03
少女の悲鳴が上がりながらも、周りの家などから誰も出てこなかったりと不自然なことはあるが、とりあえずいたずら電話の主――仮にメリーちゃんとしておこう。
メリーちゃんを確保した僕は、熱中症などの心配もあるので近くの公園にある、でかい桜の木の影に腰を下ろした。メリーちゃんはおとなしく肩に担がれてくれた。
「それで、何でこんなことしてたんだ」
「それがわたしの役目だから」
「イタズラ電話をかける役目ってなんだよ……」
「メリーさん!」
駄目だ。話が通じない。この状態で、今後はこんなことしちゃいけませんよ。なんて言っても、絶対に本気に受け取らないと思うんだよ。いやね、僕は別に悪いことをした子供を叱りたいわけじゃ決してないんだ。ただ、妙に僕の携帯にしつこく電話かけてくるからやめさせないと、またかけてきかねないなって思うことから。そう、つまりは先を読んで対策をとることを今しているんだよ。
「……そうだ。お嬢ちゃん」
「なに?」
「お兄ちゃんがお小遣いをあげようじゃないか」
「えっ!? やったー!」
完全に怪しい人である。
だが、その間にまだ返してなかったスマホの中身を確認してみる。幸いにも、タッチすれば開く初期設定のスマホだった。
だが、そのスマホを飛来た瞬間に、僕の予想を。いや、人間の予想を範疇を超えたナニカが画面から飛び出てきた――。
ワレ、ココニアリ。
ヒトナラザル。ユエニヒトデアリツヅケル。
神人にて、死人であるべき、生と静を生き続けるモノ。
混沌のダシ、闇のカルドがギニアの聖杯を満たし続けル限り、人の叡智の時はコぬ。
「うわああっ!?」
思わず、スマホを落としてのけぞってしまう。そのまま、桜の木に頭をうって、ものすごく痛い。
「だ、大丈夫?」
「え? あぁ、うん。大丈夫だ」
さっきのはなんだ。理解できない何かが、目から頭に入ってきた。
僕の脳はそれをかろうじて理解させようと、言語化してたはずなのに――さっぱりわけがわからない。さっきのは何だったんだ。というか――。
「このスマホ返すよ」
「は、はい!」
笑顔でそのスマホを受取るメリーちゃん。いや、奪ったのが僕だからこの笑顔に、何かの感情を抱いてはいけないわけだけど、それ以上に気になる。
メリーちゃんはこのスマホを使っていてもなんともない。この違いは一体何なんだ。
「お兄さん、名前はなんですか?」
「ん? 不柴水都だ。水の都って書くんだぞ」
なんとなく、年齢もわからないので近くの樹の枝を拾って、地面の砂に漢字を書く。
「水の都! すごい、綺麗な名前ですね!」
ものすごい目をキラキラさせてそう言われてしまった。そんなこと妹にしか言われたことがないぞ。しかも、小学校時代のピュアで漢字を習ったばかりだった。
「うん……ありがとう」
「うにゃっ……な、なんで撫でるんですか」
無意識に頭を撫でてしまっていた。いや、すごい高さ的にもちょうどいいし、撫でたくなっちゃうことはあるだろ。
「それで、お嬢ちゃんの名前はなんて言うんだ?」
「メリー! メリー・スチュアラ・フォートです!」
すごい長い。えっと、メリー・スチュアラ・フォートか。
「メリーちゃんでいいか?」
「まあ、それでいいです」
ここに来て、若干の妥協した感じ。先程までのピュアはどこにいったんだ。
「じゃあ、メリーちゃん……とりあえず、僕にやたらめった電話をかけてくるのはやめてくれないか」
「だ、だって、普段と違ったんですもん」
「普段と違った?」
「普段は電話をかけて少し話せば、その人の後ろに移動できるんです」
何だその、ホラー現象。移動する本人すらホラーを感じちゃうんじゃないか。
「うん、まあよくわかんないけど。とりあえず、普段と違う以前にいたずら電話をするのを、やめないかな?」
「いたずら電話じゃないです。わたしの生きがいです」
「……自分の知らない番号に電話をかけるのが?」
「そうです」
どうしよう。この子にいたずら電話が何かという、小学生以下に説明するようなことを言わなければいけないのか。それなら、むしろ着拒したほうが利口な気がしてきた。ていうか、僕はここにくるまでに着拒の存在を忘れていたんだろう。
――そうか、着拒する相手がいないのが当然と思っていたからだ。あれ、目頭が熱くなってきたぞ。
「それなら、そうだな……」
「…………」
僕の続きの言葉を待ってる様子のメリーちゃん。ぶっちゃけ僕はヒーローとか、主人公なんかになるつもりはないんだ。僕に被害がなければそれでいい。
こういうのは逆に考えればいいんじゃないか。知らない相手にかけるのを生きがいにしているなら、こちらから教えてしまえばいい。
「メリーちゃん、僕を連絡先を交換しないか?」
「へっ!? いいんですか?」
おっと、予想外の反応だぞ。僕はここで、そんなことしたら今後電話できなくなるからダメです――みたいなのを予想していた。だが、答えはとても嬉しそうに、本当にいいのか今一度聞いてくるという反応だった。
「い、いいに決まってるじゃないか! 人類みな友達だって言うだろう!」
「そうですね! 人類みな友達です!」
とりあえず、赤外線という便利機能を使ってプロフィールを送り合うことにする。
「えっと、これでいいのか?」
僕は送信側で初めてこの機能を使って送信してみる。すると画面に『2件送信完了しました』と表示される。
「では、つぎはわたしが」
「ついでに私も」
ん。今なにか声がひとつ多かったぞ。画面には『メリーを登録しますか?』と表示されて、はいのボタンを押す。その後、続いて2件目の――神宮寺わかなを登録しますか。という表示を見た瞬間に、隣にいつのまにか増えていた気配の主を確認・認識した。
「うおっ!?」
「また、そんな反応」
「だ、だって、てっきりあそこで別れて、家に帰るなり目的に向かってるかと思ったから」
「小さな女の子に背後から近づいていく、同級生をそのまま見逃すと思うのかしら?」
「…………」
そういえば、あの状況なら絶対に見えますよね。
「だけど、犯罪に手を染めたりしてるわけじゃなさそうだったから。今日は私の番号も登録することで許しておくわ」
「そ、それは、ありがとうございます?」
――よくわからないが、神宮寺わかなという超人気者の番号とメールアドレスを、僕はゲットすることとなった。