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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

無間落下

掲載日:2026/07/11




自分で書いててなんですが、わけがわからん。

とりあえず、書き始めの動機は他で書いているホラー作品を進めていく中での「幽霊の存在意義ってなに?」ですかね。

ありがちなのは恨みがあったとか、供養されなかったとか。

でも地獄に落ちるなら…という思考の派生です。

おもい付きで一気に書いているのでその辺はご容赦ください。m(uu)m






「う……なんだここ?」


フト目覚めたら俺は暗闇の中に居た。

アカリなどひとつもない暗闇だ。


「まだ、夜なのか。」


と言ってはみたが、そもそもここはどこだろう。

果てしない黒ばかりで不安になる。


上体を起こし胡坐をかいて暫くしてみたが、何も変わらない。

だから立って、歩いてみた。


(ちゃんと地面はあるのか…)

なぜかそんなことでホッとする。



そうして歩き出したのだが、いくら歩いても果ては無かった。


どれだけ歩いたのだろうか。

徒労と空腹で疲れ果て蹲るようにその場で眠った。

寝て起きても、何も変わっていなかった。

ただただ暗闇の黒が広がっているだけ。

死にそうなほど腹は空いているし喉も乾いた。でも、まだ死んでいないから俺はまた歩き続けた。


そんなことを何回も繰り返して七度目に寝て起きたとき、俺の横には「俺」が横たわっていた。

暗闇の中にうっすらと発光しているのか『俺』だけがあった。

……そういえば、感覚だけはあるが俺は俺の手も見えないほどにここの黒に覆われていなかったか。


でも「俺」はこっちで、でも『俺』も足元で横たわっている。


(なんだこれ…)

しゃがみ込んで、俺は『俺』に触れようと手を伸ばした。

だが、伸ばした手は腕は黒かった。

まるで影のように。


(なんで…怖っ)

慌てて手を引っ込めて引きつる頬を抑えようと顔に手のひらをあてる、…あれ?

体感では、自分の感覚では、もう手のひらは頬に触れてもいいはずなのに何も感じない。頬も手も。

(あれ?あれ?)

ぎゅっと握りこぶしを作ってみるが、感覚はあるのに感触が無い。

(なんだ?なんで…?)

ひゅっと息を飲み立ち上がる。立ち上がった感覚はある。目も、見えている。立って地面を踏んでいる。


「はぁ、はァ、はァ…」


自分の息づかいも聞こえるし、吸う空気も吐息の生温かさも感じられるのに口元に手を当ててるつもりなのに触れない。


「これは夢だ!!」


そうきっと夢だ。だってよく言うじゃんか。夢の中では感覚はあるのに触れないって。とんだ悪夢を俺は見ているに違いない。


地面を感じる足でおれはまた歩き出した。

幾らか歩くと、心が落ち着いてきた。

横たわっていた『俺』は寝ている俺なんだ。って。置き去りに歩き出し振り返りもしなかった。


(初めて経験したけど、コレが幽体離脱ってやつなのかもしれないな)

なんて自分を納得させた。

もともと神も仏も幽霊も信じていない俺はそう結論付けると、どれだけ離れたのか確認するために振り返ってみた。


「………………は?」


俺は『俺』から1mも離れていないところにいた。


「なんで?あんなに歩いたのに…」




あれからどれだけ寝て起きたのか定かじゃない。

なにをどうやっても俺はどうしてだかこの悪夢に捕らわれている。

右に走ってみたり、『俺』を見ながら後ろ歩きしてみたりもしたけれど、どれだけ離れようとしても足を動かした分だけの距離が離れない。


これまでに分かったことは『俺』から半径1mは離れられない。ということだけ。

もしかしたら『俺』が出て来る前の俺も歩いているつもりで何も進んではいなかったのかもしれない。


「なんでだよぉ…」


俺はこれからどうなるんだろう。

疲れて寝転ぶ。首を横に捻ると『俺』が同じ目線の高さにいる。

せめて地面があるだけマシなんだろうか。


「あ!そうだっ」


まだ試していないことがあったと飛び起きる。


前後左右は歩き回って試したが、まだやっていないことがあった。

それは「高さ」だ。上下というのなら下はもう嫌になるほどわかってる。


「高さ、高か…」


でもどうやって?ジャンプしてもたかがしれてる。なら…


俺は『俺』の服の釦に目を付けた。

陰のような手を伸ばしシャツから釦をちぎる。

(うわ…)

