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杉と奈良梨取り

いつも通りのうた。

子供たち「あきめくらの杉三が、不良校に働きにいくよ、ああらおかしい。あはははは。」

本来なら大人がとめるべきなのであるが、だれもいわない。杉三はだまったまま、車椅子を操作して吉田高校に到着。

子供たち「おい、精々、漢字の一くらい覚えてかえってこないと、将来こまりますよ、あはははは。」

子供たち「俺たちが、親がなくなったあとのビジョンを考えておけといわれておきながら、45にもなって、銭勘定もできないんじゃ、三日でたおれるんだろうな、こいつ。」

子供たち「そうよね。お金を数えられないなら、まずたべものに、こまるでしょ、スーパーへいくにも、いけないし、きっと、百日もしないうちに、くたばるんだろうね。そしてミイラ化して見つかると。」

植松「こら、君たち。障害のあるひとに、そんなことはいってはいけないよ!」

子供たちは、すぐ逃げていく。

植松「まったく、逃げ足だけははやい。気にしなくていいからね。」

逃げていく少年たちのなかに、一人、彼の顔をまっすぐ見ていた人物がいた。杉三も

彼をみた。

子供たち「おい、晋、はやくこいよ。」

少年は、子供たちのあとを追いかけていった。

植松「まったく、いまの子はこまるなあ。あんな風にからかわれたら、君も傷つくだろうし。」

杉三「そんなことはありませんけどね。慣れてますから。それよりあの子はどうなんだろ。」

植松「杉ちゃん、人のことより自分のことを心配したら?毎日毎日ああやってからかわれて、辛いでしょう?もともと、体も弱いんだし。ストレスがたまって、おかしくなったりしない?」

杉三「事実なので、しかたないです。事実じゃないほうでからかわれたら、辛いかもしれないけどね。」

植松「かわっているなあ。」

二人、学校へはいる。

職員室に入ると、なんとなく重い雰囲気。

高見沢校長「そうですか、ご愁傷さまです。はい、明日お通夜ですか。友引に該当しますが、そうですか。わかりました。」

と、スマートフォンを切る。

植松「どうしたんですか?」

高見沢校長「はい、沢田晋君の、おとうさまが亡くなられたそうなんです。」

植松「沢田晋、ああ、あの方ですか!たしか、ピアニストで。」

杉三「沢田、、、沢田桂ですか?たしか、音大教授の。」

高見沢校長「はい、その通りだけど、なんで君が名前まで知っているんだい?」

杉三「お世話になっていました。」

と、だけいい、ボロボロと涙を長し、甲子園で負けた高校生のように、なきじゃくる。

植松「沢田桂さんは、僕もしっていますよ。で、死因はなんなんです?」

高見沢校長「自殺だったそうです。」

杉三「あの人が自殺する必要はありませんよ。どうしてそんなに。晋くん、どうなるだろう。」

高見沢校長「大丈夫さ、偉い人は、ちゃんと対策案をだせるから。」

杉三「そんなことはありません。だって、晋くんはどうなるんです?奥さんだっているし。みんな悲しむじゃないですか。」

高見沢校長「杉ちゃん、君みたいに心のきれいなひとには、なかなか通用しないけど、人が亡くなるとね、喜ぶ人もいるんだよ。」

杉三「そんなことありません。あんなにきれいな、バッハを聞かせてくれる人ですから。」

高見沢校長「そう感じられるのは、君だけさ。そうでなければ、晋くんは、不良にならなかったと思うから。」

植松「たぶん、これを機会に、奥さん出ていかれるでしょうね。」

杉三「なんで、家族がバラバラにならなきゃいけないんですか?」

高見沢校長「君もしっていると思うが、時代が変わっているからね。」

植松「杉ちゃん、君もいろんな人をみてきているんだから、わからないと。」

杉三「音楽家はそんなことありません。ああいう人は特別ですからね。」

高見沢校長「いやいや、そうなりやすいかもしれないよ。」

杉三「仲良くしているひと、多いのに?」

高見沢校長「杉ちゃんは、そうなりたいんだね。だから音楽家は特別だとおもっているんだ。そうできない方が、いまは多いんだよ。まあ、君みたいなひとが、理解するには、本当に時間がかかりすぎるだろうけど。」

