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ブラッドオブエリキシルとシャドーマスター

医学が発達したドイツ、そこで青年と少女が出会った

「お父さん、英志エイジおじさんから絵葉書が来たよ!」

 今年小学校にあがったばかりの少女が、郵便受けから絵葉書を持って、父親の元に向った。

 少女の名前は谷走タニバシリ響子キョウコという。

「英志さんから?」

 手紙を受け取った少女の父親、一見大人しそうな男性、谷走鏡キョウが首を捻る。

 鏡が首を捻るのも確かである。

 手紙の送り主である英志は、ここ数年、音信不通だったからだ。

「綺麗な絵葉書だね」

 嬉しそうに言う響子の言葉に手紙の意味を悩みながら頷く鏡。

「特にここの赤が」

 響子が指さした所を見て鏡は固まる。

「綺麗だよね?」

 響子の言葉に慌てて、その絵葉書を隠して鏡が言う。

「そうだね。でもこれはお父さんのだから、あんまり見ちゃ駄目だよ」

 その言葉に口を膨らませる響子。

「お父さんのケチ!」

 拗ねる響子を部屋の外に出して、改めて絵葉書を見る鏡。

「英志さんも何を考えているのだ、血で汚れた絵葉書を送るなんて」

 そう言いながらも鏡はその絵葉書がただの連絡ではない事を悟っていた。

「変色する筈の血液が綺麗な赤色のまま手紙に付着し、絵になっている。通常では考えられない。オーフェン関係か?」

 そう呟きながらあて先と本文が書かれている方を見る鏡。

「ドイツから送ってきたのか」

 そこに書かれた普通に読めば、挨拶から始まる普通の近況報告に隠された暗号を読み取り、鏡が溜息を吐く。

「ブラッドオブエリキシル、英志さんも、とんでもない物に関わったって事だな」

 そして鏡はその手紙を、自分達が所属する組織の研究所に送る手筈をとる。

「画に誤魔化して送った血だけで調査するのは難しいですよ、英志さん」

 そうぼやく鏡であった。



 ドイツ、ベルリン市街を一人の少女が駆けていた。

 綺麗な金髪のロングヘアーの少女だった。

 活動的な服を着ているその少女は今、黒服の男達に追われていた。

「もう、しつこいんだから」

 必死に走る少女、対して黒服の男達は、逃がさないよう確実に包囲を確実にしていく。

「どうにかして逃げ出さないと」

 少女は、必死に逃げ道を探って居た。

 その時、少女は人の足に引っ掛ってこけかけた。

「あわわわわ!」

 両手を振って慌ててバランスを取る少女が急に安定した。

「何で?」

 少女が驚いていると、横から男の声が聞こえた。

「怪我は無いですか?」

 少女が声の方を向くと、そこには黒髪の青年が居た。

 冷たい雰囲気を持つ青年に少女は、半歩下がった。

 その時、少女の肩に黒服の男の手が掛かる。

「ここまでだ」

 少女が、思わず叫ぶ。

「助けて!」

 その言葉に青年は立ち上がると黒服の男達に告げる。

「大人しくその少女を放して、逃げてください」

 黒服の男の一人が懐から拳銃を出して宣言する。

「その言葉をそのまま返そう。下らない正義心を捨てて、逃げろ。そうすれば見逃そう」

 少女は、その様子を見て、青年の方を向いて震える声を精一杯抑えて言う。

「大丈夫、この人達は、そんな酷い事しない筈だから」

 その言葉に青年は、大きく溜息を吐く。

「話を聞いてなかったのですか?」

 黒服の一人が拳銃を撃った。

「逃げて!」

 少女が、叫んだ。

 しかし弾丸は青年に当たることは無かった。

影球エイキュウ

 黒い球体が空中に現れて、弾丸を受け止める。

 言葉を無くす黒服たち。

「私は、今は主無き者ですが、助けを求める少女を見捨てる理由はありません」

「落ち着け、元々この手の連中に渡り合う為に我々が集められた筈だぞ」

 黒服達のリーダー格の男の言葉に、黒服たちは大きく展開する。

