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杉、雷電に会う

静岡駅。杉三がホームを移動している。

杉三「なんて日のくれるのが早いんだろう。」

まあ、彼岸を過ぎたから仕方ない。しかし、安全柵もなく、暗いホームだった。車椅子エレベーターは、駅の端にしか設置されていなかった。しかも、終電なので人はあまりいない。東京とは、また別である。

と、突然、ガタン、と音がして車椅子がとまる。杉三は、車椅子に体をロープで固定していたため、車椅子とはなされることはないが、宙に浮いているような感覚だった。

声「せえの、よいしょ。はい、もう大丈夫ですよ。よかった、落っこちたら、けがでもされると、思いましたから。」

次の瞬間には、車椅子は地上に戻っていた。しかし、草履は脱げていた。

声「大丈夫ですか?」

太い、男性の声だ。いわゆる、テノールに相当した。目の前にマシュマロのような顔をした、太った、和服姿の男性がいた。

杉三「僕は、、、。」

男性「はい。車椅子が、ホームからおちてしまいそうだったから、とめました。

杉三「ありがとうございます。」

と、言うのがやっとだった。

男性「いえいえ。どちらまでいかれますか?」

杉三「富士です。」

男性「はあ、偶然です、僕は、沼津ですから、ご一緒しますよ。」

杉三「ありがとうございます。」

最終電車がやってくる。男性は、杉三を、軽々と持ち上げ、電車に乗り込む。

杉三「お力ありますね。」

男性「ははは、馬鹿力というものですよ。」

杉三「なにか、スポーツをされているのですか?柔道とか。」

男性「いやいや、柔道ではないのです。相撲をやっているんですよ。」

杉三「力士さんですか!それは素晴らしいです、ちなみにしこ名は。」

男性「富士南です。読んで字のごとく富士南です。」

杉三「ふじみなみですか。確か、番付は、前頭15枚目だったような。引退したのは、昨年でしたよね。」

男性「はい、まさしくその通りです。まあ、花咲かせることはなく、相撲人生はおわりました。しかし、あなたも、それを覚えてくださるとは、よほど相撲が好きだったんでしょうな。」

杉三「まあ、よくわからないですけど。でも、相撲と言うものは、日本神話にも書かれたスポーツじゃないですか、だから、もっと自身もっていいんじゃないかな。」

力士「まあ、そうなんですけどね。最近は、日本神話に、登場するような、美しさはありませんよ。」

杉三「どうしてです?だって、中継をみると、みんなすごいじゃありませんか。」

力士「中継を見るのなら、ニュースはみないんですか?それに、大相撲は、今月は、開催されませんよ。」

杉三「僕は、僕はあきめくらだから、ニュースは見れないのです。」

力士「あきめくらなら、どうして前頭15枚目とか、わかるんですか?」

杉三「母が代読してくれたから。でも、おかしいですね。今月は、開催されるはずでしょう?九州場所。」

力士「九州場所が、中止になったのをしらないんですか?」

杉三「はじめてしりました。」

力士「つまりこういうことです。先月、相撲で八百長がありまして、10人の力士が解雇されましてね。そのなかには大関もいましたから、大変なことになりましてね。九州場所は中止になったのです。」

杉三「八百長とはなんですか?」

力士「勝ち負けを勝手に決めて、お金を取引するんですよ。特に外国人の力士はよくやりますね。まあ、日本人がやることは、少ないかもしれないけれど、力士は、よい職業じゃないなあと、思うようになって、いつやめようか、考えているんです。」

杉三「僕は、日本の相撲取りがもっと増えてほしい。外国の人ばかりで、このままでは、乗っ取られてしまう気がして。」

力士「好きな力士はいますか?やっぱり横綱ですか?」

杉三「いえ、そういう人は、嫌いです。横綱とか、大関は。雷電は、好きでしたけど。」

力士「へえ、雷電ですか。どちらからか、タイムスリップでもしたの?」

杉三「横綱にならなかったことが、きれいだと思ったから。」

力士「はあ、、、。わかりませんな。あなたと言う人は。雷電は、当の昔の力士ですし。実際に相撲をみたこともないでしょうし。」

杉三「いえ、まだこれから現れますよ。雷電が。ただ、躊躇しているだけですよ。」

力士「そうですね、でも雷電より、体の大きい力士もいまは、多いからなあ。」

杉三「小さくても、相撲が上手なひとは、よくいるじゃないですか。まあ、いまは、攻めようとしたとき、パッとにげて倒す相撲取りも多いですよね。大体の横綱大関は、それがあるからいやなんですよ。」

