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朝、いつも通りの道。
子供たち「あきめくらの杉三が、また、吉田高校にいくよ、でも、不良も優等生にもなれないよ。」
杉三は、黙ったまま答えないで、学校の校長室に到着する。
高見沢校長「おはよう、今日は早かったねえ。大分、慣れてきたみたいだね。」
杉三「もう、言われても、平気になりましたよ。」
高見沢校長「それはいい進歩だ。しかし、今の中学生はなにを教わっているんだろうねえ。」
杉三「まあ、時代のせいなのかもしれないけどね。」
高見沢校長「そうだなあ、君くらいの年齢であれば、自分の学生時代と、いまの学校教育の違いに戸惑うかもしれないね。」
杉三「僕は、小学校すらいけなかったから、教育には詳しくないけど、たしかに辛いかもしれないと思いますよ。」
高見沢校長のスマートフォンがなる。
高見沢校長「はい、吉田高校高見沢です。どうしたのですか?えっまた、自殺未遂を?誰がですか?」
杉三「最近多いよなあ、、、。」
高見沢校長「はあ、沖田史子、、、。あんな良い子が、どうして、あ、わかりました。とりあえず別状はないと。はい、わかりました。」
と、電話を切る。
杉三「またですか?僕がここへ来てもう五人目。」
高見沢校長「よく記憶しているな。不良高校よりもさらに多くなってしまった。さらに、自殺者は全て、、、。」
杉三「言わなくて結構ですよ。わかりますから。その先は。」
高見沢校長「あの二人は、本当にいかさま賭博だよ。一種のカルトといえるかも。」
杉三「尼僧さまが、きいたら、怒るかも。」
高見沢校長は、ブレザーをきて、鞄をもち、
高見沢校長「警察署にいってくるよ。君は庭を掃いていてくれ。」
杉三「わかりました。」
一方、教室では、
高野「いいか、沖田が死んだ理由はただ一つ!国公立大学を受験しないからだ。国公立大学にはいって卒業すれば、良い職場を自動的に見つけられて、より多くの金をかせぎ、そうすれば、災害に強い設備を作ることができて、災害を免れることができるんだ。そうでないと、家は土砂崩れに巻き込まれてお前たちは死ぬだろう。」
里森「あーあ、また始まったよ独演会。」
愛子「それに、沖田さんが、まだ亡くなったわけではないわ。」
この組の机配置は独特だった。いくつかの机が撤去されている。それを高野は気づいていない。高野の独演会は、さらに続いていく。
高野「いいか、ごみの死を悲しんでいる暇があれば、国公立大学にいかなかった、悪人であるとおもえ。もう二度とこの世に帰ってこない人間を心のなかで寂しがるのなら、国公立を受験しなかったから罰を受けたとおもえ。事実、沖田は、情緒障害があり、授業を散々台無しにした、悪人なのだ。そんな人間に生きている資格なんかない。もし、沖田を悲しむなら、沖田さん、死んでくれてありがとう、私たちは、死んでくれたお陰で、無事に薔薇色の人生を手にいれることが出来ましたと、礼をいうように!」
一方、高見沢校長は、警察署から、沖田史子の父母と一緒に病院にいった。看護師の案内で、三人は、集中治療室にいった。母親は泣くばかりだった。一人娘だったから、泣くのも当然である。
父親「どうして、気づけなかったんでしょうか、机のなかに睡眠薬の殻がたくさんありました。さらに、ウォトーカもありました。だから、それと一緒に、飲んだんでしょう。親として失格です。」
母親「転校しようと思っていたのです。ところが、その矢先にこうなってしまいました。寝る前に、お母さん私がいきていてごめんね、といって、朝、朝食をたべにこないから、どうしたのかとおもったら。」
医師が出てくる。
母親「どうでしょうか?」
医師「大丈夫ですよ。目をさませば、」
父親「ありがとうございます。」
これにて、一件落着となった。
翌日。史子は、目をさます。目の前に父と母の顔。
