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第3話

 退屈な授業も終わり気づけば既に放課後である。途中、爆睡している片桐が数学教師の持ってきた巨大コンパスで思いっきり頭部を叩かれるという、教育委員会的に大丈夫なのかと心配なところではあったが、無論寝ている方が悪いので当然といえば当然の対応であろう。


 個人的には体罰は有りで良いのではないかという考えだが、もし俺が寝ている時に叩かれるのは勘弁して欲しいのでこのままでも良いかなとも思う。

 こういう考えをする人が増えているから現代は打たれ弱く無能な人物で溢れかえってるのではないかと思うが、かくいう俺も現代の若者なので深くは考えないことにしよう。


 ゆとり教育万歳。


 さて、帰ろうと教科書をロッカーに仕舞い、ペラッペラなカバンを持ち上げたところで俺の周りが既に3人に囲まれていることに気づいた。

 あぁ、そういえば放課後話すって言ってたっけか。


 なんとも記憶力の悪い脳を持ったものである。


「おっと、ここを通りたければ俺を倒してから行くんだな!」

「童貞」

「ぐわあああぁぁぁあ!!」


 瞬殺である。なんとも打たれ弱い男である。

 安心しろ、片桐。ここに集まった連中は全てお前の仲間だ。

 気にする必用はない。


「で、春樹(はるき)。一体何があったのさ?」


 昼休みに帰りが早いだけでこうも心配されるというのもどうかと思うが、まあ入学以来ずっとチャイムギリギリに飛び込んできた俺が早めに帰ってきたとしたらそういう反応になるのも仕方ないのかもしれない。

