お師匠様侍女、蜘蛛と弟子。
「侍女長サマ!一生ついていきます!」
えーと、なんでこうなっちゃったんですかね?
私は、洗濯物を取り込むべく、物干し竿と向き合っていました。仮にも侍女頭ですので、忙しいのです。さて、今日もせっせと働いていると・・・。
「うおおおおおりゃああああああ!!!」
!?なんですかこの勇ましい雄叫びは!!!つか女の子の声なんですけど!と、とりあえず聞こえなかったふりをしておけば巻き込まれないで済みそうです。
「おりゃりゃりゃりゃりゃああああ!」
なにやってんでしょうか。ちょっと・・・、ちょっとくらいなら、覗いてもいいですよね!
私は即座に覗いたことを後悔しました。
超!超美少女が、棒持って鬼のような形相で藁でできた人形を叩きまくっていたからです。
うっひゃーー・・・。ひどいことしますね・・・。あああ、ぶらんぶらんしてる!折れそう、その人形折れそうだから!止めてあげてくださいー!
「よし、ストレス発散タイムしゅーりょー!」
あっ、振り向きそうです。やばいやばい、逃げなきゃ!厄介ごとの匂いです。退避です、退避ー!
「あ、その服・・・!待って、そこの侍女!」
げ。気づかれました。待てといわれて待つものですか、私は関わりたくありません!全速力ダッシュです!
「待て・・・っ!」
ふー。よし、逃げ切りました。あれは、だれでしょうか?私、侍女は全員覚えてるんですけど、記憶にありません。マリアンヌ様の夕食を準備していると、お声がかかりました。
「ルー。そういえば、新人が来たんですって?変わった娘が。」
「え。そうなんですか。」
「やだ、知らないの?たしか・・・シリアとか言ったかしら?」
「シリア、ですか。」
なるほど、あの娘は新人のシリア嬢かもしれません。ちょっと変わり者ですし。ならば、なぜ挨拶に来ないのでしょうか。まあ別にいいんですけど。
ふむ、少し気になりますが、いいですよね、放っておいて。
二日後。むっ。殺気!ぐるんと振り向きあたりを見渡すと。
あー!暴力美少女!じゃない、シリア嬢!
「こんにちは、シリア。」
あれ?なんでびくっとかしちゃってるんですか?え?普通に声かけただけじゃないですか。な、なんで後ずさるの?ちょ、まっ、私、悪いことしました?な、泣きそう?え、えええ!
「シリアじょ」
「すいませんでした!!」
「・・・は?」
「ごめんなさいごめんなさい、ゆるしてくださいー!」
「何をですか。」
「う、うえーーーん・・・。」
わーーー!泣き出したー!ど、ど、ど、どうしよーーー!わ、私こんな場面知らないんですけど!どうやったら泣き止むの?無理無理無理無理!なんでぇぇぇぇ!
「どうぞ。」
「え・・・?」
と、とりあえずハンカチと飴を差し出してみたはいいものの・・・。
「お、怒ってない・・・・?」
あらんかぎりの力でうなずきます。
「う、う、うぅぅぅぅ。あっ、あっ、あ、ご、ごめ・・・うえ・・・」
もう、どうしましょう。意味がわかりません。マリアンヌ様、おーたーすーけーーーー!!!
ああああ、泣かないでーーー!!うっ、通行人が避けてる!!思いっきり避けて通られてるーー!これ、完っ全に私悪役ですよぉぉぉ!
「なぜ泣いているんですか。」
「あぅ・・・うぇ・・。あ、挨拶・・いかなかったからぁ・・。」
「怒っていません。」
「ほ、ほんと・・・?」
なんでこんなに警戒されてんですかぁぁぁ!ほんとって言ってるじゃないですかぁぁぁ!
ようやく安心したのか、泣き止んだシリア嬢は、ぺこりと一礼して走り去って・・・行こうとして失敗しました。
「ひっ・・・、きゃあああああああああ!!!」
「?」
そこには・・・大きな蜘蛛がいたのです。・・・。ぎゃああああああああ!!無理無理無理無理!!蜘蛛とか大っ嫌いなんですけど!!!?あ、あ、あ、ああああ、気持ち悪い!!!!
思わず手が勝手に動いて、一瞬後には蜘蛛は消えていました。
あ?あらら?今私、なにした?テ?手で、蜘蛛投げた?さ、さ、さ、触っ・・・!?
いやああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!
もう、私の心はボロボロです。
「かっこいい・・・」
「へ?」
はい?今何か聞こえました?ああでも、触っちゃった触っちゃった触っちゃったぁぁ!
「あ、あの・・・。で、弟子にしてください!」
「は?」
はぁ。でし、でし、でし。弟子ですか。もう何でもいいです。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いぃぃ・・・。
「お願いします・・・っ!」
「はぁ・・・?」
「!!ありがとうございます!」
ん?私今、やらかしました?やらかした?やらかしちゃったっぽい?
「侍女長サマ!一生ついていきます!」
あれ?何がどうしてこうなった?なんか別の世界に行っちゃってる?し、シリア嬢?戻ってきてくださーい!
好奇心は、猫をも殺す?
さわりたく、ナイデスヨネー・・・。