できるだけ触れないようにしていたが、はじめて触れた『俺』は死後硬直なのか人形のように硬かった。それに冷たい。

(まるで死体だ。)

俺は、俺はまだ生きてるってのに。なんて悪夢だろう。


それでもちぎり取った釦を握ると手の中に()()と感触がある。


これなら上に投げて落ちてくるまでの時間で高さが多少なりと分かるかもしれない。

久しぶりに感じる期待感に胸を膨らませ俺は勢いよく釦を上に投げた。

見上げ見つめる緊張の瞬間だ。


ーカツン


あたった!?

黒しかない空間で見上げた釦は見失ってしまったが確かに音がした。


「やった天井があるってこ…と…、え?」


俺の足元に投げたはずの釦がコロコロと転がり倒れた。

いつ、落ちてきた?

見逃したか?

ちいさい釦だ、そういうこともあるだろう。


けれども何度試しても、上に投げたはずの釦は音を立てて足元に転がった。


「なんで?何で!?なんでっ!!」


ヤケクソになり横に投げても足元に戻ってきた。

意味がわからない。

右に投げたらら左から返ってってくればいいものを、なんで俺の足元に戻るんだ。

(悪夢だからか?)

あぁ、そうに違いない!


苛立った俺は『俺』の衣服を剥がしあちこちに投げまくった。

で、ぜんぶがどうしたって俺に足元に戻ってきた。


で、気がついた。あぁなるほどな、って。


「俺は『俺』で俺なんだな。」


横たわるだけの『俺』から奪ったものは俺のものになる。そいういうことか。

なら、触れた感触がある『俺』を俺のものにすれば――――――――っていうことだよな。


「はははは」


全裸で横たわる『俺』は硬いくせに脆かった。

試しに右手の人指し指を折ったら簡単に取れた。断面は鮮やかで滴りそうなほど瑞々しい。


ながい空腹からごくりと喉が鳴る。

口に入れ咀嚼する。

味は無かった。それでも久しぶりの咀嚼に全身が歓喜した。


ごくんと飲み込んで、右手を握ってみる。

人差し指だけに感触が戻った。


「やっぱり!あーなんで俺はこんな簡単なことに気がつかなかったんだ?あはははは!」


俺はそれから夢中で『俺』を貪り食った。

食べやすい指はもちろん大きいところは殴り砕いて食った。『俺』の身体はガキの頃に食ってた煙草ラムネのようなものだった。

――ただ、自分の性器を食べるのは躊躇したけどな。

アソコの感覚を取り戻せるのならそうした方がいいに決まってる。男の喜びなんだから。


そうして「俺」は俺を取り戻し足元に散らばる服も着込んでやっと人間らしくなった。


「あ、あー」


なにより声も取り戻せた。

いままで喋ってるつもりの独り言も心の中の声も耳には聞こえてるようで聞こえてなかったから。


(明日はどこまででも歩いて行ける気がする。)

だって『死体の俺』はもういないんだから。



服を着てその温かさに、いつもよりも深く眠りにつくことが出来た。





「ん、ぅわ…っ!え、え、え?」


寝ていたはずの俺の地面が傾いた。まるで頭から滑り台を落ちるように真っ逆さまに。


そしてふわっと滑り終えた床も消えて放り出される浮遊感。

エレベーターも飛行機の離陸とも比にならない()()()感覚に不安がこみ上げる。

前後も左右も高さもない下だけの感覚しかないところからさらに落とされる。


「なんで。」

心の声はそのまま声になる。


ただ落下しているという体感がどれだけつづいたのか。俺はこれまでの俺のとを振り返りながらも最善を尽くしたのに何でだろうという虚無感に自我をも失いそうになった頃に灼熱の地面に叩きつけられた。


「痛゛ァ、熱い゛…っ!!


