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ドリーム・アン・ヒーロー(仮称)  作者: ゆっき/Yuyu*
メリーちゃんと電話
4/10

04

「それじゃあ、もういたずらすんなよ」

「わかってますよ!」


 日が空高く上がり、そろそろ昼時となる時間に、僕はメリーちゃんと別れた。何故か神宮寺は依然として動かない。

 当初の目的だった本屋に向かうわけだけど、そうして歩き出すと後ろをついてくる。

 今日の神宮寺は一体どうしたっていうんだ。もしかして、僕は本当にいじめられていて罰ゲームとして、僕に勘違いされるまで帰ってくるなとかそういうあれが起きているとか――いや、駄目だ。知らない人を疑っちゃいけない。僕のクラスメイトだぞ。たとえ、名前の知らない神宮寺の友達だろうと、そうなんだから疑っちゃいけない。被害妄想は悪い癖だぞ、不柴水都。

 とにかく、そんな不可解な同級生に話しかけるべきか否かを迷っているうちに、迷いに迷って、正しい道を歩いていた僕は目的の本屋へとたどり着いた。


「えっと、それじゃあ、僕はここ目的できてたから……これで?」

「うん、じゃあまたね」


 最後にようやくそんな挨拶ができたが、神宮寺はすぐに去っていった。本当に何だったんだろうか。

 その後は、とてつもなくスムーズで、先程までの紆余曲折がうそのような。ライトノベルなどでは省かれてしまうんではなかろうかというほどに、普通に事が進んでいった。

 目的の本が平積みされていて、妹に頼まれた雑誌も売っていて、お釣りが出ないように払おうとしたら2円足りず大きいので払うことになって絶望して、本屋の近くの屋台でアイスクリームのミント味を買って、本屋の若干大きく感じる手提げ袋片手に帰り道を歩いて、家にたどり着いた。


「ただいま」

「おかえりなさ~い! プリティ買ってきてくれた?」

「買ってきたから急かすんじゃねえよ」


 僕は袋の中から雑誌を出して渡してやる。


「やった! ありがとう、お兄ちゃん」

「おう、そんじゃ。僕は部屋で本読んでるから」

「はーい……あれ? お兄ちゃんお兄ちゃん」

「なんだよ?」


 話が終わると思い、すでに階段に向かって歩き始めていた僕だったが、妹の声に律儀にも振り返ってまで足を止めた。

 そして、凛はその手に小さな封筒を持っている。


「袋から落ちたよ?」

「は? そんなもん買った覚えも、もらった覚えもねえけど」

「そう言われても、さすがにこの距離じゃ見逃さないし見間違えないって」

「……それもそうか。店員さんかどっかで紛れ込んだか?」

「とりあえず、お兄ちゃんが持ってるべきだと思うけど。今日どこ歩いたか詳しいことは知らないし」

「そうだな。ちょっと、中身見せてもらって宛先わからないようなら交番にでも届けるよ。もしかすると、本当に僕宛かもしれないし」

「シャイな子からのラブレターだといいね」

「そんなフィクションみたいな事がありえてたまるか」


 軽口を叩きつつ、その宛名も出し主も住所も郵便番号も書いていない封筒を受け取り階段を上がって自室へと入った。


 さて、今回の新刊はどのような話だろう。この作者はもともとはミステリー作家であるが、作家として大成する前までは翻訳家として仕事していたらしい。今でも、外画の吹き替え台本や字幕作成などの仕事は後を絶たない、言ってしまえば有名人である。

 そんな彼の作品で、僕が気に入っているこの心語シリーズは、言ってしまえば半分趣味で書かれているらしく、それまでの作品を比べると挿絵が多く、起用されているイラストレーターもどちらかと言えば萌系で、言ってしまえばライトノベルとして確立している。

 だが、そんな中でも人間の深層心理などが行動から垣間見えるところは、やはりミステリーを書いているだけ会り、人の行動を知っていたりするからこそだろう。

 そして主人公の極めつけなセリフは「ある外国の偉人は言った――意訳すると――である」というものだ。外国の様々な偉人や有名な言葉を意訳して使うのだ。

 この作品とは関係ないが、例を出すとすれば夏目漱石の意訳といわれる逸話「月が綺麗ですね」がそれに当たるだろう。


 閑話休題。


 そんなこんなで、新刊を読み続けていると気づけば、窓の外はオレンジ色の空が広がっていた。

 喉も乾いたので水でも飲もうかと新刊を机の上において立ち上がる。その時、封筒が落ちて僕の足にあたった。正直な話、僕の頭のなかから封筒の存在は片隅に放り投げられていて、ほぼ喉の渇きと新刊の内容でしめていたのだが、ここまで自己主張されては見ないわけにもいかない。


 僕はリビングでコップに冷えた麦茶を入れて部屋に戻ると、封筒をなんとなく丁寧にカッターを使って開けた。

 中身は観た感じ何の変哲もない無地の紙だ。折りたたまれたそれを開くと、現代的に言えば珍しく手書き、それも筆ペンを使ったような字で書かれている。


「は?」


 内容を読んで僕は思わずそんな声を出してしまった。


『今日のすべてを知りたければ、今夜月が昇る時間に星影公園で』


 短い。とくに意味が深いこともありそうになく、単純明快な手紙だ。だが、その最後に僕の名前がしっかりと記されている。

 つまりはこれは意図的に、本屋から帰る間のどこかで入れられたものだと考えられるわけだ。こんな犯罪に関わりそうな手紙は無視するに限る――普段の僕ならばそう思っていただろう。

 ただ、正直な話、今日のことに限定されれば不思議な事が多い。あのメリーという少女も不思議ではあったが、それ以上にメリーちゃんのスマホの画面を観た時に入ってきた謎の何かだ。知識的・知能的・理性的には未だに理解できないのに、本能ではあれが何かを理解している。そんな、気味の悪い――気持ちの悪い――不吉な感覚が僕の片隅で暴れ続けているのだ。

 幸い、僕の両親や親バカゆえの放任主義という謎な方針での教育を受けているため、夜の外出をどうこういわれることはなかった。あえて言われたことといえば、明日の朝、起きた時に家の中にいなかったら引っ叩くと凛に言われた程度だろう。


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