時の砂
放課後。校長室
高見沢校長「今日もよく働いてくれたね。」
杉三「大分日のくれるのが早くなりましたね。」
高見沢校長「そうだな、君は歩けないんだから、きをつけて帰れよ。」
杉三「はい。」
高見沢校長「また、あしたね。」
杉三「はい。」
といって、学校を出ていく。彼の家は、車椅子でもすぐにつく。
道路を移動する杉三。
ある、人物が彼のあとをおう。制服は吉田高校のものではない。女子だ。
女子「影山さんですよね、正式名称は影山杉三。」
杉三「そうですけど、」
と、車椅子を止める。
女子「私は、藤田高校のものです。演劇部に所属しております。取材したいのですが、ちょっと家まできてもらえませんか?」
杉三「どこですか?」
女子「すぐそこです。」
杉三「お名前は?」
道子「海野道子です。」
杉三「そうですか。わかりました。」
道子「じゃあ、きてください。」
と、杉三の車椅子を押し、帰り道とは、逆の方向にむかう。そうして、あるいえにたどり着く。しかし、その家は、一見すると、普通の家なのだが、、、。
杉三「家の段差が、、、。」
道子「じゃあ私が。」
と、彼を背負う。驚くほど軽かった。
道子、ドアをあけ、
道子「つれてきましたよ。」
すると、中年の男性がやってくる。外国人のようだが、、、。
男性「これはこれはどうも。」
訛りがない。
杉三「はじめまして。影山杉三といいます。」
男性「よくぞんじております。私は西代といいます。あなたは、文字の読み書きができないそうですね。本当にひらがなもカタカナも書けないのですか?」
杉三「はい。」
西代「そうですか。」
杉三「藤田高校の方ですか?」
西代「はい、私たちは藤田高校演劇部のものです。学園祭にて、あきめくらの方を主人公にした物語を披露する予定でしてね。それで、本当にあきめくらの方に、取材をしたいのです。あきめくらを利用した振り込め詐欺という、シチュエーションです。」
杉三「振り込め詐欺ですか。あいにく、あきめくらはATMを操作できないから、振り込みはまずできませんね。」
西代「では、人間が振り込むとしたら?」
杉三「それもできません。振り込み用紙は書けないし、どれが千円なのかも、わからない。」
西代「そうなんですか、せめて、福沢と野口の違いくらいはわかるでしょ?」
杉三「いや、わかりません。顔を見分けることはできたとしても、その数字が読めないのです。」
西代「わかりました。では、親御さんがやるとしたら?」
杉三「さあ、どうでしょう?」
西代「だってあきめくらの方が 、事故に巻き込まれたというのなら、親御さんはだまっていないでしょう。」
杉三「まあ、そうかもしれないけど、少なくとも、僕のうちでは、それはないです。あきめくらであれば、遠出はまずできないのです。それに、遠出したとなれば、必ず誰かに助けてもらわないとできない。そうしてかかわってくれる人がいるんだから、 嘘だと直ぐにわかります。」
西代「しかし、杉三さん、なかなかそういう親切をしてくれる人はいないでしょう?」
杉三「確かに、いやがる人もいますけど、あきめくらは、一人ではなんにもやれないのです。逆にいやがる人の方が、覚えていてくれるものですよ。」
道子は、あきめくらである杉三にたいし、目付きがかわってきた。
道子「この人、本当に悪を知らないのね。」
そういうと、自分のやっていることが、本当に、、、。
西代は、イライラしていた。
西代「杉三さん、あなたは、一人ではそとへ出られないといった。また、人間を美化していますが、人間は美しい人ばかりではありません。中にはあなたを利用して、詐欺かなにかをしようとする人もいる。そうなったらどうします?あるいは、身代金目的の誘拐にあったとかしたら、あなたはあまりに人を美化していると、助からなくなるかもしれませんよ。」
杉三「そうしたら誘拐犯のひとは、扱えなくて困るとおもいます。だって、住所も、電話番号も書けないのですから。」
西代「では、どうやって暮らしているのです?あなたはいずれは一人にならなければいけない。親御さんだって、無くなるんですから、いずれは生きなきゃいけない、いや、一人になれなきゃいけないんです。」
杉三「本当にそうでしょうか?もし、一人でなんでも出来るんだったら、大地震でも、起きたときに、助け合ったりしない世の中になるとおもいますけど?」
西代「お話になりませんな、あなたの甘えようもほどがありますな。よし、しごきましょうか。道子!」
