分を心得た者と運がない者
エテーナの故郷のギリシャにやってきた二人。そこで待つのは意外な強敵との遭遇であった。
「英志おじさんから来た絵葉書、見せて!」
響子が鏡にねだる。
鏡は頬を引き攣らせて言う。
「すまない。これはちょっと見せられないんだ」
頬を膨らませる響子。
「お父さんのケチ! 見せて見せて!」
駄々をこねる響子に困った顔をする鏡。
「どうしたんですか?」
そこにやってくる芽衣子にすがりつく響子。
「お父さんが絵葉書、見せてくれないの!」
芽衣子は、困った顔をする鏡に苦笑しながら言う。
「響子、ポケモンの絵本が有るんだけど見ない?」
「見る!」
響子はさっきまでの執着心は何処に行ったのか、あっさり誘導される。
渡された絵本を手に子供部屋に走っていく響子を見送ってから芽衣子が尋ねる。
「今度は何処からですか?」
鏡はアテナ神殿が描かれた絵葉書を見せながら言う。
「ギリシャだ。かなり大きな組織の支社を一つ潰したらしい。これから希代子さんに連絡して、表と裏に対する対処をしないといけなくなりそうだ」
少し寂しそうな顔をする芽衣子。
「また出張?」
鏡は、優しく抱きしめて言う。
「直ぐ帰ってくるよ」
「居ない分、今夜は頑張ってね」
芽衣子の言葉に鏡は頷く。
「響子に弟か妹を作ってやらないといけないからな」
その日の谷走家の夜はかなり激しかったらしい。
「ここがあたしの育った町です」
ギリシャの片田舎の町の入り口で、エテーナがエイジに告げる。
「趣がある町ですね」
エイジの言葉に苦笑するエテーナ。
「良いんですよ、何にも無い田舎だって言っても」
エイジは首を横に振る。
「いえ、ここには、平穏があります」
その言葉にエテーナが頷く。
「確かにそうだね。でも、今のあたしには長くは居られない町」
少し悲しそうに言うエテーナにエイジははっきり言う。
「主が望むのでしたら、私は全力で、この町に戻れるように努力します」
首を横に振るエテーナ。
「それは、良いの。人は何時までも過去に拘っていたら不幸になるだけだもん。調査を開始しましょう」
「はい、主」
エイジが頷き、町の調査を開始した。
「少し意外でした」
エテーナが食堂で前に座るエイジに言う。
「何がでしょうか?」
エイジの言葉にエテーナが言う。
「エイジさんってひょうきんな事も出来たんですね?」
「谷走の仕事の中には情報調査もあります。その為に必要な技能ですので習得しました」
エイジの即答に頬を掻くエテーナ。
「ひょうきんな態度って習得する物なんですか?」
エイジが強く頷く。
「はい。谷走の人間の中では一番難しい課題と言われていました。従兄弟に当たる、鏡は、習得できなかった為、零刃に身を置いていた時代もあります」
何かが間違っていると思うエテーナだったが、デザートを食べ終えた後、部屋に戻り、エイジが用意したお茶を口にしながら言う。
「そちらはどうでしたか? あたしは、知り合いへの挨拶で殆ど調べられませんでした」
エイジは手帳を取り出しながら答える。
「場所が場所の為、ギリシャ神話の亜種と思われる話が多かったですが、特色がある話しにユニコーンの話しがありました」
「ユニコーンって頭に角を生やした馬の事ですよね?」
エテーナが聞き返すと肯定してエイジが続ける。
「星座にもなっている有名な神獣です。一説には、中国伝承にある麒麟の一種だとされる物もあります。しかしながらこの周囲のユニコーン伝説では、戦いを恐れぬ女性を好むとされています」
「それって普通じゃないんですか?」
エテーナの言葉にエイジが有名なギリシャ神話の本を出しながら答える。
「色々亜種は、ありますが、基本的には清らかな少女、言葉は悪いですがロリコンと呼ばれる趣向があるとされています」
エイジが指した所を読みながらエテーナが驚く。
「そうだったんだ。でもなんでロリコンなんでしょうね?」
エイジが手帳を開き確認しながら答える。
「八刃では、ユニコーンは、大海神金海波様の使徒説が有力です」
「どうして金海波の使徒だとロリコンなんです?」
