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第九章)最後の魔王 魔界の魔物

▪️魔王軍の襲来⑤


 村へ向け疾駆する。

村の様子を見れば、その惨状は一目瞭然だ。

田畑は荒らされ、家も焼かれ、家畜もいくらか殺されている。

最初に抵抗しただろう若い男衆は無残に殺され、残った村人は散々にいたぶられ、見るに堪えない状態になっている。


 それにしても、この村の規模にしては魔物の数が多い。

百人前後だろう人口の村に対して、この村の中だけでも数十、魔力感知の枠を広げてみれば、近郊にもいくつかの部隊が展開している。

恐らくは、すぐ近くの都市への前線基地として利用するつもりだったのだろう。


 やはり、思った通りだ。

この部隊の長が誰なのかは分からないが、オグゼ達(あの二人)の使い方をよく知っている。


 もとより独立した遊撃兵であることとは別に、あの二人に命令できるものなどいない。

四天王であろうと、たとえ魔王であろうと、あの二人は気の向くままに暴れるし、気が向かなければ戦わない。

一応、その場所を攻めろと言われればそこまでは行くのだが、先のラケインとの戦いもそうだが、作戦もなにも考慮せず、勝手に戦いを放棄してしまうのだ。


 それでも、彼らの力は捨てがたい。

ならばどうするか。

その答えのひとつがこれだ。

まずは大雑把に目標を蹴散らす。

小さな村ではあるが、備えの柵や、物見台。

落とし穴や塹壕の罠が用意されている。

それらを破壊し、蹴散らす。

待ち受ける防壁に対し、楔を打つように突破口を開かせるのだ。

彼らがひとたび暴れれば、被害はそれだけで甚大。

その後に正規の部隊が悠々と侵略する。


 自身の軍は安全に、使い捨ての二人はたとえ傷を負ったとしても、自分にはなんの損害もない。

使い捨てという考え方は好まないが、軍として見れば有効な運用ではある。


 だが、それだけならば構わなかった。

ラケインを止めることこそしないが、自分自身でこの村をどうこうしようとは、しなかっただろう。


 人間と魔族の確執は深い。

たとえ人間の王が、たとえ魔王が戦いをやめろと言ったところで止まるようなものでは無い。

人間からすれば魔族は侵略者であり、魔族からすれば生き残るための唯一の道である。

そして何より、もう永い間、戦いすぎたのだから。


 だが、これは違う。

一方的な蹂躙だけならば目をつぶろう。

戦争において、圧倒的な戦力による自軍の損害がない状態など、まさに求めるところだ。

だが、遺恨も憎しみもなく、ただ愉悦と快楽のために陵辱することなど、魔族であろうと人間であろうと許されるべきではない。


 眼前には、村の入口にたむろする数匹の小鬼(ゴブリン)

装備を見る限り、魔界(魔族の大陸)に生息するタイプだろう。

奴らは、こちらで見かける小鬼(ゴブリン)とは、ひと味違う。

魔界の気候にも対応した強化種であり、たった一匹でも、並の兵士では手こずるはずだ。


 この小鬼(ゴブリン)だけではない。

同じ種族の魔族・魔獣であっても、こちらで見かけるものと魔界に生息するものでは、まるで別物と言っていい開きがある。

人間のランク付けで言えば1ランク近くは上位として考えなければならない。


 奴らの足元に横たわる村人達は、その事を知らなかったのだろう。

たかが小鬼(ゴブリン)数匹のことだ。

普通なら同数の村人で十分に対応できる。

だが、魔界の魔物が現れている以上、その普通が通用しない。

魔界の小鬼(ゴブリン)の危険度はD。

奴らの本当のランクは、Eランク(危険級)ではなくDランク(部隊級)なのだ。


 訓練された兵士数人が連携して対応するレベル。

それが五匹。

小さな農村ではそれだけでも過剰戦力となる。

事実、奴らに傷らしい傷はついていない。

村人達は、ほぼ無抵抗のまま殺されているという事だ。


 ギリッ。

奥歯を噛み締める。

人間にも魔族にも味方しない。

そう決めたことと、感情は別のことだ。

小鬼(ゴブリン)達は、まだこちらに気づいていない。

かつては、人の頭部だったものを蹴って遊んでいる。


爆炎系魔法(ブラスト)赤扇(レッドクリフ)っ!」

 駆けながら魔法を放つ。

赤扇(レッドクリフ)は、放射状に爆風と豪炎を放つ魔法だ。

加減次第で火力も効果範囲も自在に調節が効くため、初撃で敵を薙ぎ払うには最適で、得意技にしている。


「!?」

 だが、内なる魔力の高まりに思わず躊躇する。

いつも通りに赤扇(レッドクリフ)を放つ。

それだけなのに、何かがおかしい。

瞬間、本能的に放出する魔力の量を抑える。

だが、


 ごぉっ。

あまりの高温に、小鬼(ゴブリン)達は、炎の当たらなかった足元だけを残し、チリとなって燃え尽きる。


 思わず自分の手を見る。

正しくは、魔力の放出点である掌を介し、自身の魔力を確認する。

なんとも間抜けな話だ。

ここ数日、謎の高熱に浮かされてリリィロッシュとの穏やかな暮らしにすっかり緩みきっていたらしい。

自分自身のことなのに、全く気づいていなかった。


─ 二、三日続く微熱と魔力の増加。それが合図よ─


 あの日、フラウはそう言っていた。

二、三日どころか十日近く伏せっていたが、恐らくはそう(・・)なのだろう。


 魔人化。

人の姿をして、人より上位にある存在。

聖人、仙人、到達者。

様々な呼び方こそあるが、要するに、人間という物質生命からの脱却。

魔族や龍族などと同じ、精神生命への進化。

人でも魔族でもないもの。

いいだろう。

むしろ今の自分にちょうどいい。


 今の豪炎で気づいたのだろう。

数匹の魔族がこちらへやってくる。


「魔人となった力を慣らすにはいい機会だ。……皆諸共に消えろ!」

 魔力を練り上げ、放つ。

救世の英雄となるつもりなどさらさらにない。

今はただ、この外道達を(ほふ)るのみだ。

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