「魔術師が、多少常識外れの術を使おうとも、我々に勝てると思うな!」

 リーダーの宣言に対して青年が答える。

「確かに並みの術者に対しては、複数の武術の達人で囲み四方八方から攻撃するのは有効ですね」

 次の瞬間、青年が瞬間移動したとしか思えない動きで、リーダー格の男の前に立って居た。

「しかし、私は、単なる術者じゃないですよ」

 青年の拳が黒服のリーダー格の男の腹に決まり、意識を刈る。

 今度こそ動揺が走る。

 次々と襲い掛かってくる黒服たちを青年は、素手で叩きのめしていく。

 半数の黒服が倒れたところで、残りの半分が意識を失った仲間を連れて撤退する。

 少女はいきなりの展開で、言葉を無くしていた。

「今の男達は、何で君を捕らえようとしていたのですか?」

 少女は口籠もった。

 青年は少し考えてから言う。

「話しをしたくない事情があるのでしたらかまいません。その代わり、安全な所まで送らせてもらいます。近くにホテルを取っているのですか?」

 少女が答えに困っていると拍手が聞こえた。

 拍手がした方を向くとそこには、どう見積もっても小学校低学年くらいの銀髪ツインテールの少女が居た。

「こんな所で人外ジンガイ八刃ハチバの技が見れるなんて思わなかったわ」

「アリスさん、知っているんですか?」

 金髪の少女の言葉に、銀髪の少女、アリスが答える。

「こっちの世界では有名よ、異界から来た超越者を滅ぼす為に、人である事をやめた人間、八刃はね」

 それに対してその青年がアリスを見ながら言う。

「私も千年魔女、アリスに会えるとは思いもしませんでした。彼女は貴女の関係者ですか?」

 その言葉にアリスは首を悩む表情をして言う。

「関係者と言えば関係者だけど、はっきり言えば、魔法の原材料の生産者って感じかしら」

 その言葉に青年が少女を上から下まで嘗め回すように見てから言う。

「特殊な血を持っているみたいですね。それが魔法の原料ですか?」

 アリスは頷く。

「そう、ブラッドオブエリキシル。飲むだけで寿命が延びるといわれる奇跡の血よ」

 その言葉に、金髪の少女は、顔を背ける。

「なるほど狙う人間が多い理由が解りました。それで貴女もその一人ですか?」

 幼い外見の少女が相手だと言うのに、青年は少しの油断も無く構える。

「あちきは、正当な対価を払ってその子、エテーナ=ルーフェルから血を買ってる、取引相手にしか過ぎないわ」

 青年は、金髪の少女の方を向くと金髪の少女、エテーナが頷く。

「アリスさんは、何時も血と引き換えに大金をくれます」

 その言葉に青年が構えを解き言う。

「そうでしたか、無礼をお許しください」

 あっさり頭を下げる青年にエテーナは、驚く。

「面白い人ね。貴方の名前は?」

 微笑しながらのアリスの言葉に、青年が答える。

「エイジ=タニバシリと言います。四年前に主を失ってから、新たに仕える主を求めて、旅をしています」

 その言葉にアリスが興味をそそられる。

「あちきに仕える気は無い?」

 エイジははっきり首を横にふる。

「私が求めるのは、高潔な魂を持った人間です。貴女の魂は俗世に汚れています」

 その言葉に苦笑するアリス。

「はっきり言ってくれるわね。でもそんな人が居るの?」

 エイジは真っ直ぐな目で答える。

「解りませんから探しています。しかし、その様な人物でないと仕える意味はありません」

 エテーナは初めてエイジをじっくり見た。

 エイジの圧倒的な戦闘力等で気付かなかったが、彼の瞳が凄く綺麗な事にエテーナを意識した。

 しかし同時に、酷く疲労も有る事にもエテーナは気付いていた。

「事情は理解しました。貴方が望むなら受け入れてくれる場所があります。日本の八刃学園ハチバガクエンという学校でしたら、貴方が何者であっても普通の生活が送れる事を保障します」

