表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/28

うなぎ


優子「明後日は母の日です。」

無視する生徒たち。

優子「こら、こっちをむきなさい!」

さらに無視する。高野「(机を叩く)話をきけ!お前たちを苦しい思いをして生んで下さった、お母様に感謝の気持ちをこめて、手紙を書くのだ!」

といい、便箋と封筒を配っていく。しかし、思春期という年齢上、親に感謝というのは、なかなか難しい。それを実現化するには、教師の手腕のみせどころ。

高野「いいか、お母様はお前たちを、ものすごい苦しみの上に生み、いまでも、足や体を棒にして働いてくださるのだ。そのうち更年期にお苦しみになり、やがて、死ぬだろう。其のときに笑顔で、安心してしねるかは、お前たちが国公立大学にいくことでなりたつのだ。だから、お前たちはいまから、誓いの言葉を便箋に書いてみろ。そうして約束をかわし、安楽に死なせてやるという誓いをだせ。そうすれば、お前たちは、必然的に国公立大学に行くことができる!」

殆どの生徒は、ポカンとしている。

高野「書け!」

と怒鳴り付け、最前列の生徒の机を叩く。

高野「香川!」

香川弥生は、ひきつったかおをしている。

高野「お前は一番親御さんをくるしめているんだから、必ず国公立へいくように。

第一、髪をそめたり、化粧をさせたら、きれいどころか、被れてもっとわるくしたりするだろう。」

優子は、一番苦しめている、という単語に疑問を持った。実用性をとるのなら、愛子の方が低い。しかしなぜか高野は、弥生に矢を向けるのである。

弥生は、ふてぶてしくペンをとった。そして、なにか書き始めた。

高野「うん、それでよい。では、読んでみろ。」

弥生「おかあさん、私がうまれてごめんなさい。」

高野「なんと素晴らしい!」

優子は、どうしても訂正したかったが、高野に怒鳴られたら、自分も危うく、それでは不味いのでなにもいわなかった。と、いうより言えなかった。

高野「お前もやっと国公立へいく決心がついたな。うん、素晴らしい、素晴らしい成長だ。やっと自分が何をしたらよいのか、わかってくれたようだな。よし、今後は、国公立へいくために、心を捨てて、俺に従うように。」

ほかの生徒も書いていたが、優子は、読む気にはなれなかった。

高野「いいか、この世で一番必要のないものは、感性だ。それを消すのが大人になるということだ。そうすれば国公立へいけて、よい仕事にありつけ、そして、よいお金がもらえて、楽して楽しい人生を送り、生まれたことに喜びをもっていきることが、できるだろう。人間は仕事をしていないと、心がまがっていき、犯罪を犯す。のんびりと、は、もう死語だ。とにかく、将来のために、自分をすて、金をてにいれろ。そうすれば、60をこしたら、たくさんの楽しみをてに入れることができるぞ。そのために、いまから国公立へいき、よい仕事にありつけて、正しい生き方を身につけ、楽しい最期を迎えることができるだろう!」

と、独演会がはじまった。生徒は、ああ、またか、というかおをしている。優子は、聞きながら、子供の頃に読んだ「もも」に登場する、灰色の男たちの言葉に近いようなきがした。高野はスキンヘッドだったため、一瞬、灰色の男がやってきたようにみえた。

チャイムがなり、独演会は終了した。

愛子「弥生さん。」

弥生は、返答しなかった。

愛子「大丈夫よ、あの人のいうことは嘘だから。それより、お母さんに、自分がうまれてごめんなんて書かないでよ。お母さん、悲しむわよ。」

弥生「そうだけど。」

愛子「どうしたのよ。」

弥生「私が消えたいの。間違えて、変な世の中に生まれてきたみたい。」

愛子「なぜそう思うの?」

弥生「情報がないの。ただ、お知り合いの美容師さんが、勧めてくれただけなの。その人は、もう、50をこえているのよ。今考えれば、20年暗い前と、いまなら、違ってあたりまえよね。なぜ、私は、ここまで嫌な学校になってたって、調べられなかったのかしら。」

愛子「PCとか、スマートフォンは?」

弥生「あったにはあったけど、私は年がら年中、練習ばかりしていて、とても調べるよちはなかったわ。東京の美容学校に行こうとおもっていたけれど、これじゃあ、とても無理ね。」

愛子「でも、ご家族が。」

弥生「あんたも偽善者ね。それがあれば、苦労はしないわよ!」

愛子「だって亡くなった訳じゃないのに。」

弥生「ああ、みんなそうやって、私がわるいというのね。もう要らないわ、安易な慰めは。わたし、解ってるのよ。結局、選択肢は死ぬしかないって。みんなそういう。時間が、減っていくといわれたら、生きていたってしかたないわ。ああ、もう、私はそうなるようにできてるんだわ。友達もないし、死んだ方がいいってことね!」

