修学旅行に来なかった生徒
登場人物
影山杉三
影山美千恵
宇佐美優子
宇佐美美栄子
高橋
高野
内田恵子
内田敬介
高見沢校長
杉三が、車椅子で道路を歩いている。
子供たち「あきめくらの杉三が、不良高校に働きにいく、ああらおかしい、あはははは。」
杉三はなにも言わなかった。
子供たち「おい、今日も十字書き取りで、満点とったぜ!」
子供たち「ああ、カンニングペーパーぶらさげてな。
」
子供たち「こいつ、カンニングすらできねえじゃないか。ああ、全くバカだよな。俺達、こいつに比べたら、ホンとに偉いということだぜ!そうだよな、あきめくらの杉三!」
と、彼のながい耳を引っ張るが、なんの反応もしない。
子供たち「おい、速くしないと、授業はじまるぞ。」
子供たち「そういえばそうだよな。てか、こいつ、時計も読めないんだっけね!百年たっても、わからないなんて、ほんとうに、ばかだよな!じゃあな、あきめくらの杉三!」
と、走っていく。
そうこうしているうちに、吉田高校に到着する。そこへ、佐野愛子が、登校してくる。
愛子「おはよう、杉ちゃん。」
杉三「おはようございます。」
愛子「耳、どうしたの?」
杉三「えっ?」
愛子「そのあざ、、、。」
杉三「これは、別に大したことでは。いつも、やられるのは、常ですから。」
愛子「いじめられたの!酷い人たちね。」
杉三「仕方ないです。そうなるものだと、諦めています。」
優子「ほら、愛子、はやく教室入らないと、遅刻するわよ!」
愛子「また、昼休みに来るわ。」
優子は、彼女の顔を見る。その顔は、教室では、絶対にしないかおであった。
優子「勉強でも、ああいう顔になってくれればいいのにな。」
教室
学級会が行われていた。修学旅行のことであった。
生徒「と、いうことで、修学旅行は東京ディズニーランドに。」
生徒「やったぜ!」
生徒「じゃあ、なにに、乗ろうかな。」
優子「こら、娯楽じゃないのよ。勉強なんだから。ちゃんと計画を立てて、それから、いきましょうね!」
生徒「うるせえよな、あの女。」
ところが、一人だけ、耳を貸さない生徒がいた。
内田敬介という、男子生徒は、皆が修学旅行の話をしているにも関わらず、受験勉強をしていた。誰も彼の回りには近づかなかった。
昼休み、校長室
高見沢校長が、杉三と食事している。
高見沢校長「大分、仕事にもなれてきたようだね。」
杉三「そうですか?大したことしていませんけど。」
高見沢校長「いやいや、君はよくやっているよ。庭だってピカピカじゃないか。」
愛子が校長室にやってくる。
愛子「こんにちは。」
杉三「またきたの。」
愛子「いくらでも来るわ。」
校長「愛子さん、二組の行き先はもう決まったかな?」
愛子「ディズニーランドです。」
校長「そうか、おもいっきり、たのしんできな。」
愛子「まあ、そうですけど、なんだか、複雑な気持ちだわ。その日だけ、受験勉強をしなくていいとなると、みんなわすれてしまうんじゃないかと。」
校長「いいんだよ、勉強をするところでもあるけれど、学校はそれだけしかないわけじゃないんだから。ある意味、楽しむところでもあるんだよ。」
杉三「(微笑んで)僕は学校にいけなかったから。」
その顔をみて、
愛子「もう、嫌ね、杉ちゃんたら、その顔で言われたら、嫌とはいえないわ。」
校長「ははは、そう言うところが彼の持ち味だね。
他の生徒にも見せてやりたい。純粋な顔だ。」
愛子 「天使の微笑みだわ。」
杉三「あきめくらの、ただのバカです。」
愛子「そんなこといっちゃダメよ。ちょっと鏡を覗けばすぐわかるわ。ねえ、校長。」
校長「そうだな、ははは。君は、思っているより、大きな存在なんだぞ。」
愛子「(時計を見て)もうすぐ午後の授業が始まるわ。また、くるわね。」
杉三「また。」
愛子は教室に帰っていく。杉三は、庭はきの仕事にもどる。
数分後
教頭の高野と、主任の高橋がやってくる。
高野「校長先生」
高橋「今年の修学旅行は、勉強合宿に変更したいのですが。」
校長「どうしてです?」
高橋「このままでは、国立大学に進学する子が一人もいない!それでは、本校の名誉が。」
校長「いつまでも、そんなことは通用しませんよ。国立大学であれ、私立大学であれ、学ぶことはたいして違いはありません。それなのに、どうして国立大学を強制するのですか?よくわかりませんな、お二人は。」
高野「校長、あなたは長年福祉会館に勤めていたそうですね。前任の校長が、推薦したそうですが、福祉会館と学校は違うんです。そんな甘い考えでは世の中通用しませんよ。おまけに、あきめくらの男を小遣いに雇うなんて。いったい、あきめくらをなぜ雇ったのです?そちらの理由を聞かせていただきたいものですな。」
校長「彼を雇ったのは、彼を仲間にすることで、本校がよくなると思ったからです!」