ところが何の反応もない。
西代「道子!」
西代「おい道子、なにをしているんだ!」
道子「私にはむりです。ここまできれいな人からお金を騙しとるなんて、この人があまりにもかわいそうで。」
西代「もう一度いってみろ、お前が望んでいたことがやっと、実現するんじゃなかったのか?」
道子「それはそうですけど、この人ではなくて、別のひとにすればよかった。いくらあきめくらだから、一番殺りやすいとおもっても、彼はかわいそうすぎます。」
西代「じゃあ、どうしたらいいんだ、お前が、あの学校に復讐しようと思ったんじゃないか、」
杉三「道子さん」
道子「なんでしょう。 」
杉三「その制服はどこですか?」
道子「これは、、、。」
杉三「この辺りには、見かけない制服ではありますが、学生アイドルが、ステージ衣装で、着用しているものですよね。
最近デビューした人たちで、名前はよめないのですが。」
道子「なぜそれがわかるのですか?」
杉三「つまり、あなたは高校生ではないですね。すごくはでな化粧をしているけど、それをとれば、年齢がすぐわかります。お二人は、親御さんです。そして、僕を利用して、吉田高校から、身代金をとるつもりだったんだ。」
道子「ほんとうに、このひとには叶いません。私たちは、一人娘を、あの高校に殺されたのです。進路指導といいながら、屋上から飛び降りるようにさしずするなんて、あまりにもむごすぎます。娘は、二度とかえりません。でも、あの教師はいきています。それを考えると、悲しくて、ここまで人を恨んだことはないでしょう。」
杉三「もしかしたら、高橋と、高野ですか?あの二人は確かに極悪人です。僕も、何人かあの二人からひどいことを言われた生徒さんをしっています。」
西代「まだあの二人は、やっているのか、教師を!私たちがどのくらい苦しんだか、死んでからでしか、わからないだろう。道子のお母さんも、娘を心から可愛がってくれていたのに、娘が死んでからは、一気にものを食べなくなって死んでしまった。あの二人は娘だけじゃない!他の家族も殺したのも、まるでわかっていない!」
道子が、わっとなきだす。
杉三「お父さん、お母さん、どうか泣かないで。きっと、時代というのは、ずっと同じじゃないと思うんです。確かに、お嬢さんが、なくなられて、悲しいきもちはわかるけど、教師にひどいことを言われて、自殺をはかる人を、僕も何人か知っているんですから、復讐するよりも、そういう子達の助けになることができるじゃありませんか。ほんの少しで、いいですから、そとに耳を傾けてみると、また、違う人生が得られるとおもうんです。あきめくらの人間には、そういうことが感じられるんですよ。」
西代「あなたは、美しい人です。その容姿だけでない。あきめくらというのが、すべてプラスの方向に向かえるというのは、ほんとうに、美しいからだ。私のまけです。もう、家にかえってください。私たちは、いつかは、娘をだきしめることができると信じていきていきましょう。」
杉三「いつかではないんです。いま、ですよ。きっと、抱き締めてほしいと願う子供は、これからも増えていくでしょうから。具体的にどうするのかは、残念ですが、わかりません。でも、確実に必要になってくる気がします。」
道子「杉三さん、あなたはほんとうに、優しいんですね。犯罪をおかしかけた私たちにそうやって、美しい言葉を下さるとは、、、。お帰りください。ご家族のもとへと。」
杉三「わかりました。床の段差だけ、動かしてくれませんか?車椅子では、できないから。」
道子が、車椅子をそっとおす。
杉三「では、遠い将来に、あいましょう。」
と、玄関を出て、もと来たみちを帰ってくる。
やがて、がやがやとしている人垣に遭遇し、
杉三「ちょっと、通してくれませんか?」
と、騒いでいる人に言うと、
高見沢校長「杉ちゃん、よく帰ってきた!」
美千恵「杉三!怪我はない?」
と、かれのもとへかけよる。
愛子「杉ちゃん、よかった!私、事件にでも巻き込まれたかと、、、。」
里森「もう、刑事ドラマの見すぎだよ、愛子さんは。だって、たったの二時間しかすぎてないのに、警察がどうのとかいうから。」
美千恵「みなさん、ほんとうにありがとう!ほんとうに、毎日ご迷惑をおかけいたしまして。」
杉三「ありがとうございました。」
高見沢校長「じゃあ、みなさん、家にかえりましょう。」
杉三「はい。待っていてくれるひとにね。」