植松「杉ちゃん、それはびっくりするよね、君のお父さんが亡くなったとき、きみは一週間ご飯を食べれなかったと、庵主さまに、聞いたことがあるよ。古筝を習うことになったのは、お父さんが、先生のところに、連れていってくれたからだってね。だから、君も、音楽家の生活をしたかったけどできなかったという過去があるわけだよね。」

杉三「杉、泣いちゃいけないよ。お父ちゃんは、来年には帰ってくるさ。一年なんてあっという間だよ。ほら、明日、師範の試験なんだから、さっさと練習しな。かならず帰ってくるからな。大丈夫。お父ちゃんは、免状が神棚に置かれているのを楽しみにしているよ、じゃあな!」

植松「話し手の言葉をそのまま記憶しているのかな?」

高見沢校長「(小さく)自閉症の人は、こういう風に記憶してるみたいですよ。」

植松「すごいですな。杉ちゃん、それで、どうなったの。」

杉三「二度と、声をきくことはありませんでした。」

高見沢校長「単身赴任していたらしいんです。そこで、自殺して、しまったらしくて。」

杉三「免状もらえたけど、破ってすてました。」

植松「あら、もったないなあ。あれば生活できたのに。」

杉三「二度とできないですよ。だから、頼まれた演奏はできないのです。」

植松「こういう人に、どうしたらわかってもらえるかな。日本の福祉で一番足りない分野なんでしょうね。」

杉三「沢田くんの家にいきたい。」

植松「はあ、何で。」

杉三「おばさん、すごくかなしいだろうから。」

植松「まあ、それは確かにそうかも。君も、かわっているね。音楽家はこうだと言っておいて、あんなに融通がきかないのに、なんで、おばさんが悲しいんだとわかるんだろう。」

高見沢校長「まあまあ、彼の言う通りにしましょう。それに、私たちより、優れている一面もありますから。」

植松「そうですね。」

杉三は、高見沢校長と一緒に、沢田晋の家にいく。

玄関前に車をおき、高見沢校長が彼を下ろすと、杉三は、呼び鈴も押さずにすぐに中にはいる。

杉三「おばさんいる?」

女性の声「杉ちゃん?」

杉三「そうですよ。」

女性が玄関に現れる。沢田桂の妻で沢田晋の母親の、沢田真美子である。

真美子「きてくれてありがとう。まあ、校長先生まで。主人も喜んでくれるとおもいますわ。あがって。」

杉三「晋くんはどうしてる?」

真美子はだまってしまった。

杉三「どうしていますか? 」

さらにだまる。

杉三「どうしていますか?」

高見沢校長「杉ちゃん、問い詰めないほうが。」

真美子「いえいえ、隠してもかれには、通じないのはしっています。晋は、不良グループとなかがよくて、杉三さんのことをからかったりしてましたから。一恵はそうではありませんでしたけど。でも、にたような感じでしたね。」

高見沢校長「一恵さんは、一部の教師が希望の星といっていた生徒ですね。確か、東京大学に」

真美子「そうなのですが、いまは施設にいるんです。もう、家族とすまない方がいいと、お医者さんにいわれましたから。」

高見沢校長「そんなに、DVが酷かったのですか?」

真美子「私が、殺されるところでした。

女の子なのに、とは、おもいましたが、まさか、あそこまで恨みがあるのなら、私はいくら償えといわれてもできませんもの。」

すると、テーブルに頭がぶつかるゴチンという音。

真美子「ごめんなさい!あなたにはいうべきじゃなかったわ。」

と、杉三のかおに、冷たいタオルをあててやる。

高見沢校長「すみませんねえ。この人は、すぐこうなるから、、、。」

杉三「そんなことになっていたなんて、しらなかった。」

と、再び号泣。

高見沢校長「またなく、、、。」

真美子「いえいえ構わないですよ。こういう人がいてくれたほうがいい。でないと、私たちは行き場をなくしますから。私、一恵が施設に入ったので、せめてこういう人たちの助けになりたくて、ボランティアでヘルパーをしてるんです。」

高見沢校長「そうですか。ご主人にもそれが伝わってくだされば、、、。」

真美子「仕方ないことです。一恵が犯人と言えるかもしれませんが、病気のために、それは許されていません。警察も自殺で片付けました。まあ、一恵が包丁でさしたわけではありませんから。」