愛子「弥生さん、それは極端すぎるような。」

弥生「だったらうちにきてよ、どれほど惨めか、わかるはずよ!私が!」

と、弁当を買いに教室をでていってしまう。



校長室

高見沢校長「どうしたの愛子さん、」

愛子「あたしは、偽善者だったのかな。弥生さんを苦しめてしまったかな。」

高見沢校長「確かに彼女は問題が多いな。高野さんも、へんな人だけど。」

杉三「まったくですね。本来弥生さんは悪い人ではないのに。まさしく人造人間にさせられそうになっているから、苦しいわけですし。」

愛子「 杉ちゃん名文句!」

高見沢校長「全くだ。でも、人造人間ではいけない。そうなってしまうから、自殺というものがあとをたたないわけで。」

里森「具体的にこれこれという症状がでれば、医者は動けるけど、それがないとなるとね。そうなる前にてをつけなければ、治らないというのが心なんだ。出てからじゃ遅いよね。」

愛子「どうしたらいいのかなあ。」

里森「正反対のことがあればいいんだけどね。」

高見沢校長「本当だね。あの男は、真実をへんな風にねじ曲げていうから、人造人間になってしまうんだよ。」

杉三「天然うなぎは美味しいけど、いまは養殖うなぎしかない、それと一緒だ。て、いうか、天然うなぎはもう、現れないのかもしれないね。ここまで、乱獲しちゃうと。でも、養殖うなぎは、養殖うなぎで、それなりにおいしいんだけどね。」

愛子「杉ちゃん、人造人間の次は、鰻のはなし?意味がわからないわ。」

杉三「(むしして続ける)世の中には、養殖うなぎになって、それなりの味をもつ人がおおいけど、天然うなぎの人もいるんだよ。でも、天然うなぎを養殖うなぎにしよう、という組織があるから、天然うなぎは潰されてしまうんだ。今の傷ついた子供のようにね。」

高見沢校長「なるほど。本来なら天然うなぎを育てなきゃいけないよね。」

杉三「(さらに)うなぎをそだてるには、本当に大変だよ。よくわかる。」

里森と愛子は、よくわからない顔をする。

午後の授業を告げるチャイムがなり、二人は、教室に帰っていく。

植松「えーと、この問題を解けるひと、てをあげて。」

生徒「先生、そんなの、センター試験には必要ないでしょ。」

植松「学校は予備校じゃない。予備校と学校は別のものを学ぶのだからね。」

弥生が立ち上がる。

弥生「じゃあ、あたしたちはどうしたらいいんですか?あれだけ国公立へいけといっておいて、そのために、必要なセンター試験の勉強をしていたら、学校とは、違うなんて。だったら、学校にいる時間を短くしてくださいよ。そうすれば、より国公立大学にいく人がふえて、より正しい生き方ができるようになりますよね。そうでしょう?」

植松の目に涙か光っている。

植松「そうだな。君がおこるのは、無理がない。」

弥生「人をきれいにするのは、そんなに悪いことですか?」

植松「そんなことは、ないさ。だって、自分がかわいくなって、喜ばない人間なんて、いないじゃないか。もし、高野先生のいうことが真実ならば、みんなおしゃれなんかしないのにね。」

生徒たち、拍手をする。

拍手は庭はきをしている杉三の耳にも聞こえた。

高見沢校長「植松先生、よくやってくれました。」

ふっと微笑む杉三。



放課後

高野「なんということをしてくれたんだ、俺のかおにどろをぬるきか!」

植松「いくらでも、塗ってさしあげますよ、だって先生がいうことは、間違いですから、そんなバカなことを言っても、効果はありませんよ!」

高野「なに!」

植松「それに、いまから親亡き後に備えるなんて、ありえないじゃないですか。親亡き後のことは、もう少しあとでいいんじゃありませんか?」

高野「お前はなにもわかってないな。いまの生徒は、回りが便利過ぎているから、厳しくしなければ、自主性がそだたない。厳しい包囲網をどうやって脱出するか、その知恵をつけるために、教えているんじゃないか!」

