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料理の神様


登場人物


影山杉三

渡辺花

宇佐美優子

植松直樹

高野

高見沢校長



吉田高校、昼休み

生徒「ああ、本当に学食を作ってほしいな。他の学校では、出来たそうじゃないか。」

生徒「大学にはマクドナルドが入ったりしているらしいぞ。」

生徒「全くなあ。そういうところは、公立はけちだなあ。」

と、言いながら、弁当を食べている生徒たち。

優子が入ってきて、

優子「ほら、なに馬鹿なこといってるの!親御さんたちは高いお金を出してまで、あんたたちの弁当を作って下さるのだから、敢えてここでは学食は作らないのよ!そういうことを教えるために!」

生徒「はいはい、分かりましたよ。食えばいいんでしょう!でも、ほうれん草とぜんまいの煮物では、さすがに、食べたという気がしないんですが、、、。」

優子「文句ばかり言わないで勉強しなさい!大学を出て働いたら、自分でマクドナルドでも行けばいいのよ!それまでしっかり、奉公することね!」

と、職員室に戻る。

生徒「ああ、うるさいよな。あの女。きっと、自分は料理なんか何もできないんだろうね。だからそういうこというんだよ。」

生徒「全くだ。ああ、早く大学に行きたい!」

優子は、それを耳にして、そっとほくそえんだ。こうすれば、学年主任から、生徒を甘やかしていると、お叱りを受ける事も無い。とにかく、この高校では、うるさい教師で居たほうが勝ちなのだ。


校長室

高見沢校長と、杉三が食事をしている。

高見沢校長「今日は、コンビニの弁当か。コンビニ弁当も買える様になったかい?」

杉三「ええ、このおじさんを出せば買えるから。」

と、一万円をとりだす。

高見沢校長「うん、それさえあれば大丈夫だね。それをいつも持ち歩いていれば、大体のことは解決できるよ。」

と、愛子が、校長室にやってくる。

愛子「こんにちは、校長先生。あ、杉ちゃんもいたの、ねえ、買い物はできるようになった?」

高見沢校長「ああ、一万円札を出せば買える事はできるようになった。」

杉三「この、紙の事を、一万円札というのですか?」

愛子「そうよ、杉ちゃん。この、おじさんが書いてある紙は、一万円札。」

杉三「これを出すと、お弁当と引き換えになるわけですね。」

愛子「よく覚えたわね!わたしも嬉しい。でも、コンビニのお弁当は、まずいでしょう?」

杉三「そんなことないですよ。」

つまり、添加物などが入る、何てことは彼は気が付かないのである。

愛子「いやいや、コンビニじゃなくて、ちゃんとしたお弁当屋さんのものを買って。あたしたちも、コンビニは食べてないの。」

高見沢校長「お母様、よくなってきたんだね。まあまあ、愛子さん気が早すぎるよ、とりあえず彼が、お弁当を売っているところを覚えていくところから始めなければ。」

愛子「それなら、お弁当屋のほうがいいんじゃありませんか?コンビニは色んなものが多すぎて、逆にわからなくなるとおもいますけどね。」

高見沢校長「まあ、すこしずつやっていこう。」

愛子「もうすぐ、午後の授業が始まるから、戻りますね。」

杉三「またきてね。」

愛子「はい、わかったわ。」

と、彼に手を振って、教室へ戻っていく。


午後の授業は言うまでもなく受験勉強であった。とにかく他校に追いつこうと、教師たちが躍起になって要る分野だった。自主的にやる生徒は少なかったため、様々な手段を言って、受験させようとしていた。

この日も、その指導が行われていた。

優子「何て馬鹿なのあんた!」

叱られている、渡辺花は、大学進学を希望しなかった。

優子「あべの辻なんて、行くもんじゃありません!イタリア料理を勉強しようなんて、素人でもできる分野を学んで何になるの!」

花「いいじゃないですか!イタリア料理店で働くとか、結婚式場で働くとか、できるじゃありませんか!先生は働けないって言うけど、先生はご飯を食べないんですか!」

優子「は!だから、当たり前のことをいっているのよ!ご飯はだれでも簡単にできるの。逆をいえば口に入るしかないのよ!みんな忙しくて四時間煮込んだカレーの苦労も知らないで食べているのよ!四時間煮たカレーでも、レトルトのカレーでも、ただ栄養になるだけじゃないの!どうせ同じことなのだから、四時間煮たって意味が無い!そんな事も分からないの!くだらない専門学校ではなく、大学へ行きなさい!正しい生き方をしなさい!」