高見沢校長「いったい何があったんでしょうか?一恵さんは覚醒剤でもやっていたのですか?学校では心配なことは、なにもありませんでしたけど。」

真美子「家でもなにも変わらないで、勉強していましたよ。だからこそ、わからないのです。」

杉三「弟さんは、、、。」

真美子「晋も塾に通ったりしてましたよ。

来年受験だから、しっかりやれと、よく言い聞かせていました。いまは、中学二年ですので。まあ、一恵に比べると遊び好きではありますが。」

高見沢校長「一恵さんは葬儀には来れませんか。」

真美子「多分入院するなり、なんなりするでしょう。あの子はそうしたほうがいい。一般社会に戻すよりも、そういう傷ついた人の間にいたほうが、かなり楽だとおもいます。」

そうして、二人は桂の葬儀の話をはじめる。話が、ヒートアップしてきたので、杉三は、こっそり縁側にむかう。

そこには、沢田晋が、すわっている。

杉三「晋さん、こんにちは。」

晋「あきめくら、いや、杉三さん、こんにちは。」

杉三「あきめくらでいいよ。君も辛いだろう。」

晋「悲しいな。でも、反面、嬉しくもあるよ。そんなこと、口に出しちゃいけないけど。そうおもってしまうんだ。だから、誰かをからかうのが、面白くなっちゃった。」

杉三「わかる気がする。悪事をすれば振り向いてくれるんだよね。僕みたいに歩けない人には、振り向いてくれるけど、普通の人が注目を集めるのは非常にむずかしい。」

晋「しかられたっていいさ。しかってくれたほうがいい。でも、それさえも、うちの親はしてくれない。」

杉三「それは淋しいよね。」

晋「叩かれても良いんだ。それでもいいから、僕の方を見てほしい。お姉ちゃんばかりじゃなくて。お姉ちゃんは、頭がよかったけど、僕はそうじゃなかったから。本当は高校も行きたくないんだ。でも、お姉ちゃんと、同じ学校にいかせようとする。僕は普通高校ではなく、商売を学びたいんだけどね。」

杉三「言ってみたらどう?きみの気持ちを。」

晋「いまは、言えないよ、お父さんも逝っちゃったし。」

杉三「そうかもしれないね。」

晋「でもさあ、僕はなんのためにいるのかな、っていつも思うんだ。お姉ちゃんと比較されるためかなあ?いつも、お姉ちゃんと一緒にいて、なんのためにいるのかなあと、いつもおもうよ。それを考えちゃいけないこともわかるけど、それは、悪いことかな?」

杉三「昔話では、上の人よりしたの人のほうが、活躍するよ。ならなしとりも、三郎が、活躍するよ。」

晋「ならなしとり?なにそれ?」

杉三「お母さんが、病気になって、太郎と次郎がならなしをとりにいくんだけど、岩の上のおばあさんの言うことをきかないから、間違ったみちをすすんでしまって、化け物に食べられてしまうんだ。でも、三郎は、いうことをきいたから、食べられずにすんで、お兄さんたちを助け出すことができたという物語だよ。」