高野「冗談じゃありませんよ!気は確かですか?いいですか、本校は、かつては名門の進学校だったんです。それが、一気に陥落して、いまは、定員割れです。それでは、他の先輩方が泣きます!」
校長「進学率がどうのこうのしかない学校もへんなところにしかみえませんけどね。」
高橋「話になりませんね。この学校を守ろうとしないんですから。まあ、私たちでやるしかありませんな。これでは。とりあえず、修学旅行は、廃止しますよ。そして、勉強合宿に変更します!」
二人、校長室から、出ていってしまう。
教室
高橋「いいか!」
と、教卓を叩く。
高橋「こっちを向け!」
しかし、向く生徒はない。
高橋「静まれ!」
まるで、水戸黄門のように叫ぶと、生徒はやっと静かになった。
高橋「今度の修学旅行は取り止めにする!かわりに勉強合宿を横浜のベイ、シェラトンで行うこととする!」
と、またたくまに、ブーイングがまきおこった。
高橋「大手予備校の、一番偉い先生をつれていくから、予備校にわざわざ通わなくてよいと、親御さんも、悦ぶだろう!お前たちが存在するから、親御さんは体を悪くされるのだ!それから少しでも、救ってやるのはお前たちだ!正しい生き方を身に付けるために、勉強合宿を行うから、覚悟しろ!」
敬介のめに涙がひかる。彼は、正しい生き方のとおりにするきにはなれなかった。正しい生き方をした人物が、部屋にとじごもっている。
やがて授業がおわる。しかし、生徒たちには、補習がまっている。文句を言いながらも補習を受けている生徒たち。敬介もその一人である。
この日は、高橋の補習だった。補習とは、名ばかりで、実は新興宗教みたいなものだ。
高椅は、国公立大学にいけば、薔薇色の人生がまっている、とばかり繰り返し、よい会社にもありつけ、よい相手にも恵まれ、親を安心して見送ることができる、といいつづけた。
敬介は、つらかった。
敬介「先生!」
高椅「なんだお前!」
敬介「正しい生き方を押し付けるのは止めていただきたい!」
高椅「なにをいっている、なにもわからないお前らのために、分かりやすくしておしえているのだから、黙って聞け!そして俺に従え!」
敬介「じゃあ、僕の家を返してください!」
高椅「お前の父親は、俺のような正しい生き方をしなかったから、そうなるんだ。お前は一番分かりやすい例を間近でみているじゃないか!その何が悪いんだ!」
敬介「正しい?だって僕の父は、先生より年上なんですよ!なんで、先生と同じ生き方をしていなかったとわかるんですか?千里眼だとでも、いいたいんですか?」
高椅「卑しい生徒の癖に逆らうんじゃない!この学校はお金がなくて身分が低いお前らのために、情け深い静岡県が作ってくださったのだ!いいか、お前らはスタートから負けているのだ。だから、その分勉強をして、国公立大学にいかなければ、他の人に追い付くことはできないだろう!」
敬介「身分が低い?憲法では、そんなこと、まったく言わないじゃありませんか!」
高椅「は!権利を主張するのは、甘えている証拠だ!お前は、誰でも芸能人になれるとおもうか?高額納税者になれるとおもうか?お前らにも言っておくが、人間には、身分制度が必ずある。いくら平等だといっても、かならずある。それを飛び越えようとするから、人間がおかしくなることをわすれるな!」
敬介は、いきなり立ち上がり、荷物をまとめてでていってしまう。高橋のごみをすてろと言う言葉を無視して家にもどってしまう。
敬介のいえ。身分が低いとは言いがたい、普通の家である。
敬介は、部屋にとびこむ。母の恵子が出迎える。
恵子「敬介、今日ははやかったのね。」
敬介「お母さん、どうしておとうさんは、皆と違うの?どうして僕は身分が低いといわなければならないの?」
恵子のめに、涙がひかる。相当、介護疲れをしているようであるが、夫のことをまだ、愛していることがよくわかる。
恵子「理由はわからないのよ。会社で何があったか、わたしは、聞かされていなかった。ある日突然って感じで、お父さんは鬱になっていったのよ。そのうち、だれかが、俺の机をいじったとか、いうようになって、入院していったわ。」
敬介「でも、お父さんは、東大でて、仕事もばりばりだったじゃないか。それがどうして、あんな、怪物みたいに太って、UFOをみたとか、いうようになったんだろう。」
恵子「敬介」
敬介「なに?」
恵子「居間に来なさい。」
敬介は、居間に入り、母と向き合ってテーブルにすわる。
恵子は一枚の書類をだす。
敬介「大川子供のいえ、まさか。」
恵子が「そう。お母さんだけでは、お父さんの入院費もだせないし、あんたには、大学にいってもらいたいから、ここで暮らしなさい。あんたみたいな人がたくさんいるから、辛さを分かち合う事もできるから。」
敬介「おかあさんまで。」
敬介は、男泣きになく。
恵子「仕方ないことなのよ。必ず、お父さんと二人でむかえにいくから。」
敬介「、、、。」
恵子「しっかりしっかり。もうすぐ修学旅行でしょ?一生の思い出になるわよ、気を付けていきなさいよ。」
