1.名レーサー
『さあ、やってまいりました。今日の目玉レース、ラストグランプリ!まさに今年を締めくくる大レースです。』
実況は興奮を隠せない。鼻息を荒げ、実況中継をしている。
『やはり大方の予想はこの男!大本命、単勝1.1倍の大人気!不動の帝王、椿真司!前回のレースでもダントツの一着。今年のタイトルを総なめにしております。』
実況中継が続く中、レースの準備が整った。実況は未だに喋り続けている。
『その椿真司レーサーですが、今日は奥さんと娘さんもスタンドへ応援に駆けつけております。さあ、スタート位置について…今スタートいたしました!』
人群はゆっくりとスタートを切り、快調に走る。
『やはり、椿選手のスパートを気にしてか、全員逃げの形に出ております。椿選手を残し、ペースは少々ハイペース気味となっております。』
「飛ばせ!椿!」
観客の叫び声が飛び交う。
『どんどん椿と差を離していきます。このまま逃げ切れるのか。』
そしてレースは佳境を迎える。
『きた、きた、きたぁ!椿がスパートをかけた!どんどんと他のレーサーをごぼうぬきだ!』
スタンドは熱狂に包まれる。そして…。
『きたぁ!椿!ついにトップに踊り出た!』
そこにいる誰もが、レースの結果を確信していた。賭けが的中し喜ぶもの、大穴狙いでため息をつくもの。しかし、レースは思いもよらない展開へと進んでいく。
『あぁっと、なんと椿選手、いきなり走るのを止め、その場に倒れこんだ!次々に抜かされていく!アクシデント発生です!何があったんでしょう!』
衝撃の結末を目の当たりにし、悲鳴とも怒声ともとれる声がいくつも上がる。場内、スタンド、共にレースどころではなくなっていた…。