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杉と勇敢な市長さん


今日は、富士市が主催する福祉祭り。

祭りの会場のなかを杉三が車椅子で移動する。さすがにあきめくらとからかう子供たちはいない。

会場には、知的障害のある人たちが焼きそばを作ったり、綿菓子やアイスクリームを作ったりしている。

子ども「すぎちゃん。」

母親「杉三さん、こんにちは。」

杉三「ああ、どうもどうも。真理さん。今日は、お母さんと二人で来たのかな?」

真理「うん。きょうは、暑いね。」

杉三「まあね。 」

母親「暑いのに着物で平気なんですか?」

杉三「洋服は、一枚もないから。かえって楽ですよ。」

真理「すぎちゃんには、大島の方がいいのよ。」

母親「大島ですか、じゃあ、お値段も高いでしょうね?」

杉三「いえいえ、古着屋で買ったから、たいしたことないです。それに、自分で仕立てる時もあるので。」

真理「すぎちゃんは、男の人のきものが大きすぎるから、女の人のきもので、裾を切って着るの。」

母親「まあ、そんな面倒な、、、。」

真理「すぎちゃんは、5尺3寸のいい男よ。」

母親「まあ、なにを覚えているのかしら、真美子は。」

すると、スーツ姿の若い男性がとおりかかる。まだ、三十代だろう。

真理「市長さんだ。」

市長、あしをとめて、

市長「こんにちは、よくわかりましたね。まさしく市長の鈴木です。」

といって、真美子に握手する。

真美子「私の学校にきてくれたよね。」

市長「いつくらいの話かな?先月、特別支援学校にいったとき、みたような、きがしましたよ。」

真理「まさしくその通りよ。私の友達の、すぎちゃん。」

市長「ああ、あなたが、杉ちゃんと言われている、影山杉三さんですか?」

杉三「はい、その通りですが、どうしてそれを予め知っているのです?」

市長「高見沢さんからききました、庭はきとして来てもらっているが、別の民族にみえると。確かに、本当にお綺麗ですな。きものがよくにあいますよ。」

杉三「お世辞が上手ですね。僕は、あきめくらのばかな男です。」

母親「市長さん、お若いですね。おいくつなんですか?」

市長「31です。」

杉三「僕より若いんだ!僕は、45ですよ。」

市長「へえ、杉三さんもう45ですか。ずっと若くみえますな。」

杉三「よく、いわれますよ。」

市長「ここでは、中途半端ですから、向こうのカフェスペースで、お茶しませんか?皆さん、障害をもっていらっしゃる、しかし、この町は、そういう人に対して、冷たすぎる気がするんです。ですから、ぜひ、お話を伺いたい。」

杉三「いったいなにを聞きたいのかわかりませんが、お付き合いしますよ。」

全員、カフェスペースにいく。母親が、コーヒーを三つもってくる。

市長「皆さんは、一番困ったことは、なんですか?」

杉三「学校教育かな。」

市長「そうですか。それはそれは。確かにいまの教育は滅茶苦茶ですよ。なんとか建て直したいけど。」

と、手帳を開いて、書き留める。

杉三「はい。進学率ばかりきにして、生徒がつぶれているのに気がつかない。庭はきにいって、それがよくわかりました。」

真美子「杉ちゃんの学校って、そんなによくないんだ。」

母親「この子は、とても楽しそうに学校へいきます。特別支援学校はそうやってたのしみにしてくれますが、通常の高校は酷いですね。だから、いつまでも、差別がなくならないんだとおもいますわ。」

