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第八章)混迷の世界へ 国王の思惑

▪️キュメール共同国①


「それじゃあ、行ってくるよ」

 ラケイン達に別れを告げ、軍用の魔鳥馬(ユサ)を借りる。

南部の反乱が沈静化したことで、エウル軍本隊がドレーシュへ進軍しようとしている。

このことについて説明をするために、国王に招聘されたのだ。

丁度いい。

こちらも国王には、確認したい事があるのだ。

密林の蛇王(ナーガロード)”の討伐は、ラケインたちとケルカトルにまかせ、エウルへと戻ることにした。




「“蒼龍の角(ヴォルタホーン)”団長、アロウ=デアクリフ。参上いたしました」

 エティウ王城へと着くと、衛兵たちに謁見室へと案内された。

以前にも訪れた、青の神殿である。


「よく参った、我が騎士よ」

 しばらく待っていると、バルハルト国王が従者を連れて現れた。

薄っぺらい作り物の笑顔に無駄に豪奢なマント。

以前と違うのは、従者の顔ぶれだけだ。

罷免されたのか、それともただほかの従者を連れているだけなのか。

いずれにしろ、ただの音頭取りなのだろうことには代わりない。


「国王陛下より賜りし任務、未だ果たせぬ罪、どうかお許しください」

「いやいや、報告は受け取っておる。儂の想定以上の成果を上げておるようだ」

 あれから半年。

延べの人数にして既に三千人の盗賊を捕らえている。

最も、初期に捕らえた一部は、ケルカトルによって逃がされているので、実際には二千人ほどになる。


「しかし、未だ頭目と考えられる蛇王については捕えることができず、忸怩たる思いです」

「うむ、それについても仕方あるまい。神出鬼没の盗賊とのこと。焦ってもことを仕損じるのみよ」

 言動を聞く限り、国王は、こちらが思っている以上に、現地の様子を把握しているらしい。

であれば、少しおかしなこととなる。

ただの愚鈍な王であったならば仕方がない。

だが、そこまでに状況を判断できる能力があるのであれば、まともにぶつかり合うのならばともかく、たった四人で一国という広大な土地に隠れ住む二万人をどうこうできるはずがないことなど、分かりそうなものなのだ。


「恐れながら、陛下は今回のご命令、落とし所はどこか、どうお考えなのですか?」

 一言に盗賊団の壊滅と言っても、その手法は幾つかある。

文字通りに一人残らず捕まえる。

首領の首をあげる。

組織の体をなさないほどに叩きのめす。

アジトを打ち壊す、などだ。

例外として、取引で味方に引き込む、なんていう場合もあるだろう。


「ああ、その事ならばよいのだ。そなたはよくやってくれておる。そろそろ適当に切り上げて帰って来ても構わん」

「……」

 辛うじて、素っ頓狂な声を上げることを堪える。

何を言っているんだ、というのが本音だ。

だが、そんなふうに訊くわけにもいくまい。

これまでの国王の言動を元に推察する。

国王の命を受けて半年。

本来ならば、叱責を受けてもおかしくはない。

だが国王は、よくやっていると言った。

つまり、現状は想定内。

もしくは、それよりも都合のいい状態なのだろう。


「なるほど、陛下の真意は、二王子の勢力への牽制、ですか」

「ほう……。なかなかに聡いではないか」

 バルハルト王は、感心したように目を細め、無意識なのだろう、豊かなあごひげに手をやる。

当たり、か。

だが、そうであれば、国王への認識を変えざるを得ない。

暗愚などとはとんでもない。

明哲にして聡明。

国内の情勢、僕達の戦力、二王子の性格を完璧に読みきっていなければ、その発想は出ないはずだ。

相手は、四大王国の一、東の雄、ノガルド連合の盟主なのだ。


「そもそも、そなたらにあの盗賊どもをどうこう出来るとは思っておらん。儂の狙いは、そなたの言う通り、牽制。そして教育よ」

 くっくっと、ヒゲの奥で笑いの声がこもる。

教育。

その一言で悟る。

なるほど、暗愚などとはとんでもない。

ビルスからの報告にもあった、小心者の野心家。

暗愚にも劣る愚妹。

これが大臣などの重役のものであれば良かったが、一国の王としては最悪だ。


「そなたらSランクという手駒は貴重よ。それこそ、ほかの四大国への切り札にもなり得る。だが、愚かにも二王子は、儂に反抗的での。国はひとつの大きな獣よ。そして、獣に頭は三つもいらんのじゃ」

