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Who did kill Cock Robin?

作者: 黒井 呂人

長い黒髪に黒い瞳、雪のような肌に赤い唇。

それが白だけで埋め尽くされたこの部屋の唯一の色彩だった。

女は白い椅子に座り、優雅に脚を組んで読書をしていた。その本もやはり白い。

女はその赤い唇を蠱惑的に歪め、本を読んでいる。

いや、その表現は正しくはない。

その本には文字が1つも書かれていなかった。あるのは1つの映像。

1人の少女が穴を掘り続けている、それだけの絵。


女はそれを楽しそうに眺めている。

少女は醜かった。

長い髪は伸びっぱなしで艶がなく、ぼさぼさとしている。

肌も日に焼けていてニキビや黒子、シミや痣があった。

少女は穴を堀り続けている。


くすくすと笑いながら女は唄を歌った。

それは古い伝承童話。

哀れなコマドリを弔う唄。

女は楽しそうにくるくると笑う。


―――Who did kill Cock Robin?―――


少女は穴を掘り続けている。

大きな穴だ。人間1人が寝そべられるほどに。


―――I,said the Sparrow―――


少女は穴を掘り続けている。

穴の深さは少女の膝丈ほどにもなっていた。

女は笑い唄を歌い、少女は穴を掘る。


―――With my bow and arrow,I killed Cock Robin―――


穴はどんどん深くなる。

少女の身体はどんどんと沈んでいった。

だが、彼女の手は止まらない。


―――Who saw him die?―――


女の声が大きくなる。

どこまでが部屋でどこまでが部屋ではないのかが分からない場所に音が満ちた。


―――I,said the Fly―――


もう少女は見えない。

身体の全てが穴の中に入ってしまっていた。

女はページをめくる。


―――With my little eye,I saw him die―――


そのページにはまた少女が映っていた。

前とはアングルが変わり、穴を覗き込む形になっている。


―――Who’ll dig his grave?―――


少女はもう穴を掘ってはいなかった。

変わりに虚空を見上げていた。

女の声はどんどんと大きくなり、そのスピードが増していく。


―――I, said the Owl―――


穴は広く深い。

その中で少女は1人空を見つめていた。

黒い瞳には何の感情も宿ることなく、ただ静かに上を向いている。

深い深い瞳だった。


―――With my pick and shovel,I'll dig his grave―――


女はそれになんの感慨も受けなかった。

ただ楽しそうに嬉しそうに狂ったように歌い続ける。


―――Who'll toll the bell?―――


少女は1つ瞬きをし、穴のそこで横になった。

長くぼさぼさな髪があたりに広がる。

暗い穴の中でもその色はよく目立った。


―――I, said the Bull―――


少女はゆっくりとその黒く深い瞳を閉じた。

1度身じろぎをしたきり少女の身体は動かなくなる。

女の声が白い空間に飽和した。


―――Because I can pull,So Cock robin,farewell―――


身じろぎをしたときに捲りあがったのだろう、少女の右腕があらわになっていた。

先刻までは分からなかった、少女の右腕には、


―――All the birds of the air―――


大きな黒子があった。


―――Fell a-sighing and a-sobbing―――


どこからかざらざらと音がして、少女に土がかかっていく。

穴に次々と土が入り込み、少女を埋めていく。


―――When they heard the bell toll―――


女は楽しそうに笑った。

本が床の上に落ちて閉じられる。


―――For poor Cock robin―――


美しい女は明るく綺麗な部屋の中、見にくい少女は暗く汚い穴の中。

女は嬉しそうに楽しそうに笑った。




―――Who did kill Cock Robin?―――



女はつややかな黒髪を掻き揚げる。

さらりと上質な白い錦糸の服が女の腕を滑った。

あらわになった女の右腕には


―――Who is the person who is a Cock robin?―――


黒く大きな黒子があった。

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― 新着の感想 ―
[一言]  ちょっと違うと言われてしまいそうですが、私は個人的に「見立て殺人」の話が好きです。クリスティとか横溝正史のように、古い歌をモチーフにした作品は大好きです。 マザー・グ-スの不思議で怖い雰…
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