敬介は、泣きながら自分の部屋にはいり、バタアンと戸をしめ、机に突っ伏してなく。いつしか、なきつかれて眠ってしまう。
数日後。修学旅行、いや、勉強合宿の日。富士駅。
高橋「えー、これから、横浜にむかう。しかし、電車のなかでも、私語厳禁!渡しておいた問題集が全問できるように!」
生徒「先生。」
高椅「なんだ。」
生徒「内田がきてないんです。」
高椅「地球のごみのような男はほっておけ、お前たちもいずれは敵になるんだから、仲良くしようなんて思うなよ。」
優子「そうですけど、一人欠員がでているにも関わらず、出発するのは、よくないんじゃありませんか?」
高椅「関係ない。進学する意思がないものは、ことごとく排除するのが吉田のやり方だ!いくぞ、兵士たち!」
と、戦争にまけたような兵士たちをつれて、どんどん電車にのりこんでしまう。
一方、吉田高校の敷地内。
杉三が庭はきをしている。
敬介「こんにちは。」
杉三「こんにちは。今日は修学旅行のはずでは、、、」
敬介「はい、勉強合宿になってしまいまして。それでは意味がないから、いかなかったんです。」
杉三「それは、きついですね。なんだか、学校にいく楽しみがなくなっていくみたい。」
敬介「進学進学といいますけどね、それができない生徒もいるんだけどな。と、声を大にして言いたいですよ。お金を稼いで親を養うのが正しい生き方だと、怒鳴り付けておきながら、それをいまやろうとすると、進学がどうのこうの、と怒鳴るのですから、ほんと、矛盾していますよね。」
杉三「正しい生き方ってなんでしょうね。全部がお医者さんだったら、患者がいなくて困るでしょ。」
敬介「そこなんですよ。うちの父が精神を病んでいるので、よくわかります。だから、僕は働こうと思っているのに、なんで、怒鳴られなきゃいけないんでしょうか?本当に、この学校はよくわかりません。生きている学校は、いろいろ謎があります。」
杉三「ご家族は?」
敬介「それが、母も大学に行ってほしいみたいで、僕は施設に預けられることになっています。そうじゃないんです。大学なんてどうでもいい。父や母と一緒に暮らしたい。でも、いまは、親と暮らすのは、悪であると、言いふらすひともたくさんいますよね。だから、悩んでいるんですよ。僕は、やはり甘えているのでしょうか。」
杉三「そんなことないとおもいます。僕はあきめくらだし、歩けないから、嫌でも家族と暮らさなきゃならない。逆に他人に頼るのが難しい。でも、生きていかなきゃいけないのです。そう言うひとも、大勢いるんじゃないかと、、、。それに比べたら、余程自立してると、 思うんですが。」
敬介「本当に、そうでしょうか。」
杉三「だって、あきめくらだから。あきめくらなんて、バカにされるだけですよ。バカにされるような人に歩み寄るってのは、余程覚悟がある人じゃないと。僕も何回かお手伝いさん頼んでいたけど、みんな辞めていきました。あきめくらで、歩けない人間のそばへきてくれるのは、誰もいない。みんな、自分のために仕事してるから、そうなるんです。それを捨ててご家族の役に立ちたいという気持ちがあるのは、本当に、すごいと思う。
あきめくらは、そう言うことはひしと感じることができるんです。」
敬介「杉さん、どうしてそんなことがわかるのです?」
杉三「あきめくらで、四十五年生きていればわかります。みんな、結局のところ、自分が生活したいから、という方向でやってるんです。なかには、僕の方が申し訳ないと思ってしまうひとも、いましたよ。」
そういって、静かに微笑む。
敬介「杉さん、あなたは本当に、すごい。ぼくらより、ずっといろんなことを知っている。あきめくらではなく、心眼でみえているのですね。きっと。」
杉三「ぜひ、自分の気持ちをわすれないで。その気持ちさえあれば、きっと生きていけます。」
敬介「あ、ありがとう!」
杉三「涙を拭いて。」
高見沢校長がやってきて、
高見沢校長「ふたりとも、ご飯にしよう。敬介くん、もし、高椅と高野があまりに邪魔をするのなら、君は転校したほうがいい。働きながら学ぶひともたくさんいる。いまは、通信制というものもあるから。まあ、失礼になるかもしれないけど、君の家庭で進学が難しいのはよくわかっているから、ここにいない方がいいかもしれないよ。」
その言葉は、文字に表すと退学を促しているのだか、敬介は、それは、お叱りではないことをしっていた。むしろ、応援してくれているのだと。
敬介「ありがとうございます。自分なりの生き方をします。」
杉三「君も、感性がいいね。」
二人で、敬介の体を軽くたたき、校長室へ。
翌日、敬介は姿を消した。同級生もなにもいわなかった。高椅と高野もなにもいわなかった。
優子は、よくわからなかった。誰が退学をさせたのだろうか?
勉強合宿に参加した愛子は、教師の説明も流してしまっていた。まさしく女優になっていた。