07
「それでどこに行くんですか?」
「そうだな……どこに行きたい?」
誰かとでかけたことが、ほぼないから選択肢すらないんだよな。
「そうですね~。動物園的なところに行きたいです」
「動物園か……この辺にはねえな」
「じゃあ一番近い似た施設に行きたいです」
「そんじゃあ5駅先の水族館でも行くか。持て余してるICカードあるし」
「なんで作ったんですか……」
「バスで使えるって言われて渡されたけど、自転車で十分いける距離だから、雨でも降らないと使わないんだよ」
「あぁ……たしかに、よく聞きます」
「そんで、えっと……」
「あ、じゃあ先に行っています! 上りですか、下りですか?」
「上りで5駅だ。近くに、でっけえ電波塔があるからそこで待ってろ」
「はい、わかりました!」
そういってメリーちゃんは普通に走っていった。電話して飛んで行くわけでもないのか……メリーさんである意味あるのかそれ。
僕はあまり深く考えないようにして、ICカードをピッとしてホームに入る。さすがに休みなのもあって混み合ってる。
5駅位なら人少そうな各駅停車のほうで乗ってもいいかもしれないな。
楽観的だが、ある意味この考えは正解だと思う程度に先に来た快速は満員状態になっている。ギリギリ押しこめば乗れそうだが、僕は次の各駅停車に乗ることにする。
『まもなく2番ホームに電車が参ります。黄色い線の内側で――』
ホームにそんなアナウンスが流れて1分前後で、電車が来る。各駅停車は予想どおりすいていた。
僕は扉が開いて降りる人を見送り電車に――スーツケース持って出てきた人、なんか見覚えあるな。少し気になったが、ドアが閉まる前の音がなってしまったので、電車に乗ることにした。
どこで見たことあったんだっけな。
電車というものは実に便利で、1桁程度ならば都心に近いこの辺ならば10分前後でたどり着くことができる。
ただ、水族館の他にも観光スポットがあるこの辺だと、やはりそれなりの混み合いを見せているようだ。
「柴犬さーん!」
「お前は僕の一家をまるごとペットにする気か!?」
「すいません、先ほど柴犬を散歩しているイケメンを見たもので」
「記憶能力があやしすぎるだろ」
まあそれのおかげでメリーちゃん発見できたけど。
「いちいちこんなことを聞くのもあれだけど、入場料とかいらないんだよな。お前」
「そうですね。そもそも不柴さん以外には見えていないと思いますし、見えたとしてもそれを見えたと認識するかどうかの話になりますし」
「常々思っていたが、お前何歳だよ」
「中学1年生ですね」
「中学にいっていただと……」
いや、中学にしても若干博識というか、悟りきった考え持ってる気はするけど。
「身長は小学生だよな」
「それを不柴さんが言っちゃいますか。絶対前から数えたほうが早いくらいの身長ですよね」
「このやろう! お前が言わなければ絵がつかないかぎりバレなかったことを言うんじゃねえよ!」
いや、たしかに同年代の平均よりはちょっと小さくて、むしろ女子の平均ちょっと上くらいだけど。余計なことをしてくれたなこの少女め。
「ていうか、それいったらお前は合法ロリみたいな感じじゃねえか!」
「メリーさんに年齢の概念はないのです」
「じゃあなんで中1なんて具体的年齢がでた!?」
「……なんででしょう?」
こいつもしかして、自分がメリーさんと認識してるのに、自分が幽霊――つまりは死んでしまったりしていることには気づいていないのか? 生まれたままメリーさんだと思っているのか。
「おぉ~! サメと魚が同じ水槽に入ってますよ!」
「なんだったっけな。腹さえすかさなければ食わないし、適度なストレスになって長生きになるとかテレビで言ってた気がするぞ」
「カニです!」
「いや、それカニじゃなくて、でっけーエビだ」
「星!」
「ヒトデだ馬鹿!」
ていうかどう考えても、こういうところは小学生低学年そのものじゃねえか。ついていくのでやっとなお父さんの気持ちがよく分かるぞ。
昼になる頃に、イルカのショーが行われるということで、席についた時にやっと一息つけた。
「人がいっぱいですね!」
「そっちに注目するなよ」
「だって、わたしあの辺からでたことあまりないので」
「…………そうかよ」
メリーちゃんが一体、どんな人生を歩んでこんな状態になったのか。そんなことは僕に察することもできないし、同情したり解決することもできないだろうな。でも、まあこんな笑顔が見れるならたまにいじってやってもいいか。そんなことを思わないでもなかった。