 その言葉にエテーナは、頭を下げる。

「すいませんが、その話を受けられません。あたしは私の血の秘密を調べたいんです。これ以上この血の為に不幸な人生を送る人間を減らす為に」

 その言葉に、エイジは驚く。

「しかし、危険ですよ?」

 頷くエテーナ。

「でも、逃げていては解決しません。だからこのドイツで血液を調べて貰っています」

 その言葉にエイジは言う。

「それでしたら、その結果が出るまで、見守ります。その結果が出た後で判断しても決して遅くないはずです」

「解りました」

 そうして、エイジとエテーナは一緒のホテルで、暫く過ごす事になった。



「あのー本当に良いのですか?」

 ホテルの寝室でエテーナが言うと窓の外に居たエイジが答える。

「当然です。例え14歳とは言え女性、同じ部屋で寝る訳には行きません。こうやって窓の外で寝させて頂きます」

「せめて、廊下に眠ったらどうですか?」

 エテーナの提案もエイジはあっさり答える。

「ホテルの従業員に不自然に見られます」

 エテーナが大きく溜息を吐く。

「それでしたら、窓の外の方が目立つと思いますが?」

「それでしたら心配しなくても大丈夫です。私の技は影を操る技、自分の身を隠すくらい容易です」

 エイジの即答に反論がなくなり、申し訳ないと思いながらもベッドで寝るエテーナ。



「面白い事をするのね?」

 空中に立ったアリスの言葉に、エイジが即答する。

「一番警護が容易なポジションです」

 苦笑するアリス。

「だからってこんな寒空の下で一夜明かそうとする人間は居ないわよ」

 エイジは逆に不思議そうな顔をする。

「この程度の事、八刃では特に気にした事ではありません」

 その言葉には、流石に暫く言葉を無くすアリス。

「八刃が人外って言われる訳だわ。ところで昼間の襲撃の原因くらい予測はついてると思うけど?」

 アリスの言葉にエイジはあっさり頷く。

「病院関係者が、エテーナを売ったのですね?」

 その言葉にアリスが頷く。

「正直、彼女の血の力は大したものよ。そのまま飲んでも生命力の回復効果があるもの。そんな物の存在を強欲な人間が知ったらどうなると思う?」

「相手の人権を無視して確保しようとしますね。しかし、今回の相手は違います」

 エイジの言葉に、アリスが興味深げに言う。

「その根拠は?」

 エイジはアリスを指さす。

「相手は、貴女の事を予測して実戦経験豊富でかつ接近戦が得意な人間を集めていました。つまり、貴女の存在を知って居た事になります」

 アリスは驚いた顔をする。

「なるほどね、頭は切れる見たいね。それでこのまま病院に関わらせるの?」

 頷くエイジ。

「本人の意思を大切にしたいですから」

 そしてアリスが月の光の中にその身を隠す。

「了解、敵は、キリンよ」

 そのまま姿を消したアリスの方を見ながらエイジが呟く。

「アジア最大の企業キリンですか。噂が確かでしたら、ブラッドオブエリキシルの持ち主を探していた筈です。なかなか面倒な事になりそうです」



 数日後、エテーナは血の調査をしていた病院に呼ばれた。

「それでは行ってきます」

 エテーナがそう言うと、玄関までついてきたエイジが頷く。

「気を付けてください。ホテルで待っています」

 さっさとホテルに戻るエイジに少し寂しくなるエテーナ。

「そっけない人ね」

 無理に気を取り直すとエテーナが病院に入っていく。



「それで何か解りましたか?」

 エテーナの言葉に、血を調べてくれた医師が震える手でカップを置くと隣の部屋を指差す。

「向うの部屋に調査結果があるから、来てくれるかい?」

 エレーナは素直に頷いて、ドアを開けたとき、黒服の人間に拳銃をつきつけられた。

「大人しく、ついてくるのだ」

「ご迷惑をおかけました」

 エテーナは震える医師に頭を下げる。

 その姿に医師は、戸惑う。

「気にしないで下さい。慣れています」

 そう微笑むエテーナに黒服の男が言う。

「助けを期待しても無駄だ。お前はここから霊柩車で運ばれて、専用の列車で運ばれる。誰も助けには来られない」

 少しだけ顔を引き攣らせるが、エテーナが断言する。

「あたしは負けません」

 その強い表情に医師は黒服の男に体当たりをする。

「逃げるのだ! 君みたいな少女がそんな男達と一緒に居てはいけない!」

 黒服の拳銃が吼える。

 医師がその場に崩れ落ちる。

「下らないマネを」

「先生!」

 慌てて駆け寄り、自分の指を切ってその血を飲ませる。

 血を飲んだ医師は、死にそうな呼吸から、普通の呼吸に戻り、出血も減少する。

