01
不柴水都はクラスでいう一匹狼の立ち位置を与えられて日々を過ごしている――当然ながら、体育のペアなんて奇数で余れば組はしないし、グループ活動でも大きな役割にはつかない。
髪が長く右目が隠れてしまっていることで暗いという印象を与えているのが原因か。それとも1度たりとも言われたことはないが、よく言う目つきが悪いなんて理由で不良のレッテルでも張られているのかはわからない。
だから、僕はとりあえず言わせてもらいたい。
いじめではないんだよな――あくまで一匹狼で、あいつは1人が好きみたいだから放っておいてやるのが一番なんだって、という気遣いであって、僕に対して何か嫌悪感を抱いて距離をとったり無視をしているわけではないんだよな。
そんな誰も答えてくれない心からの心の声での質問をしながら、何故か集められ忘れた進路調査票をだしに、僕は職員室までの道を歩く。
そんな道すがらのことだ。僕にとって――いや、この学校ではある種の当たり前となった「あの先輩」「右目隠れてる人って」という隠しきれてない小声を聞き流しながら職員室までたどり着くと、僕の目的の担任のところに、珍しい人物が立っていた。
委員長キャラ立ち位置の神宮寺わかなだ――黒髪の三つ編みおさげ。委員長ではなく副委員長であるのだが、どちらかといえば彼女が委員長扱いされてる感じはしている。この高校のクラス委員長は男女一名ずつなわけだ。
基本的には、僕のプリントを集めてくれるのは彼女であるが、今回は男の真・委員長がひとりで集めたらしく、こういう結果になったが――なんで職員室にいるんだ。
僕が入口付近の先生に、要件伝えている間にあっちの話は終わったらしく彼女とすれ違うことになった。
「お、不柴。どうした?」
「なんか、進路調査票スルーされたまま放課後迎えてたみたいで、出しにきました」
「何? すまん、さっきまで職員会議があってまだ確認していなかった。わかった。ちゃんと、先生が受け取ったぞ」
「うっす」
まあ、担任はちゃんと僕のことを見てくれている気はしてる。悲しい青春とか妹には言われたけどな。
そんなある日のこと。
そんなその日のこと。
そんなこの日のこと――僕は見てはいけない物を見てしまった。
担任に進路調査票を提出し、さながら家に帰れば何かいいことがあるという、謎の確信に心のスキップスソングを聞きながら教室に戻った時だった。
僕は自分の机に直行すればよかったものを、教室に入った瞬間その机にいる人物が目に入り、見てしまった。
否――見ざるをえなかった。
「……………………」
長い沈黙の後、僕は自然的に、本能的に、当たり前に――瞬きをした。
その瞬間に、その視界は現実へと戻った――そうだ。ありえるはずがないのだ。
「あれ? 不柴くん。どうかしたのよ?」
「い、いや。ちょっと、職員室に行っててな。帰るために荷物を取りに来たんだよ」
僕は少し緊張しながら、そう答えた。
久しぶりに女子を会話をしたから。
神宮寺わかなという人気者を話したから。
そういう緊張ではなく――ありえない状況をありえないと思いたいから。
――彼女の頭に耳がつき、狐のような尻尾が生えていたなどという幻覚が幻覚である確信をするため。
「そっか。お疲れ様」
「あ、あぁ……そんじゃ」
「また明日ね」
「……またな」
だが、そんな緊張も疑惑も、彼女の微笑みと挨拶によって吹き飛んでしまった。
そう、その時は、いとも簡単に、意識の外に。