないのだ。


「あ、熱い、寒い、痛い、苦しいぃぃ」

 しかし、この場合はそれが災いする。

明らかに致死のダメージを受けても、自らの魔力がそれに抵抗する。

そして僅かながらに回復した途端に呪いが上書きされるのだ。

メイダルゼーンにもはや抵抗など考えるだけの余裕はない。

思考の全てを膨大な苦しみによってのみ支配されている。

にもかかわらず、死ぬことを許されないのだ。


「ぐ、ぐひぃぃ。お、(オーガ)共よ! 俺を助けろ! ぐ、阿修羅(グレータデーモン)よ、癒しを! 癒しをぉぉ!」

 あまりの苦しみに、召喚した下僕達を呼ぶ。

自らに比する程の高位魔族をこの場に召喚できたのは僥倖だった。

確かに彼らならば、完全治癒とは行かなくとも、その呪いを軽減させることが出来る。

今でさえ、自身の治癒力とその呪いと拮抗しているのだ。

多少なりとも呪いが軽くなれば、復活することも容易い。


 しかし、先程まで(オーガ)の軍勢がいた方に視線を送り、メイダルゼーンはその目を疑う。

奇しくもまさにその瞬間、リリィロッシュが阿修羅(グレータデーモン)の魔法をかき消し、斬り伏せたところだった。


「なぁぁっ!? 阿修羅(グレータデーモン)が、俺の(オーガ)の軍団がぁぁ!?」

 メイダルゼーンが絶叫する。

無理もない。

メイダルゼーンは、これまでも危険が少ない戦場のみを選んできた。

今回も、激戦地である西国(エティウ)南国(ノスマルク)を避け、わざわざまだ戦火の遠い東国(キュメール)までやってきたのだ。

自身が敗れたのには、まだ納得もしよう。

理屈は分からなくとも、相手は元魔王なのだ。

だが、絶対に負けぬはずの軍団すら名も知らぬ人間に敗れてしまったのだ。


「ばかな、ばがな、ばがな゛ぁぁっ! はっ、

オグセ! ブルーガ!」

 メイダルゼーンが、もはや藁をも掴む気持ちで、呼び寄せていた牛巨神(ベヒーモス)の兄弟の元へと駆ける。


「待て! 行かすか!」

「ひぃぃ。百鬼夜行(デモンズレギオン)!」

 逃げるメイダルゼーンは、(オーガ)の召喚を撒き散らす。

もはや固有能力(オリジンスキル)など制御できる訳もなく、録に身体を構築できてもいない小鬼(ゴブリン)が湧いてでる。

しかし、それでも足止めには充分だ。


「くそっ、赤扇(レッドクリフ)! ラケイン! メイシャ!」

 爆炎の魔法で吹き飛ばし、メイダルゼーンを追う。

村の反対側で牛巨神(ベヒーモス)と死闘を繰り広げているはずの二人の名を叫び、必死に駆ける。


「おおぉぉぉぉぉっっ!!」

 そこで見たのは、牛巨神(ベヒーモス)の兄、《蒼炎》のオグゼが放つ必殺の一撃を、ラケインが押し返している姿だった。

オグゼの持つ巨斧(クジャッタ)は、強力だ。

豪炎を纏ったあらゆるものを打ち砕く一撃。

戦士でなければ斧を防げず、魔法使いでなければ炎を打ち消せない。

その双方を兼ね備えなければ、オグゼの必殺技は、耐え切ることが出来ないのだ。


 それをラケインは、真正面から受け止めている。

義父であるレイドロスから受け継いだ、剣技・大斬撃だ。

体内で練り上げた膨大な闘気。

それを剣に宿すことで、巨大な刃と化す。

遠く離れた敵を斬ることも、硬い岩の塊を砕くこともできる無敵の剣。

そして今は、オグゼの豪炎を弾こうとしている。

オグゼの魔力、そしてラケインの闘気がぶつかり合う。

既に技量は互角。

残るは、双方の気力の勝負であった。


「いかん、ダメだダメだダメだぁぁっ!」

 しかし、それを許せるメイダルゼーンではなかった。

既に二度の敗北。

残る唯一の切り札である、牛巨神(ベヒーモス)兄弟までも失う訳にはいかない。

呪詛で焼ける思考の中、必死に練り上げた魔弾をラケインに向けて放つ。

ラケインも、そしてオグゼも、それに気づくだけの余裕はなかった。


「やらせるかぁぁっ!」

 間に割って入ったのは、《朱風》のブルーガ。

兄とラケインの衝突からメイシャを守っていたが、いち早くメイダルゼーンの凶行に気付き、身を張って魔弾を受け止めたのだ。

武人として尊敬する兄と、その兄と互角に撃ち合うラケインとの戦いに、些末な横槍を入れさせる訳には行かなかったのだ。

そして、


「邪魔を……」

「するなぁぁっ!」

 高潔な武人である二人が、それを許すはずもなかった。

なんの合図もない。

無論、打ち合わせていたはずもない。

それでも、二匹の獣達が考えたことは同じだった。

オグゼの煌焰(ヒノ)神殺破(カグヅチ)

ラケインの大斬撃。

二つが衝突する力場を、邪魔者へと打ち出したのだ。


「ハァァァァッ!?」

 メイダルゼーンは、力の奔流に飲まれ、その姿を一粒たりとも残すことは無かった。

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