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第2話

 その後、一緒に帰るとあいつらに何からの冷やかしを受ける可能性を大いに感じた俺は、さっさと一人で屋上から立ち去り、いつもより早めに教室へと着いた。いや、教室に着くまで延々と勧誘されるのも億劫だったというのも理由だが。


 俺が教室に着いた時には授業10分前ということもあってか、まだ誰も席に着いているものはいなかった。

 …いや、そりゃ数名は音楽を聞きながら携帯を弄っていたり、寝たふりをしている奴もいたが、大多数は何人かグループを作り団欒していた。


 普段俺がつるんでいるやつらも例に漏れず教室の隅の方でひっそりと団欒をしていた。なんでそんな端の方にいるんだよ。

 …いや、全員目立つほうじゃないしな。仕方ないよな。

 普段なら昼休みの貴重な時間を屋上で一人過ごすため、この時間に会話に交じることは滅多にないのだが、流石に残り10分間机の上でぼーっとしているのも酷く面白みがない、というか普通に淋しいので、俺もそっちの方へと足を運ぶことにした。


「おー、何の話ししてるんだ?」

「あ、春樹(はるき)。珍しいね、こんな時間に教室にいるなんて」

「ちょっと色々あってな」

「なんだ? 女か? 女なのか!?」

「おー!! ハルにも遂に春が来たんか?」

「ふざけるな、裏切り者!!」


 そう言って、小林、片桐、青山がこちらを向く。うるさいぞ、片桐。彼女いない歴=年齢だからと言って僻むんじゃない。そして小林、青山。お前らはニヤニヤするな。勘違いだから。


「いや、違うからな」

「そっか。…ドンマイ、春樹」

「気にするな、ハル。女なんて星の数程いるぞ。」

「タキジ、アオ。それは盛大な勘違いだ」

「でもな? 星って手を伸ばしても届かないんよ?」

「アオ。お前は何が言いたい」

「ざまぁ!!」

「そして片桐。お前はあとで屋上な」


 ちなみに青山(アオ)と俺は小学校からの腐れ縁だ。あとタキジというのは小林のことだ。無論あだ名だが。小林(タキジ)と片桐は高校からの付き合いだがどうして仲良くなったかはあまり覚えていない。気づけば傍にいたという感じだ。


「じゃあなんでこんなに早いの?」

「まあなんだ。屋上で女の子と色々あったには違いないんだけどよ」

「ダニィ!?」


 ほんの数分だけどな。あとダニィって誰だ。


「貴様!! 卒業しちまったのか!? ついに卒業証書を受理してしまったのか!?」

「してない上に意味がわからん。どうしてお前の脳内はそんなにピンク色なんだ」

「中学校からこんなんだから気にしないであげて。ごめんね、青山さん。嫌な思いをしたんならボコボコにしていいから」

「タキジ!? お前は笑顔でなんて怖いことを言いやがる!?」


 この小林という男、可愛い顔して妙に毒舌である。


「うんにゃ、気にすんな? 男は皆ケダモノだってうちのマミィも言ってたんよ。淑女はそんくらい受け止めるのよ」

「女として扱われたければそのおこちゃま体型をどうにかするんだな!!」

「んだとー!! やんのかこのチ○毛天パ!!」

「て、天パは関係ないだろ!! 気にしてんだからやめろよ!!」

「青山さん…。女の子が大声でそんなこというのはどうかと思うよ…」


 それには大いに賛成である。アオよ、いつからお前はそんなことを言うような女になってしまったんだ。淑女はそんなこと言わん。下手すれば小林の方が女らしいぞ。

あと片桐の天パ確かに汚い。ストパーかけて来い。


「それで…結局何があったのさ…」


 随分と疲れ切ってんな。普段俺が居ないときどうやって収集付けているのか大いに気になるところだ。


「あ、その前に良いか? 俺も、お前らにも聞きたいことがあったんだよ。お前ら俺が屋上に行ってることを誰かに言ったか?」

「え? いや、誰にも言ってないけど。それがどうしたの?」


 そうするとおかしい。何故あいつは「やっぱりここに居たんですね」と言ったのだろうか。まさかストーカーか!?

 …いやいや、ないないと自問自答する。これで俺がイケメンならば有り得ない話でもないが、如何せん俺は「普通」だの、「面白みのない顔」だの、「平々凡々」と言われ続けて来たのだ。

 いや、まあブサイクと言われるよりはマシだがなんとも酷い言われようである。


「いやな、それがよ」


 と、話を続けようとした所で無情にも授業の始まりを告げるチャイムが鳴り響いた。

 何故だ。どうしてこうもうまくいかないのだ。


「あ、ごめん。放課後にでもまた話を聞くよ」

「…あぁ」


 そう告げると小林はそそくさと自分の席へと戻っていった。


「ハルー。あとでじっくりと尋問してやるぜー。げっへっへー」


 なんとも下世話な笑い方である。淑女はどうした。


「おい、春樹!! 俺にも回してくれよ!!」


 お前に至っては何を言っているのだ。下半身と脳が直結しているのだろうか。それにさっき否定したばかりだろうが。頭だけではなく耳まで腐っているのだろうか。


 はぁ、と溜息をつきながら俺も自分の席へと向かった。

 途中、いつの間に帰ってきていたのか白石が既に席に座っており、こちらをじっと見つめていた。そんなに見つめるな恥ずかしい。頭はどうか知らんが顔はなかなか良いのだから照れるだろうが。

 俺が小さく会釈をするとニコっと微笑みを返して来た。やめろ、俺には刺激が強すぎる。


 そして俺が席に着いて数秒してから、無駄にでかい三角定規二つとコンパスをもって数学教師が教壇に現れた。しかしなんでまあ、数学教師なのに白衣を着るのかね。チョークの粉がそんなに嫌いなのかね。


 級長の号令と共に始まった授業を適当に聞き流しつつ俺は放課後になるのをじっと待った。

 何、だから高校落ちるんだって? うるせえよ。


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