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ドリーム・アン・ヒーロー(仮称)  作者: ゆっき/Yuyu*
メリーちゃんと電話
5/10

05

 スマホを確認すれば、かなり遅い時間となっている。僕は謎の手紙に書いてあった、近所とか少し言いがたいが、近場では一番大きく小さいころよく来ていた星影公園へと赴いた。

 街灯が所々で光っているが、さすがに暗い。

「イタズラだったのか?」

 公園を一周して、誰も居ないことを確認してそう呟いた。そして、僕は何気なくジャングルジムみたいな回すアレをみた。

 何故そっちをみたのかはわからない。だが、そこにはいた――謎の女性が、謎の空間から、謎をまとって現れた。

「こんばんは。不柴水都くん」

 そうあいさつする女性。だが、その場所は明らかにおかしい場所だ――片足しか置けなそうな細い柱の上に傘を開いて立っているのだから。

「……こんばんは。あなたがこの手紙を出した人ですか?」

「正解よ。あたしは境界(きょうかい)神名(みな)というわ。気軽にミナさんとでも読んで頂戴」

「不柴水都です……そんじゃあ、ミナさん」

「あぁ……年下からそんな風に下の名前で呼ばれると照れちゃうわ」

 何なんだこの人。

「いいですか?」

「ちょっと、まって。今、そっちに降りるわ」

 彼女はそう言うと、傘を閉じた。そして、1回の瞬きという自然現象の瞬間に視界から消えていた。

「よいしょ」

「えっ!?」

 そして次に聞こえた声の方向を振り向くと、僕の後ろのベンチに彼女は座っていた。

「それで、なにか質問があるのよね? お姉さんに言ってみなさい」

「あ、あぁ……今日の全てって一体何のことなんですか?」

 なんとなく年上を相手にしている気持ちになり、敬語になってしまう。

「そうだねぇ、どこから話せばいいのだろうね。そもそも、この話は普通は“人間”にはしてはいけない話なのだけれど。しかし、君はすでに故意だろうと事故だろうと、足を踏み入れてしまった……そして、その体もね」

 なんだ。どういうことだ。この人は一体何を言っているんだ。

 さっぱり理解の追い付かない僕をよそにミナさんは話し始める。

「みなみんは――」

「みなみん?」

「そう。みなみん――みなみんは怪談とか神話・逸話なんてものは知っているかい?」

「そりゃ、有名所なら多少は……?」

「それじゃあ、それが実在しているということは知っているかな?」

「実在?」

 怪談や神話なんてのは、それが人智を超えていたり、科学的・現実的に考えてありえるはずがないからこそ、そうなるのではないだろうか。ますます、僕は彼女の言っていることがわからなくなってくる――だが、

「もしかして、メリーちゃんのことですか?」

「ピンポン。正解だよ。ちなみにこのピンポンは正解の時になる音のピンポンで、有名な卓球の映画とかアニメとか漫画のタイトルじゃないよ」

「んなことはわかってますよ……でも、あれなんかただのいたずら電話じゃないですか……」

 いや、まて――そもそも、この人は何故それを知っているんだ? あのことを知っているのは僕とメリーちゃん本人。そしてかろうじて近くにいた神宮寺が察することができるかもしれない程度でしかないはずだ。

「あの子は最近怪異となったばかりの子でね。元は幽霊や何かに近かったんだろうけど、環境に影響されちゃったようだ」

「環境? 怪異?」

「怪異譚なんてよくいうだろう。怪談の一部の話のことを」

「たしかに、そんな名前は聞きますけど……でも、それと環境って」

「まあ、そういそがないでいこうよ、みなみん。今日は初歩編なんだからね。とりあえず、怪異についてとメリーちゃんについてだけ話をしようじゃないか」

「初歩編? ……なんかもう若干ついていけてないんですけど」

「君は思っていたよりもものを考える子らしい。それなら、1回思考をすっぽり投げ捨てて。この世界には怪異と呼ばれる怪談や神話などに影響される現象が存在している。そしてメリーちゃんもその一種だということを頭において話を聞いてみてくれるかな」