史子「私は死んでいないの?高橋先生に親孝行するのなら、先に死んでおけとしか、いわれなかったのに。」
母親「なにバカなこといっているの、そんなことで、喜ぶ親はいないわよ!」
史子「高野先生や、高橋先生がそういったの。」
父親「そんなわけないじゃないか。」
史子「生きていく自信がないの。死なせてほしかったわ。」
母親「無理に国立にいこうとしなくていいのに。」
史子「どうして?そうしなければ、うちの家は傾いてるのに。」
母親「傾いているだなんて、そんな。あたしたちは一生懸命働いているのに。そんなこといわれたら、、、。」
史子「だからこそ、国公立にいかなきゃいけないのよ!」
看護師がやってきて、
看護師「史子さん、おちつこうね。安定剤打とうか。」
と、いい、彼女の左腕に注射をうつ。史子は眠ってしまう。
父親「一体なんていわれているんだろう。」
母親「相当、傷ついたんじゃないかしら。あたしたちのころは、学校が原因で死ぬなんて、あり得ないことだったわ。」
父親「そうだなあ。正直いうと、どう対処していいのか、わからないよ。」
母親「先生は聖人君子みたいだったけど、いまは違うのね。ほんとに。」
父親「そういうことだな。」
高見沢校長が、病院にやってくる。
高見沢校長「すみません、沖田史子さんの意識が戻ったときいたのですが、」
受付「面会は、ご家族のみになっておりまして。」
高見沢校長「そうですか、、、。では、戻って来る日を楽しみにまっています、とつたえてください。」
受付「承諾しました。」
高見沢校長はしかたなく病院を出ていく。
病室のまどから、史子がそれをみている。
史子「死ね!このくそ坊主!」
と、壁を殴り始める。
看護師がまた、安定剤を打ちに来る。これを1日何回も繰り返し、彼女は眠るしかできなかった。病院は、その程度だ。
吉田高校、教室。
高橋「いいか、沖田史子は、死んだわけではなかった。国公立にいかないために、死ぬことも許されなかったのだ。」
里森「先生は、いっていることが滅茶苦茶すぎます。どうして、国公立にいかないから死ぬことも許されないなんて言う理論になるんですか?国公立よりも、私立のほうが研究がすすんでいる医学部もあります。それでも、国公立にいくなんて、時代錯誤すぎますよ。」
高橋「お前にそんなことをいう、権限はないぞ。おまえを含めて、この学校に通うものは、みんな、金がない前提で来ているのだから。」
里森「そうなら、働いている親がみんな悪いみたいになるんですか?」
高橋「馬鹿者、お前のために働いて下さっているのだから、膝ま付いてお詫びしろ!」
里森「先生の話は、理論的じゃありません。実際に、国公立をでていたとしとも、全てが偉くなるわけじゃ、ないじゃありませんか。」
高橋「お前は、卑しい生徒なのに、歯向かうのか、そうしたら、除籍するぞ。」
里森「わかりました。ありがとうございます。」
一月ほどして、彼女は学校へ戻ってきたが、教室には姿をみせなかった。
校長室
里森「ああ、本当にこまりますよ。国公立神話。必ず僕らが悪いってもっていきますから。ああやって毎日毎日いわれたら、世の中嫌になっても、仕方ありません。ある意味沖田史子さんは、犠牲者ですよ。」
愛子「あたし、思うんだけど、あの人たちは、具体的には何にもしてないのよね。ただ、出任せをいっているだけしかないわ。彼女もそう、考えていれば自殺なんかしなくてもよかったような。」
高見沢校長「愛子さん、いいとこ突いたね。たんに、じぶんたちが進学率をあげたいだけなんだよ。あの二人。」
杉三「僕は、進学はできないから、、、。」
高見沢校長「そうなんだよ!あの二人が君のことを認めるようになったときが、吉田高校が変わるときだろう。 」
杉三「きっと、怒鳴られるんだろな。」
高見沢校長「君は、あの二人よりすぐれているよ。」
愛子「本当にそうだわ。」
里森「僕にも和裁をおしえてほしいな。」
愛子「あら、意外だわ。里森くんがお和裁なんて。」