エテーナな質問にエイジが答える。
「金海波様は同性愛者のうえ、幼女に激しく欲情するそうです」
引くエテーナを敢えて無視してエイジが説明を続ける。
「問題のユニコーンは通常のユニコーンと異なります。いくつかの可能性が考えられますが、回復能力を考えて、このユニコーンが問題の血の源流かもしれません」
複雑な顔をするエテーナ。
「あたしのご先祖様が角の生えた馬の可能性があるって事ですか?」
「気にする事は、ありません八刃の一つ、霧流は、大きな爬虫類の子孫です」
エイジのフォローに苦笑するエテーナ。
「ありがとうございます。明日からは、その伝説を中心に調べましょう」
「主のお考えのままに」
頭を下げるエイジであった。
足を使った調査は主にエイジの仕事であった。
エテーナは町の資料館で、古い資料を調べていた。
そこに、エテーナの事を知る老女がやってきて言う。
「久しぶりね、エテーナちゃん。町に帰ってきたの?」
寂しげな顔をしてエテーナが首を横に振る。
「いえ、調べ事があったので一時的に戻ってきただけです」
本当に残念そうな顔をして老女が言う。
「そうかい、やっぱり若い人には都会の生活が良いのかねー」
「違います! でも色々事情があるんです」
真剣なエテーナの言葉に老女が微笑み言う。
「ありがとね。でも良いんだよ、偶に戻ってくる孫の顔さえ見れればあたし等は幸せなんだからね」
去っていく老女を見送りながらエテーナが言う。
「この町は本当に穏やかで平和なのにどうしてだろー」
「人は、停滞に恐怖を覚えます」
いきなりエテーナの背後からエイジが話しかける。
「何時からいたんですか?」
エテーナの質問に頭を下げるエイジ。
「失礼しました。お知り合いとお話の途中だった為、挨拶が遅れました」
「それよりさっき言った事は、どういう意味ですか?」
エテーナの質問にエイジが頭を上げて無表情を装いながら答える。
「物事は常に変化している物です。その為、変化が無い様に見えるとき、それは他者からの遅れだと判断されやすいのです。他者からの遅れは敗北をイメージします。誰もが勝ちたいのです」
悲しそうな顔をしてエテーナが言う。
「そんなのは悲しいです。この町は決して遅れてる訳じゃないです。常に穏やかな空間を維持しているんです」
頷くエイジ。
「主の仰るとおりです。何かを維持する事は、下手に先に進むより難しい事です。誇りに思うことは間違った事ではございません」
笑顔で頷くエテーナであった。
一日の調査が終えて、部屋でエイジの煎れた紅茶を飲みながらの報告が始まる。
「あたしの方の調査では、ユニコーンの話しが出始めたのは、ハイジペータ博士が言っていた期間と合致していました」
エテーナが報告を終えると続けてエイジが報告する。
「高齢のお方からお話しを聞いたところ、ユニコーンに実際会った事がある人間が居たそうです。聞いた相手は他界していましたが、年齢から考えて該当する期間だと思われます」
少しの沈黙の後、エテーナが言う。
「詰り、あたしのこの血の力はそのユニコーンとの混血で発生した物だって事ですか?」
「その可能性が高いです。ユニコーンの遺物があれば、ハイジペータ博士に調査していただく事も可能かと思われますが、その様な資料は無いようです」
エイジの言葉にエテーナが溜息を吐く。
「確信が得られないと言う事ですよね。でも、ある程度の事が解った。感謝しているわ」
「恐れ多い事です」
エイジが頭を下げるのに苦笑しながらエテーナが言う。
「明日、あたしが生まれた家に寄ったらハイジペータ博士に合流しましょう」
「主のお考えのままに」
エイジは、返事をすると向かいの部屋に退室する。
その態度のエテーナが拗ねた表情をする。
「本当にエイジさんってかしこまってるんだから」
生家の前に立つエテーナ。
「大分壊れてるね」
独り言の様に呟きエテーナが扉を開ける。
そこには、近所の人の善意で荒れては居なかったが、人が住んでない冷たさがあった。
