06
メリーちゃんは見た目だけで言えば小学校高学年から中学生といったところだろう。その言動は純粋だが、純粋すぎてたまに辛辣という感じだ。そんな少女に朝から電話をかけるかどうかで迷っている僕は、恐らく、ここが家の中じゃなければ警察官を呼ばれるか後ろから肩を叩かれてしまうであろう挙動をしているだろう。
というか、自分自身他人のメルアドが入ったのが初めてという状況で、片方が学校のアイドル的委員長、片方は謎を多く秘めたいたずら電話少女という時点で異質な気がする。
そんなこんなでベッドの上でスマホに星座を続けること5分。意を決して、僕はそのスマホを持ち上げて電話帳を開こうとタッチ――する前にバイブが起動した。
「うおっ!?」
画面にはメリーちゃん(昨夜寝る前に名前をわかりやすく変えた)の名前が表示されている。電話の受話器のマークを左から右へとスワイプして電話にでる。
『もしもし、わたしメリーさん。今あなたの後ろにいるの』
そんな噂の怪談風の言い方をされた。僕はなんとなく付き合って後ろを向いてみたら、
「こ、こんにちは」
「…………」
いた。
「うわああああああ!?」
「へっ!? きゃああああ!?」
僕はとりあえずその小さな体を持ち上げて、高い高いした。
「これどういうことですか? 何してるんですかぁ!?」
「いきなり出てくるんじゃねえよ! びっくりしちゃうだろ!」
「ま、まって、どこ触ってるんですかぁ!?」
どこってそりゃ、脇腹とか腰とか胸とかだけど。見事なロリボディだな。
だけど、僕は決してロリコンってわけじゃないからな。だいたい、僕が好きなのは胸じゃないし。だからこそ、学校だと巨乳見ても欲情しないわけだけどね。むしろ僕に対しての挑戦は夏にしかない、体育の特別授業だからな。わざわざ、僕のフェチズムなんてここで暴露する気はないけど、胸はそうだな――第3要素くらいだな。
ひとしきりメリーちゃんがぶっ倒れるまで、撫で回した後に改めてベッドの上に座る。ベッドの上には疲れきったメリーちゃんが倒れてる。
「こ、これセクハラじゃないですかね。護神さん」
「おい、名前を間違えているぞ」
「すいません。最近、映画をみたもので」
「どこかの子供向けアニメの映画のサブタイトルと僕の名前を間違えるんじゃねえよ」
ていうか、あれ僕らの世代の映画だった気がするんだけど、よく知ってたな。若干、内容は大人向けな気がしないでもなかったけど。
「それで、なんで僕のところに来たんだ?」
一応、僕は聞いておこう。ミナさんが直接メリーちゃんに伝えているのか、否かで僕もその手の会話を気をつけることができるし。
「昨日は無理だったから、再チャレンジです」
よし、これは知らないな。じゃあ、極力あの人の関連は話さない方向でいこう。
「そうか。それで、成功したと?」
「はい……そしたら、ものすごいセクハラをされました」
「愛だ。おとなしく受け取っておけ」
「こんな愛は、生まれてこの方感じたことがありません!?」
僕だってこんな愛を表現したのは、生まれて2回目だから安心してほしい。
「まあいいや。それで、他に電話する予定のやつとかいないなら、どっか行くか?」
「おやおや? お暇なんですか?」
「日曜朝のぶっちゃけありえないくらい面白いアニメを見終わったからな。もはや僕の日曜日は夕方のアニメタイムまでは暇なんだよ」
「聞いてて悲しくなりますけど、あなたの顔から感じ取れる。やれやれそんなこともわからないのか。という達観した態度で、尊敬すらしそうですよ」
「どんな顔だそれ!?」
鏡はあんまり見ないけれど、これからはちょっとチェックしたほうがいいかもしれない。
「で、どうするんだ?」
「行きましょう行きましょう!」
「はいよ」
メリーちゃんは僕が返事すると、何故か窓からでていった。たしかに、玄関からでていったらどこから入ってきたってなるけど、その出方もどうなんだ――ていうか、普通に中途無く出て行ったあたり、本当に人じゃないと理解できる気がするよ。
「凛ちゃん。でかけてくるから」
「ほ~い」
玄関出る前にリビングでソファに寝転んで雑誌を読んでる凛に、一言伝えてから僕は家を出た。