02
春も桜が散った頃。もうすぐGWが始まる。そんなある日のことだ。
僕はいつものように妹の凛に、腹へマヒ効果がたまに付加されるのしかかりで起こされた。
「ごファッ!?」
「あ、起きた?」
「強制的に二度寝させる気か、お前……」
「そんなに重くないもん」
「体重の問題じゃねえ……早く、降りろ」
「ほ~い」
しぶしぶと腹、もとい僕のベッドから妹がおりてから、僕も起きる。
「そういえば、お兄ちゃん。携帯なってたよ?」
「アラームじゃねえの?」
「アラームだったならそれで起きてよ、もう。なんか画面に通知でてたから違うと思うけど。わたしが部屋はいった時に消えたから、細かい確認はできなかったけど」
「……そうか」
一応、確認しておく。確かに覚えのない番号から電話通知がはいっている。
「ていうか、お前。今日休みなんだから起こす必要ねえじゃねえか。日曜日、アニメタイムならともかく」
「昨日出かけるとか行ってたじゃん。だから、心優しい妹のわたしは、お兄ちゃんを起こしてあげたわけですよ! 感謝してください!」
「はいはい、感謝しておくよ……本屋行くだけだから、別にそんな急ぎの用じゃなかったけどな」
「あ、本屋行くの? じゃあついでにプリティ買ってきて~」
「なんでだよ!?」
「いいじゃん」
「……仕方ねえな」
「やった。お兄ちゃんのそういうところ大好き!」
お兄ちゃんは、なんだかんだ妹に甘くなってしまう、by不柴水都。
そんな名言を部屋に残して、僕は服を着替えて外へと繰り出した。携帯の不在着信のことなど忘れて。
その外はというと、晴天も晴天の炎天下だった。コンクリートの道に差し込む日が、さらに体感気温を上げていく。その上、僕は春だからまだ寒さもあるかもしれないと長袖なんかできてしまったわけだから、救えない。
額からでた汗が顔をつたって顎から地面に落ちていく。そんな気がする。
僕は、やむを得ず途中自販機で、飲み物を購入した。
「おい、本屋までの道ってこんな魔王を倒しに行くくらいの労力使う道だったか?」
自問してしまう。答えは自分からすらも返ってこない。
そして、意外にもこんな謎がキラキラきらめくことに、答えを返してくれる人間が、偶然にも現れた。
「それはこんな日に、長袖で上着まできてるからじゃないかしら?」
僕はうなだれた頭をゆっくりを上げる。そこには、形のよい平均より少し大きめのおっぱいがあり、そこをさらにゆっくり通り過ぎることで、神宮寺の顔に到達した。
「って、神宮寺!?」
思わず後ずさる。というか、聞かれていたことが若干恥ずかしい。
「そんなお化けを見たような反応されるを傷つくな~」
「い、いや、すまん。つうか、こんな所で何してんだ?」
「ちょっと散歩かな?」
「そ、そうか。散歩か……そうだよな。散歩くらいするよな」
我ながら会話になってないと、とても深く思う。
その後、それなりに頑張って本屋へと再び歩き出したわけだ。だいたいうちから歩きで40分ってところにある本屋。少し大きめ。いつもは自転車で行くが今は修理中。
そして何故かついてくる――
「…………」
「…………」
かと言って、話す話題を見当たらないし、何でついてくるんだとか聞いて「自意識過剰よ?」とか笑顔で言われた日には、心が折れて蟻地獄の巣の中に引きこもることになるから聞けない。
そして僕は現代っ子らしく、自分のスマホに手を出した。
「……誰だ?」
改めて見ても知らない番号だ。僕の電話帳にはそもそも家族とメルマガしか入ってないから、その他からかかってくることなんてないと思う。ネット通販とかも、頼んでないしな。
が、その時、その番号から電話がかかってきた。
僕は何を思ったのが、それにでた。
「もしもし……?」
最初は無言だったが、その後――
『もしもし、わたしメリーさん。今、自動販売機の前にいるの』
そんな言葉を残して電話が切れる。
「……んなもん、今の時代そこかしこにあるだろ」
というか、一番マヌケなのが非通知にすらなってないで、電話番号が丸バレなことだよ――イタズラなことがバレバレじゃねえか。
だが、いちいちそんなイタズラの相手のことを考えても、意味ないと歩き始めた。
数分後。
『もしもし、わたしメリーさん――』
1分後。
『もしもし――』
「うるせぇぇ!!」
僕は思ったより短気だったようで3回目で、こちらから切ることになった。
「そんだけいうなら後ろでも何でも来ればいいだろ!」
「あ、あの、不柴くん?」
後ろから声をかけられて思わず振り向く。
神宮寺の存在をすっかり忘れてしまっていた――その僕を見る目は困惑と心配を感じる。
「あ、あぁ。ちょっと、なんかしつこいイタズラ電話がきてな」
「そうなの?」
「そうなんだよ」
何でこんなこと話してるんだろう。学校でも、事務的なことしか話したことなかったはずなんだけど。
とりあえず、この迷惑電話をどうにかしないと。またスマホがブルブルと震えるが、そのまま切って――おもむろに電話番後に位置確認のGPS機能を使ってみた。
「…………」
奥の路地を曲がったところの住所がでてきた――こういうイタズラにはお灸をすえてやらなければいけない。
「不柴くん?」
僕は壁に背中を貼り付けて極力足音を立てずに移動を開始する。それと同時進行で「この人何してるんだろう」みたいな神宮寺からの視線にたいして心の防御壁を作り出す。
そして、曲がり角についた所で、恐る恐るその先の道を覗きこむ。
小さい。
小さい黒のワンピースをきた少女がいた。恐らく、小学生か中学生くらいだろう。
その右手にはスマホが握られている。
「何してるのよ?」
「いや、ちょっとな……音を立てないようにしてくれ」
多分、あれが例のメリーさんなんだろう。
僕は、先程まで何度もかかってきていた電話番号にこちらから電話をかける。すると、読み通り少女の手元のスマホがなり――迷うことなくでた。
『は、はい。もしもし』
「もしもし、お嬢ちゃん。さっきまで、何度も電話されてたお兄ちゃんなんだけど」
『えっ? ……あ、電話番号!?』
電話には音が入るが、外にはあまり聞こえにくいくらい小声で話しながら背後から近づいていく。
『そ、それでなんですか。わたし、メリーさんですよ。こ、怖くないんですか!』
「もしもし、僕は不柴っていうんだ。今――」
あたふたしている少女の背後にたち、ゆっくりとその肩に手を置き、
「きみの後ろにいるんだ」
少女が落としたスマホを僕はしっかりとキャッチしてあげる。そして、震えながらゆっくりと振り返るその少女の顔は恐怖に満ち溢れている気がした。
「キャァァァアァアアア!!」