市長「そうですね。確かにその格差は大きすぎますよね。どうもありがとうございます。ほかに、困ったことは、ありますか?」

と、そのときだった。

白い稲妻が光り、

ゴロゴロ、ドシャン!という雷がなった。

市長「これは大変だ。すぐに、ほうそうしなければ!」

と、行きなり立ち上がり、

市長「すみません、この辺で!」

と、走っていってしまう。

母親「なんでしょうね、台風がきたのかしら。」

杉三「台風?」

真理「それにしては、速すぎだわ。だってこっちへ来るのは明日でしょ。ねえ杉ちゃん。」

杉三「僕はテレビがみれないので、なんとも」

数分後、車軸を流すような大雨になり、てんやわんやの大騒ぎ。子供たちは泣き叫び、

親「怖いのね、おうちへ帰りましょう。」

親「こんな雨程度で、泣くんじゃない、帰るわよ!」

すると、市長がもどってくる。拡声器を口につけ、

市長「みなさん、この先は危険です。とりあえず文化会館に一時避難を!」

親「ほら、泣いてないでいきましょう!」

杉三「僕はどうしたらいいんだろう。」

真理は文化会館の入り口をみた。たしかに、問題がある。

真理「杉ちゃんはあるけないわ!文化会館にいけない!」

たしかに、その通りである。文化会館に行くには歩道橋をわたらなければならず、その階段登りはできないのであった。

真理「市長さん、何とかしてあげて!」

しかし、雨はさらに、つよくなり、真理は、他人より自分の方を恐ろしく感じてしまう。母親はそれをみぬき、

母親「真理、私たちもいきましょう、ほら!」

我先にで、溢れ返す人びと。幸い、市役所の職員たちの誘導により、避難は成功し、ほっと胸を撫で下ろす。

親「よかった、三人とも無事で。」

親「お兄ちゃんも、あんたも無事で。」

老人「あんたも、孫も無事でよかったですよ。」

子供「こわかったよ。ママ。」

母親「死ぬときは一緒よ。」

真理「杉ちゃんは!ねえ、杉ちゃんはどこ!」

母親「人のことは、関係ないわよ。こういうときは。」

真理「酷い!私、杉ちゃん取り戻してくる!」

母親「やめなさい!危険すぎる!」

役人「君は一体誰のことをいっているんだね!こんなあぶないときに、たすけにいくなんて、君は、自分を殺すつもりなのか!」

真理「杉ちゃんは、本当にいる人物なのよ!」

役人「どんなひとだ!」

真理「車椅子にのっていて、耳が尖っていて、着物を着た人。」

役人「今時、着物を着た人などいるか。夢見ていたとちがうか?」

母親「真理、いい加減にしなさいよ。」

役人「そうだ、そういうことだ。大体耳が尖るというのはありえない。まあ、知恵遅れにはよくあるとおもうから、お母さん十分に教育してあげてくださいね。」

役人というのは、いつの時代も同じことをいう。



一方、祭りの会場では、杉三が一生懸命列を追いかけるが、車椅子では、追い付けなかった。仕方なく、歩道橋のしたで、雨がやむのを待つしかなかった。

声「杉三さん。」

振り向くと市長だった。

杉三「どうしてここに!」

市長「あなただって、立派な市民じゃありませんか。一人ものこしては、ならないのですよ。」

歩道橋は、たまった雨水が滝のようにながれている。

市長「いま、上るのは、私でも危険です。もう少しここで待つしかないですね。」

杉三「僕のことはいいですから、はやく皆さんのところに。」

市長「きっと、部下の物が何とかするでしょう。それに、もう、この仕事はリタイアしたいので。よいきっかけになりますよ。」

杉三「それでは、称号が泣きます。汚職になってしまいます。」

市長「あなたは、顔だけではなく、心もきれいなんですな。それはすばらしいことです。しかし、政治家というのは、辛いだけです。」

杉三「どうしてですか?」

市長「いわゆる、二世議員でしたし、あまり 市議会でも、僕は必要ないようなきがするんですよ。先程話していた教育は、教育委員会、福祉祭りは、障害福祉課がやればいい。まあ、ただ、紙にはんこを押すだけの仕事ですよ、市長なんて。」

杉三「でも、僕は素敵な演説をたくさん聞いてきましたよ。」

市長「ああ、市長選挙ですか。あのときのような情熱は、もうありませんね。演説の原稿も、父がかいたようなものでしたし。」

杉三「僕は、市長選挙のとき、感動した言葉があるんです。」

市長「なんですか。」

杉三「いまの日本で、一番欠けている言葉に、おさきにどうぞ、という単語があります。つまり、人にたいして、自分の与えられた権利を譲ってあげることです。そのときに、譲ってもらった人の喜んでいる顔、そして、譲った人も、なんとなくうれしくなるでしょう。この美しい日本語を、消滅させてはいけません。現在は我先に、見えない出口を奪い合い、自分の子供さえよければ、という思想が蔓延しています。奪い合うのではなく、お互いに、おさきにどうぞと言い合うことにより、出口はやっと光をみせとくれて、太陽が輝く富士市を作ることができるでしょう。私は、そんな富士市を、つくりたい。どうかどうか、その実現のために、暖かい一票をよろしく御願いします!」

市長は、空いた口がふさがらなかった。なぜ、自分でさえもこんなに正確に、覚えていないのにも関わらず、一文字も間違えずに記憶ができるのか?

市長「杉三さんごめんなさい。そんなに、正確に記憶してくれたのに。その演説は、父が原稿をかいたのです。あなたを傷つけてしまいましたね。」

杉三「いいんじゃないですか、誰が書いたなんて。大事なことだから、原稿として、残してくれたわけですから。逆に、それを守るほうが、よほど素晴らしいとおもいます。お父様は、もしかしたら、そういうことができなかったから、息子さんに残したいと思ってかいたのかもしれないし。

それよりも、誰かが、動かないから、世の中は辛いままなのです。僕は文字がよめないから、どういう目的で政治家になりたいのかはわかりませんが、その公約はみんな美しい言葉です。それが実現できないのは、残念だとおもうんですね。」

市長「あなたこそ、富士市のリーダーの一人に加えたい人です。そのような純粋な目で私たちをみてくれるのは、本当にうれしいし、すごいインパクトをうけました。」

杉三「いえ、僕には庭はきしかできません。読み書きができないし、学歴もない。だから、偉い方に託すしかないんです。」

市長「おさきにどうぞ、、、。そうか。そんなの古いって、バカにされたこともあったけど。そういう意味もあるんですね。」

杉三「ただ、僕は経験からいっただけですよ。あきめくらは選挙演説をきくしか、参政権はありません。票をいれることすら、できないんですから。本当に、それしかできない、演説は綺麗な言葉がたくさん出てくるけど、実際に当選すると、綺麗になれないのは、なぜでしょう?」

市長「、、、。」

杉三「まあ、たまにいるかな、綺麗な人も。」

市長「そういうひとも、、、。」

滝の音がとまる。

市長「あ、雨が止んだみたいですね。」

と、そとをみる。

綺麗に晴れている。

杉三も、車椅子を操作して、外へ出ると、道路は水浸しであるが、すこしずつ、日がさしているのがわかる。

市長「じゃあ、背中にのってください。」

杉三、彼の背中にてをかける。

そうして、背中に乗り、市長は、かれを背負って、文化会館につれていく。

会館には、避難指示が解除され、いえに帰ろうとするひとたち。

市長「みなさん、まず、入り口の前に二列になってください!」

ふてぶてしい顔をして、住民たちは、文句をいいながらも、二列にならぶ。このお陰で、将棋倒しにはならずにすんだ。ならびながら会話する老人もいる。

一人の少女が

真理「杉ちゃん!」

母親は浮かない顔。

しかし、杉三は、市長の背の上で、手の甲をむけて、バイバイした。


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