花「嫌です!」

すると、ドスンドスンという足音と同時に、筋肉質の大男が教室に入ってくる。学年主任の高野である。

高野「お前は、優子先生が身をもって教えて下さっていることを無視するのか!それでは、俺が正しい生き方をおしえてやる。いいか、まずこのパンフレットを見ろ!」

と、彼女の前に、とある大学のパンフレットをデン!とおく。ある国立大学の、入学願書。その中に、教育学部、家政科とある。

高野「ここに書いてある、必要事項を書いてみろ!」

花「嫌です!」

高野「何だと、卑しい生徒の癖にこの俺に逆らうのか!いいから名前を書け!」

花は泣きながら、ペンをとり、自分の名前を書く。

高野「志望動機欄に、家庭科の教師になりたいからと書け!」

花の手は止まってしまう。

高野「書け!でないと、お前は退学になるぞ!教師のこの俺に逆らった、不良学生と公表するぞ!」

花は、こみ上げてくる怒りと、恐怖とで書くことができない。

高野「書け!」

と、持っていた竹刀を振り上げる。

花は、自分を忘れ、ロボットのように志望動機を書く。

高野「よし、喜べ、おまえの未来は保障された。正しい生き方をすれば、神様はきちんと、お恵みをくださるのだ。お前の親御さんはこれで成仏できるだろう。」

といって、周りの生徒たちを見る。生徒たちは彼女のやり取りを見て、恐怖で凍りついたり、無視して受験勉強をしていたり。

高野「いいか、公立学校に入ったということは、身分が低いということなのだ!お前たちはスタート地点で負けている。それに勝つためには、国公立の大学へ行くしかないんだ!それを頭に叩きこんで、よく考えていくように。渡辺、すぐに願書を郵便として、俺が出してきてやる。お前は金輪際、料理なんかせずに、受験勉強に集中しろ。そうして、これから始まる、新しい未来を作った、俺たちに従え!」

と、彼女の願書をひったくって、出て行ってしまう。

優子は何もいえなかった。花はなく事もできなかった。彼女の手は、もう力尽きた、ということを示していた。

職員室

優子は何か考え込んでいた。隣の席の、植松という若い教師が、彼女を見ていた。

植松「宇佐美先生、どうなさったんです?」

優子「これでいいのかな、と、おもって。」

植松「これでいいとは?」

優子「なんだか、教師として自信がなくなったの。わたしは、高野主任みたいに、強引なやりかたができるわけじゃない。できなきゃいけないのかしら。」

植松「そうですね、僕はそんなことないとおもいますよ。あんなやり方をしたら、間違いなく傷つくでしょうから。でも、どうしたら良いのかわからない、という気持ちは同じです。ただ、手本が無いので分からないだけで。この学校では、生徒の希望に寄り添う教師は、一人としていないんですよ。時代のせいかなあ。」

優子「私が子供のときとは、大違いだわ。」

植松「そうですね。」


中庭。杉三が車椅子で、庭をほうきではいている。と、そこへ弁当箱が落ちてくる。思わずほうきを落としたため、弁当箱が、彼のひざの上に落ちる。しかも、さかさまにも横向きにもならず、奇跡的といえるほど、中身は無事。

杉三は、上を見上げるが、落とし主は見当たらない。

首をひねって考えていると、愛子と、高見沢校長がやってきて、

高見沢校長「さて、そろそろお昼の時間かな。」

杉三はまだ、上の階を見ている。

愛子「どうしたの、杉ちゃん。」

杉三「これ、、、。」

愛子「あら、今日はお母様のお弁当?」

杉三「違います、上から落ちてきて、、、。」

高見沢校長「あら、よくひっくり返らなかったね。」

杉三「誰かが、間違えて落としてしまったのでしょうか、、、。持ち主は、食べるものがなくて、心配すると思うんですが、、、。」

愛子「ちょっと待って!この弁当包みのハンカチは、見覚えがあるわ。それに、こんな立派な弁当箱を、持つ人はそうはいないわよ。これ、井川のめんぱで出来ているじゃないの。これをもっていたのは渡辺花さんだわ。食べ物を大事にするあの子が、ここへ弁当箱を落とすなんて、、、。」

高見沢校長「そうだね、前に、朝昼晩自分で三食作ってると、にこやかに言っていたことがあったな、彼女は、、、。それを誤って落とすなら、すぐ取りに来るはずだ。きっと、何かあったんだね。」

