起源の章)最終決戦
みなさんこんにちは。
物語は、魔王と勇者の最終決戦から始まります。
勇者に敗れた魔王の数奇な運命。
是非お楽しみください。
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―神は嘆く。この世に闇があることを。
神は願う。この世の闇を払うことを。
神は謳う。この世の闇を切り裂く調べを。
神は喜ぶ。この世の闇が失われたことを。―
■最終決戦
「──みんな、俺に力を貸してくれ!」
勇者は、震えるひざを剣の柄で自ら殴り、声を張り上げる。
それは、味方への呼びかけというより、自分への叱咤の意味合いもあったのだろう。
すでに満身創痍。
余力などすでにない。
残された術は、精神力とは呼べないような、ただの意地。
勇者の仲間たちも似たような状態だ。
砕けた鎧を脱ぎ捨てた戦士は、守りを捨て、残るすべての気力を一撃に込めようと立ち上がる。
すでに魔力も底を尽きた僧侶は、己の生命力を糧に、守護魔法の準備を始める。
同様に魔力などとうの昔に枯れ、回復薬をも使い切った魔法使いは、禁術をもってそれを補う。
対して魔王は、見た目こそほとんど無傷だ。
しかし、その力は見るからに衰え、目を凝らせば息も上がっているように見える。
これまでの死闘によるダメージは、確実に積み重なっている。
「さすがは、神の代弁者よ。よくぞこの我をここまで追い詰めたものよ」
勇者たちの裂帛の空気を読み取り、魔王は声をかけた。
「──さあ、最後の戦いを始めよう。
美しき剣戟の調べを──!」
魔王もまた、裂帛の気勢を上げる。
濃密な魔力の嵐が吹き荒れ、石床が割れる。
ぱきっ、その微かな音を合図として、勇者パーティーが駆ける。
「守護魔法・女神の抱擁ッ!!」
僧侶が勇者へと守護魔法をかける。
本来はパーティー全体へ対物理・対魔法の防御補正がかかる、守護魔法系の秘奥義。
しかし、魔力が足りず、今は勇者のみへと補正がかかる。
それでも、魔力の尽きた身には過ぎる奇跡。
その反動により、僧侶はその場に倒れこむ。
「装気剣技!破山ッ!!」
曰く、その一振りは山をも砕く。
かつて魔界で名を馳せた剣豪が編み出した究極の剣技。
魔力で闘気を操り形となす。
本来は闘気で作られた鎧と剣を生み出す秘技。
青い炎となって顕現された実体を伴った闘気は、一切の攻撃も防御も無効にする。
しかし、戦士は、体を守るはずの闘気をすら、攻撃するために剣へと込める。
元来、魔力を待たない戦士が、己の生命力を代替品として、すべての闘気を剣に込めたその一撃は、さながら巨大なギロチンのように、魔王へと襲い掛かる。
しかし、魔王もまた、究極ともいえる一撃を持ってそれを向かい撃つ。
「崩壊する虚無ッ!」
闘気を込めた剣に対するは、魔力を込めた拳。
黒い光という矛盾ある光景。
しかしその威力は絶大だった。
戦士の攻撃と重なった瞬間、比喩ではなく、まさに世界が震える。
戦士の青い光、魔王の黒い光。
それが重なると同時に、さらに赤い光が混じる。
「傷だらけの体でも、こういうときには都合がいいや」
その光の源は、魔法使い。
傷だらけの肉体から吹き出す血液が、空中で魔方陣を描く。
「どのみち流れ出るだけの血なら、有効に使わないとね。召喚魔法・大いなる紅ァァッ!!」
己の肉体を生贄に魔力を生み出す禁術をもって行使するのは、自身が持つ最強の攻撃呪文。
炎を生み出しながらも、その術は、火炎魔法に非ず。
天を輝かせる太陽の力の一部を顕現させる召喚魔法。
魔の王たる魔王に自身の魔術が通用しないことは、これまでの戦闘でわかっていた。
ならばと、魔力を伴わない、物理的な威力をもつ炎を召喚したのだ。
「くぅ、こざかしいわ!!」
右手で戦士の剣を受け止めながら、左手で魔法使いの炎に抗う。
その左手にも黒き光。
驚くべきことに、戦士の秘技と同質の技を、両手で同時に再現して見せたのだ。
しかし、これで魔王の両手はふさがれた。
「はぁぁっ!!」
勇者が駆ける。
戦士と魔法使いによって生み出された、千載一遇の好機。
永きに渡る宿命の戦いに収支を打つべく、魔王へ飛び掛り―─
「ガァアアアアッッ!」
魔王の咆哮が勇者を迎撃する。
魔力と強大な殺気を込めただけの咆哮。
それは、最強の種族とされる竜種のみが可能とされていた吐息攻撃。
その一撃は、その気になれば一国の軍を丸ごと消し飛ばすほどの威力を秘めた、正真正銘、魔王の奥の手である。
しかし、勇者はそこにいた。
勇者としても吐息攻撃など意識の外。
その窮地を救ったのは、僧侶の守護魔法。
まさに命をかけたその守護の祈りは、魔王の必殺の呪いに打ち勝ったのだ。
「ありがとう、僧侶」
勇者の咆哮。
神によって祝福されたその力をすべて振り絞り、魔力、闘気、その生命力をも爆発させ、まさしくすべての力を一撃に込める。
そこに技は不要。
すべての力をただ一点に集めて振り下ろす。
「これで! 終わりだぁぁぁぁっっっ!!」
勇者の剣は、白く輝きながら、魔王の身体へと食いこむ。
戦士の青い光を取り込み、魔法使いの赤い光を取り込み、魔王の黒い光を切り裂きながら、その剣を振りぬいた。
「ぐわぁぁぁぁっ!」
黒い鮮血を振りまき、魔王はひざから崩れ落ちる。
今ここに、魔王は敗れたのだ。
「見事だ、神の代弁者……、いや、勇者よ」
初めて魔王は勇者の名を口にする。
その目にあるのは怒りや狂気ではなく、種族の限界を超えた強者に向けた敬意だった。
魔王としての矜持。
少なくとも無様な姿は晒さない。
今にも魔力へと還りそうな我が身を今一度奮い起こし、毅然として立ち上がる。
「安心するがいい。もはや我に抗うだけの命は残されていない。我は敗れた。胸を張るがいい勇者よ」
すべての力を出し切り、それでもなお、剣を取ろうとする勇者に声をかける。
「しかし、その前にひとつ予言しよう、勇者よ。我は蘇る。いつの日か必ず。光ある限り、闇もまたあるのだ」
そう言い残し、立ち姿のまま、魔力へとその身を還し、意識は白い光へと消えた。
「――はぁい。まんまでちゅよー」
……え?