植松「先生がしていることは、ただのありがた迷惑にすぎ、、、ま、、、せん、、、。」

優子「どうしたんですか?」

植松「いえ、なんでもありません。」

優子「先生、顔が真っ白ですよ。」

高野「喜べ、俺にさからうと、そういうめにあうのだ。」

植松「そんなこと、ぜったいにありませんから!」

と、毅然として帰っていく。

その姿を、杉三がみて、

杉三「植松先生、お体がお悪いのですか?」

植松「杉三さん、ちょっと付き合ってくれませんか?」

杉三「はい。喜んで、」

二人は、少し歩いて、小さなカフェに入った。席に座り、二人はコーヒーを注文した。

植松「ああ、全く。いまの教育は段段おかしくなってますよ。大体、国公立大学は、聖地ではありませんから。僕はうんと、それを感じました。いくら、東大といっても、こういう仕事しかできないんですからね。」

杉三「どうして東大なのに?」

植松「僕は、東大にいたとき、二年間入院しなければならなかったのです。まあ、幸い、三年の終わりのときでしたので、単位はほぼ落とさなかったのですがね。あのときは本当にこりごりでしたけど。おかげで、こんな仕事しかできなかった。」

杉三「そうだったんですか。」

植松「だから知っているんです。世の中には、まけるひとがいて、勝つひとがいるってことをね。」

杉三「養殖うなぎは、皆同じ。天然うなぎはそれぞれ違う。本当はそうしたほうがいい。養殖うなぎで、いつも同じ餌を食べさせるより、いろんな餌をたべるから、天然うなぎは太く、うまい。」

植松「よい哲学をお持ちですね。高野先生、いまの言葉がきこえたかな。」

杉三「いえ、バカの一つ覚えですよ。」

植松「弥生さんに伝えてあげたいですね。」

杉三「先生が伝えてあげてください。庭はきよりずっといいですよ。」



一方、愛子は約束通り、弥生のすんでいる、アパートにいった。連絡網から彼女の携帯番号を読み取り、そこから、彼女の住所を割り出した。電車で、30分。だんだんに田園風景になっていく。なんだ、のんびりが死語なんて嘘じゃないか、と、愛子はおもった。

しかし、スマートフォンのナビゲーションは、愛子を非常に大規模な家につれていった。表札には、香川と書いてあるので、間違いはないのだが、何となく風がつめたい。愛子は呼び鈴をおした。

弥生の声「いいわよ、入ってらっしゃいよ。」

と、ガチャンと戸があいた。弥生は、ジャージ姿だった。

愛子「お邪魔します。」

と、弥生につれられて、なかに入った。

弥生は、お茶をだした。すると、男性と、女性の声がした。彼女の両親か。

男性「利息が2ヶ月遅れている、はやく返してもらわないと、、、。」

いわゆる、高利貸しだった。

女性「あ、あんたね、もうこの着物、いらないってことかしら?もし、捨ててほしくないのなら、はやくおかねを返してね。」

弥生「血も涙もない人たちなのよ。あの二人は。」

愛子「弥生さん。」

弥生「あんなことしている人たちに、感謝の手紙なんかかけるわけがないわ!」

こらえきれずにないていた。

愛子「弥生さん、私、素敵なひとをしってるの。」

弥生「え?」

愛子「あってほしいわ。」

弥生「どんな人?」

愛子「あきめくらだけど、すごく素敵な人よ。いつも、庭掃除をしてて。」

弥生「そんなひと、いるの?今時、あきめくらなんて。」

愛子「あってみればすぐわかるわ。いきましょ。」

二人は、家をでて、電車にのった。

丁度、そのころ、杉三と植松は、店のなかで議論していた。

店長「お客さん、携帯なってますよ!」

植松ははっときがつき、携帯をとった。



三十分ほどして

弥生と愛子が店にやってきた。

杉三「こんにちは、弥生さん。」

弥生「まあ、なんてきれいな人!」

杉三「そうかな?」

弥生「まつげ長いし、きれいよ!ちょっとまって。」

と、鞄をあけて、ファンデーションを取り出した。さすが、美容学校志願者だ。たくさんのマスカラや、化粧道具を持ち歩いている。

杉三「ぼ、僕は、男性なのに。」

弥生「関係ないわよ。いまは、テレビタレントで、化粧しているひとは、一杯いるわよ。」

といい、様々な化粧道具を杉三の顔に塗り込んだ。

弥生「ほらできたわ。」

杉三「どうなったのかな、僕。」

植松は、携帯にある、鏡を起動させる。

植松「見てごらん。いい男になったよ。」

愛子「本当だわ!」

植松「メイクの力はすごいな。」

弥生「まだ、序の口だけどね。」

杉三「いやいや、君は天然うなぎになるべきだ。」

植松「一層綺麗になって、妖精みたいだよ。うん、きみは本当に天然うなぎだね。」

杉三「ここにいないほうがいい。君の人生なんだもの。」

弥生は、ひどく赤面した。

翌日、彼女の机椅子は撤去されていたが、誰も文句をいわなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