杉三「それでは、彼女に返さないと。彼女の食べ物がなくなるはず、、、。」

愛子「わたし、いってみるわ。」

と、弁当箱を抱えて、教室に行く。

教室は、生徒たちが思い思いの食事をしている。

愛子「失礼します。」

生徒「はい、なんでしょう?」

愛子「渡辺花さんはいない?これ、花さんのお弁当でしょう?中庭に落ちてきたのを偶然拾ったのだけど、、、。」

生徒「花、呼び出しよ。」

花は、生徒の後押しで立ち上がる。しかし、その顔は放心状態で、涙しか出てこない。

愛子「花さん、、、。何かあったの?よければ校長室にきなさいよ。楽しいわよ。」

愛子は、彼女の肩を支えながら、校長室につれていく。


校長室

愛子が花を連れてくる。校長と杉三が待っている。テーブルには、彼女が落とした弁当箱。その周りに、デザートや、飲み物が。弁当箱は、包みをほどいて置かれていた。

高見沢校長「こんにちは。奇跡的に君の弁当はどこも壊れていないから、食べられるよ。きっと悲しいことがあったんだと思うから、一緒にたべよう。こちらは、庭はきの影山杉三くんだ。」

杉三は、軽く会釈する。花は、彼の顔を見て、一気に泣き出す。

愛子「花さん、、、。」

杉三「愛子さん、そっとしてあげよう。」

花は、更に大きな声で泣き続ける。悲しみと、怒りをまとった、蛇のように、、、。

高見沢校長「思いっきり泣いて、気持ちが楽になったら、話してごらん。ここはうるさい高野先生もいない。あの先生のやり方は、非常に困る。」

花「校長、料理を学ぶというのは、馬鹿な生き方でしょうか?わたしは、小さいときからイタリアンが大好きで、、、特に母が作ってくれた、ミートソースのパスタは大好物でした。それを、勉強してイタリアンレストランで働きたいんです。でも、大学にいかないといけませんか?」

愛子「そんなこといったの?」

花「大学より、あべの辻に行きたいんですよ。わたし。そのほうがより、専門的に料理を学べるらしいので。」

高見沢校長「ああ、料理の東大といわれる学校だね。良いところじゃないか。是非、食べさせてほしいな。君のミートソース。」

花「本当ですか?」

高見沢校長「もちろんさ。」

声「この、おむすび、本当においしい。」

全員テーブルのほうをみる。

愛子「やだ、杉ちゃん、その弁当箱は、花さんのよ。貴方のはこっちょでしょ。」

杉三が、花の弁当を食べていた。隣にめんぱに似せた、プラスティックの弁当が置いてあって、彼はそれを識別できなかったのだ。

花「いいんです。わたしの料理なんか、もう、あてに成らないって、さっき、高野先生から教えていただきましたし。」

杉三「これ、本当にコンビニ弁当なのかな?すごくおいしいんだ。僕はお結びが好きだから。」

愛子「まあ、山下清さんみたいなこと言ってる。」

杉三「(無言のまま、全て食べ終えてしまい)おいしい!」

その顔をみて、

花「本当に、、、。」

杉三「きっと、これを作ってくれた人は、よほど愛情深い人だったんだろうな。そんな気がするんだ。いくらコンビニ弁当であったとしても、食べてくれる人への思いっていうのは、変わらないんだねえ。」

花「え、、、。」

杉三「もちろん、ただ食べるだけの人はいるさ。でも、食べ物のぬくもりは変わっていかないよ。だって、ご飯よりも栄養があるものが蔓延っているのに、みんなご飯を食べるでしょう?それだけしか食べない人はいないでしょう?ご飯っていうものはそういうものじゃないの?」

花「どうしてそんなことが、、、。具体的な職業に出来るものじゃないのに。」

杉三「関係ないと思うけどね。だってその人だってご飯は食べるのにね。」

愛子「花ちゃん。この人の言うとおりに動いてみては?高野だって、ご飯は食べるでしょ?」

花「ど、どうしてそんな言葉が出るの?」

杉三「あきめくらだから。」

高見沢校長「あきめくらでなくても、みんなご飯は食べるんだ。それが作れるってのは、幸せなことじゃないか。」

愛子「わたしもそう思うわ。」

花「あ、ありがとうございます!」

杉三「おいしいもの、作ってね。」

花のひざに雫が落ちる。

高見沢校長「目からうろこが落ちたか。」

花「はい。」


数日後、花のところに、高野が指定した大学から、入試要項が来たが、花は、それを燃やしてしまった。


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