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第八章)混迷の世界へ 3人の王族

▪️東国の王子⑧


 店の奥から身なりのいい男が現れる。

大振りな仕草で道化のように(かしず)くその様子は、初めてあった時から変わらない。

白銀に輝く長髪を後ろに結わえ、黄金の刺繍と煌びやかな宝石で鮮やかに彩られたシンクのジャケットを身につけたその男子の名は、ビルスティア=ドレッキン。

かつては魔王軍のビルスロイとして、今は、《「血獣」の魔王》として陰ながら支援してくれている僕の協力者だ。

今は地方領主として善政を敷き、良君との名声を得ているが、派手好きな性格は相変わらずのようだ。


「お久しぶりです、アロウ様。最近のご活躍は聞き及んでおります」

 ビルスは(うやうや)しく礼をしながら、リヴェイアの隣の席へ腰をかける。

「おや、あなたが出てくるということは、無粋な輩は片付いたようですね」

「ええ、もうこの店は安全ですよ」

ビルスの目配りの先では、一人の老紳士が給仕に料理を注文している。

リヴェイアの言葉通り、先程反応を見せ監視達は気を失っていのか、座ったままの姿勢で微動だにしない。

入口近くの席に座る、執事のベルゴートの仕業だろう。

彼の正体は、ビルスの配下の中でも精神系の魔法に長けた魔物であった。

監視の存在に気づいてから、周囲の感知を怠るはずもない。

それでもなお、魔力を隠しながら複数名の意識を奪う荒業を行って僕に気づかせない実力は、恐ろしくも頼もしすぎる。


「久しぶり、ビルス。だけど、これ、どういうこと?」

 仮にも表向きは子爵であるビルスに思いっきり不機嫌そうな顔で睨みつける。

「申し訳ありません、アロウ様。私も最初からご説明しようとは申し上げたのですが、殿下がどうしても、アロウ様の人となりを確認したいと申しまして」

じろりと今度はリヴェイアの方に視線をやる。

流石に王子相手に睨みつける勇気はない。


「あはは、まぁそういうわけだよ。だから彼のことは許してやってほしい。で、こちらにも手を貸してくれないかな?」

「お断りします」

 見張りもいない今度こそ席を立つ。

確かに今のエウル国王にいい話は聞かない。

だが、稀代の悪王という訳ではなく、逆に言えば、どこにでもいる凡人の域をでない程度なのだ。

国王に目をつけられたのは厄介なことだが、それがリヴェイアに取って代わったところで大差はない。

それどころか、まかり間違えば逆賊として国に追われる身となってしまう。

そんなことは真っ平御免なのだ。


「近々、この国に謀反の戦(クーデター)が起こります」

 リヴェイアが語り出す。

「でしょうね」

その言葉を冷ややかに返す。

反乱を起こそうとしている当の本人が何をいまさら言い出すのか。

しかし、次に語られた言葉は、全くの想定外だった。

「ですが、それは私ではないんですよ。アロウさん」

「……え?」




 《青き渚》亭の奥にある特別席(シークレットルーム)に席を移す。

リヴェイアがこの店を贔屓に来ているというのは本当らしい。

なんでも、この店を含め各地にあるいくつかの高級店では、貴族や商人達が密談に使うための部屋があり、店主に依頼すれば使わせてもらえるそうだ。

無論、誰にでもというわけではないらしいが、なるほど、勉強になる。

店内の監視が意識を失っている以上、この秘密の部屋にいれば見失ったと思って勝手にどこかへ引き上げていくだろう。

改めて、リヴェイアとビルスに向かい合い、用意された燻し豆(コーヒー)に口をつける。


「で、さっきのはどういう意味ですか?」

 二人の顔を交互に見つめる。

てっきりリヴェイアが国家転覆(クーデター)を計り、王家を乗っ取る勧誘なのかと思っていたが。

「まぁまぁ。僕としては荒事は苦手でね。どちらかと言えば(かつ)ぎ出された方なんだよ」

やれやれと両手を上げて、リヴェイアは首を横に振る。