里森「いやいや、うちの病院の手伝いをしていると、パジャマより浴衣のほうが、介護しやすい患者さんもいるんだよ。」
愛子「へえ、どんなひと?」
里森「杉三さんみたいに歩けない人や、手が使えないひとは、浴衣のほうが、脱ぎ着がしやすいんだよ。」
愛子「里森くんは、えらいわね。」
里森「いやいや、机に向かうだけではなく、こういう勉強もあるんだよ。」
高見沢校長「こういう勉強か。なるほど。そういえば、他の学校につとめている校長からきいたけど、総合学習というものが、あるそうだね。」
杉三「なんですかそれは?」
里森「一昔前はやっていたそうなんですが、あの二人が取り止めにしたみたいですよ。」
愛子「もう!どこまで国公立に拘るのかしら。」
杉三「退学者を出したくないのかもしれないよ。」
高見沢校長「そう、杉ちゃんいいとこついてる。」
里森「退学者を出したくないんだったら、総合学習、やればいいんじゃないですか。もしかしたら、沖田さんが、またいきようとしてくれるかもしれないし。」
高見沢校長「しかし、講師を呼ぶなどすれば、また、あの二人が反対するだろうし。」
愛子「反対したっていいじゃない。わたし、この学校にいると、苦しくてたまらないわ。」
高見沢校長「そうだね。やってみようかな。」
杉三「意外に、勉強でないところが、勉強になるときもあり。」
と、いいながら妙な顔をする。
高見沢校長「どうしたの?」
杉三「いえ、なんでもありません。」
里森「そうかな?その顔では、なんでもないはずはないよ。」
杉三「大丈夫ですよ。」
里森「ちゃんと、自己管理してるの?」
杉三「してますよ。」
愛子「しっかりしてね。」
チャイムが鳴ったので、全員、校長室からでて、それぞれの場所へいく。
職員室
高野「なにをいうんですか、総合的な学習なんて無駄なだけですよ。そんな時間があるのなら、国公立にいかせる補習の時間を増やしてもらいたいものですね。」
高見沢校長「それをいうなら、生徒をがんじがらめにしないでください。そうしたら、進学率はあがります。あさから晩まで、国公立神話を語り続けるのは、生徒にとって、負担が大きすぎます。もしかしたら、体を壊す生徒も現れるかもしれません。そうしたら、責任を問われるのは私たちですよ。」
高橋「校長、負担が大きいなんて、年よりじゃないんですから。それより、いまの生徒は、大人をなめていますよね。それを矯正するために、受験は必要という、精神科医だっているんですから、私たちは、決して間違いではありません。」
高見沢校長「誰かの、文書を引用しているだけでは、教育になりませんよ。それが、若い人らしさを潰しているようなきがするんですが。とにかく、総合的な学習は、校長命令として、実行します。」
三人の話を聞いていた優子は、すこしほっとしたような気がした。実は、以前から気になっていた生徒がいたのだった。
植松「よかったよかった。これで、学校という場所の意味がわかってくれるといいのですが。」
優子「どうですかね。」
植松「だったら、学校にいく必要がないじゃないですか。勉強は予備校があるし、しつけは家に任せても十分できます。いまなら。そうしたら、学校にいる時間はまったく意味がない、時間になりますよ。」
優子「そうですよね。わたしも、最近はそうおもうようになりました。」
植松「やっぱり、民間校長はちがいますね。」
高見沢校長は、勝手に準備をすすめていた。講師は、ある人物に依頼していた。
そんな中。
優子が、杉三のもとに突然やってきて、
優子「ねえ、暇なら、この封筒をポストにいれてきてくれませんか?」
杉三「いいですよ。駅近くのポストにいれます。」
その放課後。
道具を片付けに杉三が校長室にやってきた。
杉三「大分寒くなりましたね。」
高見沢校長「そうだね。明日、総合的な学習として、講演会を行うことにした。」
杉三「誰を招いたんですか?」
