侍女の考察、令嬢の猫
人間……とみに女性というのは、なぜに美しくきかざりたいと思うのでしょうか。
やはり、結局のところ男性を落とすため?同性同士の張り合い?自分の美しさを確かめたい、みたいな?自分自身ほんとのところ舞踏会だの夜会だの、お茶会だのと、見るのは楽しいんですが関わりたくはないんですよねえ。女同士の争い、巻き込まれたくないです。私負けます。フェミニストなので。
なんでわざわざこう、めんどくさい取り決めをしてまで生産性のないことをしようとしてるんですかねえ。
いえね?それが悪いとは申してませんよ?確かにそういう華やかな場は貴族社会の情報収集にむいていたりしますが、あの女性陣が王子やら名家のお坊ちゃんやらに群がる光景、好きじゃないんですよ……。自分の安泰な将来をもぎ取りに行く勇者たちに圧倒というか。その根性は嫌いじゃないですけれども。
ていうか、私は侍女でして、用意とか会場準備とか根回しとかのスキルは結構ありますけど、ダンススキルは皆無です。
お料理は食べるより作るほうが好きです。得意です。
お姫様は愛でるほうがいいです。会いたくないです。観賞用です。
毒物混入騒ぎどんと来い、不審者よっしゃストレス発散だ、な侍女その一に。
ぶ と う か い と か む り だ か ら
絶対絶対絶対無理ですよね!!?普通考えたらわかりますよね!?一介の侍女ですよ、侍女!私のしごとはマリアンヌ様のお世話です!
(マリアンヌ様、それはどう考えても無茶振り中の無茶振りですよ!無理です無理ですムーリーでーすー!!)
とは言えず。
「このドレス着てー、髪は染め粉を落としてー、お化粧してー、変身するのよ?」
「でもですね、あのう、やっぱり……」
「大丈夫よ!」
ああ、なんでそんなに自信たっぷりなんですか……。
さて。
と、いうわけで押し切られてしまった私ですが、せめて護衛だけはちゃんとしようと思い、おうち(武器庫)からお宝(というなの高級武器)を貰って(盗って)来ました!
投げナイフはちゃんと毒が塗ってあるし、ワイヤー的な糸は骨さえ断ち切れる長持ちタイプ!短剣は5本装備、腕輪は爆発します!
なんか婦女子としてすっっっごく違和感のある装飾品の数々ね、まぁでもばれないようにしたら大丈夫でしょう。というのは、マリアンヌ様の言。
黒く重たい印象の髪を水でごしごし洗って染料をおとし、薄い金糸が現れるまですすぎます。じみーに地味ーな、すぐ忘れられるような、薄い存在感の女性を思わせる雰囲気の化粧をします。今回は内緒なので一人で自分の準備をしなければならないうえ、時間の都合上マリアンヌ様のご用意のお手伝いをすることが不可能なのですよ。なんという苦痛!!しかし、おねだりにまけた自分が悪いことを自覚しているだけにこう、もやもやが。あああああーーー。
完成です。
髪は前髪横の片側に細い細い三つ編みを作って、あとは放置です。その代り、念入りに梳きました。
鏡を見ても特に感動はありませんが、もしかしたらマリアンヌ様が出来をほめてくださるかもしれません。
その瞬間のために、私は妥協しませんよ!
武器よーし、顔よーし、姿勢よーし。
私は……。
わたくしはルナ=セイラに非ず!セレーネ=アリン!セレーナ=アリンですわ!
さあ、まいりましょう。
…………これは疲れる。