エイジを後ろに連れながらエテーナはゆっくりと家の中を回る。
「懐かしいな」
古い遺影の前に立つエテーナ。
「これがあたしのご先祖様達だよ」
「主に似て、聡明なお顔です」
エイジが遺影を見ながら答えたが、その視線が一番古い遺影の前で止まった。
「どうしたんですか?」
エイジは少し考えた後告げる。
「すいませんが、遺影に触れる許可を頂きたいのですが?」
戸惑いながらエテーナが言う。
「別にかまいません」
エイジは遺影の額を外すとその裏から、数本の毛の束を見つけ出す。
「そんなのがどうして?」
エテーナが驚く中、エイジが告げる。
「この世界の常識内には、無い力を発しています。もしかしたら問題のユニコーンのものかもしれません」
「それじゃあ、これがあればあたしの血の元が明確になるんですね?」
エテーナの言葉に頷くエイジ。
嬉しそうにするエテーナだったが、次の瞬間エイジは、エテーナを抱きかかえて横に飛ぶ。
エテーナ達が居た所に弾丸飛んで来て、周囲に電撃を放つ。
「まさか刺客?」
驚くエテーナに冷静に頷くエイジ。
「大丈夫です。主はこの私が絶対に護ります」
しかし、エイジの頬には冷や汗が流れ落ちる。
「お久しぶりです、谷走、本家の英志さん」
一人の青年がエイジの前に立っていた。
「キリンに雇われたのですね?」
エイジの言葉にその青年は頷く。
「はい。八刃の本家の人間が関っていると言う事で、態々ロンドンの私の所まで話が来ました」
何時もの余裕が無いエイジにエテーナが言う。
「どうしたのですか? もしかして知り合いですか?」
エイジは油断なく構えて答える。
「八刃の盟主、白風の分家、ホワイト家の当主、キバーノ=ホワイト氏です」
「英志さんとは、一度、ロンドンにいらっしゃった際に挨拶にこられ、会っています」
その青年、キバーノが普通に答える。
「でしたら、話をして、やめてもらうわけにはいかないのですか?」
エテーナの言葉にエイジは首を横に振る。
「無理です。八刃が協力をするのは異邪と相対する時のみ。それ以外の場合、自分達の仕事で相対した時には対決を避けられません」
頷くキバーノ。
「お互い、自分の誇りの為にも、相手が同じ八刃に属するものだと言って、手を抜くわけにはいきません。そして、本家の人間を相手にする以上、本気で相手をさせてもらいます」
キバーノの指示に答えて、数名の部下が、拳銃を構える。
『影球』
エイジの言葉に答え、影の球が空中に浮かぶ。
通常の弾丸なら余裕で受け止める影の球だが、キバーノの部下が放った弾丸は、影の球を貫き、エイジ達を襲う。
エイジはエテーナを抱えたまま飛び退く。
「正直、今回の仕事は請けるかどうか悩みました。英志さんを殺せという仕事でしたら断っていました。我々の手に余る仕事ですから」
キバーノは、淡々と語る。
「しかし、今回の仕事はその娘さんを連れて、引き渡すだけです。それだったら我々にも十分可能と判断しました」
エイジは、廊下に出て、壁を盾にしながら言う。
「詰り、まともに勝負するつもりはないと言うことですね?」
「はい」
即答するキバーノ。
「大丈夫ですか?」
エテーナの言葉にエイジは真直ぐな瞳で答える。
「奴等の思惑通りには行かせません」
その真直ぐさに不安を覚えるエテーナ。
「お嬢さん、はっきり言いましょう。貴女が居なければ我々でその人を追い詰める事は不可能です。谷走の人間が使う、影走を使われたら、手も足も出ませんから。そして貴女が特別な存在でなければ英志さんは、貴女を連れて影走が可能かもしれませんが、貴女の特殊な体質な為、それも不可能。詰り、貴女が足手まといなのです」
キバーノの宣言に動揺するエテーナにエイジが深呼吸をして答える。
「あの者の発言には大切な事が抜けています。主が居るからこそ私が戦っているのです。主が居ない状況の想定など意味はありません」
「しかし……」
戸惑うエテーナにエイジが告げる。
「主は、私に戦う意味を与えて下さいました。私にとってそれ以外の事に意味はありません」
エイジの真剣な表情に見惚れるエテーナ。
