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第八章)混迷の世界へ 引き寄せられる獲物

ルコア→ケルカトルに名前を変更しました。

▪️嵐の前の静けさ⑨


 “鋼撃(スレッジ)”のケルカトル。

なるほど、その一撃は、まさに圧倒的(スレッジ)の名にふさわしい威力と言っていいだろう。

ただ棒立ちしている状態からの正拳。

言ってみればそれだけだ。

だが、起点たる左の軸足を強く踏みしめ、上体を前方へと押し出す。

強く押し出されたその力を腰に伝え、強力な背筋で増幅。

同時に、極限にまで緩められた左腕を瞬間的に引き絞ることで状態に集められた力をさらに加速。

そして、上体とともに押し出された右足の踏み込みを起爆剤として、右腕に集められた力は、螺旋にも似た回転により集約され、一気に開放される。

 これが、すべて一動作。

間合いもタイミングも何も無い、無拍子(ゼロ)からなる会心の一撃(クリティカル)

受けた側からすれば、何が起きたか分からぬままに、その命を刈られることだろう。


「来ていたのか」

 ふいに騎士に、ケルカトルに声をかけられる。

「えぇ、凄まじい技ですね」

あまりの衝撃に、ありきたりな言葉しか出てこない。

冒険者という職業上、魔物や魔族ならば強者と相見(あいまみ)えることなど日常の事だ。

だが、これだけの実力を持つ人間に出会うことは、そうはない。

ラケインも悪いスイッチが入っているようで、口の端が釣り上がり、抑えて入るが獰猛な気配が漏れ出している。

「ふん、Sランクに褒められようとも、世辞にしか聞こえんがな」

ケルカトルには、嫌味にでも映ったのか、興味なさげに顔を逸らし、今しがた絶命した男の方に視線を送る。


「ケルカトルさん、でよろしいんですね? こういったことは、よくあるんですか?」

 ケルカトルは、僅かに眉を動かしこちらを振り返った。

「ふん、客の誰かからでも俺のことを聞いたか。そうだな、日常茶飯事とまでは行かないが、まぁ、よくあることだ。エウルから出向した騎士が増長して無法を働く。それを見て騎士崩れの無法者や冒険者などが騎士を(かた)り犯罪を犯す。ここドレーシュだけではない、『中央』以外の『地方区』では、ありふれた光景だ」

ケルカトルは、吐き捨てるように呟く。

 ノガルド連合国内では、盟主たるエウルを「中央」、それ以外の加盟国を「地方区」と呼ぶ。

それは、名目では各国の地位を同等におく連合条約においても、エウルこそが王であると言わんばかりの取り決めである。

事実、生家のあるドルホ王国でも、エウルの騎士は、何をしても許される免罪符を持つものとして恐れられていた。

それでも、ここまでの状態ではなかったのだが、小国という立場、コール聖教国と隣接するという立地など、様々な要因からここではそれが顕著となってしまっている。

だからこそ、国王ですら騎士に低頭するなどということが起こり得るのだ。

「どうせエウルの騎士の名を騙るクズだろうが、これがまかり通るほどには、エウルの騎士もクズだ。……まぁ、お前達は別のようだがな」

 最後の一言は、聞こえるかどうかという程に小さかったが、そう呟き、やってきた衛兵たちに後処理の指示を出していく。


「それよりもお前達、こんなところで何をしているんだ? 本国からの命令を受けているんだろ?」

 ケルカトルが訝しげに聞く。

この国に来て五日目。

王宮にもおらず、かといって討伐に出かける訳でもなく、任務を蔑ろにしていると思われても仕方がない。

「ええ。一応情報収集ですよ。知っての通り、僕達は四人。最低限、幹部のアジトでもわからなければ手の打ちようがありませんから」

まさにお手上げと言わんばかりに、両手を上にして肩口で振る。

「ふっ、そうだろうな。正直、俺達もお前達がたったの四人でやってきた時には、頭がおかしいのかと思ったさ」

ケルカトルは悪びれもせず鼻で笑うが、まさにおっしゃる通りである。


「ええ。僕達も弱ってます。陛下は適材適所という言葉をご存知ないらしい。ケルカトルさんは、奴らのアジトをご存知でないですか?」

「ふん、こちらの力不足を棚に上げて言わせてもらうが、そんなもの知っていたらとっくに取り押さえているわ」

 まあそうだろうな、とは分かっていた。

今回の一件、ノガルド連合という視点で見れば、強大な組織のために僕達が派遣されたと見えるが、エティウとドレーシュという視点で見れば、ドレーシュ(子ども)のトラブルを片付けるためにエウル()が出てきたとも見れる。

つまりドレーシュでは、何も情報を得ておらず手も足も出ていないということだ。

「まぁそっちの立場もわかるが、エウルの騎士様にいつまでもうろつかれても迷惑だ。無理なら無理と引き上げることだな」

そう言ってケルカトルは、酒場をあとにする。

確かにそうだ。

そろそろ、仕掛けに行くか(・・・・・・・)




 それから十日後。

僕達は、ドレーシュの南端、ドルネクとの国境に来ていた。

「な、なんだ? こいつらは!」

「つえぇ、一体何だってんだ!」

蜘蛛の子を散らすように、盗賊たちが逃げ惑う。

僕の水氷系魔法(アイススペル)で凍らされ、烈風系魔法(ウィンドスペル)で足を取られと、次々に捕えられていく。

「はぁぁあっ!」

ラケインの咆哮。

蒼輝(ラピス)を回転させ、次々に盗賊たちを斬っていく。

盗賊が振るう剣を防ぎ、弾き、いなす。

先の槍で切り裂き、返す上の槍で突く。

「はいはぁい。怪我した人は死んじゃう前にこっち来てくださいねぇ」

そうして倒れされた盗賊たちをテキパキと治療しながら、メイシャが自然系魔法(ネイチャースペル)で拘束していく。

「な、なんだ? 進めねぇ!」

「見えない壁が! ちくしょう!」

辛くも逃げ延びた者達も、リリィロッシュの大規模魔法が逃がさない。

襲撃から(・・・・)一時間ほどで、二百人以上もいた盗賊たちは、残らず捕縛された。


「またか……。どうなってるんだ? 運がいいでは済まんぞ」

 遅れること三時間。

騎士団長ケルカトルが現れる。

この十日の間で、既に三回の戦闘を行っている。

それも、どの現場でも盗賊たちが現れてから(・・・・・)二時間以内に決着がついていた。


「いえ、たまたま近くにいただけですよ」

 そう笑って答えるが、全く説得力はない。

ここは国境。

盗賊たちが現れ、その事が町に伝わるのに三時間。

軍が出動の準備を整え、駆けつけるのには優に半日がすぎるはずだ。

それが、小一時間ほどで決着がつく。

明らかにからくりがあると思われても仕方がない。

 無論、からくりはある。

たが、今はまだそれを隠しておきたい。

仕込みを入れている最中だ。

タネ明かしには、まだ早い。

それでもそろそろ、だ。

そろそろ相手の方にも別の動きが出てくるだろう。


 しかし、こちらもまた気がついていなかったのだ。

いや、忘れていた。

物語の配役が、別の場所にもいた事を。

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