第九章)最後の魔王 東の混乱
─時は満ちた
役者は出揃い細工は流々
我、告げる
邪魔者よ、滅びよ─
▪️破滅の序章①
その一報は、瞬く間に全世界へともたらされた。
四大王国として、そしてその中でも最も歴史の長い国として知られる東国の雄、エウル王国が墜ち、追放された王族が新しい国を起こした。
その名は、キュメール共同国。
全ての加盟国が同等の権利を有し、盟主は国ではなく個人であり、さらに盟主自体にはなんの権力もないのだという。
そんな形のない指導者など、これまでこの世には存在しえなかった。
圧倒的な強者が弱者を束ねることでこそ、この世界はまとまってきたのだ。
それは、西のエティウ帝国しかり、南のノスマルク王国しかり、北のコール聖教国にしても、クルス教という力でもってその地を治めているのだ。
当然、混乱は多い。
それまでエウル王国に冷遇されてきた小国が、これ幸いと強引な手法で勢力を強めようとしている。
さらに、軍を追われた旧エウル軍の将兵らが盗賊や興国という名の反乱を起こす。
だが、それを収めたのは、この混乱の原因ともなった、“魔帝”を始めとする高位冒険者達だった。
彼らは、キュメール共同国総議長リヴェイアの依頼を受け、治安維持の為に奔走した。
役割としては、旧エウル軍と同様、各地の治安維持部隊であるが、その性質は大きく異なる。
一番重要なのは、彼らが国に所属する軍ではなく、ギルドに所属する冒険者であるということだ。
旧エウル軍は、その権力を嵩に着て横暴を繰り返した。
だが、冒険者はあくまで依頼を受けた代理人に過ぎない。
彼らの無法はギルドへと伝わる。
そして、ギルドがその対応を怠れば、その他のギルドからの報復に晒され、肝心のキュメールからの依頼も受けられなくなる。
これまでのように、権力にものを言わせた悪行は、なんの意味もなさなくなったのだ。
同様に、キュメール共同国内部の整備も進んでいる。
形の上では、旧ノガルド連合国の領土をそのまま引き継ぎ、各地方、各所属国へと指示・通達を伝える、連合型の国家である。
すなわち、名前が変わっただけで、システムとしてはこれまでのエウル王国となんら変わりがない。
だが、その内実は大きく異なる。
まず、盟主国であるエウルの王制の解体。
つまり、総議長であるリヴェイアを頂点とするが、総議長自身にはなんの権力も領地すらも存在しないということになる。
また、任期についてはまだ未定ではあるが、基本的に一代制、血族による踏襲を認めないことを明言しており、総議長の独裁を封じている。
そして、領土の放棄。
キュメール共同国自体は、領土を持たない。
旧エウル王国も、立地や財政などの観点から五つの地域に編成され、それぞれを独立した自治区として見なし、旧エウル王国のような優遇を禁じている。
便宜上、旧エウル王城を拠点に構えているが、王都ドルアイもドルアイ自治区へと名前を変え、キュメール共同国とは別の自治組織の下で運営されている。
全ての地方・国は、独立した自治組織として、互いに競い合い、協力し、交流を深めている。
そして、一年の任期を基本として、各国から代表者を選出。
キュメール共同国議会として、その統制を図るのだ。
そこでは、誰もが平等であり、誰もが一人だった。
地方の小国であるドルホ王国の代表も、旧エウル王国のひとつであったイーストアイズ自治区の代表も、先の戦の勝者であるドレーシュ王国の代表も、みな一様に一人なのである。
力の強弱はあれ、権の優劣はない。
総議長であるリヴェイアは、議会の最初にこう語る。
「ぼくは、旧ノガルドの地をキュメールと名付けたつもりは無い。この大地、この世界に生きる全ての民がキュメールの子だ。東国、西国、南国、北国。全ての人々の礎となることが、この共同国の目的であり、スタート地点だと思って欲しい」
ある冒険者によって名付けられたこの名が、この大地全てを指す言葉だと知る者はいない。
そもそもこの世界に、この大地以外に陸が、世界があると知らないのだから。
それでも、彼らは願ったのだ。
この大地に生きる全てのものに幸あれ、と。
だが、その願いは、早々に打ち砕かれることとなる。
西国勢力圏内の小国、エニウス。
その日、エニウスの地が、消滅した。