晋「そんな昔話、しらなかったよ。」

杉三「そうか。僕は、しょっちゅうきいていたけど。きっときみのお姉さんは、岩の上のおばあさんの話を聞かなかったんじゃないかなあ。」

晋「じゃあ、食べられてしまったのかな?なら、だれに食べられたの?そんなの、子供だましだよ。」

杉三「僕は、違うとおもうよ。施設という化け物に食べられてしまったんじゃないのかなあ。」

晋「君はやっぱりあきめくらなんだね。そういう、伝説を信じるなんて、なんだか、変わり者にもほどがある。」

杉三「たしかにね。でも、本当にそうなら、きっと本にはならない。」

晋「よくわからないな。」

杉三「そう。晋くんは、商売を学びたいみたいだけど、どんな商売を?」

晋「貿易会社とかかな。金持ちになりたいから。」

杉三「かねもちか。十分あるはずなのに。」

晋「お姉ちゃんのことで、お金がすぐになくなったよ。精神科は費用がかかりすぎるからさ。それが、二年だもの。一気にびんぼっちゃまに、なったよ。」

杉三「でも、必要だったからでしょう?僕も、精神科には、いっているけど。子供のときから。」

晋「杉三さんって診断名なんなの?自閉症?」

杉三「あきめくらだよ。称号はそれだけでいい。」

晋「称号なんて、そんなかっこよいものじゃないよ。恥ずかしいって、お父さんもいってた。」

杉三「どうしてはずかしいの?できないとわかるのなら、公開したほうがいい。でないと、あとになってからが怖いよ。」

晋「でもさあ、世間体があるじゃないか。誰でも、問題があれば隠しておかないと、世間から付き合いがなくなったら、とても怖いよ。いろんなことをするたびに、あのひとおかしいって、ごそごそ言われるんだよ。それは本当に辛いよ。だから、隠さなきゃいけないんだ。」

杉三「そうか、僕はどっちにしろ公開しないと生きていけないよ。」

晋「お姉ちゃんだってそうだったよ。病気になって、大騒ぎするようになって、隣の人が、あの子は、おかしいから付き合うなとか、いって。お姉ちゃん、ひとりぼっちになって、お父さんやお母さんを殴るようになったんだ。だから、家でくらせないじゃないか。」

杉三「途中から障害を負うと、非常にむずかしいよね。」


いきなり真美子の携帯電話が鳴る。

真美子「はい、沢田でございます。」

看護師「あ、突然ですみませんでした。グループホームの鈴木です。いつもお世話になります。 あの、じつはですね。」

真美子「えっ、一恵がそういっているのですか!何でまた、もし、私が殴られたら、困ります、つれてこないでください。あの子のことは、もう終わりにしたいって、申し上げたはずですよね。」

高見沢校長「あるいみ、子捨てだな。」

真美子「ですから、お断りします。一恵にそうつたえてください。私の夫をかえせと。」

と、電話をきってしまう。

高見沢校長「ちょっとまってくださいよ。お父様と最後のお別れくらい、させてやっても、いいじゃありませんか。こういう障害って言うのは、家族のちからも、必要です。」

真美子「なにが、わかるんですか?あなたみたいな教育者になにが、わかるんですか?私が殴られたら、いつ殺されるかわからないくらいですわ。だれだって、自分の身は、守りたいものですよね?」


声「だれだって、自分のみは、守りたいものですよね。」

杉三「じぶんのみか。いくなちゃがらがらだ。」

晋「なんですか、いくなちゃがらがらって。」

杉三「ならなしとりで、こういうシーンがあるんだ。道が三つにわかれていて、三本の笹がたっている。笹はこう歌う、

『いけっちゃがらがら、いくなちゃがらがら』と。おばあさんは、いけっちゃがらがらと歌う方にいくようにというが、上の二人は、いくなちゃと歌う方にいったので、いもりに食べられてしまうんだ。」

声「私は、自分なりにやってきたんです。でも、娘はわかってはくれない。私がそのようなことは、できないといっても、なお求め続けるのです。あの子のために、私は会社でいじめられた。退職したほうがいい、一恵のそばにいてやれ、と、主人はいいましたが、私が働かなかったら、あの子を学校には通わせられない。さらに、成績がいいから、学校側には残留をもとめられて、日増しに娘の暴力は酷くなりましたが、働くのはやめれませんでしたから。」

杉三「お母さんは、いくなちゃがらがらの方にいってしまったんだね。いもりは一恵さんの怒りと悲しみだろう。おばあさんの代わりに警告してくれた、お父さんは、もういなくなってしまった。かわいそうな人だ。晋くん、君は三郎になって、いけっちゃがらがらのほうにいけ。」

晋「どういう、意味、、、?」

杉三「化け物から助け出してあげるんだよ。いけっちゃがらがらのほうへいけば、藁人形と、かけたお椀をもらえる。藁人形を食べさせて、いもりからお母さんを助け出せる。そして、美味しい水をお母さんにあげれば、また、元気になれる。若いと言うのはそういうことなんだとおもうよ。」

