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第二章)冒険者の生活 巨星

■リリィロッシュの冒険者講座⑥


 それから暫くは、簡単な討伐クエストをこなし、リリィロッシュが高難易度のクエストに言っている間に魔法の鍛錬をして、クエストのない日は、弱者としての戦い方を鍛えてもらう日々を過ごした。

 その日々は、全てが順調だったとは言えない。

ある日は、集中を切らして矢が外れ、奇襲に失敗した。

またある日は、うっかり探知の魔法を濃い魔力で使ってしまい、獲物に全力で逃げられた。

またある日は、近接戦闘でナイフが刺さったまま、相手に距離を取られ、素手で立ち向かうことになったこともある。

その一つ一つが、修行の日々だ。


 そうしたある日。

彼に出会ったのだ。

「今日は、ゴブリンのパーティですね。探知に失敗しないでくださいね、アロウ」

昨日の失敗に釘を刺され、今日もギルドを出発する。

「だ、大丈夫だって。今日はうまくやるからさ」

焦りを隠せないまま、自身たっぷりの空元気で答える。

先生モードのリリィロッシュは、本当に怖いのだ。

にこやかな笑顔のまま、絶対零度の視線を飛ばしてくる。


 そんないつものやり取りをしながら、今日もゴブリンを倒すべく移動する。

目的地の森、その入口近くについた途端、突如、空間が悲鳴をあげる。

景色が歪み、空間にヒビが入る。

 転移魔法か!?いや、違う。

これは、空間を歪ませるほどの圧倒的な力。

かつて、最終決戦で戦士や魔法使いが見せたものと同等の、世界を狂わすほどの魔力。

決して、Dランクのクエストがあるような安全な場所に、あってはならない力だ。


 その一瞬の間、体が強ばる。

リリィロッシュに捕まれ、瞬時に姿を隠す。

息を殺し、藪に隠れるが、まだ自体が掴めない。

かつての勇者パーティと、そして魔王と同等の力。

いったいなんなんだ!?


 そう思っていると、破壊の主とその相手は、姿を見せる。

 1人はかつて見た顔だ。

旧魔王軍の軍団長であった魔族。

見上げるほどの体躯に獅子の顔。

天を突く角はどんな鋼よりも固い。

武闘派で慣らした彼は、魔王軍でも有数の力の持ち主だ。

その手には、彼が愛用としていた長柄斧ポールジャベリンが握られている。

 もう1人は、知らない顔だ。

だが、非常によく似ている。

人間に近い身体に紅いコートを羽織り、胸をはだけさせていて、気だるい様子だ。

漆黒のズボンに、これもまた紅いブーツ。

顔つきを見るに、見た目には人間であれば20代の後半か。

気だるい表情の中、紅い目だけがランランと燃えている。


 その有り様ではない。

纏っている魔力でもない。

まして、外見でもない。

しかし、似ているのだ。

だからこそ確信した。

彼こそが、現在各地で発生しているという、魔王の1人だと。


 上手く隠れられたのか、それとも、圧倒的強者に自分たち如きは、目に入らないのか。

突如現れた猛威は、二人とも一切こちらへ気を払う様子がない。

 そしておもむろに戦闘は始まるが、数瞬の後にそれは終わった。

何が起きたかなど、見えはしなかった。

残されたのは、獅子顔の魔族の首と、ほぼ無傷のまま横たわるその胴体。

そして、変わらず気だるそうな表情でそれを見つめる魔王。


 その瞬間、目が、あった。

全身が泡立つ。

リリィロッシュすら、目も虚ろに体の力が入らないでいるようだ。

1歩、前へ踏み出す。

リリィロッシュが動けないなら、自分が動くべきだ。

手に力は入らず、ナイフも持てない。

一瞬の盾にすらなれなくとも、それでも、前へ足を踏み出す。


 魔王は、目を細める。

そして、興味を失ったように、今度こそ転移魔法で姿を消した。

そしてそのまま、僕は意識を失うのだった。


 後に聞く。

彼こそは、この地域にほど近いクエンラ火山帯を根城とする、《「紅」の魔王》だと。

 旧魔王、つまり前世の僕が勇者に敗れて3年後、世界の各地で元々力を持っていた魔族や魔物のリーダーが、ある日突然に魔王を名乗り出したという。

奇妙なのは、魔族だけでなく、ろくに知恵がないような魔物たちの中にも、知恵を身につけ、圧倒的な力を持つ魔王が誕生していることだ。

 なかには、勝手に魔王を名乗っただけのただの魔族もあったようだが、しばらくもしないうちに淘汰されていった。


 これまで、前世の僕を含め、多くの魔王が誕生してきた。

数十年から百年の権勢を誇り、時の勇者に敗れ、また数十年の後に復活する。

それが魔王だった。

しかし、今回は、この数千年のうちには記録のない事態だ。

各地の人間の王族も頭を悩ませ、かつての勇者達に非難を向けるものもあった。

現在、この世界は、未曾有の危機に瀕していた。


「起きましたか、アロウ」

 気がつくと、拠点としている宿屋に寝かされていた。

確か、《「紅」の魔王》が去った時点で、魔力に当てられ気を失ったはずだ。

「ごめん、気絶したのを連れて帰ってくれたんだね、ありがとう」

「いえ、私の方こそ、あの魔力に当てられてお守りするどころか、アロウに守られてしまう始末。申し訳ありません。私は、やはり弱いままなのです」

そう言って、リリィロッシュは悔しそうに涙ぐんだ。

「リリィロッシュ、泣かないで。僕もあの魔力に気を失ったしおあいこだよ。それに、リリィロッシュがいなければ、あの夜に僕は死んでいたんだから」

そう言って、手を握る。

「アロウ、強く、なりましょう」

「リリィロッシュ。うん、強くなろう。一緒に」

そう言って、その夜は眠りについた。


 数ヶ月後、僕は冒険者育成の学校に通うことになる。

元々、育成学校の入学までに、冒険者としてのノウハウを、リリィロッシュから学ぶという予定だった。

「それではアロウ。しばらくの間、お別れです。ギルド経由で私の居場所は分かるようにしておきますから、長期休暇の際には連絡してくださいね」

リリィロッシュは名残惜しそうに言う。

「長期休暇なんて言わずに、手紙はちょくちょく出すよ。リリィロッシュも、追手に気をつけて」


 名残惜しいのは僕も同じだ。

あれから、僕は強くなった。

実力を隠し、12歳の少年としては上等の能力、だけを見せることにも慣れた。

そして、本来の力を十分に伸ばすことも出来た。

それは、リリィロッシュのおかげだ。


「じゃあ、行ってくるね!」

 そう言って、育成学校の門を潜る。

エウル王国の首都、ドルアイ。

その中央に居を構える冒険者育成学校。

王立ノガルド育成学校。


今日からここが僕の冒険の場所となる。

エウル王国)Eulb⇔Blue:青

ドルアイ)Dreye:竜の眼

ノガルド(ノガルド連合国)Nogard⇔dragon:竜


地名がいくつか出てきました。

現在地は、大陸西部になります。

ノガルド連合国の、盟主国エウル王国の、首都ドルアイという位置関係です。


改めて作中にも出しますが、この関係は何度が出てきますので、少し覚えておいてください。

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