高見沢校長「森下という方だよ。知っているかな。」
杉三「森下直先生ですか。四胡の。」
高見沢校長「一番正しくない生き方をしているひとだから。」
杉三「そういえばそうですね。あの二人が一番嫌いなタイプでしょ。」
と、いいながら、また、顔をしかめた。
高見沢校長「大丈夫かい?」
杉三「癖になってます。」
高見沢校長「ちゃんと、治療ができるといいのにね。」
杉三「まあね。」
と、苦笑い。
帰り道で、優子にいわれた封筒を、ポストに投函した。
その当日。講堂。
高見沢校長「皆さんがこれから、人生を歩んでいくにつれて、とても良いヒントになると思うので、この方をお招きしました。四胡演奏家の森下直先生です。どうぞ!」
しかし、森下は下を向いたままである。
高見沢校長「森下先生、よろしくおねがいします。」
すると、
高橋「校長、先生はお話することは、ありませんよ、だって、この学校ではなしをしてくれる筈がないじゃありませんか。先代の校長が森下先生に賄賂をわたして、わざと、国公立について話してくれといったので、先生は、なにも話せなかったという逸話があるのです。その後ろめたさに、森下先生はなにもはなしをしてくれないんですよ。」
高野「ははははは!いいか、お前たち、森下先生は、自分の生き方が正しい生き方じゃないからこそ、あえてお前たちにはなしをしないんだ。正しくない生き方を、まだ若くて発展途上なお前たちに教えたくないからこそ、それを心より恥じて、いま言おうとしないんだ!正しくない生き方をする人間が、正しい生き方を教えてやっている、学校に近づくことなど、できはしない。どうですか、校長、これでお分かりになりましたでしょう?はやく目をさましてくださいよ。だから、総合的な学習の時間なんて、必要ないんです! 」
高見沢校長は、蒼白になりながらも、必死にたえている。すると、デーンという大きなおと。隣にいた、養護教諭の白壁が、
白壁「史子さん!」
高野「後ろを見るな!」
しかし、里森はかけつける。倒れている史子の脈をとり、
里森「脈がよわくなってますね、恐らく循環器ですか。」
白壁「わたし、救急車呼ぶから、ここで脈をとってね!」
里森は、脈をとったり、心臓マッサージをしたり。
高野「そんなものを見るな!そいつは、精神力が弱すぎるんだぞ!精神力が弱いものの光景をみると、勉強をなまけたくなるのが、若さだ!そうして、せっかくの学力が放置されていく!それではいけない!いま、ごみを掃除していると思え!」
森下「この学校は、ひどすぎます!」
一瞬ポカンとする、生徒たち。
森下「高野先生も、高橋先生も、なにを考えているんですか。事前にお電話をして、金を振込み、シナリオをわたしてよめと要求するなんて、あまりにも酷すぎますよ!私は、多くの学校をみてまわりましたが、こんな汚い学校は、はじめてしりましたね。」
救急車が到着した。白壁と、里森は、彼女をストレッチャーにのせて、付添人として、同乗した。
高野「ああよかったなあ、ごみが消えて!さて、これから、だいじなはなしをはじめるぞ!」
森下「私は。」
高野「なんだ!」
森下「独裁者にはなりたくありません。あなたのような人間は、教師とはいえませんね。あなたの責任で、いのちを落としてしまう、生徒がでたら、どうするんです?いま、まさにそれが行われようとしているんです。その方があなたの選挙演説より、予ほどためになるでしょう!」
高見沢校長「森下先生、ありがとうございます。」
森下「私を、脅迫のツールにしないでください!高野先生。そして、指導虐待は二度と繰り返してはならないと、いっておきます。」
高野「いずれ、生徒たちにもわかるときが来ます!」
森下「いえ、永遠に通用しなくなるとおもいますよ。最後に、シナリオを渡した彼をゆるしてやってください。彼は字がよめないのです。」
森下は、堂々と帰っていく。
生徒たちは、水を打ったように静かだった。