その時、天井が崩れ落ちる。
咄嗟にエテーナを庇うエイジ。
しかし次の瞬間、周囲を煙が覆った。
煙が消えた時、エイジが舌打ちをする。
「逃げられると思うな!」
エイジの傍からエテーナが居なくなっていた。
エイジは、外に駆け出すが、周囲の気配が無かった。
「遠くにいける筈は無い。何処だ?」
精密な気を飛ばし、周囲の全ての気配を探るエイジ。
「しまった!」
エイジが振り返った時、エテーナの家の天井に穴が空いて、そこから小型ヘリが出て行く。
『影走』
影に沈むエイジだったが、小型ヘリの周囲に張られた結界に弾かれ、家の上に現れると小型ヘリを睨みつる。
「絶対に探し出します!」
キバーノ達の小型ヘリが到着したのは、キリンのギリシャ支社ビル。
「見事な手際でした」
屋上で待っていたスーツを着た中国人の女性の言葉にキバーノが意識を失っているエテーナを渡して告げる。
「紅虎さん、これで私の仕事は終わりでよろしいですね?」
その言葉に表情を変えずその女性、紅虎が答える。
「契約はこれで満了です。しかし、貴方の実力を見込んで今後とも深い付き合いをしていきたいと思っていますので、出来ましたらこの後の目的地までの警護もお願いしたいと思います」
断られることが無いと思った紅虎だったが、キバーノは首を横に振る。
「残念ですが過大評価です。正直、私達にはこれが精一杯です。襲撃に来た英志さんを撃退する事など出来ません」
意外な言葉だったが、紅虎は冷静に交渉を続ける。
「貴方達単独でやるわけではありません。それに、貴方も何時までの分家で居るつもりは無いでしょう? 我がキリングループは、貴方をバックアップする用意があります」
キバーノがはっきり答える。
「残念ですが、私は本家との格の違いくらい理解しています」
以外の野心無さに驚くが、有効な手駒を失う気が無い紅虎は、続ける。
「オカルトの力だけで世界を左右出来た時代はもう終った筈です。いま必要なのは金の力です。お金さえあればどんな相手にも勝てます」
苦笑するキバーノ。
「例えば、核ミサイルを撃ち込めばどんな敵でも倒せると言う意味ですか?」
紅虎が頷く。
「それは極端な例ですが、その通りです」
キバーノがもう一度首を横に振る。
「やはり駄目です。核ミサイル撃てば勝てるなんてレベルで考えているのでしたら無駄ですからね」
紅虎がその言い様にさすがに気に障ったのか、目付きをきつくして言う。
「考えが幼稚だと言いたいのですか?」
キバーノは、小型ヘリに戻りながら言う。
「白風の次期長は、その核ミサイルすら生身で迎撃するんですよ。核ミサイルでどうにかなるなんて考えている内は係わり合いにならない様にする事です」
飛び立つキバーノに紅虎が小さく舌打ちをした後、指示を出す。
「早く、移送準備を始めなさい」
ギリシャ支社ビルの最後の夜がこうして始まった。
「ここが問題のビルですね?」
タクシーの運転手に確認するエイジ。
「そうだけど、こんな遅くに来ても相手にしてもらえないよ」
運転手に料金を渡し、正面ロビーから堂々とキリンのギリシャ支社ビルに入るエイジ。
「お客様、本日の業務は、終了しています」
帰り支度をしていた受付嬢の言葉に、エイジが告げる。
「三分だけ待ちます。エテーナ様の従者が迎えに来ました。直ぐに主を返していただきたい」
受付嬢が首を傾げた時、ロビーを武装した男達が現れる。
「大人しく正面から来るなんて馬鹿げた事をしたな! ここで死ね!」
無数とも思える弾丸が発射される。
「これで止めだ!」
数個の手榴弾が投げられた。
受付嬢が涙目で机の下に隠れたロビーは悲惨な状態になっていた。
『影沼』
男達が自分の影に飲み込まれていく。
直前まで誰も居なかった場所に瞬間移動の様に現れたエイジに受付嬢が震えながら尋ねる。
「貴方は何なんですか?」
エイジはこんな状況なのに少しの乱れも無い執事服から誇りを払って言う。
「先ほども申しました。貴方達が連れさったエテーナ様の従者です」
エイジは、階段を上に向かって上り始める。
