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第七章)混沌の時代 次は……。

二回投稿その1です。

章の区切りということで設定説明の講義の項を合わせて投稿します。

▪️vs吸血の王⑧


 エラクスの館を後にし、リバスケイルの町へと向かう。

実は、あの後にひと騒動あった。

ミラーカの処遇についてである。


「ミラーカさんの事だけど、とりあえずうちで引き取ったけどどうしよう」

 実際、ノープランだった。

本来なら《砂漠の鼠(ぼくたち)》には、全く関係ない話で、どちらかと言えば、管理地内でのトラブルということで、《永遠なる眠り(あちら)》の方が面倒を見るべき話だ。

だが、詳しい事情を説明するわけにもいかず、吸血(ヴァンキュール)族だということも伏せておくのであれば、カリユス氏におまかせしておくわけにもいかない。

だからこそ、僕達で彼女の身柄を引き取ったのだが、だからといって、ずっと一緒というわけにもいかない。

本来、僕達の旅は危険なものだ。

だから、彼女の身の振り方は、別に考えてやらなければいけない。


「さて、どうしようかな」

 ミラーカを寝かしつけた後、皆で集まる。

「メイン達と同じように、冒険者にさせるか? それで食べていけるかは、彼女次第にはなるが」

ラケインが僕の投げかけに答える。

確かに、それは僕も考えた。

だが、それは悪手だ。


「いや、それはやめておいた方がいいでしょう」

 リリィロッシュが否定する。

「あの時とは、状況がまるで違う。今回は、フラウの口添えも期待できないし、何より、彼女の方に準備が(・・・)出来ていない(・・・・・・)


 そう、リリィロッシュの言う通りだ。

前回は、フラウというあてがあったが、そう何度も面倒を押し付けられるほど、フラウと打ち解けてはいない。

そして何より、メインたちの場合は、彼女たちにその準備があった。

なにも才能や能力の話ではない。

才能というのであれば、Sランクにも匹敵する魔力量を持つミラーカなど、才能の塊だ。

だが、それだけなのだ。


 妹を守るために覚悟を決めたメイン。

姉に迷惑をかけないように立ち上がったペルシ。

二人とも未熟なりに自分自身の足で立っていた。

だが、ミラーカは違う。

彼女が悪いという訳では無いが、残酷な運命に流され、吸血(ヴァンキュール)族の力に溺れ、さまよっている子供。

それがミラーカだ。

自分のことさえ覚束無(おぼつかな)い少女に、明日の命さえ不確かな冒険者など無理な話なのだ。


「なるほどな。確かにその通りかもな。だが、どうする? あとは、ルコラさんに頼んで、ギルドの内勤でもしてもらうくらいしか思いつかないぞ」

 ラケインの言うことももっともだ。

そもそも、僕達を含め冒険者というのは、なりたくてなったという仕事ではない。

ラケインは剣。

僕は魔法と、それ以外に頼れるものがなかったからこその冒険者なのだ。

だからこそ、育成学校を出ていない新米冒険者の生還率は高くはないし、賃金も安い。

つまり、冒険者として生きている僕たちには、それ以外の道を示せるだけの余裕はないのだ。

そして、それはルコラさんも一緒のはず。

しばらくは、《砂漠の鼠(デザート・チュウ)》の内勤を手伝ったとしても、いつまでもお手伝いというわけには行かない。

そして、そこまで面倒を見れるほどの余裕は、冒険者の現場には存在しないのだ。


「ふぅ、どうしたもんだろ」

 皆で頭を抱えていると、メイシャがそろそろと手を上げる。

「あのぉ、だったら……」




「ママぁ!」

「メイシャー!」

 そっくりな二人が駆け寄って抱きしめ合う。

二月前にも見た光景だ。

仲良きことは良きかな。

そう、メイシャの案とは、ご両親にミラーカを預かってもらうことだった。

ギルド経由でご両親と連絡をとり、ここリバスケイルで落ち合うようにしたのだ。


 ちなみに、お父さんであるクラボアさんは、吸血(ヴァンキュール)族のことなど知らない、ただの一般人だそうだ。

ラケインとメイシャのように、全てを理解し受け入れているカップルもいるだろうが、こうして、伴侶にも隠し通す方が普通なのだという。

もしなにかのきっかけで世に吸血(ヴァンキュール)族の存在が広まってしまえば、それは種族の滅亡に繋がってしまう。

間違いなく吸血鬼狩りが始まり、例えSランクに匹敵する能力があろうと、軍や高位冒険者によって討伐されるだろう。

吸血(ヴァンキュール)族にとって、秘密の漏えいは死活問題なのだ。

種族のことを隠しながらも立派にメイシャを育て上げたエディアさんなら、吸血(ヴァンキュール)族としても、一人の女性としても、ミラーカをしっかりと教育してくれるだろう。