力士「そうですか。やっぱり文字が読めない方は、そういうところを見てしまうものですよね。」

杉三「やっぱり、ですか?」

力士「よくわかります。文字が読めない子供をあずかる施設にいくこともあったので。」

杉三「よかったですね。」

力士「なんでよかったなんですか?」

アナウンス「まもなく、富士に到着いたします。」

杉三「もっと長くのりたいけど、僕は下ります。じゃあ、大相撲で会えるのをたのしみに。」

電車が駅に到着する。力士は、杉三を下ろそうとするが、駅員がまっていたので、とりやめにする。杉三は、手の甲を、力士に向けて、バイバイする。電車は走り去っていく。


翌日。

稽古に向かう富士南は、足取りがおもい。前頭15枚目という番付から、なかなか上がれないからだ。本場所では10勝をあがり、親方から、もう番付をあげてもいい、と言われていたが、八百長のおかげて、忘れ去られてしまったからだ。

富士南は、相撲部屋にはいり、稽古をした。周りは異国語で混雑していた。上位の外国人力士から、日本人はだめだという声も聞こえてきて、一種の人種差別だった。

食事をしながら、

親方「なあ、富士南くん。まだ、引退はしないでくれよ。」

富士南「そうですけど。」

親方「外国の連中は相撲とは、なにかをしらない。ただの格闘技とおなじ、勝てばいい、としか、かんがえていないんだよ。君みたいに技で勝つのを目指す力士はすくないよ。」

富士南「でも、今場所はやらないし。」

親方「来場所でまた、やればいいさ。君は、君の相撲をとれば、それでいいから。」

富士南「そうですね。自分の相撲なんて、果たしてできますかね。」

親方「できるさ。そのために、相撲部屋にきているんだから。」

富士南「そうですね、、、。」


二ヶ月後。初場所が東京でおこなわれる。先場所の九州場所は、中止だったが、初場所から復活したのだった。

杉三は、美千恵と枡席にすわっていた。

行事「富士南、富士南、云々、城川、城川 云々、、、。」

城川は、現在の横綱であり、外国人力士だった。体格は富士南の二倍ちかくあった。

土俵にあがった富士南は、何も考えず、静かな顔をしていた。

観客たち「しろかわ!しろかわ!」

観客たち「城川がんばって!」

杉三「城川を応援するのは、いいんだけれど、本来の相撲の作者はだれだろう?」

いつのまにか、枡席から響き渡るのは、城川、城川の大合唱になっていた。

行事「みあってみあって!まったなし!」

二人の対戦がはじまった。とにかく力相撲でおして押しての富士南。しかし、城川は、それをうけとめて、すぐ左によけ、富士南の背を押す。決まり手ははたき込みで、城川の勝ち。となるはずだったが、富士南は、頭に鈍い痛みをかんじた。

富士南は、土俵に腹這いになったが、すぐにたちあがった。

美千恵「物入りがついたわ。」

数分後

審判が、マイクをとった。

審判「ただいまの競技について説明いたします。行事軍配は、はたきこみで、城川のかちと致しましたが、城川の右足が、富士南が倒れるよりも先にでているため、富士南の勝利といたします!」

杉三「いいぞ!横綱をまかしたぞ!押し相撲を交わそうとしたら、自分が先に出ていたなんて、なんという、自業自得!」

美千恵「まあ、あんたの考える勝ちと、お相撲さんの勝ちとはまたちがうけどね。」

杉三「きっとあたまで、考えたとおもうよ。やり取りをおもいだすと、そうだから!」

美千恵「あんたも、もの好きね。」

弓取り式がおこなわれていた。


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