「どうなっているのですか!」
ギリシャ支社長が怒鳴るとその前の大画面に映る紅虎が答える。
『事前に通達していた筈です。私達が確保した娘の奪回に一人の男が来る事を』
ギリシャ支社長が机を叩き怒鳴り返す。
「銃が効かない化け物なんて話しが違いすぎます!」
紅虎が冷たい視線で答える。
『勝てとは言いません。私達が逃げる時間を稼ぎなさい』
「しかし、どうやって時間を稼げば?」
困惑するギリシャ支社長に紅虎が告げる。
『そのビルを廃棄しても構いません』
目を白黒させるギリシャ支社長。
「しかし、そんな事をしたら大変な事になります!」
紅虎は、席を立ち告げる。
『もしも時間稼ぎに失敗したときは、貴方はキリングループの総帥の意思を邪魔した者として通達が出される。その意味を知らない訳ではないな』
そのまま画面の前から立ち去る紅虎。
ギリシャ支社長は、体を震わせる。
そこに秘書が来て告げる。
「問題の男が、もう下の階まで来ています」
ギリシャ支社長は覚悟を決めた様にあるスイッチを取り出す。
そのスイッチを見て秘書が驚愕する。
「それは、まだ制御装置が未完成の兵器です。それを起動させたらビルに甚大な被害が出ます」
「もうわしにはこれしか残ってないのだ!」
ギリシャ支社長が震える手でスイッチを押した。
エイジは支社長室の扉を開ける。
「私の主の居場所を教えて貰いましょう」
しかし、顔を真っ青にしたギリシャ支社長が怒鳴る。
「言える訳無いだろうが! お前はここで死ね!」
ギリシャ支社長の言葉に答える様に、床が壊れて、八本足のロボット兵器が現れる。
「無駄な事を」
エイジが影に手を伸ばした時、ロボットの目が光、レーザーが放たれる。
そして、高速で移動して連続してレーザーを放つロボットにさすがのエイジも後退する。
「倒すのは面倒だが、しかし無理に相手をする必要はないな」
『影走』
エイジが影に消えた時、ロボットの胴体が光り、影を打ち消し、エイジを影から押し出す。
「ただの光で、私の技が敗れる訳が無い」
ギリシャ支社長が馬鹿笑いをあげる。
「それは、DDCが崩壊した際に、逃げ出した技術者に作らせた、オカルト技術を流用した兵器だ。まだまだ制御装置には改良の必要があるが、制限無く暴れるぶんにはなんの問題はない!」
エイジが溜息を吐く。
「愚か過ぎる。その程度の兵器で八刃の本家の人間を相手に出来ると思っているのか」
ギリシャ支社長が怒鳴る。
「幾ら強かろうが、人間が機械に勝てるわけが無い!」
エイジは自分の影に手を着ける。
『影連断』
エイジの影から発生した複数の影の刃がロボットの足全てを一瞬で断ち切る。
愕然とするギリシャ支社長。
「そんな事がある訳が無い! そのロボットには、術に対する抵抗もあった筈だ!」
エイジはゆっくりとギリシャ支社長に近付き告げる。
「私達、八刃を並みの術者と一緒にしないで下さい」
腰を抜かして必死に這って逃げるギリシャ支社長にエイジが冷たい視線を向けて告げる。
「何度も言うつもり無いからそのつもりで答えて下さい。私の主、エテーナ様を何処に連れて行ったのですか?」
ギリシャ支社長が涙を流しながら答える。
「私は何も知らない!」
エイジは、ギリシャ支社長の足を無造作に踏み潰す。
声にならない叫び声をあげるギリシャ支社長。
「次は、無い。言わなければ、頭の中を直接調べるだけです」
エイジの言葉に、ギリシャ支社長が叫ぶ。
「あの娘だったら、香港に向かった! 香港の九龍城跡地の地下に存在する、極秘研究所に運ばれる筈だ! このビルの地下にある空港直通の地下鉄に乗って移動中だ!」
エイジがそれを聞くと、影に消え、次の瞬間にビルが倒壊した。
直通の地下鉄の車両の中、紅虎が呟く。
「これで次の電車は発車出来ません。私達が空港を出るまであの男が追いつく事は不可能でしょう」
そして、エテーナが眠らされたベッドの横にはアリスが居た。
「本当に面白い展開になってきたわね」
微笑むアリスだったが、その存在には誰も気付かなかった。