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第八章)混迷の世界へ 荒廃

▪️キュメール共同国⑪


「そんな馬鹿な! ガラージ様が、俺を、この俺を捨て駒にするはずが!」

 ムルムが叫ぶ。

後ろにいると思っていた十万の大軍。

それが当てにならないと分かったのだ。

だが、


「ちょっと待ってよ。ガラージ王子は、お前を捨て駒にするつもりなんかないさ。普通に考えて、こっちに勝ち目はない戦いだった。負けたのは(ひとえ)にお前のせいだ」

「くっ」

 そもそもがムルム自身、勝てると思っていたからこそ単独で進撃してきたはずだ。

そしてそれは、ムルム自身が一番よくわかっている。


「それに、ガラージ王子との盟約は、僕しか知らないし、この戦いに僕は参加していない。彼らは自力でお前達に勝ったんだよ」

 正確には、偽魔砲(デミカノン)の作り方は教えたし、初撃はその指揮もとった。

また、投石を破壊した風の矢は、僕の指示だったしその守護(エンチャント)も僕がしたから、参加していないとは言い難い。

だが、実際に僕が魔法を奮って戦っていないのだから、嘘ではないだろう。


「そ、そんな……馬鹿な……」

 ムルムは、ガックリとうなだれ、茫然自失としている。

だが、こいつに対して、そんな感傷に付き合ってやる義理などない。


「まあそんな訳でお前達は負けたんだけど、そんなことはどうでもいいんだ」

「どうでもいい、だと?」

 実際、このドレーシュの戦いがどういう結果になろうと、あまり僕達に関係はない。

立場や感傷はあるが、ドレーシュが滅ぼされたところで僕達にデメリットはない。

そもそもが、形上の主である国王からは、もういいから帰ってこいと言われている。


 それに、エウル軍やガラージにしても、決して敵対したい訳でもない。

国王に招集され、リヴェイアと知り合ったことがなければ、ガラージが王になろうと構わなかった。

王として認められない、なんて言ったが、あれは仕えるものとしての言葉だ。

このまま順当に行けば、遠からずガラージは王位についたはずだし、貴族達には息苦しいかもしれないが、一般の民レベルにはいい治世となっただろう。

だから、この戦の趨勢にも、ドレーシュの命運も、リヴェイアの王座も、どうだっていいのだ。

そうなればいいし、ならなくても仕方がない。

だが、


「ああ。だからこれで終わり。ここで死んでもらうよ」

 こいつだけは、ここで終わらせる。




「……くくく、あーはっはっは。なるほど、いよいよ俺の命運も尽きたというわけか。だが、舐められたものだな。この“荒廃”を容易く狩れると思うなよ、“魔帝”」

 吹っ切れたのか、ムルムはすくと立ち上がり大笑いする。

その瞳には、挫折による暗さも、恐怖による焦りも見えない。

傲慢で不遜。

己以外の全てを食いつぶす、“荒廃”だけが宿っていた。


「だが、一つだけ聞かせろ、“魔帝”。なぜ俺を憎む? 貴様と俺には、それほどの因縁もなかろう?」

 魔力を練り、臨戦状態へと己を高めながらムルムが問う。

なるほど、確かにこいつとの因縁など、あの谷間の集落の一件だけだ。

別にあそこに知り合いがいたという訳でもない。


「……確かにね。言われて気づいたよ。だけど、それがそもそも勘違いさ。僕はなにも、お前のことを憎んでいるわけじゃない」

「なに?」

 色々と理由はある。

あの集落の一件では、こいつはなんの罪もない民を虐殺した。

そしてこの戦争も、最後の詰めとしてこいつを討つ必要はある。

だが、それだけならば、もっと他にやりようはあったはずだ。

そして、今ここに至るまでにも、わざわざ心を折るような攻め方をする必要もなかった。

憎んでいる、そう思われて不思議ではない。

だが、そうではない。


「お前は強い、そう思うよ、“荒廃”。だけど、ただ、それだけなんだ。求めるもののために他を蹴落としてでも求める貪欲さも、誰かのために命を捧げる信念も、信じるもののために破壊する業も、何も無い。だからお前のあとには、“荒廃”しかないんだ。そして、僕はそんなお前が、大嫌い(・・・)なんだ。」


「ふはははは。そうか、嫌い(・・)か。嫌いというだけで、俺の軍が滅ぼされるとはな。……いいだろう。なら、俺もお前が嫌い(・・)だ“魔帝”。俺の“荒廃”が貴様を喰らいつくしてくれるわ!」

 そう言って、ムルムは駆け出す。

そして、この戦争の最後の戦いが始まる。

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