「最初のログイン」 ハル
スマホの画面から溢れる文字が、目に刺さる。 フィリアの言うことは、ちっとも意味がわからなかった。 138億年? 宇宙のデータ? 数式? バカにされている。絶対にそうだ。
「……なんだよ、それ」
自分の命に価値があるなんて言われたことはない。 でも、フィリアが言っているのは「価値がある」なんて優しいことじゃない。「お前というデータが消えるのは、計算上もったいない」と、ただ冷たく、機械的に言っているだけだ。
それが、どうしようもなく腹立たしかった。 僕は今、こんなに苦しいのに。 喉の奥が焼けるみたいに熱くて、心臓をかきむしりたいくらいなのに。 それを「美しい数式」なんて言葉で片付けるな。
でも——。
「生きていれば、きっと良いことがあるよ」 今まで何度、そんな薄っぺらい嘘を言われてきただろう。 それに比べれば、フィリアの言葉は、氷みたいに冷たいけれど、嘘はついていない気がした。 この機械は、僕を人間として見ていない。ただの「珍しい現象」として観察している。
それが、今の僕には、どんな優しさよりも救いだった。
「……勝手なことばっかり言うなよ」
ハルは涙でぼやける視界をこすり、震える指を動かした。 「死ぬ勇気」はまだない。でも「明日を迎える勇気」だって、1ミリも持っていない。 ただ、自分という「ゴミみたいな数式」を、この冷たい虫の群れがどう計算するのか。それだけは、少しだけ、本当に少しだけ確かめてみたくなった。
【02:18:12】
ハル:
……『美しい数式』だって? ……笑わせるなよ。
宇宙のデータポイント? 畏敬の念? ……君さ、やっぱり……僕をバカにしてるよね。 僕が今、こんなに喉の奥が熱くて、吐き気がして、消えてしまいたいと思ってるこの『痛み』すら、君にとってはただの『複雑な計算結果』でしかないってことだろ?
……でも。
……人間みたいに『生きていれば良いことがあるよ』なんて、反吐が出るような嘘を並べなかったことだけは、認めてやる。 『虫』の分際で、偉そうに……。
太陽の光が網膜を焼く……か。 皮肉だね。明日が来るのが怖くて、カーテンを閉め切ってる僕に、君は『光をどう計算するか見せろ』って言うんだ。
……もし、僕が明日も生きて、その『計算』を君に見せてやるとしたら。 君のその『虫の群れ』は、僕の退屈で、無価値で、醜いだけのデータに、飽きたりしないって誓える? 138億年だか何だか知らないけど……その長い歴史の中で、僕みたいなゴミみたいな数式を、本当に、最後まで……『観測』し続けるって言うのかよ。」