「はあ……?」

 よくわからないが、そういうことなのかと思って聞いてみよう。

「まずは怪異については、今大雑把に言ってしまったけど、怪談や神話・逸話、果ては民間伝承やネットのホラー小説サイトまで様々に渡る。この世界には、それらが現象として存在している。いや、存在することになっているんだよ。よく言うだろう。人間の性格は遺伝よりも環境によって変わってくることが多く、両親に似る理由は、両親と同じ環境で育っているからだって。それと同じように怪異も、周囲の環境――特に人間の意識に影響されてくるんだ」

「人の意識に影響って、どういうことですか。まさか誰かが超能力を使っているとかそういうあれですか」

「いや、そんなことはない。それ以前に、言葉をそのままの意味で取って欲しいのだけれど、幽霊っていうのは存在として認識できるといえるのだけれど、怪異は現象なんだよ。幽霊が太陽や月だとしたら、怪異は台風や地震だね」

「実態としてあるんじゃなくて、あくまで突発的に起こる自然現象ってことですか」

「大体、そういう認識でいいよ。物分りがいい子は大好きだ。それじゃあ、次のステップに進もう。メリーちゃんについてだ」

「……今の話を聞く限りは、メリーちゃんは有名なメリーさんの電話の怪異ってことになるんですよね」

「そうだね。でも、もとは幽霊だったんだろうね」

「人に形をとっている場合は幽霊なんですか?」

「いいや。そんなことはない。最初から人のような形をとってる場合もあれば、動物の場合もある。果ては邪神なんかは名状しがたい形になっているよ。あれは、あたしも嫌いだね。だけど、今回の場合はメリーちゃんは死んで見れんが残ってたのが学校だったみたいでね。その学校ではちょうど今、メリーさんの電話の怪談話で盛り上がっているそうだよ。夏も先なのにお早いことだね」

「別に春でも怪談やるのは好きにしていいじゃないですか……でも、そしたらますますメリーちゃんには納得いきませんよ。僕は電話に出たのに背後に現れなかった」

「それは、彼女がまだ幽霊――すなわち人と怪異の狭間にいるからだよ。中途半端だから成功率が低いのさ――と言いたいところだけれど、実は原因はお姉さんも調査中でね」

「へっ?」

「あたしはなんでも知ってる風に話しているけれど、なんでも知っているのはあたしの知り合いの賢者でね。あたしはあくまで仲介でおせっかいをやきたくなるだけなのさ」

「なんでも知ってるかと錯覚する程度には話を聞いちゃいましたよ」

 言っていたことが全部本当なのかは、正直わからない。ただ、なんとなくだが理解できないこともないかもしれない。後は、メリーちゃんが実際にそんなことを起こしてでも見せてくれれば信じられるかもしれないんだけど。

「まあ、それでだ。みなみん」

「はい?」

「あたしが今日ここに君を呼んだ理由は実はここからでね」

「はあ……そういえば、なんで呼んだか聞いてませんでしたね」

「そのメリーちゃんについてなんだけどね。ちょっと、明日1日近くにいてやってくれないかな?」

「……え? いや、別にそれくらいはいいですけど。なんで?」

「最近この辺に、厄介な怪異が現れていてね。その狙いのひとりにあの子が入っちゃっているみたいなんだよ。だから、お願いしたいってこと」

「……なんかよくわかんないけど、明日1日面倒見てやればいいってことですよね?」

「簡易的に言えばそういうことだね。お願いできないかな?」

「まあ、わかりました……ただ、ひとつ条件があります」

「なにかな? お姉さんに可能なことなら、できるだけ叶えてあげよう」

「今日はなんかいろいろ聞きすぎて、聞かないですけど。他にも質問したいことがあります。今回のその1件が終わったら教えてもらえませんか?」

「なんだ。そんなことかい。あたしに答えられることなら答えてあげるさ。交渉成立だね」

「はい……」

 口約束だ――だが、紛れも無くこの口約束は契約と言っても過言ではない重みを感じ取ることができる。たかが、少女の面倒を1日見るだけのはずなのに、一体どうして僕はここまで重みを感じてしまっているんだろうか――いや、わかっている。彼女の言葉の重みが原因だ。

 こうして、僕は謎の女性との、謎の多い契約を、謎な心のままに成立させたのだった。今日だけで謎という言葉を何回使っただろう。そう思わざるをえない1日がここで終わった。


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