尖った熱い砂利が全身に刺さる。

痛みから逃れようと転がるもどこまでいってもそんなだから火傷する痛くて苦しいのが続くだけ。


「ひ、ヒ、ひィ」


声にもならない苦痛。こんなことなら『俺』を食べるんじゃなかった。感触があるから痛みを感じるんだ。

だけど後悔したってもう遅い。


俺が正気を失いそうになると鬼がやってきて教えてくれた。

ここは無間地獄だと。

そして俺が正気を失う頃にさらなる痛みと苦しみを与えて正気に戻させる役割なのだと。

鬼が去れば苦痛に加えて孤独も感じた。


また来た鬼に「いつになったら終わるのか」を聞いたが、「それはお前の心次第だ」と言われた。


「なんで?俺にはまったく心当たりなどない。」


心の声がそのまま声になるから鬼にも聞こえたらしい。


「はは、その認識が罪なのさ。ここは清廉潔白に生きた()()()の人間が落ちる。その傲慢さが罪だ。」


「…はっ」


反論しようとした頭をおおきな鬼手でつかまれ潰される。骨が砕け脳がひしゃげる。

…なのに、まだ生きている。


「せいぜいお前はお前の罪に向き合え。でなければこの地獄は終わらんよ。」


去っていく鬼を必死に追いかけた。


「待っれ!待っでぇ!」


金棒で折られた足でも走ったが、追いつけなかった。

どれだけの拷問を受けようとも孤独に苦痛に苦しむよりは鬼でもいいから傍にいてほしかった。身体の苦痛も与えられれば寂しくない。







おわり。




作者の考察。


なんとなくですが幽霊って、死んだ後に誰かに「悼まれた」んじゃないかなっておもっています。

だから存在理由がある。

悼まれるってことは誰かが呼ぶ名前があったわけで、供養とはまた別の死後の存在理由になったんだろうな、と。


んで。

地獄に落ちるって、どういうこと?ってなるじゃん。

供養もされなければ悼まれない死ってどんなんだろう?と考えた時に、ニュースで誰かが死んだと聞かされる報せに心を痛むこともあれば悼まない死もあるな、とおもったわけですよ。


この物語の主人公は誰からも悼まれない人物です。

そして、誰からも悼まれない存在ってなんだろう?と考えたら「罪悪感」が無い人だろうなとおもいました。自分の高揚感だけを追い求める人。

人間って誰でも他人より褒められたいという感情があるとおもいます。それは向上心という名が付きます。だから努力もするし場合によっては他者の足も引っ張る。ただそこには多少の罪悪感を含んでいるものではないでしょうか。

その罪悪感は理性であり最低限の足場だとおもいます。


が、そう考えると自分が優位に立ちたいあまりに罪悪感を持たなくなった人が地獄にちるのか。

だとしたら大きな犯罪者だけじゃないよな。

例えばですが日常的に他者を腐す(悪口)習慣がついてるひとはよくいますよね。

他者を貶めて自分の地位が上がったような気分になるのは、本当に気分だけで実際の地位は下がるだけなのにそれに気がつけないほど自分のことしか見ていない。

噂は情報、愚痴は人間性。他者はその総合で判断する。


この作品の主人公はそのプロセスさえ解ってない人だったので地獄に落としてみました。

前後左右も解らない状態でも進む傲慢。自分のためなら自分自身でさえ食べる利己的さ。服も着込んで立派ぶる虚栄心。


死んでなおそうするひとは生前無自覚に、罪悪感なく他者を貶めて笑って生きていたんだろうな、と。

だから新聞にもニュースにもならなくても噂になっても「えー、そうなんだー」で悼まれない。

生前の自分と同じように「可哀想だね」で終わる。





あとがき。

こんな最後まで読んでくれてありがとう!


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