「あ、あの……」

 ミラーカが恐る恐るとエディアさんに近づく。

その目は虚ろに怯え、上目遣いに震えている。

無理もない。

ミラーカにとって、知る同族とは、メイシャと恐ろしいカーミルしかいなかった。

育ててくれた優しい父は、カーミルに無残にも殺されてしまったのだ。


 エディアさんが振り返る。

その視線の先には、白の少女。

エディアさんには、詳しい事情は伝えていない。

自分の能力も制御できていない吸血(ヴァンキュール)族の少女を保護した。

それだけを伝えてある。

メイシャは、それだけで十分だと言っていた。

それには同意見だ。

二人、いや、クラボアさんも含めて三人は、これから家族となる。

ならば、余計な情報は、必要ない。


「あらまぁ、あなたがミラーカね。私はエディア。お母さんと呼んで」

 エディアさんは、ミラーカを笑顔で抱きしめる。

「私がクラボアだ。私の事もお父さんと呼んでくれ」

クラボアさんが、二人の上からさらに抱きしめる。

流石にメイシャのご両親だ。

暖かく、誠実で、何よりも優しい。

暖かな人の温もり。

冷たい骸骨の山に埋もれてきたミラーカにも、その温かさに覚えがあるはずだ。

育ててくれた父と母。

幼い頃に見た、暖炉と机と料理がある小さな小屋。

「……お父さん……お母さん」

ミラーカは、金色の瞳から清らかな雫をとめどなく流した。


「それじゃあミラーカのこと、よろしくお願いします」

 時間にして数十分。

僕達はミラーカ達と別れ、出発の準備をする。

前回はラケインの挨拶という用事があったが、今回は違う。

ミラーカという新しい家族を迎えるのに、メイシャがいつまでもお邪魔しては、彼女のためにならないだろう。


「ええ、こんなに可愛い子なら大歓迎よ。ねぇあなた」

「ああ、私らもメイシャがいなくなって寂しかったところさ。新しい娘が出来て、こんなに嬉しいことは無いよ」

 クラボアさんは、恰幅のいいお腹を揺らし、エディアさんとミラーカを抱き寄せる。

少しだけ苦しそうなミラーカは、幸せそうだ。


「メイシャさん、なんてお礼したらいいのか……」

 ミラーカがメイシャを見つめる。

だが、メイシャは首を横に振り、

「お礼なんて言わなくてもいいの。もう私たちは姉妹なんだから。だから、私のこともお姉ちゃんって呼んで」

メイシャは満面の笑顔で、ミラーカの手を両手を包み込む。

その笑顔には、なんの陰りも偽りもない。

いつも破天荒で天真爛漫。

無邪気なトラブルメイカーであるメイシャは、誰よりも優しい少女なのだ。

「はい、……お姉ちゃん」

泣きじゃくるミラーカの頭をメイシャは、優しく撫でてやった。


 ミラーカを抱きしめるご両親と、満面の笑顔でそれを見送るメイシャ。

そして、その手を握りしめるラケイン。

家族の愛という美しさに、思わず視界がにじむ。

さて、次は……。




 僕達はミラーカと別れ、ドラコアスへの帰路につく。

「あ、ラケイン。ギルドに帰る前に少し寄り道したいんだけど」

ホラレを操るラケインに声をかけ、目的地の地図を渡す。

「む、珍しいな、アロウが寄り道とは。えぇっと、ドルホ王国の東岸か。三日くらいだな」

ドルホ王国は、エウル王国の北東に隣接する国で、面積こそエウル王国に次ぐ広さを持つが、その大半が森林と海岸という辺境の地だ。


 途中にある名もない村で、ギルドの詰所から荷物を受け取る。

素材商人“黄金の星(ヴェーヌス)”のステンに、以前から頼んでおいた品だ。

「ここは……」

リリィロッシュが辺りをキョロキョロと見回す。

流石に彼女なら気づくだろう。

だが、それに気付かないふりをして目的地へと急ぐ。


 村から小一時間ほどもすると、小さな集落へと到着した。

「アロウ、着いたがここはどこなんだ?」

ラケインがホラレを停める。

リリィロッシュは、呆然としているようだが、流石にもう分かっているはずだ。

「まぁまぁ。とりあえず付いてきてよ」

 小さな家が十四。

森の中にひっそりとある、のどかな集落。

その奥に、小さな祠がある。

この世界で宗教といえば、『(あいつ)』が作ったクルス教のことだが、こんな小さな村ではその教えは正しく伝わっていない。

ただ神に、魔族でいうところの慈愛の女神・ラヴィーネへ日々の暮らしへの感謝を祈る、原始的な教えがあるだけだ。

僕達にとっても、これからすることにこれほど適した場所もないだろう。


 祠の前に立つ。

その雰囲気に、ラケインもようやくここで何が行われるのか気づいたようだ。

「ここは、僕の生まれた村なんだ。」

ラケインとメイシャに説明する。

名もない穏やかな集落。

だが、僕達にとってもうひとつ、重要な意味合いを持つ場所だ。

「そして、僕が人間(アロウ)になってから、リリィロッシュに初めて出会った場所でもある。」


 ギルドで受け取った品を取り出す。

手に取ったのは、彼女の髪と同じ、艶やかに輝く黒水晶(モリオン)月銀鉱(ミスリル)であしらった指輪。

それは、魔族の風習。

「リリィロッシュ。僕は人間になったから、君と同じ時間を歩むことは出来ない。それでも、僕のこの生ある限り、君と一緒に歩んでいきたいと思う。君と出会ったこの地で申し込みたい。リリィロッシュ、君を愛している。僕と生涯を連れ添う伴侶となってほしい」


 リリィロッシュの左手を手に取り、指輪を薬指へと嵌める。

魔族での結婚とは、男性から女性へと指輪を送り、慈愛の女神(ラヴィーネ)の前で永久の愛を誓うのだ。

「はい、喜んで。アロウ、愛しています」

僕とリリィロッシュは、祠の前で長いキスを交わした。

これにて吸血族編、終了です。

色恋沙汰は歯が浮いて苦手です。

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