晋「昔話に例えても、しかたないよ。」

杉三「昔話は、抽象的だからね。でも、僕らの生活にしっかり、腰を下ろしているものさ。」

晋「杉ちゃん、君は偉いのか、ばかなのか。」

杉三「お父さんは、お母さんに、何て警告しただろう?」

晋「しばらく休めといっていたけど。」

杉三「それはどうしてかな?」

晋「なるほど!そういうことだったか!」

晋は、はっときがつき、いまに飛び込む。

晋「お母さん!お姉ちゃんをつれてこよう!」

真美子「あんたまでいわないでよ。私はあの子といたら、いつなぐられるか、わからなくて、やすめないわ。」

晋「いいさ、僕がいるよ!僕がお姉ちゃんをうけとめるよ!」

真美子「でも、」

晋「お父さんは、三人揃うほうが、少しは楽に逝けるんじゃないかな。」

高見沢校長「私からもお願いです。一恵さんをつれてきてあげてください。」

真美子「1日だけなら。」

高見沢校長「よかったよかった!よい、お葬式をしてあげられますように。」

真美子「しかたないわ。」

と、携帯電話をダイヤルする。

真美子「一恵につたえてください。葬儀のときだけ、帰ってきていい。ただし、家にはこないようにと。」

反論する声が聞こえてくる。しかし、真美子はすぐに電源をきる。

杉三「大丈夫だ、藁人形は手にはいった。

イモリが帰ってきたら、おもいっきりかっさばいてやりな。」

晋「藁人形?どういうこと?」

杉三「お手伝いさんと、一恵さんは、いっしょにくるとおもうから。電話で聞き取れたの。」

晋「よく聞き取れたね!耳がいいな。」

杉三「あきめくらは耳がよくならなければ。」


翌日。杉三は、高見沢校長と一緒に、葬儀場へいく。

すでに、真美子と晋は、弔問にきた客たちと、挨拶をかわしている。

すると、見たことのない一台の車が入ってくる。いわゆり介護タクシーというものだった。介護タクシーは、駐車場にとまり、自動ドアがあいて、黒い着物に身を包んだイモリがやってくる。隣には、ヘルパーとおもわれる女性が待機している。

イモリは、入り口を見渡し、母親をみつける。

イモリ「お母さん。」

真美子「だれあなたは?」

イモリ「お父さんの顔をみせて!」

真美子「お燗を壊したりしないでよ?」

イモリ「しないわ!」

真美子「ほら、すぐそういってかっとなる。だから、あんたは置いとけないの!」

ヘルパー「あまりにも、ひどすぎますよ。一恵さんは、お父さんが亡くなられたときいて、徹夜でこの着物をぬいあげたんです。」

真美子「いいえ、私は信じませんね。そんなもの。大体、この子は勉強もできなかったし、根気よくやるのが、苦手な子でしたから。」

イモリ「勉強がすべてじゃないわ。ただ、お母さんは、私を、自分の自慢にしたかっただけよ。単に、点数がとれれば、よかっただけ。私は晒し者だわ!」

真美子「一恵、よしなさい、すぐ感情的になるくせ。」

イモリ「じゃあ、わたしのを消して。感情的になるのが、いけないんだったら、それを消す方法をしってるわよね?」

真美子「自分で、」

イモリ「すぐそうやって、逃げる。感情ってそんなにもってはいけないの?お母さんはどうしてそれを教わったの?本当にそれで、しあわせなの?」

真美子「私の時も、そうだったのよ。」

一恵「どういうこと?」

真美子「私のときは、学校が楽しすぎるくらい楽しかったから、部活だって楽しかった。でも、社会にでたら、そんなことは、通用しない。仕事ができなきゃならないし。結婚もして、母親になれば、さらに必要になるから、自分なんて、どこかに、放置しなければならなかったのよ。

その苦しみを、一恵には、させたくなかった、それだけなのに。」

晋「僕もいるよ。確かに悲しいかもしれないけどさ、お姉ちゃんも、僕もいるんだから。僕たち、お母さんの年じゃないから、まだ、わからないけど、御話をきくくらいなら、やれるんじゃないかな。そうしたら、気が楽になるんじゃないかな。」

真美子「晋、あんた、いつからそんなに、、、。」

晋「お姉ちゃんだけじゃない、僕もいるよ。僕だって、そこがわからないほど、ばかじゃないから。」

真美子「私、、、。」

と、床に崩れ落ちる。

杉三「お母さんも、一人の女性なんですね。そのまえに。」

一恵は、母に抱きつき、晋は、母の涙をふいた。

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