「これがブラッドオブエリキシルの力か? 確かに不老不死を求める雇い主が手に入れたがる筈だな」

 黒服の男は拳銃をエテーナから逸らさず呟く。

「その医師の言うとおりです」

 その言葉に、黒服達が固まる。

「ホテルで待っていたんじゃなかったのですか?」

 エテーナの質問にエイジがあっさり言う。

「病院の関係者が相手に情報を漏らしているのは解っていました。ですから油断させる為にホテルに帰ったふりをしました」

「前と一緒と思うな!」

 次々と、アーミーナイフを取り出す黒服たち。

「この狭い部屋で部屋では動き回る事も出来まい」

 エイジは苦笑する。

「そのままお返しします」

 そのまま床に手をつくエイジ。

影沼エイショウ

 黒服達は、床の影に飲み込まれていく。

「馬鹿な、こんな出鱈目な事があって良い訳無い!」

 必死にもがく、黒服たちが解放される事は無かった。

 首まで影に沈んだ黒服たちの前でエイジが膝をつき頭を下げる。

「私を雇って頂けないでしょうか?」

 その言葉にエテーナが驚く。

「どうしてですか?」

 エイジは真摯な瞳で言う。

「如何なる状況でも相手を思いやる心それこそ、私が求める高潔な魂です」

 その言葉に戸惑うエテーナ。

「あたしは、そんな大金を払えませんよ?」

「金に仕えるつもりはありませんから、構いません。蓄えもありますから生活も大丈夫です」

 エイジの即答に悩むエテーナ。

 そこに一人の男が現れる。

「前回の失敗の汚名を晴らすっていったから譲ってやったのに、情けねーな」

 その男は、悠然と近づいてきた。

「影を武器にするとは面白いね。だが、俺には勝てないな!」

 次の瞬間、激しい光がエテーナに迫った。

 壁に人が当たり、大穴が空く。

「大丈夫ですか?」

 エイジがたったままのエテーナに近寄る。

「酷いね、人を盾にするなんて」

 男は、そう言って自分の技で弾き飛ばされた男を見た。

「しかし、これで解ったろ。影の使い手が光使いの俺に勝てるわけが無いぜ!」

『影球』

 次々と光弾を放つ男に対してエイジは、エテーナの前に立ち、黒服の銃弾を防いだ影球を使った。

「いつまでもつかな!」

 自分の勝利を疑らない男に対してエイジは、影球を維持しながらエテーナに怪我が無い事を確認する。

「ご無事で何よりです」

 冷静なエイジにエテーナが慌てた様子で言う。

「エイジさん、あたしの事より逃げて下さい!」

 その慌てた様子にエイジは余裕の笑みで答える。

「何を慌てているのか解りませんが、落ち着いて下さい。私はあの程度の使い手に負けはしません」

 はっきり断言するエイジに男は怒鳴る。

「たかが影使いが俺に勝てるだと!」

 次々とエイジ達に放たれる光弾だったが、エイジの影球はそれらを全て防ぐ。

 段々あせってくる男にエイジが宣言する。

「私の技を防ごうと思うなら、この周囲の影を一片も残さない圧倒的な光を作り出す以外ありません」

 相手の足元を指差して唱える。

影茨エイシ

 自らの光弾によって生み出された影から発生した影の茨に捕らわれる男にエイジが告げる。

「チェックメイトです」

 自らの影に右手を向けるエイジ。

影刀エイトウ

 影から生み出された刀で相手を斬殺しようとした時、エテーナが男の前に立塞がる。

「勝負はもうついています。無駄な殺しはいけません!」

 エイジは影刀を構えたまま鋭い眼差しで言う。

「私は主の命令しか聞きません」

 その言葉にエテーナが反射的に叫ぶ。

「貴方の主になります。だから止めなさい!」

 その言葉にエイジはあっさり影刀を消して膝をつく。

「了解しました主」

 その態度にエテーナが複雑な顔をする。

「まさか最初からそのつもりだったんですか?」

 その言葉にエイジは答えなかった。



「結局何も解りませんでした」

 執事服を身に纏ったエイジを引き連れてエテーナは電車に乗る。

「八刃にも主の血を使った絵葉書を送りましたので、何かしらの情報が引き出せる筈です」

 その言葉に、エテーナが溜息を吐く。

「その主って言うのは止めませんか?」

 エイジが硬い決意を持って宣言する。

「一度仕えると決めて、主がそれを受け入れた以上、主は主です」

 その言葉に脱力を覚えるエテーナであった。



「面白い組み合わせね」

 エテーナ達が乗る電車の遥か上空でアリスが呟く。

「あの謎の血、ブラッドオブエリキシルの秘密に群がる人間に、それに対抗しうる執事。色々面白くなるわね」

 含み笑いをしてからアリスは消えていくのであった。

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