 日頃の行いというものは大事なんだな、うん。


 とりあえず俺は昼休みの出来事を出来るだけ簡潔に説明した。

 俺の弱みが握られたこと、熱心な宗教勧誘にあうこと、そして白石 優姫(しらいし ゆき)のこと。


 一通り話し終えると、片桐が拳を握り、ワナワナと震えていた。


 さながら携帯のバイブレーションのようだった。

 なんの着信を知らせてくれるのだろうか。

 彼女の電波を受信したのだろうか。


「お前、あの白石 優姫と会話したっていうのか!?」

「あぁ、そうだが。何か問題でもあったのか?」

「問題大有りだ馬鹿野郎!!」


 やはり彼女の電波っぷりは相当有名なのだろうか。


「お前知らないのかよ!? 今年の『1年生美少女ランキング』トップ3のうちの一人だぞ!?」


 驚きの新事実である。

 そして頭の悪そうなランキングである。というか誰が投票したのだ。俺は投票権を持っていなかったぞ。


「ていうかトップ3って誰が居るんだよ」

「何だ、ハル? お前も気になるのか、あん?」

「まあ俺も男だしな。というか近寄るな。唾を飛ばすな」

「とりあえずうちは入ってるんか?」

「そんな訳あるかバーか!! 寝言は寝てからいえ、まな板!!」

「んだとコラー!!」


 また片桐と青山(アオ)が喧嘩を始める。

 さながらどっかの猫とネズミのようである。仲良くケンカしな。


「ぼ、僕は入ってもおかしくないと思うよ、青山さん」

「お? おぉ!! 流石タキジ、目の付けどころがシャープなのよ!!」

「シャープなのは凹凸のないお前の体だろうが」

「ゴラァ!! 表出ろや下の毛天パ!!」

「テメエ!! やんのか!? あん!?」

「上等だ腐れポンチが!!」


 また喧嘩を始める。話が進まない。


「落ち着いてよ二人とも…」


 呆れ気味にそう言う。

 小林(タキジ)は何故こいつらと一緒にいるのだろうか。


「しかしそんなすごいやつだったのか、あいつは」

「そんな高嶺の花とお前が話していいわけないだろうが!! ふざけるな!!」

「知るかよ。あと少し離れろ。鼻息がかかるな」

「でも白石さんは『白雪姫』の異名を持つくらいだからね」

「誰が付けたんだよ、そんなの…」

「羨ましいぞこの野郎!!」


 彼女の電波っぷりを知ってるものは居ないのだろうか。

 というかお前らには説明しただろうが。


「それでも可愛ければかまわん!!」


 高い壺買わされても文句言うなよ。


「でも意外だね。白石さんがそんなことをいう人だったなんて」

「人の趣味だからな。好きにさせてやれよ」

「おー?  なんだ? ハルは入信するんか? 日曜日に歌いに行くんか?」

「いや、俺は更々そんな気はないけどな」


 別に何を信じるかは人の勝手だから好きにすればいいと思う。

 だが人に押し付けるのはよくないと俺は思うわけだ。

 無理矢理ダメ、絶対。


「貴様!! 話しかけて頂いたのにそれを無下にするというのか!! この不届き物が!!」


 だったらお前が一緒にその道を歩んでやれよ。


「喜んで!!」


 ダメだこいつ。早くなんとかしないと。


「でもなー変じゃねーの?」

「アオ、どういうことだ?」

「あんなー? 話聞いた感じだとよっぽど神様にLOVEずっきゅんじゃんか?」

「そうだな」


 ただLOVEずっきゅんは意味分からん。


「したっけな? わざわざ一人に照準合わせて狙う打ちする必要あるんか?」

「…確かに。非効率的すぎるな」


 それなら教室で全員に聞こえるように言った方が早い。

 片桐みたいな奴ら(アホ)はほいほいついていくだろうしな。

 だったら何故そんな面倒くさい真似を?


「そんなのわかりきってんのよー」


 …碌なことにならない気がするが、何だ、言ってみろ。


「そんなのハルにLOVEずっきゅんだからに決まってるのよ!!」

「ハルてめええええええええぇぇぇぇぇ!!」


 そんなことだろうと思った。何をまた意味のわからないことを。

 そして、片桐。憶測で俺の胸倉を掴むのはやめろ。服が伸びる。


「でも確かにそうだね。それなら辻褄が合うね」


 小林も真剣な顔して何を言ってやがる。誰か俺の味方は居ないのか。


「でもそうとしか考えられないのよ?」

「あのなぁ、俺が選ばれるわけねえだろ。それならもっとマシなやつがごまんといるだろうが」

「俺とかな!!」


「「「それはない(のよ)」」」


「酷いなお前ら!!」


 しかしもし、仮に、万が一、if、俺に気があるとしよう。いや、ホント、そんなわけないのだが。

 だがもしそうだとしても俺は今まで白石と話したこともない。

 いや、もしかしたらどこかで話したことがあったのかもしれないがそんな記憶は一切ない。


 そんなやつのことを好きになるだろうか?


「うん、ないな」

「まだ言うか!?」


 思ったことが口に出てしまったようだ。まあ否定するのも面倒なのでいいか。


「んー、それじゃあ…」

「あぁ、もういい。どうせ考えても無駄だしな」

「そうな。足りない頭振りしぼったって無駄にカロリー消費するだけなのよ」

「じゃあその分補うためにパフェでも食べに行く?」

「おぉ!! いいじゃねえか、行こうぜ!!」

「ナイスアイデアなのよ!! さぁ、皆の者出陣じゃ!!」


 …あまり甘いものは好きじゃないんだけどな。


 そう思いつつもついていく俺だった。

 なんだかんだこいつらと過ごす時間は楽しいからな。

 まあコーヒーくらいあるだろう。


 俺たちはすっかりオレンジ色に染まった教室を後にした。

 廊下を歩きながら何の中身もなく、くだらない、まるで意味のない、だが嫌いじゃない話をしつつ学校をあとにした。


 こいつらとこんな時間がいつまでも続けばいいなんて柄にもないことを思いながら。


 だが世の中ってのは俺の意思に関係なく俺、の考えとは真逆の、俺の望んでいない方へと物語は進んでいくのだ。

 俺の幸せ空間は校門前で立っていたある少女によって激変させられるのだった。


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