 全く、愚かにも程があることだ。

僕達を取り込み、国王派の勢力が増した。

だが、同時に二王子派の反感を買う。

そこで、僕達に難事を命じれば、まずはガラージ王子が動く。

国王派と第一王子派。

共闘はありえない。

盗賊団と違い、まとまって動く正規軍だ。

ならばSランクである僕たちが負ける要素はない。

そして同時にザハク王子が動いた。

その動きさえ潰せば、二王子への牽制は成る。

動けば我が子といえど潰す。

そういう教育なのだろう。

同時に、僕達への教育でもあったはずだ。

達成不可能の命令を下し、僕達が泣きつけば、あとは煮るなり焼くなり、というところか。


 全く、保身に関しては頭はいいのだろうが、国営について先の発展を全く度外視した愚か極まる戦略だ。

本来ならば、せっかく手に入れた手駒は手厚く迎え入れ、自分の後継を育てる意味で二王子との連携を取るべきだろう。

まぁ、それが出来ないのだから、僕もリヴェイア王子を担ごうと決めたのだが。


「国王陛下の深謀遠慮、感服いたします」

 と、そんなことはおくびにも出さずに頭を下げる。

今さらに思う。

もし魔王時代、この国の状態を知っていれば、少なくともノガルドの一帯は、魔族によって支配できていたはずだ。

全く、魔王軍の拠点が西側であった幸運を、人間はもっと噛み締めてもらいたいものだ。


「今回の件で、ガラージは師団のひとつを失い、ザハクは金を使った挙句に国民共から叩かれておる。二人ともしばらくは身動きは取れまい。そして、そなたらについては、この難事に儂に頼ることなく事を成した。もう充分よ。これからは、外への活動が増える。早々に帰還し、英気を養うがいい」

 どうやら、国王からは合格がもらえたらしい。

だが、今すぐにエウルへ戻るわけには行かない。


「ご命令、承りました。しかし、現在ガラージ王子が、その総力を上げドレーシュ王国へと向かっております。このままでは民の被害は甚大。民衆の英雄としては、捨て置ける事態ではありません。どうか、王子に撤退のご命令を賜りますよう、お願い申し上げます」

 ザハク王子の妨害策を止めさせる為に、ムルムの師団を全滅させた。

注意をドレーシュに集め、全軍で対処するために民の反乱を過剰戦力で即座に鎮圧させたのだった。

その結果というか、当然の帰結として、十五万のエウル王国軍全軍が、ドレーシュ王国へと向かっている。

国民の総数が一万程の小国に、十五万の兵力。

実際にドレーシュへ向かうのはその半数程のようだが、近隣国からの徴兵により、十万以上には膨れ上がるはずだ。

もはや、盗賊団がどうなろうと、ドレーシュ王国自体がただで済むはずがない。

しかし国王の言葉は、ある意味予想通りであり、ある意味で心外なものであった。


「慌てるでない。ガラージもやられたままでは収まりがつくまい。暴れるのはエウルの外でせよと厳命はしておる」

 つまり、エウルは無事だ、ドレーシュのことなど知ったことではない。

そういう事だった。

なるほど、その言質さえ取れればもう用はない。


「かしこまりました。すぐさまドレーシュへ戻り、他のものと合流いたします。我が剣にかけまして王に忠誠を」

「うむ、よきに計らうがいい」

 王の前に剣を掲げ、騎士の礼をもって下がる。

これから忙しくなる。

足早に王城の廊下を進む。

あと、1ピース。

それで終わりだ。

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