姫巫女の朝、夜会のドレス。***
サブタイトルって、難しいなあ。
ちょっと本編からずれます。マリアンヌ様視点。
ああもうルーは本当にかわいい。大好きだ。
私はこの国の姫巫女である。この国の、はた迷惑な先代月の姫巫女のせいで務めが倍に増えたことから、ストレスが溜まりにたまりまくっている。が。
私は今とても気分がいい。もちろんそれは・・・ルーがいるから。
ルーは可愛い。あまり利口とはいえないし、なかなか不器用だが、馬鹿な子ほど可愛いとは本当で、私は彼女が好き。だって・・・この恨みと陰謀と妬みと策略が渦巻く環境で、あの子は一人綺麗だから。
あなただって、ここで生まれ育って、そのあと一年あの子と暮らしたらわかる。
私がどんなに、あの子に救われたか・・・。
だから私は、どんなことをしてでもあの子を守る。守ると、決めたのだ。
たとえ、自分がどんなに黒く染まっても。
「マリアンヌ様。お目覚めの時間です。」
「んん・・・、ルー?」
私はルーにおこしてもらうこの瞬間がとても好きだ。言いようのない幸福感が広がる。私は起き上がると、にっこり微笑む。
朝の祈りは正直に言って面倒だ。だが、それも私の義務なのだから仕方がないだろう。
ルーは準備を手伝ってくれた。
「いってらっしゃいませ。お気をつけて。」
こういうところで優しい言葉をかけてくれるのも、ルーの美徳だろう。
前に階段から落ちたことがあるから、そのことを思い出しているのかもしれない。
「もう、ルーったら。心配症なんだから・・・。行ってきます。」
彼女の礼は、私が知っている人間の礼の中で一番美しいと思う。完璧だ。
それにしても、この大理石の床は、踵の高い靴で歩いていいものなのだろうか?傷つけないのか気になるところだ。
さて、女神サマに会いに行くとしましょうか。
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祈りを終えた私は、自室をめざし歩いていた。
「まぁ、これはこれは姫巫女様、おはようございます。相変わらず麗しいお姿ですこと。」
私の進路をふさいだのは、・・・誰だろう?
だが、ここで名前を聞くのはまずいだろう。「まあ」などと言っているが、どうせ嫌味を言うために待ち伏せていたのだろう。朝から面倒なものに会ってしまった。
「おはようございます。良い朝ですね。」
ゆったりと、向けられる悪意には気づかないふりをして、微笑む。
「ずいぶんとゆっくりしておられるのね。みんな、明日開かれる夜会にあなたが出るということであなたのドレスの色を知りたがっていてよ?人気者は大変ねぇ。」
この女・・・。言えと?ドレスの色はふつう隠しておくもの。・・・なんか、厄介なことになりそうだ。典型的ないじめっ子。少し乗ってみよう、面白そうだから。
「・・・、黒ですわ。」
「まあ、まあ、まあ!!ちょうど私も黒いドレスを着ようと思っていましたの!でも、困ったわ。姫巫女様とかぶってしまうなんて・・・。あのドレスは最上級のものだったのに。」
確実に、嘘だ。だが、疑ったり約束をたがえれば、角が立つのは必至だろう。
舞踏会や、夜会、お茶会などでドレスの色がかぶることはその女性たちのリサーチ不足ということで、恥ずべきこととなっている。よく使われる手は、二色のドレスを着るというものだが、それもまた位の高い女性がすると白い目で見られる。また、ドレスの色を広めたりすることも恥知らずとののしられる。皆、自分のドレスの色を明かさずにいかに相手のドレスの色を探るかで舞踏会前は必死だ。
つまり、この場合。どちらかがドレスの色を変えなければならないということだ。
問題となるのはこの女の階級だが、名前・家柄が思い出せない。
・・・。
「ナタリア様?」
「なんでしょう?」
ビンゴ。この女の名前はナタリア=コリン。上流階級の娘だ。
・・・、姫巫女の敵ではない。
「私、黒のドレスが着たいので。失礼しますわ。」
ナタリアは唖然とした顔でこちらを見つめる。普通なら、やんわりとした攻防が続くものだ。こういうものは、場数を踏んだほうが勝つ。あからさまに仕掛けてきたからには、勝つ自信があったはずだ。「では、私は違う色にします。」とでも言わせて、自分も黒以外のドレスをきて夜会に現れ、姫巫女が質の低いドレスを着ていることをネタにいびるつもりだったのだろう。
優しい「聖女様」ならそういったかもしれない。でも、ここには私とあなたの二人きり。
聖女じゃない私に、優しさなんてない。
太陽の姫巫女は、たくましいのだ。なんといっても、王宮育ちなのだから。
「ま、まちなさいよ!かぶってもいいっていうの!?」
「わかりませんか?私は、黒が、着たいんです。」
さて、こうも完全に楯突かれたからには、対策を考えなければならなくなるだろう。
私とルーの朝食の時間を10分も奪ったことに対しての報復も。
ちょっとだーくなひめさま。
・・・私は大好きです!