「それでは、そのご説明は、私から致しましょう」

そして、その説明を引き継いだのはビルスの方だった。


「まず、この国の情勢をご説明いたします」

 ビルスが説明したのは以下の通りだ。

 エウル王国。

その頂点にあるのは、無論、エウル国王・バルハルト=ソリューン。

齢六十八。

もはや老齢ではあるものの、毎夜豪勢な食事で(ぜい)を尽くし、後宮に囲った三百を越す女官を(はべ)らす、典型的な愚王。

無理な徴税や無謀な侵略を行わない為に、国民からは過激な反発はされていない。


 国王の悪政を実現させる為の調略などを司るのは、宰相として行政に君臨する第二王子・ザハク。

二十七歳という若さで大国の政治を掌握しているのは、何も王族だからという理由だけではない。

バルハルト王がほどほど(・・・・)の散財をしているにも関わらず、財政が破綻せず、国民からも強い不満が上がらないのは、単に彼の手腕によるところが大きい。

しかし、その性格は陰湿で陰険。

敵に回ったものは、真綿で首を絞める様に、搦手(からめて)を用いて徐々にその力を奪い、絶望と失意のうちにその存在を排除する策を好む。

あらゆる手を使い政治の頂点へと上り詰め、国の舵を自在に操っている。


 ザハク王子が政治の長であるならば、軍部の長なのが、第一王子・ガラージである。

粗野にして乱暴。

彼を表すのならばこの一言に尽きる。

年齢は三十二。

彼自身も武芸に長ける精力的な武将である。

八万の王国軍、そして盟主国として百万の連合国軍を指揮下に置く大将軍だが、彼が最も信を置くのは親衛隊の百騎である。

翠龍騎士団(ナーガナイツ)”と呼ばれる彼らは、王城までをも含むすべての屋内外での帯刀と騎乗を許されており、ガラージに逆らうものを容赦なく斬り捨てる。

お世辞にも思慮深いとは言えないガラージだが、彼らによる恐怖で支配した王国軍は、無類の精強さを誇っている。


 権力のみをもつ国王と、武力のみをもつ長男と、狡猾さだけをもつ次男による支配。

それが今のエウル王国の実態である。

「良くも悪くも、いや、この場合は良い方が大きいですか。とにかく、彼らは小物なのですよ」

ビルスがニヤリと嘲るように苦笑する。

「彼らに互いを支え合うというような殊勝な考えはありません。ただ彼らは、権力の拡大よりも、今の地位を失うことの方を恐れている。彼らが三すくみの状態で身動きが取れないでいることが、この国の幸運ですね」


 なるほど。

三人のうち、誰か一人が力を持てば、残りふたりが牽制にかかる。

結果として互いに監視し合う形となり、この国の均衡は保たれている。

「そんなわけで、僕としては、そんな権力抗争に巻き込まれたくなくてね。お金だけ頂いて悠々自適に過ごしていたかったわけ」

リヴェイアは、心底嫌そうな顔をして腕を組む。

彼に権力欲は本当になかったのだろう。

歳は僕より二つ上の二十一。

貴族としての給金以外に、国費の一部を小遣いとして勝手に使用できる権利を得ていることは、周知の事実だ。

言ってみればほかの二兄弟よりも余程タチが悪い。

だがその金額は、ほかの兄弟達が懐に入れる金額よりも遥かに少ないのだという噂だ。

職にもつかず、程々の贅沢をし遊びにふける放蕩息子。

それがこの第三王子・リヴェイアだと聞く。


 だが、リヴェイアに権力欲がなく、国内も一応の安定が見られるのであれば、なぜ国家転覆(クーデター)などという話が出てくるのか?

そう思って話を促すようにビルスへと視線を送る。


「そう。これまではそれで良かったんですよ。だが、事情が変わった。えぇ、ここでアロウ様、“反逆者(リベリオン)”の登場となるわけです」

……え? 僕?

第一王子ガラージ→ナーガラージャ(竜王)

第二王子ザハク→ザッハーク

どちらも竜に関するモンスターの名前です。

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